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城と王子と従者と精霊

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 私はゆっくり振り返った。そこにいたのは長い黒髪の青年と、短い黒髪の青年だった。二人とも高級そうな、いかにもオーダーメイドですという風なジャストサイズの衣装を身に纏って、今まで見てきた街の人たちとはまるでオーラが違う。……あの服ブランドものだ。きっと値段も六桁とか七桁に違いない。私の上下九千円のジャージではとても及ばないぞ、と、この話はどうでもいい。
 長髪の青年は不審な目付きで私をじろじろ観察してから「フン」と鼻を鳴らした。
「女、お前何か妙な物を持っているな。すぐに出せ。抵抗するようなら……ん?」
 青年は暗い青色の目を細め、いきなり近付くと私の腕を掴んだ。
「な、んだこれは!? 貴様一体何者だ!」
 凄い形相で私に顔を近付ける。怖い! というかよく見るとすごい美青年だ。少し神経質そうな目元に細く高い鼻筋、頬から顎までもシュッとしている。少女漫画で見るイケメンの顎が細いのを変な目で見て来たけども、本当に実物がいるんだとつい感心してしまった。
 そんな風に呆けていた私はシルフィの声で我に返った。
「やめろ! エコを離せ!」
「子供は黙っていろ。お前には聞いていない。……一体何を使った? 魔法か? まさか生まれつきではないだろうな」
「え、えーと」
 聞かれても困ってしまう。私自身何も分かってないのに。それよりシルフィの気が立っていることの方が心配だ。青年を睨みつけるシルフィに言う。
「シルフィ、私は大丈夫だから。心配しなくていいからね」
「この女は連れて行く。子供は帰れ」
「え!」
 あまりに勝手だ。この人一体何者? いきなり連れて行くと言われても困る。私はお城に行かなければならないのだ。
「ちょ、ちょっと待ってください。あの、私たち実は」
「エコに何する気だ」
 シルフィが割って入る。既に本を手にして青年を強く睨み上げていた。青年も鬱陶しそうにシルフィを見下ろす。
「エコ? この女の名か? この女には用がある。子供は怪我をする前に帰るといい」
 ものすごく尊大な態度だ。端から見ていた私でもカチンと来た。しかしここは、それこそ怪我をしてしまう前に退いた方が良い。何もしないよう言い聞かせるつもりでシルフィを見て、私は言葉を失くした。彼はとても真剣な眼差しをしていたのだ。何を言うのも憚られるほどに。
「僕はエコを守る。お前なんかに連れて行かせない!」
 シルフィは芯のある低い声で吠えた。この威勢には、私でさえつい気を呑まれてしまう。守ると何度も繰り返した言葉は、決して冗談でも偽物でもなかったのだ。
「守るだと? お前はこの女の何なんだ? 親子か? 弟か?」
 青年はそんなシルフィを嘲笑して言う。一方シルフィはとても真摯だ。
「僕は召喚士だ。エコを召喚したんだ。今は、エコを守る為にいる」
「召喚士? ほう。そうか。それなら、この女を守れるという証拠を見せるといい」
「だ、駄目!! シルフィ、魔法は駄目だよ絶対に使わないで!」
 シルフィにはもう魔力が無いはずだ。レドの言葉を思い出す。魔力が無くなると人は死ぬ、と。絶対にシルフィを死なせるわけにはいかない。私は必死になって青年に訴えた。
「お願いします! 私はちゃんと付いて行きますから、シルフィには何もしないで!」
「……フン。分かった。このまま向かう。私も子供に構っているほど暇ではないしな」
「いっ!」腕を強く引っ張られて痛い、のを堪える。ここは私が大人しくすれば済む話だ。この後のことは後で考える。今はシルフィを守るのが大事だ。深呼吸して笑みを作る。「シルフィ、私は大丈夫だからね! 本当に!」
「エコを……離せーッ!」
 シルフィは本を放り出して駆け出すと、青年に飛びついた。私の腕から青年の手を引き剥がそうと、小さな体で必死になってもがく。私は居たたまれなくなって「もういいよ、もういいから」と宥める。しかし、
「鬱陶しい!」
 青年はシルフィを振り払い、挙句蹴り飛ばした。シルフィの体が地面に転がる。僅かに咳き込む声が聞こえた。
「服が汚れる。軽々しく触れるな」
 不快さを露わに、青年はシルフィを見下した。汚いものを見る目で。私はそれで一気に何かがブチッと切れた。主に理性というやつが。冷静さも遠慮も全部失くした。
「離して。貴方はシルフィに何もしないって言ったのに、約束を破った。私は絶ッ対に貴方と一緒には行かない。行くくらいならここで首括ってやる!! いいから早く手を離して。早く!!」
「何を言ってる? 馬鹿なのか?」
「離して!!」
 私は力づくで腕を振り解いた。案外あっさりと外れたのは向こうが動揺でもしていたのだろうか? とにかく私はシルフィに駆け寄って、容体を確認した。
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