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村と魔物と泣き虫戦士
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「とんだ悪あがきだな」
ユリスが武器をしまいながら歩いてくる。どうやらコウモリは倒したようだ。
「お二人とも無事ですか?」
「うん。大丈夫。ハインツが守ってくれた! その盾強いね!」
ラウロの声にシルフィが答える。私は我に返って、一歩踏み出してふらついた。まださっきの超音波の影響が残っているらしい。腕輪を付けてもすぐに治る様子は無い。少し大人しくしていよう。
「牙を飛ばしたのか……。妙な進化をしたものだな。おい、女」
「な、んですか? 今ちょっと頭痛くて」
「動くな」
ユリスに頭を鷲掴みにされた。途端すーっと痛みが引いて視界もクリアになる。「これでいいだろう」ユリスはツンと背を向けた。
「あ、ありがとうございます」
助けてくれたんだ。一瞬警戒してしまった自分が恥ずかしい。
そうだ、ハインツさんにもお礼を言わなければ。振り返ると、すぐ後ろに本人がいてびっくりした。
「は、ハインツさん、さっきはありがとうございました。助かりま……!」
ぎゅっと抱きしめられる。彼の体は震えていた。
「よ、良かった、無事で良かった……!」
とても嬉しそうに言いながら、ハインツさんは私の体をぎゅうぎゅう締め付けた。これでは“抱きしめる”というより“締め落とす”だ。気が抜けてリミッター外れてるのでは!?
「いいいい痛いですハインツさん、肋骨とか折れる、痛い痛いいぃ」
「俺、出来た、ちゃんと出来たよ……」
全然聞いてないし痛い! 本当に骨折しそうだし、呼吸も止まりそうだ。
「ハインツ! 離してって、エコ苦しんでるよ!」
シルフィがハインツさんの腕を掴んで引っ張るもハインツさんのパワーが強すぎる。「お、落ち着いてくださ……い!」私も必死で抵抗するものの効果無し。さすがに限界だ。
「ハインツ様」
氷のような声に背筋がぞっとした。ハインツさんの首に、透き通る刃が突き付けられている。動けば刺さる、容赦ない距離だ。彼も本能的に危険を察したのか動きを止めた。
「貴方の後悔をエコ様に重ねるのはおやめください。彼女は全くの別人です」
ラウロの言葉はそれこそ刃のようだった。どこかで話を聞いたのか、お姉さんのこともちゃんと知っているらしい。
ハインツさんはすぐに私を解放した。刃が退かされると、申し訳なさそうに頭を下げる。
「ご、ごめん。俺」
「大丈夫、大丈夫だから。うん」
私は動揺していた。骨折の危機以上にラウロが恐ろしかったのだ。あの冷たい声も刃も、いくら止める為とはいえやり過ぎだ。彼らしくもない。
「では戻りましょう。夜も遅いですからね」
ラウロは何事も無かったように言い、ユリスを見た。ユリスは頷きを返してから、ハインツさんに何かを手渡す。
「奴の牙だ。他にもあれの」と巨大コウモリの方へ視線をやる。「一部を軒かどこかへ吊るすなりしろ。魔物除けになる。残りは早めに埋めておけ。腐ると厄介だぞ」
伝えることを伝え、ユリスは先導して歩き出した。私たちも後に続く。
私はやっぱりラウロが気になったので隣に並んで声をかけた。もうさっきの冷たさは影も形も無い。
「ラウロ、さっきはありがとう。あの、大丈夫?」
「ええ。怪我はありませんよ」
「そうじゃなくて」
ラウロは私に顔を向けた。それ以上触れるなと目が言っている。私は言葉を呑み込んで、「それなら良かった」と当たり障りのないことを言った。
ユリスが武器をしまいながら歩いてくる。どうやらコウモリは倒したようだ。
「お二人とも無事ですか?」
「うん。大丈夫。ハインツが守ってくれた! その盾強いね!」
ラウロの声にシルフィが答える。私は我に返って、一歩踏み出してふらついた。まださっきの超音波の影響が残っているらしい。腕輪を付けてもすぐに治る様子は無い。少し大人しくしていよう。
「牙を飛ばしたのか……。妙な進化をしたものだな。おい、女」
「な、んですか? 今ちょっと頭痛くて」
「動くな」
ユリスに頭を鷲掴みにされた。途端すーっと痛みが引いて視界もクリアになる。「これでいいだろう」ユリスはツンと背を向けた。
「あ、ありがとうございます」
助けてくれたんだ。一瞬警戒してしまった自分が恥ずかしい。
そうだ、ハインツさんにもお礼を言わなければ。振り返ると、すぐ後ろに本人がいてびっくりした。
「は、ハインツさん、さっきはありがとうございました。助かりま……!」
ぎゅっと抱きしめられる。彼の体は震えていた。
「よ、良かった、無事で良かった……!」
とても嬉しそうに言いながら、ハインツさんは私の体をぎゅうぎゅう締め付けた。これでは“抱きしめる”というより“締め落とす”だ。気が抜けてリミッター外れてるのでは!?
「いいいい痛いですハインツさん、肋骨とか折れる、痛い痛いいぃ」
「俺、出来た、ちゃんと出来たよ……」
全然聞いてないし痛い! 本当に骨折しそうだし、呼吸も止まりそうだ。
「ハインツ! 離してって、エコ苦しんでるよ!」
シルフィがハインツさんの腕を掴んで引っ張るもハインツさんのパワーが強すぎる。「お、落ち着いてくださ……い!」私も必死で抵抗するものの効果無し。さすがに限界だ。
「ハインツ様」
氷のような声に背筋がぞっとした。ハインツさんの首に、透き通る刃が突き付けられている。動けば刺さる、容赦ない距離だ。彼も本能的に危険を察したのか動きを止めた。
「貴方の後悔をエコ様に重ねるのはおやめください。彼女は全くの別人です」
ラウロの言葉はそれこそ刃のようだった。どこかで話を聞いたのか、お姉さんのこともちゃんと知っているらしい。
ハインツさんはすぐに私を解放した。刃が退かされると、申し訳なさそうに頭を下げる。
「ご、ごめん。俺」
「大丈夫、大丈夫だから。うん」
私は動揺していた。骨折の危機以上にラウロが恐ろしかったのだ。あの冷たい声も刃も、いくら止める為とはいえやり過ぎだ。彼らしくもない。
「では戻りましょう。夜も遅いですからね」
ラウロは何事も無かったように言い、ユリスを見た。ユリスは頷きを返してから、ハインツさんに何かを手渡す。
「奴の牙だ。他にもあれの」と巨大コウモリの方へ視線をやる。「一部を軒かどこかへ吊るすなりしろ。魔物除けになる。残りは早めに埋めておけ。腐ると厄介だぞ」
伝えることを伝え、ユリスは先導して歩き出した。私たちも後に続く。
私はやっぱりラウロが気になったので隣に並んで声をかけた。もうさっきの冷たさは影も形も無い。
「ラウロ、さっきはありがとう。あの、大丈夫?」
「ええ。怪我はありませんよ」
「そうじゃなくて」
ラウロは私に顔を向けた。それ以上触れるなと目が言っている。私は言葉を呑み込んで、「それなら良かった」と当たり障りのないことを言った。
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