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白銀の北国
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メセイルに到着した途端、
「ユリス様、よく御無事で……」
「すぐに城へ使いを出しましょう」
「構うな。私が来たことは内密にしろ」
ユリスとラウロは群がって来た兵士にそれぞれ指示を出し始めた。私たちはそれを遠目から見ながら待っているだけだ。他の国にいると忘れそうになるけど、ユリスは偉い人なんだよなあ。
「……もしかしてユリスって?」
ミケがユリスの方を親指で示しながら疑問符を浮かべた。口元が引きつっている。そうか、ミケはこれも知らないのか。私は答えた。
「ユリスはメセイルの王子様だよ」
「うっわ……まあ、そんな気はしてたけどなぁ……」
ミケは引き気味だ。私は忙しくしているユリスを見た。兵士たちのほとんどが狼狽してうろうろしている。王子の登場という予想外の出来事に戸惑っているんだろう。
「今更だけどすごいよねえ」
「王子ってそんなにすごいの?」
私の独り言にシルフィが反応した。ミケが言う。
「そりゃなあ。次の王様だぜ? 国で一番偉くて一番金持ちだ。結婚したら一生遊んで暮らせるよなー。いいなあ~」
「さすがに遊んで暮らすのは無理なんじゃない?」
苦笑すると、ミケはそれでも羨ましそうな口調で続けた。
「少なくとも生きるのには困らないだろ? メセイルは安定してる国だし、オレも住むならここに住もうかなぁ」
「じゃあ俺の村に来る?」
「んあ? ハインツは村出身か?」
「ここから近いんだけど……」
ミケとハインツが話し込んでいる。この二人もなんだかんだ仲が良い。……故郷か。ハインツのおじいさんとおばあさんは元気にしているだろうか。
私の故郷に住む人たちも元気にしてるかな。知った顔を思い浮かべると、自分が別世界にいることを改めて実感する。郷愁のような、違うような、ふわふわした気持ちになった。
「王子ってすごいんだ……」
「えっ?」
考え事をしていた所為で反応が遅れた。シルフィは私を見上げて言った。
「どうやったら王子になれるの?」
難しい話だ。シルフィはどう足掻いても王子にはなれない。しかし、なりたいものになれないと突き付けるのは残酷なのではないか。私はしばし悩んだ。
「王子になるには……うーんと……」
「シルフィくんじゃ無理だろ」
ミケがあっさり切り捨てた。私は文句を言おうとするも、言葉が出て来ず口をぱくぱくさせただけだった。ミケは鼻で笑って、
「王様の子供が王子なんだよ。シルフィくんの親は王様か?」
「んー、違うと思う」
「そんじゃ諦めるんだな」
子供の夢を壊すような真似を……。無理なものは無理だけど、でも、もっと言い方とかあるでしょうに! どう言えばいいか私にも分からないけど、でも、うーん。と考えている間にミケはハインツとの会話に戻っていた。完全に文句を言うタイミングを逃した。
私は話題を変えようと思いシルフィの両親について聞いてみることにした。
「シルフィのお父さんとお母さんってどういう人なの?」
師匠レドの話はよくするのに、両親のことは聞いた覚えがない。シルフィは空に視線を向けて唸った。
「あんまり覚えてない……小さい頃しか会ったことないから」
もしかして複雑な事情があるのか。咄嗟に思いついたとはいえまずい話題を振ってしまった。
「そっか、そうだったんだ。辛いこと聞いてごめん」
「僕、たぶん捨てられたんだよね。森で師匠に会ってからは色々覚えてるけど、その前のことはあんまり覚えてないんだ」
親でも生活が苦しくなれば子供を平気で捨てる、そんな言葉を以前聞いたのを思い出した。部外者の私でさえ苦しい話なのに、シルフィは取り立てて辛そうな様子もない。レドとの暮らしはきっと楽しいことでいっぱいだったんだろう。レドの話をする時のシルフィはいつも笑っているから。
「師匠、ちゃんとご飯食べてるかなあ」
シルフィは遠い目をした。久しぶりに知っている場所に帰ってくると、みんな家が恋しくなるのかもしれない。私も少しだけ自分の一人暮らしの部屋のことを思い出したりした。
「ユリス様、よく御無事で……」
「すぐに城へ使いを出しましょう」
「構うな。私が来たことは内密にしろ」
ユリスとラウロは群がって来た兵士にそれぞれ指示を出し始めた。私たちはそれを遠目から見ながら待っているだけだ。他の国にいると忘れそうになるけど、ユリスは偉い人なんだよなあ。
「……もしかしてユリスって?」
ミケがユリスの方を親指で示しながら疑問符を浮かべた。口元が引きつっている。そうか、ミケはこれも知らないのか。私は答えた。
「ユリスはメセイルの王子様だよ」
「うっわ……まあ、そんな気はしてたけどなぁ……」
ミケは引き気味だ。私は忙しくしているユリスを見た。兵士たちのほとんどが狼狽してうろうろしている。王子の登場という予想外の出来事に戸惑っているんだろう。
「今更だけどすごいよねえ」
「王子ってそんなにすごいの?」
私の独り言にシルフィが反応した。ミケが言う。
「そりゃなあ。次の王様だぜ? 国で一番偉くて一番金持ちだ。結婚したら一生遊んで暮らせるよなー。いいなあ~」
「さすがに遊んで暮らすのは無理なんじゃない?」
苦笑すると、ミケはそれでも羨ましそうな口調で続けた。
「少なくとも生きるのには困らないだろ? メセイルは安定してる国だし、オレも住むならここに住もうかなぁ」
「じゃあ俺の村に来る?」
「んあ? ハインツは村出身か?」
「ここから近いんだけど……」
ミケとハインツが話し込んでいる。この二人もなんだかんだ仲が良い。……故郷か。ハインツのおじいさんとおばあさんは元気にしているだろうか。
私の故郷に住む人たちも元気にしてるかな。知った顔を思い浮かべると、自分が別世界にいることを改めて実感する。郷愁のような、違うような、ふわふわした気持ちになった。
「王子ってすごいんだ……」
「えっ?」
考え事をしていた所為で反応が遅れた。シルフィは私を見上げて言った。
「どうやったら王子になれるの?」
難しい話だ。シルフィはどう足掻いても王子にはなれない。しかし、なりたいものになれないと突き付けるのは残酷なのではないか。私はしばし悩んだ。
「王子になるには……うーんと……」
「シルフィくんじゃ無理だろ」
ミケがあっさり切り捨てた。私は文句を言おうとするも、言葉が出て来ず口をぱくぱくさせただけだった。ミケは鼻で笑って、
「王様の子供が王子なんだよ。シルフィくんの親は王様か?」
「んー、違うと思う」
「そんじゃ諦めるんだな」
子供の夢を壊すような真似を……。無理なものは無理だけど、でも、もっと言い方とかあるでしょうに! どう言えばいいか私にも分からないけど、でも、うーん。と考えている間にミケはハインツとの会話に戻っていた。完全に文句を言うタイミングを逃した。
私は話題を変えようと思いシルフィの両親について聞いてみることにした。
「シルフィのお父さんとお母さんってどういう人なの?」
師匠レドの話はよくするのに、両親のことは聞いた覚えがない。シルフィは空に視線を向けて唸った。
「あんまり覚えてない……小さい頃しか会ったことないから」
もしかして複雑な事情があるのか。咄嗟に思いついたとはいえまずい話題を振ってしまった。
「そっか、そうだったんだ。辛いこと聞いてごめん」
「僕、たぶん捨てられたんだよね。森で師匠に会ってからは色々覚えてるけど、その前のことはあんまり覚えてないんだ」
親でも生活が苦しくなれば子供を平気で捨てる、そんな言葉を以前聞いたのを思い出した。部外者の私でさえ苦しい話なのに、シルフィは取り立てて辛そうな様子もない。レドとの暮らしはきっと楽しいことでいっぱいだったんだろう。レドの話をする時のシルフィはいつも笑っているから。
「師匠、ちゃんとご飯食べてるかなあ」
シルフィは遠い目をした。久しぶりに知っている場所に帰ってくると、みんな家が恋しくなるのかもしれない。私も少しだけ自分の一人暮らしの部屋のことを思い出したりした。
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