28 / 48
第二部
09:猫又さまのある日
しおりを挟む
仕事量をセーブしてから、以前より朝がゆっくりになった。近頃寒くなってきたし、なんなら布団とミケも離してくれない、と言った方が正しいかも。
スマホを見ると、気付かなかったアラームが十を超えてた。
「ううん……ミケ、朝……」
「にゃうぅ……まだ……寝る、にゃあ……」
起きなきゃと言いながら布団の上でゴロゴロ。掛け布団も厚手のものにしたから本当にあったかい。そんなわたしたちの上に、小さな真っ白のふわふわが乗って来た。てのひらサイズのルナちゃん。まったく重くなくて、少し笑ってしまう。
(はあ……かわいいし、しあわせ……)
「ダメです。朝のお食事のお時間はとっくに過ぎております」
ルナちゃんはピシっと跳ねのける。甘やかしたい外見だけど、甘やかしてくれない……。
「ルナちゃんんん……」
「仕方ありませんね……」
ミケとわたしの食事訓練がはじまって一か月。正直、苦手な内臓系にはまだ慣れない。なんせ、味わって食べないと意味がないのだから。これならにぼしを食べたいなんて泣き言を言ったのも一度や二度じゃない。
でも、ルナちゃんはそれより過酷だったはず。
毎日塩に霊力を込めている。
「――まあ、いいでしょう。次の段階に移りますか?」
「え!?」
「みゃ!?」
(ほんとに!? あの食事から解放される!?)
「桜さまは量を減らしても大丈夫でしょう。ミケさまは継続ですが、明日から新しいことをしましょう」
「にゃに!?」
「ミケさま、桜さまのためです」
「にゃあ……」
(うっ完全には卒業出来てないってことね……)
「ミケさまのお食事をご用意したら、下に降りてきてもらえますか?」
「はあい」
わたしはいつも通り、ミケにご飯を用意する。日課になったにぼしも添えて、チキン味のドライフードをメインに。すると、ミケは人の姿になってにぼしを取ったので、それを見送ってから下に降りる。
ルナちゃんは洗面台に居て、いつも用意している結界水を前足で叩いていた。
「結界水使うの?」
「はい。飲み込まないで下さいね」
(朝だと寝ぼけて飲んじゃいそう……)
「これは桜さま専用メニューです」
「なるほど……」
「コップに移したものを、三秒ほど口に含みます」
「うん」
「そして、吐き出します。その後は水で口を漱いでください」
「うん……? それだけ?」
「それだけです。桜さまは『命の巡り』によって、『言霊』も強くなります。コントロールが効かない現状、不用意に『引き寄せ』を行わないためのまじないです」
「口に結界張るって感じ?」
「気休め程度、ですが。現状の巡り程度であれば大丈夫です」
「そんなに?」
「ルイの見立ては信用できますので。桜さま、やり方は大丈夫そうですか?」
(そう言えば、あれ以来ルイくん見ないなあ……)
「あ、大丈夫。朝起きた後に一回でいいんだよね」
「はい、それで大丈夫です。では――」
「あ」
ルナちゃんが『続けてください』と言おうとした時。不意に思い出したことがあって、言葉を重ねた。
「どうされました?」
「そろそろ動物病院行く時期かも。点鼻薬が必要になるはず」
「ミケさまのですか?」
「そう。この時期になると風邪症状でちゃうこと増えるんだけど……」
「桜さま……口を漱ぐ前に……」
わたしの言葉に、ルナちゃんが耳を倒した。
「あっ、え? もしかして……」
やってしまった? とルナちゃんを見ると小さなしっぽがビタンビタンと大きく揺れていた。
スマホを見ると、気付かなかったアラームが十を超えてた。
「ううん……ミケ、朝……」
「にゃうぅ……まだ……寝る、にゃあ……」
起きなきゃと言いながら布団の上でゴロゴロ。掛け布団も厚手のものにしたから本当にあったかい。そんなわたしたちの上に、小さな真っ白のふわふわが乗って来た。てのひらサイズのルナちゃん。まったく重くなくて、少し笑ってしまう。
(はあ……かわいいし、しあわせ……)
「ダメです。朝のお食事のお時間はとっくに過ぎております」
ルナちゃんはピシっと跳ねのける。甘やかしたい外見だけど、甘やかしてくれない……。
「ルナちゃんんん……」
「仕方ありませんね……」
ミケとわたしの食事訓練がはじまって一か月。正直、苦手な内臓系にはまだ慣れない。なんせ、味わって食べないと意味がないのだから。これならにぼしを食べたいなんて泣き言を言ったのも一度や二度じゃない。
でも、ルナちゃんはそれより過酷だったはず。
毎日塩に霊力を込めている。
「――まあ、いいでしょう。次の段階に移りますか?」
「え!?」
「みゃ!?」
(ほんとに!? あの食事から解放される!?)
「桜さまは量を減らしても大丈夫でしょう。ミケさまは継続ですが、明日から新しいことをしましょう」
「にゃに!?」
「ミケさま、桜さまのためです」
「にゃあ……」
(うっ完全には卒業出来てないってことね……)
「ミケさまのお食事をご用意したら、下に降りてきてもらえますか?」
「はあい」
わたしはいつも通り、ミケにご飯を用意する。日課になったにぼしも添えて、チキン味のドライフードをメインに。すると、ミケは人の姿になってにぼしを取ったので、それを見送ってから下に降りる。
ルナちゃんは洗面台に居て、いつも用意している結界水を前足で叩いていた。
「結界水使うの?」
「はい。飲み込まないで下さいね」
(朝だと寝ぼけて飲んじゃいそう……)
「これは桜さま専用メニューです」
「なるほど……」
「コップに移したものを、三秒ほど口に含みます」
「うん」
「そして、吐き出します。その後は水で口を漱いでください」
「うん……? それだけ?」
「それだけです。桜さまは『命の巡り』によって、『言霊』も強くなります。コントロールが効かない現状、不用意に『引き寄せ』を行わないためのまじないです」
「口に結界張るって感じ?」
「気休め程度、ですが。現状の巡り程度であれば大丈夫です」
「そんなに?」
「ルイの見立ては信用できますので。桜さま、やり方は大丈夫そうですか?」
(そう言えば、あれ以来ルイくん見ないなあ……)
「あ、大丈夫。朝起きた後に一回でいいんだよね」
「はい、それで大丈夫です。では――」
「あ」
ルナちゃんが『続けてください』と言おうとした時。不意に思い出したことがあって、言葉を重ねた。
「どうされました?」
「そろそろ動物病院行く時期かも。点鼻薬が必要になるはず」
「ミケさまのですか?」
「そう。この時期になると風邪症状でちゃうこと増えるんだけど……」
「桜さま……口を漱ぐ前に……」
わたしの言葉に、ルナちゃんが耳を倒した。
「あっ、え? もしかして……」
やってしまった? とルナちゃんを見ると小さなしっぽがビタンビタンと大きく揺れていた。
5
あなたにおすすめの小説
侵略国家の皇女に転生しましたが他国へと追放されたので祖国を懲らしめます
think
恋愛
日本から転生を果たした普通の女性、橘美紀は侵略国家の皇女として生まれ変わった。
敵味方問わず多くの兵士が死んでいく現状を変えたいと願ったが、父によって他国へと嫁がされてしまう。
ならばと彼女は祖国を懲らしめるために嫁いだ国スイレース王国の王子とともに逆襲することにしました。
転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流
犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。
しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。
遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。
彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。
転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。
そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。
人は、娯楽で癒されます。
動物や従魔たちには、何もありません。
私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
消息不明になった姉の財産を管理しろと言われたけど意味がわかりません
紫楼
ファンタジー
母に先立たれ、木造アパートで一人暮らして大学生の俺。
なぁんにも良い事ないなってくらいの地味な暮らしをしている。
さて、大学に向かうかって玄関開けたら、秘書って感じのスーツ姿のお姉さんが立っていた。
そこから俺の不思議な日々が始まる。
姉ちゃん・・・、あんた一体何者なんだ。
なんちゃってファンタジー、現実世界の法や常識は無視しちゃってます。
十年くらい前から頭にあったおバカ設定なので昇華させてください。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
姑に嫁いびりされている姿を見た夫に、離縁を突きつけられました
碧井 汐桜香
ファンタジー
姑に嫁いびりされている姿を見た夫が、嬉しそうに便乗してきます。
学園進学と同時に婚約を公表し、卒業と同時に結婚したわたくしたち。
昔から憧れていた姑を「お義母様」と呼べる新生活に胸躍らせていると、いろいろと想定外ですわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる