私のお猫さま 25歳を迎えて猫又さまになりました

月見こだま

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第三部

07:そして現在

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 ――――

 裕子さんは、一つ呼吸を置いた。気付けば、温かかったお茶は冷え、半分程度に減っていた。

「ここから先は、これを読んだ方が早いかもしれない」

出されたのは、A4サイズの封筒。そこから、ホッチキスで簡易的に留められただけの紙が数枚。

「まりなちゃんが、『まな』の記憶が薄れる前にと、聞き取ったことを神谷さんがまとめたの」
「……見ていいんですか?」
「もちろん。これからに関わることだから、知っておいてほしいの」

 それは、少し黄ばんでいた。仕方がない。かなりの年月が経過したのだから。
 表紙には、無機質な明朝体で『猫又のこと』と書かれていた。きっと、神谷さんが聞き取りながらパソコンで打ったのだろう。一枚捲ると、箇条書きで情報が残されていた。


・「まな」は、江戸中期に妖狐に嫁いだ女性。
・嫁いで二年後の十八歳の時、九尾の狐から二匹の子猫を託された。
・その子猫は九尾の狐が封印されたとされる殺生石の近くで生まれた。
・母猫は体の弱かった二匹を置き去りにし、健康な子猫のみを連れ立ち去る。
・残された猫をあわれんだ九尾が流した涙が、子猫に落ちた。


「――九尾の涙……」

 息を呑んだ。――ルイくんの『九尾のひと粒は、九尾の狐が零した涙だ』という言葉を思い出す。
 わたしは、その後にも目を通す。

・九尾の涙には妖力が宿っていた。
・子猫たちは命をつなぎ留めた。
・しかし、九尾に育てることは叶わない。
・九尾は自らの眷属に嫁いだ少女に子猫を託すことにした。
・託された猫は二匹。黒猫と三毛猫。

(――黒猫と、……三毛猫……)

・九尾は言った。もしもこの猫たちが二十年を超え生きるならば、手放すようにと。

(まさか)

・猫たちが猫又となれば、少女の命を食らってしまう。それは避けられない。
・あやかしとなった猫たちは人間と生きられない。

(――まさか、)

・地震が起きた。
・幸い「まな」の住んでいた場所に大きな被害はなかったが、食料の調達は困難になった。
・夫が食料を調達しに向かった隙に、烏天狗が猫たちを襲った。
・辛うじてクロは守れた。ミケはどこかに行ってしまった。

「……」

 もう一枚、紙を捲る。

・夫が帰って来ない。

 ぎゅうっと心臓が痛む。頬を熱いしずくが流れていく。

・報せもないまま、時は過ぎる。
・クロは二十歳を超えた。人間の世界から隔絶された「まな」にはクロしかいない。
・二十歳を迎えた頃から、年々元気になっていった。
・クロは二十五歳になった。「まな」と呼んだ。九尾の言っていたことが現実になる。
・人の姿にもなれるらしい。耳もしっぽも隠せないクロは可愛かった。

 ミケが猫又になった朝を思い出す。――確かに、ミケも二十歳を超えてからの方が元気になっていった。

・「まな」にはクロがこどもだった。手放せるはずがない。

 ぽた、としずくが紙に落ちた。

・常に疲れる。熱っぽい。それはクロには言えないことだった。
・クロの人の姿は、日に日に大きくなる。まだ耳としっぽは隠せない。
・限界がきた。クロが猫又になって一年も経っていなかったはずだ。
・九尾の狐が「まな」の元に訪れた。
・手放せと言ったのに、と言われたが、クロと過ごした日々は幸せだった。
・夫はやはり死んでいたようだ。最後にそれが知れたのも、「まな」にとっては救いだ。
・クロは戸惑っていた。「まな」の死期に、その時ようやく気付いた。
・九尾がクロを引き取ってくれた。「まな」は安心して死ねる。
・猫又に寿命はないという。生まれ変わったら、また会えるかもしれない。


「……」


 ぼた、ぼた、と粒がどんどん落ちていく。まりなちゃんの笑顔を思い出す。若葉と同じ年で、幼い頃から知っているまりなちゃんは、わたしもよく一緒に遊んだ。飼い猫を亡くしたことも聞いたことがある。それが――

 もう一枚、紙があった。最後のページ。

・クロがルイを眷属にした。ルイは霊力のある猫だったようだ。

・ルイは「まりな」のために、クロの眷属になることを決めた。



 手の震えが、止まらなかった。

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