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第四部
02:揺らぐ定義
しおりを挟む『まりなから聞いた』
そう言った若葉が、ルナちゃん、ルイくんと一緒にシロくんを連れ帰った。物陰で倒れていたそうだ。シャム猫のような見た目。――だけど、毛艶がない。瞳は濁りが出ていて、開いた口からは舌が出ている。
「この子が、シロ。……生きてる。でも、」
「元気ないにゃ……」
タオルの上に横たわったシロくんの胸は大きく上下している。時折、足がぴくっと震えるだけ。
「もう妖力がない。ただの老いた猫だ。――あと数日生きられるかどうか」
「シロ、シロ……」
裕子さんはシロくんを呼ぶ。もう動くことも出来ないシロくんは、弱々しい呼吸を繰り返しているだけ。――だけど。
「姉さん、気付いた? ――目立つ傷はどこにもない」
「……うん」
そう。妖力がなくなったということは、シロくんは猫又食いと遭遇したはず。それなのに、確かに捕食されたはずなのに。
(生きてるし、傷ひとつない。――クロが手遅れだと言ったのは、死んだからじゃない。猫又じゃなくなったからってこと……?)
何か、おかしい気がする。
「せめて、苦しみを取り除きましょう」
「――ルナ、頼む」
「はい」
ルナちゃんがシロくんに触れる。いつかみた、雪原に太陽光が反射するよりも強く、神々しい光。ぎゅっと瞼を閉じていても、シロくんの呼吸が落ち着いていくのがわかる。
「もう、大丈夫です。苦しむことなく、安らかに眠れます」
「シロ……っ」
呼吸が落ち着いても、寿命が戻るわけじゃない。当たり前のことだ。本当は、これが。
(わたしたちが迎えるはずだった別れだ)
「シロくんは幸せだったよね」
「……姉さん?」
「家族から沢山愛情もらって、長生きしたから猫又になったんだもん。今だって、みんなに愛されてるのが伝わってくる」
「――花屋敷さん……」
「引っかかったのはこれだったんだ」
(妖力は奪われた。でも、シロくんの表情が穏やかだ。襲われはずなのに、抵抗した形跡がない。もし本当に襲われたなら、どこかに牙か爪の跡が残るはずなのに)
「桜さま?」
「――なんのことだ」
「ねえ、猫又食いは――『みけ様』っていう猫又は、本当に『悪』なの?」
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