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第四部
04:キジトラの証言2
しおりを挟む「シロは――いや、……」
クロがぽつり、呟く。どう続けていいのか迷っているように、語尾が消える。
今までも同じようなことが繰り返されていた事実は重い。
愛するものと離れて生き続けることのむなしさを、クロは否定できない。
「望みが叶うと理解していても、本能的に恐怖はしたでしょう。『みけ』は少年の姿をしていますが、大変妖力が強いので」
次郎くんの言葉に、違和感。
――『みけ』は男の子。つまり、
「――待って。『みけ』って――雄なの?」
三毛猫の雄が生まれる確率は――確か、三万分の一程度のはず。
それが、猫又になったうえに、同族を食べる存在になったというの?
次郎くんは、わたしの言葉に頷く。
「ええ。雄の三毛猫です。――色々疑問はあるでしょうが、まずは私のお話を聞いていただけますか?」
「うん、……続けて」
「では、続けます」
――――
まりな――正確には、『まな』の願いから猫又のための施設が造られた。神谷は、『まな』と同じく、クロがかけがえのない存在だったので、協力を惜しまなかった。
無意識とはいえ、クロが『まな』の命を奪ってしまったことは変わらない。同じように、飼主の命を奪ってしまう猫又が現れる可能性があった。
特に、医療の発達で長命になっている。猫又は今後更に増えるはずだ。
次のクロをつくらないための場所は、確かに必要だった。
そして、猫又となる可能性がある猫を、『まな』の瞳は察知することができた。
『まな』は妖狐に嫁ぐ以前から、特別な瞳を持っていたのだ。それが『まりな』にも引き継がれた。
そうして発覚した事実。
なぜか、猫又になる猫はひとつの市に集まっていた。
神崎が開業した動物病院がその中心にあった。
次郎の飼主も、神崎動物病院に通っていた。まるで、引き寄せられるように。
偶然のような必然に神崎も気付いた。そして、それを神谷とクロにも相談した。
変化はすぐにわかる。一定の年齢に近づくと血液検査の数値が回復するのだ。
そして。
次郎が猫又になった時。『みけ』とクロが同時に現れた。
『みけ』は次郎を終わらせるために。飼主との別れ、猫としての死を提案した。
クロは次郎を保護するために。猫又として生き続けるために。
それは、価値観の衝突だった。
『みけ』は年月を経ても二股のまま、九尾のクロには勝てなかった。
純粋な力ではクロが上だった。
――――
「戦いとなって、クロは頬を掠めた程度でしたが、『みけ』は眼球と左耳と失いました。――現在は回復しているようですが」
次郎くんが、当時を懐かしむように語った。淡々と語っているけど。
「次郎くんは、家族とは……?」
ここにいることが答えなのだろうけど。聞かずにはいられなかった。
「その時にお別れしております。猫又の命を食らう体質は変えられませんし――私の家族には、他にも猫がおりましたので。だから、次郎と。――それだけのことです」
そこには、ほんの少しだけ悲しみが滲んだ。きっと、彼は気付いていないのだろうけど。
(きっと、本当は。――お別れなんてしたくなかったんだ……)
「……お前は、後悔していたのか」
生かされたこと。――ここの、施設の、価値が揺らぐ。クロの声が、絞り出すように掠れていた。
次郎くんは、即座に否定する。
「いいえ。感謝していますよ。第二の命も楽しんでいます。ただ、私のような猫又は希少なのだと思います。愛する家族と別れなければならない。別れた後も、生き続けなければならない。それが耐えられないのです」
その次郎くんの言葉は、――何か、カチッと合わさった気がした。
『みけ』は猫又だ。話を聞く限り、最近猫又になったわけじゃない。
医療と遠い時代に長生きしたのなら。
「『みけ』は――」
見る角度によって、価値観が変わる。
命を守りたいクロたちと、終わらせることが幸せと考える『みけ』。
どちらが正しいとか、間違ってるとか、そういうことじゃないんだと思う。
「多分」
必要なことは、『選ぶ』こと。言葉にすること。
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