私のお猫さま 25歳を迎えて猫又さまになりました

月見こだま

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番外編

02:神崎とルナ1

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本作は作者の体験を着想の一部として構築したフィクションです。
以下の表現を含みます。
・治療が困難な状態にある子猫の描写
・動物医療および命の喪失に関する描写
これらの表現は、恐怖や残酷さを目的としたものではなく、命と向き合う人間の選択と葛藤を描くためのものです。
精神的な負担となる可能性のある方は、閲覧をお控えください。
本編とは独立した物語ですが、作品世界の根幹に関わるエピソードとして書かれています。




――――


 桜とミケは神谷の家を訪れた。ミケはキャリーケースの中で大きなあくびをしながら、インターフォンの音を聞いていた。

「ああ、花屋敷さん。ようこそおいでくださいました」

 ややして扉を開けた神谷が、優しく目じりを下げた。キャリーケースのミケに目線を合わせるようにして、『ミケちゃんもようこそ』と言う。

「頻繁に遊びに来ちゃってすいません」
「いえいえ、賑やかになって楽しいですよ。キャリたちは奥に、クロはルナと離れにいます」
「あ、挨拶してきていいですか? ミケも行く?」
「わたしはキャリと勝負するにゃ!」
「勝負って……ゲーム?」
「そうにゃ!」

 花屋敷の家にはないテレビゲームが気に入ってしまったミケ。頻繁に神谷の家を訪れるようになった理由のひとつだ。

「花屋敷さん、ミケちゃんはお預かりしますから、どうぞ」
「ありがとうございます。ミケ、いい子にしててね」
「わたしはいつもいい子にゃ!」

 桜は神谷にキャリーケースごとミケを預け、お辞儀をする。
 ミケに手を振り、平屋の方へ向かった。
 こちらはインターフォンを押す前に、扉が開いた。

(さすが猫。耳がいいなあ)

 桜は人の姿になっているクロを見上げて笑った。
 人の姿でくつろいでいたようだ。スウェット姿もかなり馴染んできたな、と思いながらクロの後ろに視線を送った。

「今日ルナちゃんは?」
「ベッドの上だ」
「行ってもいいかなあ。おやつ持ってきたの」
「ああ、喜ぶ」
「ありがとう!」

 頷いたクロの横を通り抜けて、靴を脱ぐ。ベッドルームに向かう前に手を洗わせて貰い、扉を開けた。

「ルナちゃん~遊びにきちゃった!」

 ベッド寝ていたのは、真っ白な美しい猫。桜の呼び声に、ふわふわのしっぽを返事代わりに動かした。
 うっすらと開けた瞳は澄んだ青。甘えるように口を開き、ゴロゴロと鳴いた。桜は引き寄せられるように頭を撫でる。長く柔らかい毛は真綿のよう。
頭を撫でると、うっとりと瞳を閉じる。ゴロゴロと顔を上げて、喉を撫でやすいように動く。桜はルナを撫でながら、呟いた。

「大きくなったね、ルナちゃん」

 首から背を撫で、しっぽに触れる。桜のてのひらに乗るサイズだったルナが、ミケほどに成長した。
 撫でた頭は少し小さめだが、両耳も入れると手に収まらない。

「ミケよりはまだ小さいが、もう大人だな」

 クロもルナを見て、目を伏せた。

「――聞けなかったけど……。クロは知ってるの?」

 クロに視線を向けずに問う。答えがあるとは思っていない、独り言のような問いだった。
 桜は知らない。ルナのことも、ルイのことも。クロたちのことも、ほとんど。
 ただ、その時に選択できる道を選んだだけだ。
 彼らがどんな風に生きてきたのか、実際に聞いたわけではない。
 誰も話さないから。桜の世界は、花屋敷の家で閉じている。だけど、彼らをもっと知りたくなった。

「――全ては話せぬ」
「うん」

 クロは全てを見たわけではない。事の次第は神崎豊から聞いただけだ。しかし、それは神崎の後悔。神崎だけではない。娘たちの後悔でもある。そこを勝手に語るわけにはいかない。
 ルナの晴れた空色の瞳が、クロを見上げた。


 思い出すのは、四十年前のこと。神崎豊がまだ神崎動物病院を開院する前。
 結婚、子育て、仕事と――順調に人生を歩んでいた時の話。



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