竜殺し、国盗りをしろと言われる

大田シンヤ

文字の大きさ
63 / 124
第四章

ディギルの下水道6

しおりを挟む
「あぁ、もう!! 汚いなりで私に近づくんじゃない‼」

 騎乗槍の連続突きで怪物の体を穴だらけにしたガンドライド。飛び散る臓物は気にしないが、奴らが動くたびに飛び散る糞尿が嫌らしく器用に避けながら戦っている。

「……よくそんなに気にして戦えるな」
「むしろ何で気にならないんだよこの馬鹿が‼ クソだぞ⁉ そんなものを被りたいと思うのかお前は⁉」
「思ってはいないよ。 だが、戦いの間は汚れることが多いからな。 後で洗い流せばいいって大抵思っている」
「大雑把‼」

 悲鳴を上げながら迫りくる怪物達を突き、薙ぎ払い、斬り伏せる。
 黒竜のブレスには程遠いものの複数合わされば破壊力は増す。前後から一斉に放たれたブレスにシグルド達は逃げ場をなくした。しかし、逃げ場がないなら作れば良いだけ……岐宿も同じ考えだった二人は拳で横の壁を破壊し、隣の通路と繋げてしまう。
 標的を失ったブレスはぶつかり合い、威力を相殺――二人は傷一つ負うことはなかった。なかったのだが、通路が広がり、敵に囲まれる可能性が高くなってしまったのだった。

「アンタ、彼女作ったことないだろ!? だから、汚いなりでも普通でいられるんだ!!」
「確かに彼女はいないが、戦場で汚れること何て当たり前だぞ。 子供のお遊戯とは違うんだぞ」

 互いに背を合わせ、迫ってくる怪物を斬り伏せる。
 戦場は全員が命がけの戦いをしている場所だ。いくら訓練で型にはまった剣技を会得しても、強力な魔術で体を強化しても敗れることはある。
 鍔迫り合っている最中に後ろから斧で頭を割られる奴だって見たことあるし、死人に見せかけて奇襲を仕掛けてくる奴だっていた。
 そんな奴ら相手に綺麗な戦い方ができることなんて数える程しかない。それは魔物との戦いでもそうだ。

「うるさいわ!! 何を言ってもアンタが童貞な男なのには変わらん!!」
「待て、変な勘違いをするな。 卒業ぐらいはしている」
「所詮はそこら辺の娼婦だろうがっ!! 春を売った女だろうが!!」
「それがどうかしたか?」
「開き直りやがったこいつ!?」

 放浪の旅をしていたのだから、現地に女を作るわけがないだろう。しかし、何が開き直りなのかが分からない。あるがままの事実を伝えただけのなのに……。
 ガンドライドの言葉に首を傾げる。しかし、答えは出てこない。

「えぇい!! もういや!!」

 怪物達よりも自身が汚れていくのが我慢ならなくなり、ガンドライドが魔術を行使する。造り出すのは水の檻――無から水を生み出せないガンドライドの魔術では、周囲にある下水を使うことになるが、体に飛び散ることに比べればどうってことない。

 足下にある水も巻き上げ、怪物達を一網打尽にする。水の檻でもただ閉じ込めているだけではない。水圧で拘束もできれば、中に激流を起こすことだって可能だ。今回は、体力を奪うために、中に複雑な激流を起こしている。
 外に出ようと体を動かせば動かすほど消耗していく。閉じ込められた者は、意識がなくなるまで翻弄され続けられる――――はずだった。

「はぁっ!?」

 声を上げて目を見開く。
 もうこれ以上汚れずにこの場から抜け出せると思ったのに予想した出来事とは全く違う光景が目に入ってしまう。
 息が続かなくなるまで激流の中で弄んでやろうとしていた怪物達。どうやら彼らは、ガンドライドの予想よりも水中戦が得意のようだ。

「何でアイツら泳げるんだよっ」

 巨大な迷宮で出口に繋がる通路を分かっているかのように、悠々と水の檻の中を泳ぐ怪物達。魚のように尾を使い、四肢を胴体にくっつけ、流れに乗って次々と檻から飛び出してくる。

「そう言えば、蜥蜴でも海を泳ぐ蜥蜴はいるって話を聞いたことがあったな」
「言うのが遅い!!」

 思い出したように呟かれた言葉にガンドライドが噛み付く。早く言ってくれれば無駄な魔力を消費しなかったのに、と不満を口にしようとするが、その前に怪物達がガンドライドに迫る。その数は、何故かシグルドよりも多く――。

「鬱陶しいっ!! 私ばっかり狙いやがってっ」
「お前が下がりながら戦っているからだろ、前に出ろ前に」

 ガンドライドとシグルドの二人は既に一人で十匹以上怪物を斬り捨てている。実力は向こうが完全に上……そんなこと怪物も本能で分かっているだろう。しかし、その戦い方は対照的だ。逃げながら戦う、真っ正面から戦う。ガンドライドとシグルドのこれまでの戦い方は正にこれだ。
 ガンドライドが後ろに下がる理由は、汚れたくないから――鼻で笑い、見下されても仕方のない理由だが、今はそれは置いておこう。
 怪物達はそのことを知る由はない。ただ、単純に後ろに退いている……前に出て敵を圧倒する者よりも、倒せる可能性が見えるから襲いかかっているのだ。

「絶対に嫌だっ!! お前が前に出ろ!!」
「へいへい」

 前に出ても後方からも来るため意味がないと思うのだが、もう今更言っても間に合わない。既にガンドライドは後ろへと下がってきており、入れ替わる気だ。
 短く息を吐き出し、加速――ガンドライドと位置を入れ替わるように前に出て、瞬時に怪物達を斬り伏せた。

「しかし、キリがないな」
「ギャアア!? 後ろから回ってきやがったコイツら!!」

 後ろで悲鳴が聞こえるが実力的に討ち取られることはないので無視して、思考に陥る。後から後から出てくる怪物の群れ。ひっきりなしに出てくる怪物に終わりは無いのではないかと思ってしまう。

「一体一体相手にしているだけじゃ、いつまで時間が掛かるか」

 正確な数が分からない以上、時間を掛けることは不味い。はぐれた怪物が外に出ることだって考えられる。しかし、魔剣を全力で発動してしまえば、上の街に被害が出てしまうため、一網打尽にすることもできない。
 なら――――

「ガンドライド!! 全員こっちに寄越せ!!」

 殺せる程度の力で殺すだけのこと。
 魔剣を解放して、過剰殺戮(オーバーキル)をする必要などない。単純な魔力操作しか出来なかったシグルドだが、ミーシャのおかげもあって細かな魔力操作を可能にしてきていた。
 これまでは零か百、全力で魔力を流し込み、それを解放するしかできなかったシグルドだが今はもう違う。魔剣に流す魔力を操作して、威力の調整を可能とした。

「何するつもりか分かんないけど、しくじったら殺す!!」

 さっさとここから出たいガンドライドは口は悪いものの素直にシグルドの指示に従う。群がる怪物達を魔術で絡め取り、シグルドの方へと押し流す。

「しくじるかよ」

 魔剣を携え不敵な笑みを作る。
 流す魔力は本来の半分にも満たない。しかし、それで十分。目の前の怪物達を殺すにはこれで良い。
 魔剣から発せられるのは、いつもの時のような全てを燃やし尽くす大火力の豪炎ではない。本来の半分にも満たない魔力では、精々怪物の肉を焼く程度しか火力は出ない。それでも、吹き出る水の出口を抑えれば勢いが出るように、範囲を限定すれば被害を最小限にして怪物程度ならば殺せる威力にはなる。

「魔剣、銃撃型――――グラム・クーゲル」 

 薄暗い下水道の中で一つの紅い閃光が走った。

「うん、使えるな」

 群れていた怪物達が胴体に風穴を開けて倒れ伏す。結果は上々。範囲が狭いため横一列に並べた相手に対しては効果が薄いが、縦の相手にはどんな壁を挟んでも貫く炎の槍になる。

「■■■■■■ッ」

 一瞬にして複数の怪物の命を絶ったシグルドを威嚇するようにうなりを上げる怪物。

 再び、――ボッ!!と紅い閃光が走る。誰も反応できず、唯気付けば胴体に穴が空いている。ブレスよりも強く、飛び掛かるよりも速い魔剣の一撃。

 彼らにそれから逃れる手段は、最早なかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

“いつまでも一緒”の鎖、貴方にお返しいたします

ファンタジー
男爵令嬢エリナ・ブランシュは、幼馴染であるマルグリット・シャンテリィの引き立て役だった。 マルグリットに婚約が決まり開放されると思ったのも束の間、彼女は婚約者であるティオ・ソルベに、家へ迎え入れてくれないかというお願いをする。 それをティオに承諾されたエリナは、冷酷な手段をとることを決意し……。 ※複数のサイトに投稿しております。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

処理中です...