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第六章
逆転、逆転、逆転――からの乱入
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迫る血染めの杭。それに対してビルムベルは目を瞑る。
諦めた――のではない。傍から見れば諦めたように見えるがそうではない。ただ、ここまで追い詰められたことを恥じ、悔い改めただけなのだ。
「冥界兵二級テュンリドル!! 余の声に応じ、ここに顕現せよ!!」
皇帝の口から召喚の命令が出される。
彼は魔術師ではない。魔術の仕組みなどは知識として持っていても扱うことはできない。故に、魔術における使い魔の類の召喚などができるはずがない。しかし、彼は皇帝だ。その命令は絶対であり、例え、単語別の次元にいたとしても命令が下されれば彼の元へ来るのは当然なのだ。
杭の切っ先が何者かが防ぐ。いや、防いだのではない。杭が皇帝を貫こうとする度に切っ先が跡形もなく消えている。
「――――お前っ」
乱入者をミーシャは睨み付ける。そこにいたのは老婆だ。ボロボロのローブに身を包み、腰を曲げた小さな老婆。顔は皺だらけで目が開いているかさえ怪しい。歯は所々が欠けており、残っている歯も黄ばんでいる。どう見ても不健康そうで今直ぐ横になった方がいいのは明白だ。戦いの場に出てきていい人間ではない。
だが、それは外見だけの話。特別な目を持つ者には全く違うモノにそれは見えていた。
「異形……」
「ほう、こ奴の主体を見破るか。良い目を持っているな」
ミーシャが自分自身の目に関して分かっていることは未だに少ない。何のためにあるのか、どんな力があるのか不明なことばかりだ。しかし、分かっていることもある。それは、生物の魂の在り方を見ることができると言うことだ。
その目を介して見たあの老婆。ミーシャにとってアレはとても気持ちの悪いものに見えていた。
「何だ。それは、一体どうしたらそうなるんだ?」
「ふむ。貴様にとってはそう見えるのか」
近いものを上げるのならば、三つの魂が混じり合い、絶妙なバランスを保って一つの生命体になっていたあのガンドライドだろう。だが、目の前の魂はガンドライドより醜悪だ。
「――慈悲を」
老婆が言葉を発すると同時に足元から三本の黒い腕が伸びる。
寒気がミーシャの体を襲う。アレに触れてはいけない。戦いの中で磨いた直感からの警報ではない。もっと根本的な、生命が嫌悪してしまうもの。
「死の呪いか!!」
黒い腕がミーシャへと迫る。堪らずミーシャは距離を取った。
「面倒くさいものばかり持っているな!! まだ何か隠し持っているのか!?」
「いいや、今持っている手札はこれが最後だ。出すつもりはなかったのだが、貴様を敵として認識してしまったからな」
「全く以て嬉しくないなっ」
目の前にあった勝利がまた遠のいたことに苛立ち。ミーシャは次々に魔術を放つ。狙いは老婆の後ろにいるビルムベルだ。
火球、放電、風の刃――一つでもビルムベルに当たれば、致命傷は間違いない。しかし、当たらない。届かない。全てが黒い腕に阻まれる。
「これでは無理か――なら」
単発のルーンでは効果が薄いのを確認すると今度はルーンを同時に展開する。
「針が重なる。黒い月が獣の枷を外し、獣は野に放たれる。大地を駆け抜け、爪牙を赤く染め、血肉を貪る。疾走は終わらない――風を切り、光を追い越し、ついにかの獣は天へと至る」
黒い腕に捕まれば、魔力の大小関係なくかき消されてしまうだろう。範囲攻撃も意味をなさない。あの黒い腕にとって範囲攻撃など、的を大きくするだけだ。
伸びてきた一本の黒い腕を回避し、狙いを定める。
的は小さく、速度は最大限に――。
「アルスヴィス・イコルス!!」
牙を剥いた狼が放たれる。黒い腕がその狼を掻き消さんと防衛に回る。
アルスヴィス・イコルスは一直線にしか進まない。途中で曲げたり、標的を変えることなどは不可能だ。
その魔術を止めることなど容易い、と思われがちだが――――例え、来ると分かっていても止められないものは存在するのだ。
「行け」
回避した一本の腕はもう間に合わない。どんなに速く戻しても狼の牙がビルムベルの首に届く方が速い。
それを老婆も分かっているのだろう。残った二本の黒い腕を防御へと回す。
「行け」
二本目の黒い腕が直線状に出ようとするが、その速度はあまりにも遅い。直線状に出る前に狼は二本目の黒い腕を置き去りにする
「行けっ」
三本目の腕も同じだ。上から指先を限界まで伸ばして触れようとする。指の先、爪の先でも触れれば掻き消せるのだ。速度で負けている分、そうするのは当然だろう。しかし、触れることなどできない。
老婆が肉体を盾にするために、ビルムベルの前に出る。
「行っっっっけぇ!!!!」
老婆の肉体があろうがなかろうが関係なかった。狼が老婆の体に喰いつき、血飛沫を上げる。貫くことなど簡単だろう。狼の牙をビルムベルへ届かせるのを遅らせるだけ。
最も、その僅かな時間で何かができれば話は変わるが――――。
「退去せよ」
短く、威厳に満ちた言葉が部屋に響いた。
杭を防いだ時と同じだった。皇帝の言葉と共に現れ、皇帝の言葉と共に消える。目の前で狼の牙に嚙み砕かれようとしていた老婆の姿が消える。同時に、老婆の体を貫こうとしていた魔術すらも――。
「な――――」
ミーシャが目を見開き、皇帝が薄く笑う。
「何、簡単なことだ。貴様の魔術をテュンリドルが防ぎ、それごと持って帰っただけだ。何事も使いようだ」
「……お前は、魔術が使えないはずだ」
「あぁ、その通りだ。余は魔術を使うことはできない。何故なら才が一切ないからだ。どんなに月日をかけても扱えるのは精々貴様らの言う初級程度だろう。貴様の考える通り、召喚をするなどできはしない。だが、余は皇帝である」
「…………」
「余の言葉は絶対であり法そのもの。余が来いと言えば、全ての配下が、例え異界の果てにいようとも来るのは当然だ」
「滅茶苦茶だな。破綻している。もっと分かる言葉で喋れないのか? それともまさか、本当にそんなことができると思っているのか?」
「無論――だが、疑うのは仕方がない。余の言葉を疑うその不敬を、その愚かさに免じて許そう」
「――っ。相変わらずの上位者気取りか。だったら、次は召喚される前にぶち込んでやる!!」
「残念だけど、させないわよ」
ルーン石を取り出し、溜め込んだ魔力で魔術を代用しようとしていたミーシャの前に魔力の障壁が張られる。
再び邪魔が入ったことに苛立つミーシャ。この場に障壁を張れる者など一人しかいない。
「何でっ――死んでないんだよっ」
「いやいや、死ぬ訳ないでしょあの程度。昔、似た呪詛をかけられたことがあってね。対策はしているのよ」
「クソっ」
「貴女の手は悪くなかったわよ。私の目の調子が悪かったとは言え、かなり危なかった。だけど、もう貴女が打てる手はない。そうでしょ? だってあの魔術、術者にかなりの代償がいるようだもの」
「お前、そのことを――」
「知ってるわよ。直すには術式を解読するのが一番早いからね」
舌打ちを打ちそうになる。病魔の魔術――術者を代償とすることでより飛躍的に殺傷能力を高めていたため、生き残ることはないと、術式が解読されることはないと考えていた。それが間違いだったと後悔する。
「――クソ」
目の前には油断も隙も無く、深い笑みを浮かべて見詰めてくる魔女。その前で言葉が漏れる。
せめて、術式が読まれないようにしておけば、まだ数分は時間を稼げただろう。けれど、もう遅い。
策略、演技、駒、魔術。使えるもの全てを使った復讐は失敗に終わった。病魔の魔術で苦しんでいた魔女ならば勝ち目はあったが、目の前にいるのは万全な魔女。対してミーシャは魔力を使い果たして意識が朦朧としかけている。どうあがいても勝ち目はなかった。
「もう、終わりにしてあげる」
ウルの指先が、ミーシャへと向けられる。細い指先に魔力が集まり、圧縮されていく。魔術でも何でもない。ウルがやろうとしているのは魔力を集めて放つだけの魔力放出。
それだけで十分だった。今のミーシャにはこの状況をどうにかする術はない。全ての手札を切り、体力も底を尽いている彼女に残された選択はない。
彼女は今日、ここで死ぬ。
でも、それは――――彼らがいなければの話である。
それはミーシャによって捨てられた手札。もう不要とされてもう一つの駒と共に墓地にあったもの。
ミーシャも予想外だろう。代償によって動けなくなった足手纏いを抱え、四方八方を敵で囲まれた状態で生きているとは――。
けれど、本人は言うはずだ。全ての状況を把握して、例え自分が捨て駒にされていたと知って尚、『敵が隠し玉を持っているぐらいなら、墓場から這い出てくる駒がいても良いだろう?』――と。
「――――ッ」
魔力を放とうとしていたウルが突然寒気を外から感じる。同時に込み上げるどうしようもない嫌悪感と魔力の奔流。
「障壁展開!!」
魔術で帝都から滅多に使うことのない杖を引き寄せる。杖は魔術師にとっての魔力の増幅器。それを通して魔術を発動すれば、何倍にも、何十倍にも魔術を高めることができる代物。加えてウルが使用する杖はある物質を使った特別性だ。
滅多なことでは使わない身の丈程の杖を重さを感じさせずに、手に取り、魔力を流し込み館により強力な障壁を張る。その強度は例え、空から隕石が降ってこようとも耐えられる――――が、その障壁は破られる。
いとも簡単に、ごくあっさりと。
外から飛来した闖入者がその部屋へと到達する。
黒い影が館の外壁を破壊し、部屋の柱に激突する。その正体を見たウルは目を見開いた。
「レギン!?」
それは帝国の栄えある騎士団長。体中に酷い火傷を負っていた。その帝国騎士団長に続いて、崩れた外壁から一人の男が部屋に足を踏み入れる。
それは、白髪に、黒塗りの魔剣を背負った男だった。
皇帝が問いを投げ、男はそれに静かに答えた。
「貴様、何者だ?」
「シグルド・レイ。お前らの敵だよ」
諦めた――のではない。傍から見れば諦めたように見えるがそうではない。ただ、ここまで追い詰められたことを恥じ、悔い改めただけなのだ。
「冥界兵二級テュンリドル!! 余の声に応じ、ここに顕現せよ!!」
皇帝の口から召喚の命令が出される。
彼は魔術師ではない。魔術の仕組みなどは知識として持っていても扱うことはできない。故に、魔術における使い魔の類の召喚などができるはずがない。しかし、彼は皇帝だ。その命令は絶対であり、例え、単語別の次元にいたとしても命令が下されれば彼の元へ来るのは当然なのだ。
杭の切っ先が何者かが防ぐ。いや、防いだのではない。杭が皇帝を貫こうとする度に切っ先が跡形もなく消えている。
「――――お前っ」
乱入者をミーシャは睨み付ける。そこにいたのは老婆だ。ボロボロのローブに身を包み、腰を曲げた小さな老婆。顔は皺だらけで目が開いているかさえ怪しい。歯は所々が欠けており、残っている歯も黄ばんでいる。どう見ても不健康そうで今直ぐ横になった方がいいのは明白だ。戦いの場に出てきていい人間ではない。
だが、それは外見だけの話。特別な目を持つ者には全く違うモノにそれは見えていた。
「異形……」
「ほう、こ奴の主体を見破るか。良い目を持っているな」
ミーシャが自分自身の目に関して分かっていることは未だに少ない。何のためにあるのか、どんな力があるのか不明なことばかりだ。しかし、分かっていることもある。それは、生物の魂の在り方を見ることができると言うことだ。
その目を介して見たあの老婆。ミーシャにとってアレはとても気持ちの悪いものに見えていた。
「何だ。それは、一体どうしたらそうなるんだ?」
「ふむ。貴様にとってはそう見えるのか」
近いものを上げるのならば、三つの魂が混じり合い、絶妙なバランスを保って一つの生命体になっていたあのガンドライドだろう。だが、目の前の魂はガンドライドより醜悪だ。
「――慈悲を」
老婆が言葉を発すると同時に足元から三本の黒い腕が伸びる。
寒気がミーシャの体を襲う。アレに触れてはいけない。戦いの中で磨いた直感からの警報ではない。もっと根本的な、生命が嫌悪してしまうもの。
「死の呪いか!!」
黒い腕がミーシャへと迫る。堪らずミーシャは距離を取った。
「面倒くさいものばかり持っているな!! まだ何か隠し持っているのか!?」
「いいや、今持っている手札はこれが最後だ。出すつもりはなかったのだが、貴様を敵として認識してしまったからな」
「全く以て嬉しくないなっ」
目の前にあった勝利がまた遠のいたことに苛立ち。ミーシャは次々に魔術を放つ。狙いは老婆の後ろにいるビルムベルだ。
火球、放電、風の刃――一つでもビルムベルに当たれば、致命傷は間違いない。しかし、当たらない。届かない。全てが黒い腕に阻まれる。
「これでは無理か――なら」
単発のルーンでは効果が薄いのを確認すると今度はルーンを同時に展開する。
「針が重なる。黒い月が獣の枷を外し、獣は野に放たれる。大地を駆け抜け、爪牙を赤く染め、血肉を貪る。疾走は終わらない――風を切り、光を追い越し、ついにかの獣は天へと至る」
黒い腕に捕まれば、魔力の大小関係なくかき消されてしまうだろう。範囲攻撃も意味をなさない。あの黒い腕にとって範囲攻撃など、的を大きくするだけだ。
伸びてきた一本の黒い腕を回避し、狙いを定める。
的は小さく、速度は最大限に――。
「アルスヴィス・イコルス!!」
牙を剥いた狼が放たれる。黒い腕がその狼を掻き消さんと防衛に回る。
アルスヴィス・イコルスは一直線にしか進まない。途中で曲げたり、標的を変えることなどは不可能だ。
その魔術を止めることなど容易い、と思われがちだが――――例え、来ると分かっていても止められないものは存在するのだ。
「行け」
回避した一本の腕はもう間に合わない。どんなに速く戻しても狼の牙がビルムベルの首に届く方が速い。
それを老婆も分かっているのだろう。残った二本の黒い腕を防御へと回す。
「行け」
二本目の黒い腕が直線状に出ようとするが、その速度はあまりにも遅い。直線状に出る前に狼は二本目の黒い腕を置き去りにする
「行けっ」
三本目の腕も同じだ。上から指先を限界まで伸ばして触れようとする。指の先、爪の先でも触れれば掻き消せるのだ。速度で負けている分、そうするのは当然だろう。しかし、触れることなどできない。
老婆が肉体を盾にするために、ビルムベルの前に出る。
「行っっっっけぇ!!!!」
老婆の肉体があろうがなかろうが関係なかった。狼が老婆の体に喰いつき、血飛沫を上げる。貫くことなど簡単だろう。狼の牙をビルムベルへ届かせるのを遅らせるだけ。
最も、その僅かな時間で何かができれば話は変わるが――――。
「退去せよ」
短く、威厳に満ちた言葉が部屋に響いた。
杭を防いだ時と同じだった。皇帝の言葉と共に現れ、皇帝の言葉と共に消える。目の前で狼の牙に嚙み砕かれようとしていた老婆の姿が消える。同時に、老婆の体を貫こうとしていた魔術すらも――。
「な――――」
ミーシャが目を見開き、皇帝が薄く笑う。
「何、簡単なことだ。貴様の魔術をテュンリドルが防ぎ、それごと持って帰っただけだ。何事も使いようだ」
「……お前は、魔術が使えないはずだ」
「あぁ、その通りだ。余は魔術を使うことはできない。何故なら才が一切ないからだ。どんなに月日をかけても扱えるのは精々貴様らの言う初級程度だろう。貴様の考える通り、召喚をするなどできはしない。だが、余は皇帝である」
「…………」
「余の言葉は絶対であり法そのもの。余が来いと言えば、全ての配下が、例え異界の果てにいようとも来るのは当然だ」
「滅茶苦茶だな。破綻している。もっと分かる言葉で喋れないのか? それともまさか、本当にそんなことができると思っているのか?」
「無論――だが、疑うのは仕方がない。余の言葉を疑うその不敬を、その愚かさに免じて許そう」
「――っ。相変わらずの上位者気取りか。だったら、次は召喚される前にぶち込んでやる!!」
「残念だけど、させないわよ」
ルーン石を取り出し、溜め込んだ魔力で魔術を代用しようとしていたミーシャの前に魔力の障壁が張られる。
再び邪魔が入ったことに苛立つミーシャ。この場に障壁を張れる者など一人しかいない。
「何でっ――死んでないんだよっ」
「いやいや、死ぬ訳ないでしょあの程度。昔、似た呪詛をかけられたことがあってね。対策はしているのよ」
「クソっ」
「貴女の手は悪くなかったわよ。私の目の調子が悪かったとは言え、かなり危なかった。だけど、もう貴女が打てる手はない。そうでしょ? だってあの魔術、術者にかなりの代償がいるようだもの」
「お前、そのことを――」
「知ってるわよ。直すには術式を解読するのが一番早いからね」
舌打ちを打ちそうになる。病魔の魔術――術者を代償とすることでより飛躍的に殺傷能力を高めていたため、生き残ることはないと、術式が解読されることはないと考えていた。それが間違いだったと後悔する。
「――クソ」
目の前には油断も隙も無く、深い笑みを浮かべて見詰めてくる魔女。その前で言葉が漏れる。
せめて、術式が読まれないようにしておけば、まだ数分は時間を稼げただろう。けれど、もう遅い。
策略、演技、駒、魔術。使えるもの全てを使った復讐は失敗に終わった。病魔の魔術で苦しんでいた魔女ならば勝ち目はあったが、目の前にいるのは万全な魔女。対してミーシャは魔力を使い果たして意識が朦朧としかけている。どうあがいても勝ち目はなかった。
「もう、終わりにしてあげる」
ウルの指先が、ミーシャへと向けられる。細い指先に魔力が集まり、圧縮されていく。魔術でも何でもない。ウルがやろうとしているのは魔力を集めて放つだけの魔力放出。
それだけで十分だった。今のミーシャにはこの状況をどうにかする術はない。全ての手札を切り、体力も底を尽いている彼女に残された選択はない。
彼女は今日、ここで死ぬ。
でも、それは――――彼らがいなければの話である。
それはミーシャによって捨てられた手札。もう不要とされてもう一つの駒と共に墓地にあったもの。
ミーシャも予想外だろう。代償によって動けなくなった足手纏いを抱え、四方八方を敵で囲まれた状態で生きているとは――。
けれど、本人は言うはずだ。全ての状況を把握して、例え自分が捨て駒にされていたと知って尚、『敵が隠し玉を持っているぐらいなら、墓場から這い出てくる駒がいても良いだろう?』――と。
「――――ッ」
魔力を放とうとしていたウルが突然寒気を外から感じる。同時に込み上げるどうしようもない嫌悪感と魔力の奔流。
「障壁展開!!」
魔術で帝都から滅多に使うことのない杖を引き寄せる。杖は魔術師にとっての魔力の増幅器。それを通して魔術を発動すれば、何倍にも、何十倍にも魔術を高めることができる代物。加えてウルが使用する杖はある物質を使った特別性だ。
滅多なことでは使わない身の丈程の杖を重さを感じさせずに、手に取り、魔力を流し込み館により強力な障壁を張る。その強度は例え、空から隕石が降ってこようとも耐えられる――――が、その障壁は破られる。
いとも簡単に、ごくあっさりと。
外から飛来した闖入者がその部屋へと到達する。
黒い影が館の外壁を破壊し、部屋の柱に激突する。その正体を見たウルは目を見開いた。
「レギン!?」
それは帝国の栄えある騎士団長。体中に酷い火傷を負っていた。その帝国騎士団長に続いて、崩れた外壁から一人の男が部屋に足を踏み入れる。
それは、白髪に、黒塗りの魔剣を背負った男だった。
皇帝が問いを投げ、男はそれに静かに答えた。
「貴様、何者だ?」
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