上 下
130 / 192

85-2 中庭2

しおりを挟む
「聖女に悪気は無かったのだろうね。」
ポンと出た単語に驚く。聖女って日向さん?
驚きの視線を、ん?と柔らかく受け止めて彼は続けた。
「王都の遺跡の地図を見て、前の聖女が言ったんだって。『この王都は素敵ですね。宇宙に護られてるみたい。』だそうだ。この国の信仰と相まって遺跡は大切にされ生活に密着しているが…都市計画としては欠点になっている。王が闇の国の町並みと比べて落ち込んで、それを慰められただけなんだろうね。」
にこっと笑って、右手で何かの仕草をすると暖かいお茶が入ったカップが2つ現れた。お茶を魔法で入れるのを見た事はこれまでなかった。繊細で緻密な技が必要で、魔法でやるより手でやった方が早いし楽だし、味も良いと聞いている。そっと渡されておっかなびっくり口をつけた。
美味しい。ガサツな私が味を消した茶葉と同じ?でも、前にキュラスが入れたよりもっと。
「この茶葉は魔法でもたもたやった方が美味しいんだよ。」
いたずらっぽく笑ってから、ちくりとやられた。
「君も聖女もこの城の者にとって特別だ。救いでもあり、絶望にもなり得る。望んでなくても、ね。」
私の言動で今回の件と同じような事が起きないよう自重せよと、仰りたいらしい。
「アドバイス、ありがとうございます。」
こちらも苦笑だ。彼が言いたい事は分かるけれど、選択が最善だったかどうかは自分で決められない。歴史が証明するのを待つしかできない。分かってても言わざるを得ない事だったんでしょうと腹に収める。

「…すまないね。ところで王は何かご褒美をあげたいらしいんだけど、何かある?いくつでもいいよ。叶うかどうかは保証できないけど…息子が余ってたらキュラスとか良かったんだけどね。」
ブラックジョークを飛ばしながら、またもや牽制。褒美は関係なく、キュラスの結婚相手には出来ないと言いたかったのだろう。
「キュラス様の笑顔だけで充分です、と申したいところですがいくつかお願いがあります。」
「うん。どうぞ。」

なんとなく、きちんと向かい合いたくてベンチの上に正座した。ダメって言われたらレッツ土下座。あれとこれとそれと、と慌てて数える。三つ、だよね?

「三つあります。1つ目は闇の国からお知らせしている能力上昇の訓練法を速やかに受けて実施して頂きたいです。まだまだ改善の余地はあると思いますが、結果を出しているものなので実施しながら改善していく、くらいの気持ちでお願いします。次に闇の国と一緒に遺跡の研究をさせてください。闇の国の研究も来訪者の知識もこちらの図書館で見たものと違うところがたくさんあります。それに共同で行えば、各々の力を負担なく使えるので安全だと思います。最後に、闇の国に繋がる転送円の設置。これから段々と往来が危険にもなっていくので前二つのために必要だと思います。」
うん、一個言い忘れてる。

「それは、もし本当にあちらも望んでいるならこちらが反対する理由は無いね。」
飄々と答えが返ってきた。嘘だ。ドラン派の、闇の国を奴隷化派の人がまだまだいるはずだ。
言い返そうとして、ぽんぽんと軽く頭をたたかれた。
「大丈夫。私が受けるといえば、ちゃんと通るよ。きちんと、通す。」

ちくしょう。カッコいい。
私の心配ひっくるめて、三つともお願いは聞き入れられた。4つ目言いにくいー。
「訓練法については今朝方使者を遣わしたい旨連絡を貰ったところだ。早速文書で返事を返すと共に、商人を遣って向こうに知らせる。実際に会った時に残り二つも進めよう。けれど、何故そこまで急ぐのか理由を聞いても良いかい?終わりの日が近づいているとは実感していない。」
それは、まだサンサンが生きているから。でもこれはまだ口に出したくない。
「私の友人の聖女が一年と経たずに現れます。そして、闇の国では光の国と闇の国を分けようとしています。今度の聖女は世界を癒す以上の事ができる器なので、出来得る限りの事はしておいてあげたい。」

女神か。と彼が呟いたのには答えなかった。女神になって世界を救うのではない。救った結果女神と呼ばれるなら、女神かもしれない。
「君がただの魔人ほどしか器がない事も関係あるのかな?そして、シーマ様は魔女ではない?」
一瞬シーマ設定忘れていた。あ、と思ったのが顔に出たらしい。くすくす笑われた。
「いいよ。聞かない。後は闇の国の彼らとやり合うよ。本当に可愛い子だ、娘に欲しかった。」

ぽんぽんっとまたやられて、右手が動く。ふわり、と空のカップは回収された。
「ところで、君のお願いは国の事ばかりだな。何か他はないの?」
あります!さっき言い漏らしたのが!
「実は、カナの祠に行ってみたいと思っています。」

「カナ?」
予想外だったのか、キョトン顔になった。シブメンのキョトン。ちょい可愛オヤジ。
「私は構わないと思うけれど、元々私の権限では無いからね。不許可だったら、多少の口添えはできるかもしれないが…。」
なんですと?
「でも、カナトが君のお願いを断るとは思えないが。」

…そうね。そうでしたね。遺跡の管轄は神官で、今の実質的な神官はカナトでしたね。こんな回り道しなくても良かったのね。
脱力してしまった私を残して、じゃあまた、と言ってロマンスグレーは去って行った。ついでに忍者みたいな衛兵さんもいなくなった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

この婚約破棄は、神に誓いますの

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:444

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,810pt お気に入り:4,186

婚約破棄させてください!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,455pt お気に入り:3,013

異世界ライフは山あり谷あり

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,208pt お気に入り:1,553

甘い婚約~王子様は婚約者を甘やかしたい~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:520pt お気に入り:386

【完結】攻略中のゲームに転生したら攻略されました

BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:544

処理中です...