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第一章 非日常へ

10話 胃袋を掴もう ダート視点

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 朝日が差し込んで来て俺の顔に光が当たる。
体感的には人が起きるにはまだ早い時間だな……、寝る時間が早かったせいもあると思う。
それに腰や肩が痛ぇもしかしなくても寝る場所が悪かったのだろう……クソっこんなな事ならベッド借りんだったぜ。
それにしても昨日は久しぶりに飯食って、屋根のある環境で寝たからな……大分体が楽になった気がする。

「にしても結構早く眼が冷めちまったな……。」

 あいつはまだ起きて来ねぇだろうしどうすっかなぁ。
今日からあいつと一緒に暮らす事になるわけだけど、異性と一緒に暮らすのはお父様以来か……それに世界に飛ばされてからもう3年も立っちまったし、帰れないと分かっていても偶にこうやって元の世界の事を考えてしまってナイーブになっちまう時がある。
幸いこの世界でも魔法…ここでは魔術か、これのおかげで何とか生活出来るが……、魔術が無い世界に来ていたらと思うと恐怖しかない。
口調や性格もこの世界で生きて行くために魔術で変えて荒くなっちまったし、お父様が今の俺を見たら卒倒しそうだな。
そう思うと今の自分がおかしく感じて失笑してしまう。

「っと、そんな暗い事考えてる暇はねぇな……ボケーッとして暗い事考えちまう位なら何かやるか」

 けど何かやろうにも何をするべきか?この家に何があるかわからねぇし勝手なすんのは良くねぇしな。
そういやここはリビングだったな……あいつが寝てる間に料理でも作って出してやればびっくりして腰を抜かすかもしれねぇ。
それに俺の横暴な態度というか相手に舐められねぇようにやってるわけだけど、そのせいで俺の印象はあいつからしたら最悪だろう。
けど印象が悪いなら落ちたら後は上げるだけだ。
それにお母様が言ってたっけ男の胃袋を掴んだら勝ちだって、そうやってお父様を捕まえたって言ってたな。
……別にそういう関係になりたいわけじゃねぇが印象回復も大事だし、それに面白そうだからやるか。

「確か奥で調理してたよな……、って事はそこに食材があんだろし漁ってみるか」

 リビングの向こう、あいつが昨日居た場所がキッチンだろう。
そう入ってみると予想通りだ……とりあえず調理器具を探して周りを見て感じたけど田舎の割には色々と揃ってんな。
魔力をくべる事で火を付けるかまどに……、保存用の冷蔵庫か、これも定期的に魔力を通す事で保存し続けられる魔導具だ。
都会にしかない位なのに、こいつ田舎でいい生活してんなぁ……と思いつつ冷蔵庫を開けて中を見る。

「肉に野菜……、パンに米に調味料か」

 食材は揃っている。
取り合えず使うのはフライパンだけでいいか……俺は包丁を使わねぇしな。
って事で肉と野菜で適当に作っちまうか、食材を取り出してかまどに魔力をくべてフライパンを乗せた後、指先に魔力の光を灯しフライパンと食材の間の空間をブロック状に薄く切り開き食材を豪快に投げ入れていく。
こうすることで空間が繋がろうとするまでが鋭い刃になってその場に薄く残ってくれるから包丁など使わなくても投げるだけで切れてくれて便利だ。

「後は適当に塩胡椒を振って焼きあがるまで待てばいいか…」

 調味料は適当に振っときゃ人が食えるもんになるはずだ。
フライパンの上の空間を薄い空間で覆って蓋をする。
後は全体に火が通れば終わりだ……、後は適当にパンを出しておけばいいだろう。

「俺だって、お母様程じゃあねぇが料理位出来んだよ。……にしし、うめぇって言わせてやんぜ」

 あいつが食ってうめぇっていう姿を考えて思わず笑みがこぼれる。
取り合えずあいつが起きてきたら一緒に飯を食って村の中で日用品揃えて生活基準整えねぇとな……。
まずはベッドがあればいいだろ、床で寝ると腰がいてぇわ肩が凝るわで最悪だ。
服はとりあえず今の服に近いものは止めた方がいいだろう……、あいつの助手として一緒に居る約束をしちまった手前、へそ出しの服で短パン姿の助手とかどう見てもおかしいだろうし、何よりあいつの常識が疑われるだろうそれは良くない。

「言うてこの髪色然りこの世界では珍しいからな……、染めるか?」

 くすんだ金色のロングポニーを触りながら考える。
お母様から貰ったこの髪色は好きだから出来れば変えたくない、それに髪は魔術師に取って魔力タンクとしても使える以上切りたくはない。
体内で生成できる量は人それぞれで、魔術を使う場合は自身の魔力と自然界の魔力を使用する。
俺は魔力量が多い方だが、それでも無尽蔵ってわけでは無い以上髪の伸ばしてそこに生成された魔力を溜め込み続けている以上短くなったら困ってしまう。

「とりあえず髪色の事はあいつに聞いてから判断するか……、ん?あっやっべ」

 フライパンの中が少し黒くなってきているもしかしたら焦がしてしまっているのかもしれない。
お母様にも言われたっけ料理してる時に考え事はやめなさいって……、これはもしかしてまずいか?。
急いで火を消して空間魔法を解除する。
肉と野菜が少し焦げてる気がするが、これくらいなら大丈夫だろう。
お皿を用意して料理を二人分に分けてパンを2つずつ用意して終わりだ。

「にしし、少し失敗しちまったけど大丈夫だろ……、ぜってぇうめぇって言わせてやっからなぁ?」

………料理を作ってる間にそれなりに時間が立っていたのかあいつが起きたんだろう。
リビングのドアがゆっくりと開いていく。
あいつがこの飯を食ってうめぇって言う姿が今にも脳裏に浮かぶ。
あいつの胃袋掴んで昨日の態度で落ちた汚名を返上してやるよ。
今日から俺とあいつの新しい日常が始まるんだからな。
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