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第二章 開拓同行願い

9話 二人の隠し事

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 ダートが目を覚ますまでコルクの部屋を見させて貰おうと思ったけれどこれと言って何もない。
ベッドとしかないから本当に寝るだけの部屋って感じで寂しい感じで、いつも思うけど彼女はどんな生活をしてるのだろう……そんな事を思いながら椅子に座りダートの顔を見ると薄目を開けた彼女がぼくの事を見ていた。
口では寝息を出しているけれどどう見てもぼくの顔を見ているし、ぼくも彼女の眼を見ている。
無言で暫くお互いに見つめ合っていると気まずくなったのか、私は今起きましたよ?という雰囲気を出しながらゆっくり体を起き上がらせるとぼくの顔を見つめる。

「……女性の部屋をそうやって見るのはダメですよ?レースも自分の部屋を勝手に見られて何かされたら嫌でしょう?」
「あの……ごめん、ところで何時から目を覚ましていたのかな」

 もしかしたらぼく達の話を聞かれていた可能性があるから確認しておいた方がいいだろう。
さっきまで意識を失っていたダートを問い詰めるようで申し訳ないけど顔色も良くなっているし大丈夫だと思う。

「……コーちゃんとあなたが私の性格を魔術で上書きしてると話している時からですね」
「具体的には何処から?」
「壁に当たる音がして目が覚めて周りを見るとこの目薬が近くに落ちてたんです……それでレースが今迄見て来た私は魔術で上書きした作り物で本物の私はか弱い女の子って言われたところからですね」

 これはコルクにやられたと思う。
どうしてあのタイミングであんな事をしたのか正直分からなかったけどやっと理解出来た。
彼女は冒険者時代優秀な斥候だったから周りの気配を探る能力や気配を消す事に秀でているし二つ名の幻鏡が表す通り幻術にも秀でている。
途中で気配を消して魔術で作り出した分身と入れ替わりダートの様子を見に行って、そろそろ起きそうな気配を感じたタイミングで目薬を取り出して意識を誘導してから投げる事で視線が無意識に追ってしまった瞬間を狙って戻って来たんだろうけど気付けなかった。

「という事はぼくがダートの秘密を知った事をもう分かってるって事だよね?」
「はい……なので暗示をかける意味が無いなって……」

 ……ぼくだって秘密がバレてしまったら隠すのを止めるだろう。
それに彼女の秘密を知った以上ぼくの秘密も話した方が良いのかもしれない……、相手の秘密を知っていて尚且つ自分の事を隠しているというのはフェアじゃない気がする。

「だから…えっと……その」
「ダート……こっちを見て貰っていいですか?」
「え?」

 ぼくは服の下に普段隠している偽装の魔導具を取り出してテーブルの上に置いた。
暫くして体に流れていた偽装の魔術が切れ髪の色が徐々に黒から白に変わる。
髪色はその人の適正属性を表している、基本属性は大まかに分けられて火水土風と光闇の六属性だけどその属性に適正があればある程色が鮮やかになって行く。
ぼくの髪色はスノーホワイトで得意属性は闇に分類されていて闇だから黒だと思われてしまうだろうけれど、6つのうちの闇は特殊で理論が解明されていない魔術を纏めてカテゴリー分けする為の属性でダートが使う空間魔術や呪術も闇属性として扱われている。
特にこのような目立つ髪色だと師匠の元から離れても直ぐにぼくが誰かバレてしまう可能性がある……、幸いな事にこの村は訳有の人が多いから人の事情に深く干渉してくる人は少ないけれど念の為に髪色を変えていた。

「ダートが今迄見て来たぼくも作ってた所があるって事だから気にしないでいいよ」

 変わった姿を見て戸惑っているのか無言でぼくの顔を見る彼女がいる。
それはそうだろう一緒に暮らしている人が実は自分の姿を偽ってましたとか正直無いと思うし信用を失ってもしょうがないと思う。

「私それ以外にも話してない秘密があって……それが知られたらと思うと凄い怖いの」
「……けどさこの村はダートも知ってると思うけど訳有の人が多いんだ、だから本人が話そうとしない限りはその人の事情に深入りする事もないし自ら聞こうとする人もいない、何ていえばいいのかな……えっと誰もが人に言えない秘密はあるだろうし、あって当然だと思うだから怖いなら無理して言わなくてもいいと思うんだ」
「本当に……?」

 ダートの秘密は知っているしぼくは師匠の最初の弟子だからあの人達が何のためにそういう実験をしていたのかも知っている。
だからどうして巻き込まれてしまったのかも何となくは分かるけどこれを今は言う必要はないだろうし何よりも彼女が話すが怖いと言っているんだからぼくも言わない方がいいだろう。

「ありがとう……なら私の性格を変える魔術の事だけ話すね?」
「……わかった」
「あのね?私の生家は魔術の名家でね?特に空間魔術や呪術の適性が強くて……そんな家の娘として生まれて色んな事があって家を出て一人で暮らす事になってね?仕事を探しても私には魔術しかなかったから冒険者にしかなれなくて……冒険者って戦う事が多いから初めて戦うってなると怖くてね?それにCクラスまでは野蛮で怖い人しか居なくて……その中で丁寧な話し方をしてなめられると何されるかわからなくてね?それが怖くてカルディアさんとマスカレイドさんに相談したら暗示の魔術を教わって使うようになったの」

 確かに冒険者になっても性格的な意味で続けるのは難しいだろうし、続けるためには必要だったのかもしれない。
ただそこまで辛いなら無理して続ける必要もないと思うけど、人の仕事にあれこれ言うのは違うだろう。

「それで頑張ってAクラスになったんだけど、それも二人が指名依頼を出してくれたからで……」
「とりあえず分かったからいいよ……暗示の魔術も必要なのは分かった」
「うん……ありがとう」

 色々と師匠とマスカレイドのやってる事に疑問があるけれどそこは師匠が訪ねて来た時に改めて聞けばいいか
ただそれよりも今はもう家に帰ってゆっくりとしよう。
準備はあっちがしてくれるだろうし今は兎に角休みたい。

「それに……ぼく達の前ではもう使わなくていいよ」
「うん……そうするね?」
「とりあえず今日はもう帰ろうか、ダートも色々とあって疲れたと思うし……家まで背負って行くよ」

……偽装の魔導具を付け直すとダートの返事を聞かずに背中に背負いゆっくりと家に帰る事にした。
なんか重いと思うから降ろして欲しいとか言っているけれどぼくがこうしたいと思ったからやってる以上降ろしたくはない。
それに本当は使って欲しくは無いけど、ダートが冒険者である以上無ければならないだろう
ぼくにそれを取り上げる権利はないし彼女の人生は彼女の物でぼくがどうこう出来もしない。
ただ……村ですれ違う人達がぼくの事を見て何か言っているがぼくが何をしたというのか……そんな事を思いながら村を出て診療所に帰った頃には体力を使い果たし息を切らしてだらしない姿を見せてしまい呆れた顔で文句を言われるぼくがいたのだった。
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