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第二章 開拓同行願い
11話 闇渡り ダート視点
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レースが寝てから改めて彼が纏めた新術の資料を見てみる。
考えは悪くないと思うけれどどうして新しい術の開発をしているのだろう?
理由は分からないけど彼が頑張っているのなら応援してあげたい。
「んー……治癒術は専門じゃないけど論点は間違えてないと思うのよね」
彼は途中で意識が殆んど無かったから聞こえて無かったと思うけど、肉体の速度全体を上げるよりも一部を早くしたり遅くする事が出来れば充分に実用性があると思う。
例えば似たような事で風属性の魔術を使う魔術師なんだけど彼等は自分の動きを魔術で加速させたり遅くさせたりしているらしくて原理を教えて貰った事があるから理屈は分かるのだけれど……私には使う事が出来なかった。
「確か魔力で疑似的な翼を作って空気を取り込み加速させて体の動きを早くしたり遅くするって言ってたけど……それに何度もやると関節や筋肉を傷めて動かせなくなるんだっけ」
人の身体で何度も加速と減速を繰り返すと肉体を痛めてしまうのは理解出来てるけど、どうしてそうなるのか私には今も分からない。
空を飛べるモンスターは加速と減速を巧みに使い分けて尚且つ体に負担が全く掛からないって言うけどそういう所理不尽だと思う。
でもその感覚を意図的にずらす事が出来れば……?例えば腕を早く動かそうとした時に動きを原則させる事が出来るなら体の負担は大きくなりそうだと思うし、逆に遅く動かそうとしてる時に加速させればどんなに強靭な肉体を持つ生物でも動きを封じる事が出来ると思うけどその為にはどうすればいいのかな……
「ダメね……幾ら考えても理屈は分かってもそれがどうすれば形になるのか分からない」
でもレースが起きたらまた新術の開発に掛かり切りになって出て来なくなってしまうと思うし……そうなると話したい事があっても話せない時間が増えてしまう。
それは寂しいし嫌なので私が分かる範囲で空いてる部分に書いておく事にしてこの三日間私を蔑ろにした事を後悔させてあげようかな……一人で悩んでばっかりで私やコーちゃんを頼ってくれない罰を受けて貰わないとね。
「それにこの前村から私を背負って帰ってくれたおかげで……今でもコーちゃん達に弄られて恥ずかしんだから……」
あの日以来村に行く度に、村の小さい子にはレースにおんぶされて帰ったお姉ちゃんと呼ばれるし……コーちゃんには【あの時私の家で何があったん?ベッドのシーツ乱れてたけど何やったのかお姉ちゃんに言うてみ?怒らへんよー……んな怖い顔せんでええやんっ!冗談やって!それに酒場行く振りして直ぐに戻って見てたからうちは全部知って……痛いって!テーブルの上にある物投げんのやめーや!ほんとごめん!やりすぎたって!このとーり謝るからぁ!】と凄い勢いで虐められて、大人げないと思ったけど手元にある物を全部投げつけてしまった。
流石にやり過ぎだと思われたみたいで、マローネおばさまに止められてお説教をされてしまったけど……どうせ止められるなら一回位殴ってしまっても良かったと思う。
「……とりあえずこんな感じで良いかな」
とりあえず私が分かる範囲では空いてる所に書き込んで置いたけど分かってくれたらいいなと思ってしまう。
私の勝手な気持ちなのだけれど言わなくても分かって欲しいと思ってしまう所があって……勿論言わなきゃ分からないというのは分かっているけど、ここまでした以上は分かって欲しいなって気持ちになってしまったりする。
こう言う所めんどくさいなって思うし、性格を変えてる時の私なら堂々と言ってしまえるんだろうけど……正直に伝えて嫌な気持ちにさせたらやだなって思って尻ごみをしまってどうすればいいのか分からない。
あっ……そういえばお母様はこういう時【自分の気持ちは伝えないと伝わらないし、大事な事程しっかりと相手に言いなさい】って良く私に言ってくれてたっけ、懐かしいな……確かあの時は体調が悪いのに魔術の勉強に行って倒れて凄い怒られたんだよね。
「やっぱり……しっかりと伝えようかな」
でも二日も寝てなかったからいつ起きるか分からないし……その間一人で待ってるのも暇でやだなって思う。
かといってこの状態のレースを置いて村に行くのも悪いしどうすればいいかなって悩んでいると玄関のドアを勢いよく叩く音がする。
「せんせぇ!ケイっす!この前の奴で話に来ましたぁっ!」
寝たばかりのレースを起こしたくないし今は休ませてあげたい。
私は急いで玄関に向かってドアを開けるとケイさんに向かって話しかけた。
「今レースはお休みしてるので静かにして貰えませんか?」
「まじっすかぁ……寝てるんすねぇ……じゃあ泥霧で良いっす!」
「あの……静かにして欲しいって言いましたよね?」
「……ごめんっす」
黒い髪にセピアの瞳をした元気な大剣を持った男性が申し訳なさそうに頭を下げる。
謝る位なら最初から大声出さなければいいのに……この前一緒に居たアキさんの反応を見る限り本当に面倒がかかる人なんだなって思う。
「寝てるって事は外で話した方が良いと思うんで近くで話した方が良いっすよね……ほら俺って声でかいから……」
「あっ……そういうお気遣い出来る人なんですね」
「アキ先輩みたいな事言わないって欲しいっすよ……んじゃ行くっすよ?」
ケイさんはそういうと家から少し離れた場所に立って手を振る。
ここで話そうって言う事みたいだけど略初対面の人と無防備で二人は嫌だな……魔術をいつでも使えるように準備しておこう。
「……闇がある場所が全部俺の射程だからそんな事したら駄目っすよ」
「ひっ!」
遠くにいた筈の彼が私の後ろに立って大剣を構えて武器に魔力を込めている。
いったい何時この距離を縮めたのか見えなかった……大剣という重い武器を持つ以上そんな早く動けない筈なのにどうやったのか分からない。
「俺の魔術で闇渡りっていう術っす。影等に自身を同化させて闇と闇の間を移動する術っすね……。警戒するのわかるっすけどやるなら殺気を隠さなきゃ駄目っすよ……」
「ご、ごめんなさい……」
「なぁんか調子狂うっすねぇ……俺達の知ってる泥霧ってもっと攻撃的な筈だったんすけど……、もしかして戦いになるとスイッチ変わるタイプ?」
「えっえぇ……そうですね」
本来は魔力を使う魔術や治癒術と武器や肉体に魔力を流して使う武術は同時に使えない筈なのに同じタイミングで発動している。
そう言えば……栄花では魔術や治癒術と武器の使用を同時にする特殊な戦闘技術とそこから発展した心器という特殊な技があると聞いた事があるけど……これがそれなのかもしれない。
そうなるとどう見ても相手の方が私よりも格上で、抵抗しよう物なら即座に取り押さえられるだろう。
私が警戒して魔術の準備をしなければ対等な立場で会話出来ていた筈なのに、この状況ではどう見ても相手の方が立場が上になってしまっていて……話の内容次第では断る事が出来なくなってしまった……これはどう見ても私の失敗だ。
「って事で話なんすけど、誰が来るか決まったんすか?アキ先輩からそれを聞いて来てくれって言われたんすけど」
「それなら……私とレースのお友達であるコルクさんにお願いしてついて来てくれる事になってます」
「コルク……?コルクっすか……もしかして商国トレーディアスのクラウズ伯爵領冒険者ギルド所属だった元冒険者【幻鏡の刃】ミント・コルト・クラウズ?」
コルクさんの名前を言っただけでどうしてそこまで分かるのだろう。
しかも別の国の冒険者?……でも名前が違うのにどうして?
「何でもコルクって名前に変えてこの国で消息を絶ったって事で……お仲間さんが探してたんっすよ……へぇこんなとこに居たんすね」
「そうやけど……あんたうちの友達に何してんの?遊びに来たらダーが脅されてて気に入らないんだけど?」
……私を助けようとしてくれたのかコーちゃんが短剣を引き抜いて飛び掛かりそれを大剣で防いだ甲高い音がする。
後ろで大剣を構えて立っているケイさんをを見て私が悪漢に襲われているように見えてしまったのだと思う。
元はと言えば私の行動が原因だから止めたいけれど今の私ではそれが出来ない……ケイさんの意識がコーちゃんに向いている間に魔術を使い自分を上書きして冒険者の私に書き換えて行った。
考えは悪くないと思うけれどどうして新しい術の開発をしているのだろう?
理由は分からないけど彼が頑張っているのなら応援してあげたい。
「んー……治癒術は専門じゃないけど論点は間違えてないと思うのよね」
彼は途中で意識が殆んど無かったから聞こえて無かったと思うけど、肉体の速度全体を上げるよりも一部を早くしたり遅くする事が出来れば充分に実用性があると思う。
例えば似たような事で風属性の魔術を使う魔術師なんだけど彼等は自分の動きを魔術で加速させたり遅くさせたりしているらしくて原理を教えて貰った事があるから理屈は分かるのだけれど……私には使う事が出来なかった。
「確か魔力で疑似的な翼を作って空気を取り込み加速させて体の動きを早くしたり遅くするって言ってたけど……それに何度もやると関節や筋肉を傷めて動かせなくなるんだっけ」
人の身体で何度も加速と減速を繰り返すと肉体を痛めてしまうのは理解出来てるけど、どうしてそうなるのか私には今も分からない。
空を飛べるモンスターは加速と減速を巧みに使い分けて尚且つ体に負担が全く掛からないって言うけどそういう所理不尽だと思う。
でもその感覚を意図的にずらす事が出来れば……?例えば腕を早く動かそうとした時に動きを原則させる事が出来るなら体の負担は大きくなりそうだと思うし、逆に遅く動かそうとしてる時に加速させればどんなに強靭な肉体を持つ生物でも動きを封じる事が出来ると思うけどその為にはどうすればいいのかな……
「ダメね……幾ら考えても理屈は分かってもそれがどうすれば形になるのか分からない」
でもレースが起きたらまた新術の開発に掛かり切りになって出て来なくなってしまうと思うし……そうなると話したい事があっても話せない時間が増えてしまう。
それは寂しいし嫌なので私が分かる範囲で空いてる部分に書いておく事にしてこの三日間私を蔑ろにした事を後悔させてあげようかな……一人で悩んでばっかりで私やコーちゃんを頼ってくれない罰を受けて貰わないとね。
「それにこの前村から私を背負って帰ってくれたおかげで……今でもコーちゃん達に弄られて恥ずかしんだから……」
あの日以来村に行く度に、村の小さい子にはレースにおんぶされて帰ったお姉ちゃんと呼ばれるし……コーちゃんには【あの時私の家で何があったん?ベッドのシーツ乱れてたけど何やったのかお姉ちゃんに言うてみ?怒らへんよー……んな怖い顔せんでええやんっ!冗談やって!それに酒場行く振りして直ぐに戻って見てたからうちは全部知って……痛いって!テーブルの上にある物投げんのやめーや!ほんとごめん!やりすぎたって!このとーり謝るからぁ!】と凄い勢いで虐められて、大人げないと思ったけど手元にある物を全部投げつけてしまった。
流石にやり過ぎだと思われたみたいで、マローネおばさまに止められてお説教をされてしまったけど……どうせ止められるなら一回位殴ってしまっても良かったと思う。
「……とりあえずこんな感じで良いかな」
とりあえず私が分かる範囲では空いてる所に書き込んで置いたけど分かってくれたらいいなと思ってしまう。
私の勝手な気持ちなのだけれど言わなくても分かって欲しいと思ってしまう所があって……勿論言わなきゃ分からないというのは分かっているけど、ここまでした以上は分かって欲しいなって気持ちになってしまったりする。
こう言う所めんどくさいなって思うし、性格を変えてる時の私なら堂々と言ってしまえるんだろうけど……正直に伝えて嫌な気持ちにさせたらやだなって思って尻ごみをしまってどうすればいいのか分からない。
あっ……そういえばお母様はこういう時【自分の気持ちは伝えないと伝わらないし、大事な事程しっかりと相手に言いなさい】って良く私に言ってくれてたっけ、懐かしいな……確かあの時は体調が悪いのに魔術の勉強に行って倒れて凄い怒られたんだよね。
「やっぱり……しっかりと伝えようかな」
でも二日も寝てなかったからいつ起きるか分からないし……その間一人で待ってるのも暇でやだなって思う。
かといってこの状態のレースを置いて村に行くのも悪いしどうすればいいかなって悩んでいると玄関のドアを勢いよく叩く音がする。
「せんせぇ!ケイっす!この前の奴で話に来ましたぁっ!」
寝たばかりのレースを起こしたくないし今は休ませてあげたい。
私は急いで玄関に向かってドアを開けるとケイさんに向かって話しかけた。
「今レースはお休みしてるので静かにして貰えませんか?」
「まじっすかぁ……寝てるんすねぇ……じゃあ泥霧で良いっす!」
「あの……静かにして欲しいって言いましたよね?」
「……ごめんっす」
黒い髪にセピアの瞳をした元気な大剣を持った男性が申し訳なさそうに頭を下げる。
謝る位なら最初から大声出さなければいいのに……この前一緒に居たアキさんの反応を見る限り本当に面倒がかかる人なんだなって思う。
「寝てるって事は外で話した方が良いと思うんで近くで話した方が良いっすよね……ほら俺って声でかいから……」
「あっ……そういうお気遣い出来る人なんですね」
「アキ先輩みたいな事言わないって欲しいっすよ……んじゃ行くっすよ?」
ケイさんはそういうと家から少し離れた場所に立って手を振る。
ここで話そうって言う事みたいだけど略初対面の人と無防備で二人は嫌だな……魔術をいつでも使えるように準備しておこう。
「……闇がある場所が全部俺の射程だからそんな事したら駄目っすよ」
「ひっ!」
遠くにいた筈の彼が私の後ろに立って大剣を構えて武器に魔力を込めている。
いったい何時この距離を縮めたのか見えなかった……大剣という重い武器を持つ以上そんな早く動けない筈なのにどうやったのか分からない。
「俺の魔術で闇渡りっていう術っす。影等に自身を同化させて闇と闇の間を移動する術っすね……。警戒するのわかるっすけどやるなら殺気を隠さなきゃ駄目っすよ……」
「ご、ごめんなさい……」
「なぁんか調子狂うっすねぇ……俺達の知ってる泥霧ってもっと攻撃的な筈だったんすけど……、もしかして戦いになるとスイッチ変わるタイプ?」
「えっえぇ……そうですね」
本来は魔力を使う魔術や治癒術と武器や肉体に魔力を流して使う武術は同時に使えない筈なのに同じタイミングで発動している。
そう言えば……栄花では魔術や治癒術と武器の使用を同時にする特殊な戦闘技術とそこから発展した心器という特殊な技があると聞いた事があるけど……これがそれなのかもしれない。
そうなるとどう見ても相手の方が私よりも格上で、抵抗しよう物なら即座に取り押さえられるだろう。
私が警戒して魔術の準備をしなければ対等な立場で会話出来ていた筈なのに、この状況ではどう見ても相手の方が立場が上になってしまっていて……話の内容次第では断る事が出来なくなってしまった……これはどう見ても私の失敗だ。
「って事で話なんすけど、誰が来るか決まったんすか?アキ先輩からそれを聞いて来てくれって言われたんすけど」
「それなら……私とレースのお友達であるコルクさんにお願いしてついて来てくれる事になってます」
「コルク……?コルクっすか……もしかして商国トレーディアスのクラウズ伯爵領冒険者ギルド所属だった元冒険者【幻鏡の刃】ミント・コルト・クラウズ?」
コルクさんの名前を言っただけでどうしてそこまで分かるのだろう。
しかも別の国の冒険者?……でも名前が違うのにどうして?
「何でもコルクって名前に変えてこの国で消息を絶ったって事で……お仲間さんが探してたんっすよ……へぇこんなとこに居たんすね」
「そうやけど……あんたうちの友達に何してんの?遊びに来たらダーが脅されてて気に入らないんだけど?」
……私を助けようとしてくれたのかコーちゃんが短剣を引き抜いて飛び掛かりそれを大剣で防いだ甲高い音がする。
後ろで大剣を構えて立っているケイさんをを見て私が悪漢に襲われているように見えてしまったのだと思う。
元はと言えば私の行動が原因だから止めたいけれど今の私ではそれが出来ない……ケイさんの意識がコーちゃんに向いている間に魔術を使い自分を上書きして冒険者の私に書き換えて行った。
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