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第五章 囚われの姫と紅の槍

16話 トレーディアスの宿へ

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 ミコトは暫く難しい顔をしていたと思うと何かを考え付いたのか、不敵な笑みを浮かべてぼく達の方を見る。

「そうだねぇ、レースくんはお父さんの事知りたい?知りたいよね?だから教えてあげよっか……、実はね君はストラフィリアの……」
「いや、興味ないから言わないでいい」
「……え?」

 途中まで愉悦を感じているような顔をして何かを言おうとしていたけど、素直に断ったら黙ってしまう。
最初は今すぐにでも彼女に聞きたいと思っていたけど、暫く間をおいて見たら知らなくても別に困らないから良いかなと感じてどうでも良くなってしまった。
だってさ、何処で産まれようが、誰に育てられようがぼくはぼくだからそれでいい。
それに仮にだけど父親の事を知って何処の家の生まれだと知った時に、ダートと一緒にいる日常が壊されてしまう方がぼくは嫌だ。

「えっと、本当に言わなくていいの?レースくんほんとの本当に?」
「うん、どうでもいい」
「えっ、えぇ……?ダ、ダートっちは!?大切な人の秘密とか知りたくない!?」
「んー、レースが聞かないなら私もいいかな」
「えぇ、なんでぇ!?私つまんなぁい!やぁだぁ!やだやだやーだーっ!」

 ほんとこの人は初対面から凄い勢いで印象が変わって行く。
何だろう、清楚なお嬢様のように見えたのに今は駄々を捏ねる子供だ。

「やだって言われても……」
「ほんっとつまらない、もう帰ってくれない?私奇跡を使って疲れてるの」
「ミコトちゃん?」
「帰ってって言ってるの、それとも実力行使されたい?あなた達なんて私にかかれば……って兄貴!?」

 アキラさんがどうしたんだろうか、いきなり頭を抑えて何かを聞くような動作を始めた彼女がいる。
……もしかして血縁同士なら距離が離れていても会話が出来るみたいな事を言っていたから話しているのかも?

「ちょっ!その態度は何だって、もしかして感覚共有で聞いてたの!?いくら兄貴でも妹のプライバシー位ねぇっ!……ほんとばっかじゃないの?ばーかばーかっ!バカ兄貴―っ!人族と結婚する為に私に頼んで能力の一部を封印して貰った恩があるくせに、偉そうなバカ兄貴っ!」
「あの……ミコト」
「レースくん達まだ居たの!?ほら、早く帰りなよっ!ほら早くっ!」

 剣幕に押されて立ち上がると彼女に背中を押されて強制的に部屋から出されてしまう。
咄嗟に振り替えるけど勢いよく扉が閉められてしまった。

「えっと、なにこれ?」
「んー、私にも分からないかな……、凄い変わった人だったね」
「うん……、取り合えずさ、話も終わったし、カエデが残してくれた人と合流しようか」

 教会の中で待っていてくれるんだと思うけど、どんな人だろうか。
ミコトみたいに変わった人じゃなければいいけど……、そんな事を思いながら来た道を戻るとカエデと一緒にいた猫の獣人族の青年がぼく達に向かって歩いてくる。

「あ、君達がレースくんとダートちゃんだよね?」
「はい……、あなたは?」
「ん?あぁ、姫から聞いて無いんだ、俺はソラ、成り行きで栄花騎士団の最高幹部何てやってるお兄さんだよって事で行こっか」
「行くって何処へ?」
「何処へってここじゃ人が多いから行きながら話すよー」

 そう言うと彼はぼく達の背を押して教会から出る。
今日は良く押される日だ……、暫くしてソラはぼく達の背から手を離すと隣に並んで歩きだす。

「ここまで来ればいいかなー、取り合えず何だけど宿はお城の近くにある高級宿なんだ、凄いでしょー団長の支払いにして奮発したんだよねー」
「え?ソラさんそれって大丈夫なんですか?」
「ソラでいいよー、いいんじゃない?あのグラサンいつも人を扱き使って自分で動こうとしないからこういう時位使わないとねー」
「えっと、そうなんだ……、でもソラさん何でお城の近くなの?」
「お、ダートちゃん良い質問だねー、よしっ!教えてあげようっ!明日の朝になったらねっ!」

 そういうと彼は指先に緑色の魔力を灯して、宙に『日が暮れてそろそろ仕事を終えた兵士達が帰宅の為に、城から出てくる時間だから観光客の振りをするように』と書いてぼく達を見て微笑む。

「って事でさー、明日は観光に行こうよー、この国は美味しい食事も多くてね?俺のお勧めは港から届いた新鮮な魚を、その日のうちに調理したお刺身って言うんだけどね?凄い美味しいよ」
「それは凄いね、でも港って?」
「港っていうのはね、この首都にあるんだけどそこから漁師さん達が漁に出て取って来るんだよー」
「へぇ……、ダートは知ってる?」
「知ってるよ?でも道理で……、何となくたまに潮の匂いがするなぁって思ったら海が近くにあるんだね」

 話しに聞いた事はあるだけで今迄見た事が無いから分からなかったが、この国に着いた時から感じていた不思議な匂いは海の物だったのか。

「そうだよー、特にこの国のお城は海沿いに建っててね?その近くに港もあるんだよねー、それでね?そこでは日中観光客目当てで、海から城を見る観光ツアーがあるんだけどさー、凄いらしいよー?海に浮かぶ幻想的なお城に見えるらしくてさー、明日行ってみるー?」
「へぇ……そうなんだ」
「行きたいかも……、レース明日一緒に行こ?」
「お、デート?一緒に行けないのは寂しいけど楽しんできなよー?って事でここが俺達が泊る宿っ!」

 歩いているうちに宿に着いたみたいだけど、高級宿という割に落ち着いた雰囲気があってまるで大きな一軒家のようだ。
もっと華やかな場所だと思っていたから以外に感じるけど、ソラに入るように促されたからダートと一緒に中に入るとすぐそこに受付がある。
彼はそこに近づくと、丁寧にお辞儀をした従業員に何かを話すと鍵を受け取って戻って来た。

「という事で―君達の部屋は相部屋にしといたからねー、あぁ、後今日は皆もう休んでるから明日になったら迎えに行くよ、あっでも変な事はしないようにねー、朝になったら匂いで分かるからさー」
「変な事って、私とレースはまだそんな経験無いですっ!」
「へぇ、思いの外清いお付き合いを……、これはごめんねーって事で、ここは食事を部屋に届けてくれるシステムだからゆっくりしなよー」

……ソラはそういうとぼくに鍵を渡して行ってしまう。
取り合えず二人で鍵に書いてある部屋に向かうと中には綺麗な石で作られたテーブルに立派なソファーが置いてある。
そして奥の方には二人で横になっても余る程に大きいベッドが置いてあった。
これは一緒に寝ろというべきだろうか……、そう思うとなんだか気持ちが落ち着かない。
ダートも同じようで顔を赤くしてもじもじしていたけど、『何もしないなら一緒に寝よう?』と言い出したせいで変に意識をしてしまう。
そんな何とも言えない気持ちを抱きながら、暫くして部屋に届いた夕食を食べるのだった。
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