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第六章 明かされた出自と失われた時間

37話 グロウフェレス

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 人の姿から九本の尾を持つ狐へと化けたグロウフェレスの姿を見た全員の動きが止まる。
それもそうだ、尾の先端全てに鈴が付けられていて動きに合わせて綺麗な音色を奏でると共に、音に合わせて視界が歪んで行く。

「これは……?」
「奏でる音色に化かされて、身も心も全て私に委ねてください、水に浮かべた身体を想像してください……、そこから両脚の力を抜いて沈めて行ってください」

 グロウフェレスの声が気持ち良く頭の中に入って来る。
言われた通りに身体の力が抜けて立てなくなり一人を除いてその場に倒れてしまう。

「次に両腕を水に沈める想像をしてください」

 腕の力が抜けて指先すら動かす事が出来なくなる。
まるで鉛になったかのように重いその腕は自分の意志を伝える事も無い。

「そしてレースさんとダートさん以外は、頭の中を空っぽにし何も考えないでリラックスして水の中に頭を沈めて行ってください……」

 周囲を見ると一人を除いて息苦しそうな顔をしている、それにしてもどうしてシンだけは平気なんだろう、もしかしてこの術に掛からない方法があるのかもしれない。
でもどうやって、彼の黒い金剛石のように輝く瞳を見てしまった時だろうか、それとも鈴の音色を聞いてしまった時なのか……、それが分からない、分かったら彼のようにぼく達の前に立って庇うように武器を構える事が出来るのかな。
それに何処となく、後ろ姿がアキラさんに似ているような気がして彼ならなんとかしてくれるんじゃないかという期待をしてしまいそうになる。

「全員がお前の催眠に掛かっていると思っているようだが、眼が見えてない事が仇になったな」

 シンが服の中から筒状の物を取り出すと勢いよく地面に向かって叩きつける……、その瞬間爆発音が鳴り響くと共に頭に掛かっていたモヤが解けて身体が自分の意志で動くようになり、目の前にいた筈の九本の尾を持つ狐が元の四本の尾を持つ男性の姿に戻っていた。

「……やってくれましたね、私の幻術のタネを知っている方がいるなんて思いもしませんでした」
「当然だろ?お前らが指名手配された時に、どうすれば効率的に討伐出来るのかしっかりと冒険者ギルドにある過去の依頼履歴から戦闘を行なった際の記録を見て、いつ戦闘になってもいいようにと対策を練って来たんだからな」
「その結果、私の眼が見えてない事に気付いたと?」
「気付いたのはつい先ほどだけどな、誰かが声を出してからワンテンポ遅れて相手の方を見る姿や、音に対して敏感な所がその証拠だろ」
「あなた結構人の事見てるんですね、なら答え合わせしたいのであなたが気付いた私の幻術の秘密を教えてくれますか?」

 ぼくとダート、そしてシン以外の全員が座り込んで動けなくなってしまっている。
呼吸が出来なくなっていたから身体に酸素が足りなくなってしまったのだろうけど、もう少し反応が遅れていたら命に係わっていたと思うけど、どうしてシンはそうなるまで術を解こうとしなかったのだろうか。

「二つ名である【幻死の瞳】団長が何故そんなぶっそうな名前を付けたのかと疑問に思った物だが……、お前が冒険者になって以降全ての依頼において相手と眼を合わせただけで無力化している、しかもそれが仮死状態でだ」
「成程……、もしやそれだけで秘密を?」
「それだけなら呪術か何かを使い相手の意志を奪ったと予想が出来るが、仮死状態で眠り続けて居た亜人がつい最近一人だけ目を覚ましてな、当時何があったのか尋問したら答えてくれたよ、お前の眼を見た瞬間に頭にモヤがかかって何も分からなくなったかと思ったら、何処からか鈴の音が聞こえて徐々に意識を奪われて行ったと……、つまりお前の術の発動は第一に眼を相手と合わせる事、そうする事で相手と魔力の波長を合わせるそれが一段回目、次が鈴の音を聴かせる事で脳に催眠をかける、違うか?」
「面白い、その少ない情報だけでここまでの推理が出来る何て……、神々がまだ生きていた頃には誰一人として気付く事が出来なかったのに面白い、時代と共に人間はここまで賢くなれるのですね」
「そして……、これが最後の一つ東の大国【メイディ】に保存されていた魔族の歴史に、人々をの命を弄んだ九尾の悪狐が心を入れ替え得を詰み、四本の尾を持つ天狐へと至った【グロウフェレス】という名の獣に関する資料と、欲望のままに弱き者を喰らい、強き者を蹂躙し続けた、人の顔に獅子の身体、そして蝙蝠の羽を持ち蠍の尾を持つ厄災のマンティコア【ケイスニル・ハルサー】の残されていた、それはお前の事だろ?お伽噺の時代より生き続けている化物め」

 お伽噺の時代から生きているって何でそんな人が冒険者ギルドで冒険者何てしていたのかが理解出来ない。
今迄戦って来た相手を仮死状態にして捕らえて来たというけど、本当に仮死状態だったなら適切な処置をしなければ死んでしまう筈だ。
それなのに時間と共に目覚めるという事はその亜人は昏睡状態になっていたのかもしれない。
特に仮死と昏睡を区別する事は、治癒術の知識が無い相手からしたら難しいから冒険者ギルドの職員が勘違いしていたのかも

「もしかしてそれって仮死状態では無く昏睡状態にしていたんじゃないかな、鈴の音を聴かせて催眠を掛ける事で呼吸を調節している脳に一時的な障害を発生させて呼吸を停止させる事で、十分な量の酸素が血液に取り込まれなくなった結果、脳に酸素が足りなくなり昏睡状態になっているのかもしれない、グロウフェレスはもしかしてだけどその亜人を態と昏睡状態にさせたんじゃないかな、それに仮死状態だったら適切な蘇生処置をしなければそのまま死んでしまうよね?彼等はどうしたの?」
「冒険者ギルドの記録では、蘇生が間に合わず死んでいた事になっている」
「ダートはどう思う?グロウフェレスのこの空間に干渉して閉じ込める術や相手の精神面に干渉する術を考えると……」
「亜人を捕えて冒険者ギルドに引き渡した後に、もしかして助けだしていた?」
「……この情報からまさか、本当の正解を引き当てられる何て思いませんでした、えぇ私は確かに魔族を助けておりました、何が悲しくて金銭を貰い同族を殺さなければいけないのか、その種族として生きる為に人に害を成してしまうたったそれだけの理由でこの世界の人間は簡単に魔族を殺す、戦場であるなら命のやり取りは当然ですが、そうでなくても危険だからという理由で殺すあなた達を私は許せないのですよ……、私達が守った世界は差別のない世界になる未来だった筈なのに、それが今や冒険者ギルド等という物が産まれ我々魔族の同胞があなた達の事情が殺されていく、シンさんですよね?あなたも分かるでしょう……?魔族であるあなたなら、それとも分かった上で人間の為に生きるので?……、現に今も苦しんでいるでしょう?その種族特有の吸血衝動を耐えるのは苦しい筈ですし、飢えは相当きついと察します」

……魔族である事に何の意味があるかと思ったけど、グロウフェレスの言う事が本当ならぼくでも知ってる位に有名なモンスター【ヴァンパイア】という種族の筈だ。
人族の血を好んで飲み、自分の欲望の為に好みの血を持つ人を飼う事で知られる南東の大国【マーシェンス】に生息して言う事で有名だけど、シンさんがそのヴァンパイア?、ぼくとダートが驚いたようにシンの事を見ると彼はこっちを見て『安心しろ俺は血を吸わない、現に見ろ吸血に必要な歯は既にこのように抜いているからな』と口を開けて見せてくれる。
それを見たグロウフェレスは『あなたはどうやら私達とは相容れないようですね、残念です……、これからあなたを殺し、人間二人を連れ帰らなければいけない事が』と言って両手に御札を持ち構えの姿勢を取るのだった。
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