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第六章 明かされた出自と失われた時間
51話 自分本位
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全体的に夜のように美しい黒さに、鮮やかな赤い刃を持つ剣をマスカレイドに向けたシンの姿は今迄とは違って、満たされた獣のような雰囲気を持っていた。
多分今の彼ならSランク冒険者相手でも引けを取らないのかもしれないと思う程だ。
「俺達の知っているお前の心器の能力に洗脳能力なんてなかった筈だが……?、いったい何をした?」
「簡単な事だ、本人の心の中にある不安を揺すぶり希望を与える事でこちらに心酔させる話術の一つだよ……、特にダートの場合は分かりやすく、レースはこの国に来て以降の心の変化を予想すれば揺さぶるきっかけは生まれる、あそこの小娘は二人に印象が似ているから二人の血縁だと分かりやすいからな」
「……つまり何を言いたい?」
「こちら側には残念な事に、やりたい事をする為の戦力が足りていないんだよ、能力は低くても貴重な能力を得る可能性があったスイは離れ、ルードに限っては両親を使って作ったアンデッドを失って行こう精神的に不安定でまるで使い物にならない……幸いな事にこちらが欲しい能力を心器で得てくれたが何時心のバランスが崩れるか分かったものではない、ならそこで考えてみたら答えは簡単に出る筈だろう?、スイよりも優秀な治癒術師で尚且つ戦闘が出来るレースと、俺の実験の成果であるダートが欲しいと思うのは簡単な事だ、更に二人の血縁が産まれていたとなれば、この世界と異世界の人間との間でどのような能力や属性を持った個体が産まれるのか、心器を顕現させるとどのような能力を得る事が出来るのかという実験用の動物として、ここまで興味をそそられるものがあるだろうか?」
「おまえ……、人を何だと思っているんだ?」
あのままマスカレイドに引き込まれていたら、ぼくやダートはまだ身の安全は確保されたとしてもダリアは命を失っていた可能性があったかもしれない。
カエデやルミィが止めてくれて助かったと心から思う。
「当然俺の知識欲を満たす為の道具だ、その為に過去に子を成したり等もしたがあれらでは俺を満たす事は出来なかったからな……、探求の為なら幾らでも使い潰す当然だろう?」
「……Sランク冒険者は総じて人格破綻者が多いが、俺が知ってる中で一番異常だよ、どうしてお前みたいな奴が今迄討伐されなかったのか不思議な位だ」
「討伐されなかった理由?そんな事分かり切った事だろう、俺が作り上げた魔導具の理論は人々の生活を豊かにして来た、そして南東の大国であるマーシェンスにおいて機械だけでは無く、新たな産業を生み出し魔力の扱いが不得手な者でも魔術が使えるようになり、治癒術が無くても怪我が治せ、四肢の欠損であれど魔導具の義肢で今迄と変わらない生活が可能となった功績がある、俺を討伐するよりも生かしておいた方が利点の方が多かったとしか言いようがないだろう?」
「何故それが分かった上で……」
「異世界の技術を学び、より高度な知識を得たかったからだ……、他にも色々と語りたいが今は引かせて貰おうか、この国を拠点に出来ない以上は他を探すしかない」
マスカレイドは魔導工房の核である大筒を消すと、ガイストを抱えて何処かへと歩き去ろうとしているケイスニルの方へ向かって歩き出す。
「……逃げるのか?」
「あぁ逃げるとも、ここで無駄な争いをする程俺は暇ではないんだ、協力者に頼まれた新たな魔導具の開発等で忙しいからな、だからヴァンパイア程度の小物はそこの女の血でも吸い続けていればいい、折角失った牙を取り戻したというのに役に立てなくて残念だったなと言いたいが、渇きを満たしたヴァンパイアは首を切り落とそうが心臓を貫こうが死ぬ事が無い……、そんな化物と終わらない戦いをする気はない、それにだその女の状態を診るに血を失い過ぎて最早意識が朦朧しているではないか、久しぶりの吸血で加減を間違えたな愚か者め」
「そんなはずは……」
追おうとしていたシンが抱き寄せていたミュラッカを見ると、焦ったような顔をしてぼくの方を見る。
「レースっ!早く治癒術で輸血を頼むっ!このままだとミュラッカが血を失い過ぎて死んでしまうっ!お願いだ助けてくれっ!」
「わ、分かった!」
「ミュラッカちゃん!?大丈夫なの!?」
「大丈夫、ぼくが何とかするからっ!」
ダートと一緒にシンとミュラッカのいる方へ向かうと、急いで彼女と魔力の波長を同調させて治癒術を発動させ、ぼくの魔力を血液へと変換して行く。
……確かにマスカレイドの言う通りだ、体内の血液を失い過ぎてショック症状を起こしている……、虚ろな瞳に冷たくなった肌、青白い肌の色に色が変わってしまった唇、今ならまだ治療が間に合うけどこのまま戦闘を続けて居たら妹を喪っていたかもしれない。
シンを治す前に本人が言っていた事を思い出して治療をしなければ良かったかもと思ってしまうけど……、もし治さなかったらマスカレイドは撤退を考えなかったかもしれないから結果的には正解だったと、頭では分かって入るけど感情では理解を拒む。
「レース、ダート、お前たちがもし俺の元に来る気があるのなら【マーシェンス】に来いっ!新しい拠点が出来るまではその周辺の国に協力者と共に潜伏させて貰う、五大国程豊かではないが話をすればこちら側に引き込めるだろうからな」
……そう言い残して何処かへと消えたマスカレイドの言葉を信じるなら、そこに行けば彼に会えるという事だろうけど、ぼく達が行く事は無いだろう。
だってぼくにはダートとダリアがいるし、ダートにもぼくとダリアがいる。
そんな事を思いながら、治療を終えて顔色が少しだけ良くなったミュラッカを見て安心すると、魔力を使い過ぎたせいなのだろうか、身体のだるさを感じて動けなくなってしまうのだった。
多分今の彼ならSランク冒険者相手でも引けを取らないのかもしれないと思う程だ。
「俺達の知っているお前の心器の能力に洗脳能力なんてなかった筈だが……?、いったい何をした?」
「簡単な事だ、本人の心の中にある不安を揺すぶり希望を与える事でこちらに心酔させる話術の一つだよ……、特にダートの場合は分かりやすく、レースはこの国に来て以降の心の変化を予想すれば揺さぶるきっかけは生まれる、あそこの小娘は二人に印象が似ているから二人の血縁だと分かりやすいからな」
「……つまり何を言いたい?」
「こちら側には残念な事に、やりたい事をする為の戦力が足りていないんだよ、能力は低くても貴重な能力を得る可能性があったスイは離れ、ルードに限っては両親を使って作ったアンデッドを失って行こう精神的に不安定でまるで使い物にならない……幸いな事にこちらが欲しい能力を心器で得てくれたが何時心のバランスが崩れるか分かったものではない、ならそこで考えてみたら答えは簡単に出る筈だろう?、スイよりも優秀な治癒術師で尚且つ戦闘が出来るレースと、俺の実験の成果であるダートが欲しいと思うのは簡単な事だ、更に二人の血縁が産まれていたとなれば、この世界と異世界の人間との間でどのような能力や属性を持った個体が産まれるのか、心器を顕現させるとどのような能力を得る事が出来るのかという実験用の動物として、ここまで興味をそそられるものがあるだろうか?」
「おまえ……、人を何だと思っているんだ?」
あのままマスカレイドに引き込まれていたら、ぼくやダートはまだ身の安全は確保されたとしてもダリアは命を失っていた可能性があったかもしれない。
カエデやルミィが止めてくれて助かったと心から思う。
「当然俺の知識欲を満たす為の道具だ、その為に過去に子を成したり等もしたがあれらでは俺を満たす事は出来なかったからな……、探求の為なら幾らでも使い潰す当然だろう?」
「……Sランク冒険者は総じて人格破綻者が多いが、俺が知ってる中で一番異常だよ、どうしてお前みたいな奴が今迄討伐されなかったのか不思議な位だ」
「討伐されなかった理由?そんな事分かり切った事だろう、俺が作り上げた魔導具の理論は人々の生活を豊かにして来た、そして南東の大国であるマーシェンスにおいて機械だけでは無く、新たな産業を生み出し魔力の扱いが不得手な者でも魔術が使えるようになり、治癒術が無くても怪我が治せ、四肢の欠損であれど魔導具の義肢で今迄と変わらない生活が可能となった功績がある、俺を討伐するよりも生かしておいた方が利点の方が多かったとしか言いようがないだろう?」
「何故それが分かった上で……」
「異世界の技術を学び、より高度な知識を得たかったからだ……、他にも色々と語りたいが今は引かせて貰おうか、この国を拠点に出来ない以上は他を探すしかない」
マスカレイドは魔導工房の核である大筒を消すと、ガイストを抱えて何処かへと歩き去ろうとしているケイスニルの方へ向かって歩き出す。
「……逃げるのか?」
「あぁ逃げるとも、ここで無駄な争いをする程俺は暇ではないんだ、協力者に頼まれた新たな魔導具の開発等で忙しいからな、だからヴァンパイア程度の小物はそこの女の血でも吸い続けていればいい、折角失った牙を取り戻したというのに役に立てなくて残念だったなと言いたいが、渇きを満たしたヴァンパイアは首を切り落とそうが心臓を貫こうが死ぬ事が無い……、そんな化物と終わらない戦いをする気はない、それにだその女の状態を診るに血を失い過ぎて最早意識が朦朧しているではないか、久しぶりの吸血で加減を間違えたな愚か者め」
「そんなはずは……」
追おうとしていたシンが抱き寄せていたミュラッカを見ると、焦ったような顔をしてぼくの方を見る。
「レースっ!早く治癒術で輸血を頼むっ!このままだとミュラッカが血を失い過ぎて死んでしまうっ!お願いだ助けてくれっ!」
「わ、分かった!」
「ミュラッカちゃん!?大丈夫なの!?」
「大丈夫、ぼくが何とかするからっ!」
ダートと一緒にシンとミュラッカのいる方へ向かうと、急いで彼女と魔力の波長を同調させて治癒術を発動させ、ぼくの魔力を血液へと変換して行く。
……確かにマスカレイドの言う通りだ、体内の血液を失い過ぎてショック症状を起こしている……、虚ろな瞳に冷たくなった肌、青白い肌の色に色が変わってしまった唇、今ならまだ治療が間に合うけどこのまま戦闘を続けて居たら妹を喪っていたかもしれない。
シンを治す前に本人が言っていた事を思い出して治療をしなければ良かったかもと思ってしまうけど……、もし治さなかったらマスカレイドは撤退を考えなかったかもしれないから結果的には正解だったと、頭では分かって入るけど感情では理解を拒む。
「レース、ダート、お前たちがもし俺の元に来る気があるのなら【マーシェンス】に来いっ!新しい拠点が出来るまではその周辺の国に協力者と共に潜伏させて貰う、五大国程豊かではないが話をすればこちら側に引き込めるだろうからな」
……そう言い残して何処かへと消えたマスカレイドの言葉を信じるなら、そこに行けば彼に会えるという事だろうけど、ぼく達が行く事は無いだろう。
だってぼくにはダートとダリアがいるし、ダートにもぼくとダリアがいる。
そんな事を思いながら、治療を終えて顔色が少しだけ良くなったミュラッカを見て安心すると、魔力を使い過ぎたせいなのだろうか、身体のだるさを感じて動けなくなってしまうのだった。
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