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第七章 変わりすぎた日常

26話 変わりゆく日常と自覚が難しい未来

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 あれから大分日が立って賢王ミオラーム・マーシェンスの護衛依頼をする前日になった。
その間にあった事と言えば、アキラさんに武器の使い方を教えて貰ったり、スイに治癒術を教えたり教わったりしたけど……。

「武器の使い方は及第点を貰えたけど……、魔力を糸にして相手に付ける方法は正直言って簡単な事が分かったかなぁ」

 やり方は思ったより簡単で、スイの持っている魔導具に魔力を通す事で先端が細い針のようになり、それを直接相手に刺しているらしい。
原理は分かったから楽しに目の前で魔導具を通さずに使って見せたら、彼女から嫉妬の眼差しを向けられてしまい、一時期気まずい雰囲気になってしまった。

「……レース?難しい顔してどうしたの?」
「いや、ちょっと考え事してただけだから大丈夫だよ」
「ならいいけど、何かあったら悩まないで言ってよ?」
「ありがとう、その時はちゃんと言うから大丈夫だけど、今日はダリアとルミィが来る日でしょ?そろそろ迎えに行かないと」

 ダートに心配されてしまったけど、こればっかりはもうしょうがないと割り切るしかない、どんなに気を付けても考えてる事や感情が顔に出てしまうから諦めた。
そんな事よりも今日はダリア達が家に来る日だから早く冒険者ギルドに迎えに行かないと……、彼女がこの都市に居た時と比べたら雰囲気が大分変わってるし、知らないで外に出たら間違いなく迷ってしまうだろう。

「うん、でも急に一日早まったって手紙が来た時は驚いたよね」
「内容は正直反応に困ったけど、ぼく達の方で既に部屋の準備が出来てたから良かったかな……」
「だね、でもミュラッカちゃん、シンさんと上手く行ってるみたいで良かったね」

 そう言いながら外に出る準備が出来たぼく達は寝室から出るとそのまま玄関から外に出て歩き始める。
ミュラッカからの手紙が届いたのは昨日の今朝方で、寮でスイに治癒術を教えてる最中に寝てしまったぼくを迎えに来たダートに、私以外の人の前で安心した顔して寝ないで欲しいと小言を言われながら、内容を確認すると『シン様との間でやらなければいけない事があり、側にいられると色々と気を使ってしまうから、お兄様達には申し訳ないのですが一日早く着く様に向かわせます』と言う内容と、ダリアとルミィの他に二人のお世話役で侍女のサリッサも来る事になったらしい。

「とりあえずダリアの好きな服装とかは用意したけど……、ルミィちゃんの好きな物は分からなかったから揃えられなかったなぁ」
「そればっかりはしょうがないんじゃないかな、ぼくもルミィの好きな物って知らないし、そこらへんはあの子とサリッサに少しずつ集めて貰おうよ」
「んー、そうだね……、でもサリッサさん用の部屋は用意してないけどどうすればいいのかな」
「一応三階は子供部屋が4部屋と勉強部屋、室内用の遊具を置くための大部屋に後は物置があるんだし、空いてる子供部屋でいいんじゃないかな」
「……大人が子供部屋って何だか悪い気がするけど?」

 この前、ダリアの部屋に物を置くために三階に上がった時の事だけど、まさかの子供部屋が四部屋もある事に驚いた。
何でこんなにあるのかと思わず聞いてしまったけど、ダートから返って来た答えは……

『だって、私達まだ若いんだから何があるか分からないでしょ?だから多めに作って貰ったの、正直もっと作りたかった位だし』

 と言うもので何て言葉にすればいいのか分からなくなってしまった。
何があるか分からないっていったいダートの中では、ぼく達の間で何人の子供が出来る予定なのだろうか、王族故に可能であれば沢山の子を将来的に作らなければいけないという役目がある事は分かってはいるのだけれど、そこは正直ミュラッカに頑張って欲しい。

「まぁた難しい顔してるけど本当に大丈夫?」
「んー……、三階の事を考えたら色々と考えちゃってさ、取り合えずサリッサの部屋はそれで今はいいとして、先の事を考えて悩んでただけだよ」
「悩んでたって……、ちゃんとした夫婦になったらレースはお父さんになるんだよ?それに男の子が産まれたら、ストラフィリアに預けなきゃいけないんだから沢山頑張らないと」
「内容が生々しいなぁ……、正直まだ将来親になるのかもと言う自覚が持てないから、色々と悩むよやっぱり」
「……アンさんから、男性は自覚するのが遅いって言ってたけど、何となく分かった気がする」

 分かって来たって言われても本当にまだ自覚が出来ない。
その事についてアキラさんに相談してみたけど……

『貴様の不安は分かるが、正直なる様にしかならない、何れはレースも人の親になる日が来たら分かるが、パートナーの身体の変化を理解して始めて自覚する事の方が多いらしいからな、それまでは何も分からないだろうな、私も親になるまではそうだった』

 と言う発言と共にアキラさんとアンさんの間に子供がいる事を知って驚いてしまった。
あの人の事だから聞かなかったから答えなかったんだと思うけど、詳しく聞いて見るとまだ小さい子らしい、……知っていたら寮に住んで貰おうとは思わなかったけど、栄花騎士団の最高幹部である以上家に帰れない事が多いらしく、普段はアンさんのご両親に預けられているらしい。
それでも週に一回は顔を見に行ったり、アンさんに限っては何があっても一日に一回は必ず顔を出すようにしているという意味では、様々な夫婦の形があるんだなって思う。
そういう意味ではぼくは将来、ダートとどんな家族になるのかまだ分からない。

「もしその時が来たらぼくなりに頑張るよ」
「……お願いね?、それに正直嫌だけど何れ私以外の奥さんを持つ事になったらあの部屋だけじゃ足りないと思うから、その時はもう少しだけ増築しようね?」
「増えないと思うけど?」
「この前コーちゃん達と女子会した時に言われたもの、王族の立場的に私が幾ら嫌がっても増やさなきゃいけなくなる時が来るって、だから本当は嫌だけど覚悟を決める事にしたの……、でもこれだけは約束してね?、どんな時もあなたの一番は私だしこればかりは譲らないから」
「……それは分かったけど、人の往来がある場所で言う事?」

 近くを通る人達は何故かぼく達の会話が聞こえる距離に来ても気にせず通り過ぎて行く。
でも、さすがにこの内容が誰かに聞かれるのは困る分けで……

「そこは大丈夫だよ?お義母様から頂いた結婚指輪の魔導具を使って会話が外に漏れないように結界を張ってるから」
「ならいいけどさ」
「ここ数日の間私忙しそうにしてたじゃない?、実はアンさんとヒジリさんに呪術と結
界の使い方について教わってたんだよ?、おかげでまた呪術が使えるようになったし、暗示の魔術と結界を上手く使う事で副作用が起きないように出来るようになったの」
「……正直暗示の魔術はもう使って欲しくないんだけど?」
「うん、私も使いたくはないけど、冒険者として活動する以上はどうしても必要なの、だから二人にお願いして安全に使えるようにしたから大丈夫だよ?、レースが心配するような事はもう起きないから」

 ……正直あの時のように苦しむような事があったらと思うと心配だから、絶対に使わせたくない。
けど、ダートが自分で必要だと決めた事でその為に準備をしてきたというなら彼女を信じてあげた方がいいだろうし、それでもしダメだったらその時は、次からは使わないように約束すればいいと思う。

「……でも呪術をまた使えるようになったって、暗示の他に何が出来るようになったの?」
「栄花式の呪術らしくてね?髪の毛や専用の人型の御札を使う物なんだけど、詳しくは必要になったら教えるね?」
「うん、その時は頼むよ……、さて冒険者ギルドが見えて来たね」
「んー、ダリアやルミィちゃん達はもう来てるのかな」
「どうだろう?取り合えず入ってみようよ」

……話している間に冒険者ギルドに着いたぼく達は、ダリア達が既に来ているのかもと心配になりながら建物の中に入る。
そして周囲を見渡すと……、とても可愛らしいドレスを着て不機嫌そうな顔をしているダリアとそんな彼女に抱き着いて不安げに周囲を見渡しているルミィ、その隣には大きな手提げバッグを両手に持った侍女服を着たサリッサが、冒険者達の注目を集めていたのだった。
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