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第八章 戦いの先にある未来

2話 初めての二人きり

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 話を聞いた後、今日はもう解散という事になったから診療所の寮からカエデと一緒に家に帰ったけど……。
今日はダートが不在で……、アンとヒジリに新しい戦い方を教わっているらしいけど、最近は心器の短剣の能力をどうすれば上手く扱えるのか、2つ目と3つ目の能力をどうすれば手に入れる事が出来るのか教わっているらしい。
何でもやり方次第ではある程度は欲しい能力の方向性を自分で選ぶ事が出来るらしいけど、それをする為には強い意志が必要になるとかで難しいそうだ。

「えっと……、二人きりですね」
「え?あぁ、うん、そういえばサリッサもいないみたいだね」
「サリッサさんでしたらお買い物に行くとかで暫く外に出ていますよ?、何でも身体を鍛えるのに適した食材があるとかで」
「そうなんだ?」
「えぇ、特にここ数日の間でレースさんの体つきが少しだけ変わってちょっと頼もしくなりましたし、ケイさんの特訓とサリッサさんのサポートのおかげかもですね」

 あぁ通りで最近、ケイとの訓練がある日はたんぱく質と炭水化物のバランスが取れた、栄養価の高い食事が多かったのか。
まぁ、それ以外にも精力剤としても使われる食材が出て来たりするけど、前者は身体作りに必要だから分かる。
でも……、後者の方は確かに体に良いけど取り過ぎると肝機能の低下が起きてしまうから近いうちにサリッサにその事を話しておいた方がいいのかもしれない。
若い内はまだ何とかなるかもしれないけど、それが何年も続いたりする可能性を考えたら治癒術師の立場としては不安だ。
そう思いながらリビングのソファーに座ると何故かカエデがぼくの隣に座って来た。

「あの、こうやって二人きりになるのって初めてじゃありませんか?」
「初めてって治癒術を教える時は二人だったと思うけど……」
「そうじゃ……、そうじゃなくてえっと、こういう関係になってから二人きりって初めてですよね」
「んー、そうだっけ……」
「そうですっ!私もこの家で暮らすようにはなりましたけど……、タイミングがありませんでしたし」

 カエデと婚約状態になってから、診療所の寮から三階の空き部屋に引っ越して来たけど確かにこうやって二人きりになる事は無かった気がする。
特に最近はぼくは大剣の使い方をケイから教わったり、ダートと時間が合う時はアンとヒジリの所に一緒に行ったりしているから、そういう意味では関係が変わりはしたけど彼女に対して何もしてあげられて無いのは確かだ。

「ならゆっくり話でもする?」
「はい、じゃあ……ゆっくり出来るようにお茶を淹れてきますね?
「それならぼくも手伝うよ」
「いえ、気持ちは嬉しいですけど旦那様はゆっくりしていてください、それに疲れていると思うのでお茶菓子も出しますね?この前栄花に一度戻って買って来たんです」
「あぁ、うん」

 何ていうか栄花の女性は基本的に結婚したら家庭に入るいらしいけど、そのせいか男性がキッチン……、あちらでは調理場に入る事を良く思わない人が多いらしい。
サリッサの時もそうだけど、正直料理をする事が好きだから複雑な気持ちになる。
そういう意味ではこうやって座って待ってるだけというのも落ち着かない、取り合えず立ち上がってキッチンへと歩いて行くと……

「カエデ、やっぱりぼくもやるよ」
「……んもう、気持ちは嬉しいですけど栄花で男が調理場に立ってるって知られたら男の人達から笑われてしまいますよ?」
「んー、ここは栄花じゃないからいいんじゃない?それに栄花の男性も一人の時はちゃんと自分でやるんでしょ?、それなら自分の事は自分で出来るようになった方がいいと思うけど」
「確かにそうですけど……、レースさんの事は私が全部面倒見るから大丈夫ですよ?、それにダート姉様やサリッサさんもいますし、別に出来なくても……」
「それだと将来的に何も出来なくなってしまうから嫌だよ、皆が体調を崩したりしたらどうするの?」

 特にこれから先新しく家族が増えたりもするだろうし、そうなった場合家の事をぼくもしっかりと出来た方がいいだろう。
それに子供は親に似ると共に周囲の環境を見て育つというし、現にぼくのこうやって考え込んでしまう性格はマスカレイドに似ているし、考えて居る事が顔に出る所はストラフィリアの前王【ヴォルフガング・ストラフィリア】に似ている。
そういう意味では育ての父と血縁上の父両方に似てしまっているし、育ての母であるカルディアの影響を受けている所が多いから将来家族が増えた時に見本になれる親でありたい。

「……しょうがない人ですね、でもレースさんはお茶の淹れ方は分からないでしょう?」
「紅茶なら淹れた事あるけど違うの?」
「温度が大分違うんですよ?物によっては紅茶と同じ温度でさっと出して香りを楽しむお茶もありますけど、詳しくは今度ダートお姉様を交えて教えてあげますので今は湯呑を用意してリビングのテーブルに置いといてください、それをしてくれるだけでも充分嬉しいので」
「あぁ……、うん分かった」

……確かにそう説明されたらお茶を淹れた事が無いぼくにはそれ位しか出来る事が無い。
そう思いながらカエデが栄花から持ってきた湯呑という独特な形をしたお茶を飲む為のカップを食器棚から取り出してリビングに戻ると玄関の方からノック音がする。
するとキッチンの方から『折角の二人きりだったのに……、レースさん私は今手が離せないのでお願いします』というカエデの声がしたけど、既に湯呑をテーブルの上において対応する為に玄関に向かっているから問題無い。
取り合えず誰か確認する為に玄関の扉を開けるとそこには……、中年期に差し掛かっているだろう顔付きにお洒落に整えた髭を生やした紳士服を来た男性が立っているのだった。
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