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第八章 戦いの先にある未来

33話 夜間の襲撃

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 少しだけ寝る筈だったのに、眼を覚ましたら部屋の窓から見える景色は夜のように薄暗くなっている。

「……どれ位寝ていたんだろう、それにダートは何処に行ったのかな」

 とりあえずベッドに横になったままだと良くないから起き上がって部屋に備え付けられた椅子に座る。
ダリアとカエデを連れてくるようにお願いしたのはいいけど、ここまで時間が掛かったりするのだろうか。
確か首都はメランティーナの身体を利用しているらしいけど、窓から見える外の景色から見ると淡い光が街を優しく照らして幻想的な雰囲気を醸し出しているけど一人で見ても何も楽しくない。

「……一人ってつまらないな」

 ダートに出会うまでは一人でいる事に関してつまらないって思った事は無かったのに、今では凄い退屈に感じるようになってしまった。
こういうのって相手に依存してるって事になんだと思うけど、これはこれでいいと思うし今では周りに仲間や友達がいるから満たされているから構わない。
あぁそっか、心が満たされているからつまらないと感じるのか……

「それにしてもこの左腕、ケイのとは違って動かす時に駆動音がしないから義肢って事を忘れそう、それに何て言うか前の腕と違って思い通りに動くような気がして違和感が凄い」

 試しに肉体強化を使って左腕を動かしてみるけど、以前は体を動かすのにワンテンポ遅れるようなそんな噛み合わなさがあったのに自分の意志に合わせて自在に動かす事が出来る。
試しに体全体を動かしてみるけど同じように扱えるあたり、もしかしてだけど薬を飲んで怪力を使用した結果何らかの変化が体に起きたのかもしれない。
メイメイも人族に使った場合どのような副作用が起きるのか分からないとは言っていたし……、今なら怪力をもっとうまく使えるかも?

「ちょっとお客様っ!勝手に入られては困りますっ!」
「……そりゃわりぃな、けどよぉ今日だけは見逃してくれや」

 部屋の外から荒々しい足音と宿屋の主人だろうか、焦りながら誰かを必死に止めているようだけど……

「見逃せなんて……私には宿泊者の安全を確保する義務がありま――」
「見逃せって言ってるうちに引けや……、でないとお前を喰うぞ?」
「ひ、ひぃっ!で、ですが私はっ!……ぐふぅっ!」
「……弱者が前に出るからこうなんだよ、で?何処にあのガキがいるんだ?ここか?…ちげぇな」

 誰かが壁に勢いよく突き飛ばされた音がしたかと思うと今度は勢いよく扉が壊されたかのような音が遠くから響く。
その度に宿泊している人達の悲鳴が聞こえるけど、どうやら探している人物がいないようでどんどん音が激しくなって行くけど、その気配がぼくのいる部屋の前に来たかと思うと

「ここが最後の部屋か……、この宿にいねぇんなら次は他を探さねぇとなぁっ!」

 部屋の扉が砕けて破片が勢いよく壁に向かって飛び散って行く。
咄嗟に立ち上がって身構えるとそこにいたのは……

「お、ここにいたかっ!悪いが着いて来て貰うぜ?」
「ケ、ケイスニル……、なんでここに!?」
「あ?そんなん負傷した薬姫が何処に運ばれるか考えたら直ぐに分かる事だろうが」
「それはそうかもしれないけど、着いて来いっていったいどういう事?」
「あ?そんなのおめぇが知る必要ねぇよ、っち、まずいな暴れ過ぎたか」

 ……外から騒がしい声が聞こえる。

「気を付けろっ!通報では衛兵や警護の依頼を受けていた冒険者達を一方的に殺害出来る程の実力者だっ!」
「……分かっているっ!何人の犠牲が出るかは分からないが俺達の手で必ず捕らえるぞっ!」

 そのまま宿屋に入るとぼく達の方へと向かってくる気配がするけど、さっきの発言が本当なのだとしたら、彼等がここに来たとしても戦いにならずに一方的に殺されてしまうだけだろう。
……それなら大人しくついて行った方が良さそうだ。

「めんどくせぇ……、雑魚は喰っても不味いんだがな、やるか?」
「いや、理由は分からないけどぼくを連れて行こうとしてるって事は何か用があるって事でしょ?……、着いて行くからこれ以上誰も殺さないって約束して貰えるかな」
「へぇ……物分かりが良いのは嫌いじゃねぇ、なら俺の背中に乗りな一気に駆け抜けるからよぉっ!」

 指示に従い自身の姿を獅子へと変えたケイスニルの背中に乗ると、咆哮を上げながら窓に向かって突進をする。
突き破られた壁と窓ガラスの破片を撒き散らしながら外に飛び出すと、背後から聞こえる声を無視するかのように走り出す。

「このまま首都の壁を突き破って外に出るからよぉ、驚いて死ぬんじゃねえぞ?」
「……分かった」

 必死に背中から生えている毛を掴んで捕まると、左右から蝙蝠の羽が生え始め尻尾に当たる部分から蠍の尾が生え始める。
そして再び咆哮をあげたかと思うと、尾から針を壁に向かって撃ち出すと……壁がドロドロと溶けて行き……

「突っ込むぞぉっ!」

……衝撃に備える為に全身を毛皮にうずめる。
その瞬間先程とは比べ物にならない衝撃が全身を襲い思わず手を離しそうになるけど、器用に蠍の尾で上から押さえつけられて投げ出されないですんだ。
とりあえずもう大丈夫だろうと落ち着いて上半身を起こして周囲を見ると、星の輝く夜空が視界に映る。
出来ればダートに書き置きを残してから出て行きたかったけど、ぼくと彼女にはお互いの居場所が分かる指輪があるから気付いて追って来てくれる事を祈ろう、そう思いながら遠くへと過ぎ去っていく首都を眺めるのだった。
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