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第八章 戦いの先にある未来

38話 不安な夜の森

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 暗い森の中をケイスニルに言われた通りに真っすぐ歩いているけど、風景が全然変わらないせいで同じ所をぐるぐると回り続けているような気になる。

「本当にこの道で合ってるのかな」

 思わず不安で独り言を漏らしてしまうけどしょうがないと思う、土地勘の無い国で一人で彷徨っているのだから……、それならあの家で助けが来るまで待っていれば良かったのではと思うけど、もしダートがぼくが居ないことに気付いて来てしまったら捕らえられてシャルネの下へ連れて行かれてしまうだろう。
更にカエデやダリアが着いてきていたら、良くてケイスニルの手で殺されてしまう、最悪なケースだと生きていたとしても最悪ルードと同じ様に作り変えられてしまい、人間では無くなってしまう気がする。
後者の場合、ぼくの手で大事な人達を化物へと変えていく事になるだろうから、精神的に狂ってしまうだろうし、考えるだけでもおぞましい。

「……とはいえ首都から距離が凄い離れてるみたいだし、徒歩で3,4日って何とか辿り着いたとしてもアナイスやケイスニルが着いて来るまでの期間が少ししかないから、戦う準備が出来ないんじゃ?」

 こういう時何かしら向こうと直ぐ連絡が取れるような物があったらいいんだけど……、一応通信用の端末を使えばカエデやアキラさんに現状を伝える事が出来る。
でもケイスニル達が拠点としている家からそこまで距離が離れていない状態で使用した時のリスクを考えると今は止めた方がいいだろう。
彼の移動速度を考えたら意味が無いかもしれないけど、二日位は歩いて距離を稼いでからの方が安全な筈だ。
 
「とはいえ本当に景色が変わらないなぁ、あそこの樹はさっき見た気がするし……地面から出てる根がある道も何となくだけど通った気がする」

 歩けど歩けど同じような場所ばかり、夜の静けさのせいで昼に生きる動物達やモンスターの気配が無い。
そのせいで時折吹いて来た風によって揺れる枝や草の音が不気味な雰囲気を作り出し不安感を煽ってくる。
この状態で夜行性の生物に会ってしまったらどうなってしまうのだろうか、彼等と比べたら夜眼が利かない以上気配を消して近づかれたら……、ぼくなんかじゃどうしようもないだろう。

「確かメイディの有名なモンスターは、樹に擬態したトレントと言われるモンスターだけど、あれは陽が出ている時間帯以外は休眠状態になるらしいから今は大丈夫か……、それよりも今一番会いたくないのはドラゴンかな」

 メイディに生息しているというモンスターの頂点と呼ばれる程の戦闘力を持つドラゴン、ぼくが戦った事があるのはグロウフェレスが呼び出した個体と、ルードの手によって仮初の生命を与えられたアンデッドだったけど……、前者はダートが居たから勝てた。
……でも、後者の方となると生前の知性を持っていた場合、まともに戦う事が出来ていただろうか。
心器の能力とメイメイから貰った薬の効果で、自分の身体が傷付いてしまう事は無かったけど……

「……考えてもしょうがないか、取り合えず今は出来るだけ離れないと」

 とはいえ仮に遭遇してしまった場合どうすればいいのだろうか。
眠っていたら起こさないように距離を離せばいいかもしれないけど、もし起きていたら刺激しないように気を付けて行動した方が?、姉であるガイストの母親の事を考えると人の言葉が通じる相手である事は間違いないし、こちらが何かしない限りは問題無い筈だ。

「んー、一人だから安全な場所を確保して朝まで休んでから明るい内に行動した方がいいのかな、幾ら夜の森が静かだからって、夜行性のモンスターを刺激する方が何か危険な気がして来たし」

 そう思って周囲を良く見渡してみるけど休めそうな場所が見つからない、運よく洞窟か何かあったらいいなって思いはしたけど、そんな都合の良い話は無かった。
他に安全な所ってなると木の上位だろうけど、産まれてこの方木登り何てした事無いからどうやって上がればいいか、例えば雪の魔術で階段を作れば上れはするけど……

「……ん?」

 そんな事を考えながら歩いていると遠くからゆっくりと草木を掻き分ける音が近づいて来る。
もしかして夜行性のモンスターがぼくの気配を察知して近づいて来たのかもしれない。
急いで魔術で階段を作り木に上ると小さく呼吸をしながら気配を消す。
そして高くなった視界を利用して木々の隙間から周囲を伺うと……

「……っ!?」

……上った木と同じ背丈で頭に角を持った巨人が地響きを上げながら現れる。
傷だらけの身体から血を流しながら何かから必死に逃げているようで、目の前を通ったのにぼくの姿に気付いてはいないようだ。
取り合えずこのまま離れて行ってくれたらゆっくり寝て朝になったら移動しようと思った瞬間……頭上から何かが羽ばたく音がしたかと思うと、巨人と同じ大きさを持つ黒い鱗を持った何かが空から勢いを付けて降りて来て巨人の頭を足の爪で鷲掴みにすると土煙を上げながら地面へと叩きつけるのだった。
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