婚約破棄になったら、駄犬に懐かれました

cyaru

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第00話   夜会の珍事

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それは王家主催の夜会での出来事

「こっ!このっ!!恥を知りなさいッ!!」

わなわなと体を震わせて、力いっぱい振り上げた手が小気味よい音をさせてピレニーの頬を張った。

附近にいた貴族は「何事?」と視線も興味も2人に向ける。

頬を張ったのはミジャン伯爵家のアエラ。
頬を張られたのはモコ伯爵家のピレニー。

怒り心頭といった感じで顔を真っ赤に紅潮させてまだ頬を張り足りないかのようなアエラの隣ではサレス侯爵家のレオカディオが項垂れていて、頬を張られたピレニーもその頬に手を当てる事もなく張られて少し横を向いたまま俯く。


先ごろ開催された第2王子とサレス侯爵家共同事業であるバザーの成功を祝う夜会の出来事。
ざわめきを伴って周囲が一気に刮目かつもくする。

招かれた貴族は国に有る全ての家ではないけれど、上は公爵家、下は準男爵、騎士爵、士爵と一代限りの家まで幅広い。

貴族だけではなく平民だが裕福な商家の当主夫妻も招かれている中での「醜聞」に離れた場所にいたサレス侯爵家当主夫妻とアエラの両親であるミジャン伯爵夫妻は輪になりかけた人を間をくぐって騒ぎの中心部に駆け寄ってきた。

アエラはピレニーに手にしていた扇を投げつけたが、ピレニーには当たらず明後日の方向に扇は飛んで行った。それがまた悔しいと言いたげに鼻息荒く言い放った。

「この泥棒猫!」

すわ!周囲は息を飲む。
裏を返せばサレス侯爵家の子息レオカディオが不貞行為をしていたとも取れる言葉。

が、不思議なのは頬を張られ、泥棒猫と言われたピレニーこそレオカディオの正式な婚約者。

これが痴情の縺れであれば声をあげたアエラこそが泥棒猫である。


だが、しかし。
伯爵令嬢同士の単なる撃合戦ではなく実際に片方の頬を公の場で張ったとなれば明日とは言わず、この夜会もここからは泥棒猫発言も相まって前代未聞の珍事が話題を独占するのは間違いない。


駆け寄ってきた先代のサレス侯爵ルベシュがピレニーの隣に立ち、顔を覗き込むように話しかけた。

「いったいどうした?何故こうなっている?」

何も答えないピレニーに代わり、アエラは代わりだと言わんばかりに答えた。

「その女がわたくしとレオとの間を恥ずかしげもなく勘違いして言いがかりをつけてきたのよ!」

周囲が「ざわっ」と少しどよめいた。
サレス侯爵はピレニーに「何の事だ?」と聞いてみるがピレニーは何も答えなかった。が、ここで声を荒げて問い質せば注視する貴族達の破廉恥な好奇心に火に油を注ぐようなもの。


「やめるんだ!アエラ!」
「そうよ?今更何を言っているの!」
「わたくしが悪いと言うのッ」


慌ててアエラの両親がアエラを嗜めるもののアエラの怒りはボルテージが上がる一方。

「何か行き違いがあったようだ。あちらで話をするから皆さまはこのままご歓談を」


そう言って会場を出て控室に行こうとする一行。

「なんだ、これからが面白いところなのに」そう口にする者達は目の前で起きた格好のネタを失うと小さくヤジを飛ばす。

そんな者たちをを肘で突き、「もう一つネタがあるじゃないか」と囁きだす者がいた。

「アレを見てみろよ」

サレス侯爵夫妻にミジャン伯爵夫妻、そしてピレニーが付いて出て行くが、彼らから数歩遅れて退出していくレオカディオの手は、お揃いの色で仕立てられたドレスを身に纏ったアエラに添えられていた。



「あの人が侯爵子息の婚約者ではなかったの?」

今回は貧しい者達への施しの為に開催されたバザーの成功を祝う夜会。
そんな事でもなければ公爵家の人間も参加するような夜会に出席する筈も無い低位貴族の中でもさらに下、一代限りの爵位を持つ令嬢達が思わず声を発してしまった。

ピレニーも勿論着飾っていたのだが、最後に退出していく2人の事を「婚約者同士」だと思っていた者が多数。



それもそうだろう。

男女の装いは色使いが同じで、ポイントに刺している刺繍も同じ。男性の瞳と同じ色の宝飾品が髪に、首元に、指にとあり、女性の腰に回された手。常に寄り添っていた2人。

「アエラ・ミジャンだ。仲良くしてやって欲しい」

そうレオカディオから腰に手を回された女性を紹介されて、「姪」や「従妹」だと誰が思うだろう。

「どうなっているの?」

はたと気が付けば、ホストとして出迎えてくれたのは「アエラ・ミジャン」と紹介された女性ではなく、頬を張られた女性こそが丁寧にひとりひとり名を間違える事もなく出迎えてくれたと気が付く。

好奇の眼差しを背に受けた一行が会場から出ていくともう会場内の話題は1つでもちきりとなった。
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