婚約破棄になったら、駄犬に懐かれました

cyaru

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第03話   私兵に変装?

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レオカディオは歩きながら「優しさは十分だ。どうして判らないかな」とアエラにしか聞こえない声でピレニーを貶す。


「そう言えば昨年エラの言っていた課税案。父上が成果があったと言っていたよ。エラは着眼点が違う」

レオカディオがアエラを褒めればアエラもまんざらではなく、口元に笑みを浮かべながら「思いつきなの」と謙遜した言葉を返す。

「何処までも君は遠慮するんだな。もっと自分が発案者なのだから自慢してもいいのに。貧民窟の案だけじゃない。その前の貴族の税率なども爵位に応じてではなく、売り上げに応じてと目から鱗だったよ。君はもっと自己主張するべきだと思うけどね」

「やだ。それも思いつきなの。お父様はあまり経営に携わらせてくれないから独学だし、細かい所を突けば穴だらけの素人案よ。そんなに持ち上げないで」


ソクラノ王国は15年ほど前から深刻化した旱魃の影響で貧しい領地から仕事を求めて王都にやって来た民衆で溢れかえり、1件の求人に対し応募者が少ない所でも50人を超えていた。

職にあぶれるという事は食べる事にも事欠く。
王都にやって来た者で働き口が見つからない者は田舎に帰る金もなく、ゴミを漁ったり物乞いをしたり、時に犯罪に手を染めたり。住まいも廃棄された材料を集めたりスラム街を形成し住み着くようになっていた。

働かない親の元に生まれた子供もまた働く事をせず、学ぶ事もない。
王都の識字率は20年前に58%だったのに対し、昨年の調査では33%にまで下がっていた。

人口は数倍に膨れ上がっているので、実質は20%を割り込んでいると見られていた。


王家も有識者だけではなく、広く貴族も平民も関係なく意見を集めて対策案を打ち出すものの、決め手に欠けていて行う政策は焼け石に水状態。
人権的な救済で炊き出しが毎日何処かで行なわれてはいるが、列に並ぶだけで食事の心配がないとなれば働く事をしなくなり悪循環。

そんな中、1年前にサレス侯爵家から課税案が出され、一定の効果をあげていた。


「父上に何度かエラを婚約者として欲しいと頼んでいるんだが・・・」
「仕方ないわ。ミジャン家としては立場も弱いもの」


諦め口調でアエラはレオカディオに告げる。

レオカディオは2年ほど前から父親のサレス侯爵に【婚約者を見直して欲しい】と頼んではいるものの、サレス侯爵は首を縦には振らなかった。

「いつまでも過去に拘って。父上は現実を見るべきなんだ」

憤りを言葉に乗せたレオカディオをアエラは嗜めるように言う。

「そんな事言っちゃダメよ。確かにレオと結婚出来ないのは残念だけど、結婚と言っても書面上の関係でしょう?わたくしはそんな細かい事に拘っていないわ」


アエラの言葉に歩みを止めたレオカディオは感極まって会場入り口の前、衛兵の立つ扉の前でアエラを抱きしめ、アエラの耳元で囁いた。


「もう一度話をしてみるよ。僕に相応しいのはエラ。君なんだ。父上にも昨年の結果をもう一度突きつけてどうなんだ?という事を伝えてみるよ」

「無理はしないで。わたくしは気にしてないわ」

「ま、この夜会で父上も驚くような寄付金を集めてみせるさ」

「素敵!また旅行に行けるわね。今度は海の見える街がいいわ」


2人の世界を醸し出す中、扉の前の衛兵は「入場されるのですか?」と空気を読まない発言をした。

灯りもランプのみ。
暗がりだからか、俯きがちな私兵の声は少し籠り、薄気味悪くも感じたレオカディオは「開けてくれ」とアエラと共に姿勢を正し、入場した。


会場の中は入って来た2人は間もなく始まる主催の挨拶を待つ貴族の群れの中に溶け込んでいった。

入場した扉の向こう側。私兵は交代の時間を迎えていた。

「ありがとう。面白いものが見られた。僥倖だな」
「貴方と言うお方は!毎回、肝が冷えます」
「バレやしないさ。今日も誰も気が付かなかっただろう?」
「バレなければ良いと言うものではありませんよ!」
「判ってるって。本当にサバスは頭が固いな」

衛兵を装い、衛兵のトレードマークである赤帽を脱いだ第2王子ドベールは軽く手を挙げて廊下を歩いて行った。



★~★

「大丈夫か?酷い事をする」

コチ公爵家の私兵がピレニーに手を差し出してきた。

「酷いな・・・これじゃ歩けないだろう。代わりの靴と言っても女性にはサイズがあるからなぁ」
「平気ですよ。こんなの脱いじゃえばいいんです」
「脱ぐっ?!まさか廊下を素足で歩くつもりか?!」
「素足じゃありません。ストッキングは履いてます」

――ストッキングって素足と変わらないんじゃ?――


私兵に扮装している第2王子ドベールの息子チェサピックは「だって、仕方ないでしょ?」と言わんばかりのピレニーの顔を見た。

くりくりとした目を真っ直ぐに向けて、「でしょ?」と言いたげに小さく首を傾げていた。

「いやいや、だとしてもだ!――っておいっ!!」


チェサピックの目の前で介助なしに立ち上がったピレニーはまさに脱兎の如く。
あっという間に廊下の向こうに駆けて行ってしまった。

「まいったな。令嬢を裸足で走らせたなんて知られたら父上にどやされる」


チェサピックのぼやきはピレニーには聞こえなかった。
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