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第04話 素足で駆けだす?
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モコ伯爵家のピレニーは付き添いの従者たちが待つ部屋の入り口で共に来た侍女のアリサを呼び出して貰うために私兵に声を掛けた。
「モコ伯爵家のアリサという侍女を呼び出してくださいませっ!」
通常、貴族本人が呼び出しを頼む事は無い。
中座をする場合は、会場内で給仕などに声をかけて会場の扉前まで付き添いの使用人が向かってから共に馬車に向かう。そうすれば付き添いが向かっている間、馬車の手配が出来、馬車への乗車も待たせる事なく済むからである。
が、目の前のご令嬢は頬を紅潮させて肩で息をし、なんとその両手には履いていたであろうヒールが指先に引っ掛かっている。
――素足で走っても怪我のない廊下――
会場となったコチ公爵家の清掃人たちの苦労を実感しつつ、清掃人の中には妻もいる私兵はちょっとだけ鼻高々になり「お待ちください」と気前よく侍女アリサを呼び出した。
呼び出して直ぐに付き添いがやって来る訳ではない。
控室から出るにも確認作業があるため、少し時間がかかる。
私兵はその間にピレニーに話しかけた。
「お嬢さん。まだ陛下たちのご挨拶も始まっていないのでは?」
「そうね。まだだと思うわ」
「なのにもうお帰りで?」
「そうなの!善は急げと言うでしょう?陛下の挨拶ってきっと学園長の挨拶並みに長いに決まってるわ。それに私が聞いたってお父様が事業の手伝いをさせてくれるわけでもないし、令嬢向けに陛下が何かを仰る訳でもないし。それよりもしなきゃいけない事があるのよ」
――旦那様の挨拶よりも重要な事?――
私兵は聞き返しそうになった時、侍女アリサが「お待たせしました」と扉を開けてやって来た。
両親よりも一足早く屋敷に帰ろうと屋敷への帰路に就くための馬車留場で順番を待つ。ピレニーの心はもう領地に飛んでいた。
「やっと解放されそうよ。長かったわ」
ぐぅっと手を上にあげて体を伸ばしながらピレニーは隣に立つ侍女のアリサに微笑む。
アリサは「だといいんですけどね」と短く返した。
毎回父親のモコ伯爵に婚約の解消若しくは白紙を願い出ているのに父親は認めてはくれない。
ピレニーとレオカディオはピレニーがこの世に生を受けた瞬間から婚約者同士だった。1歳年上のレオカディオとの思い出に良いものは1つもない。
4歳から王都を離れて療養で遠い領地で10年を暮したピレニー。
なぜそうなったかと言えば、体がレオカディオを拒絶したのだ。
2、3歳のピレニーはレオカディオの顔をみれば火がついたように泣き出し、泣き止んだと思ったら痙攣をおこす。しまいには名前を聞いただけで喘息とも過呼吸とも思える症状が出始めたり、来訪する日に合わせて発熱したりで、まさか誰もレオカディオに対しての拒絶反応だとは思わず【病弱】だとして療養となった。
しかし、15歳のデヴュタントを前に何時までも領地でいる事も出来ず、領地では症状が一切なく超が付く健康優良児だったために15歳になる直前、王都に呼び戻された。
いつも年上風を吹かせ、人前でならピレニーの事はこれでもか!と蔑んだ物言いをしていたし、人の目のない所で話しかけて来るとすれば機嫌の良い時は「体を開け」と性的な事を要求し、機嫌の悪い時には無視をするか罵倒するか。
病弱を疑われる症状が出る事を期待したものの領地にも意地悪な子は性別問わずにいたのが幸か不幸か。年齢に応じた耐性が出来てしまった上にピレニーの神経も図太くなってしまっていた。
レオカディオがエスコートしていたアエラは領地から戻って来た時に年齢が近しいから友人にとレオカディオから紹介された令嬢だったが、まさか不貞相手とは思わなかった。
せいぜい【意地悪友人】程度かと思っていたが、スパイも兼ねた間女だったと気が付いた時はピレニーも【私もまだまだね】と居直ったものだ。
そんな【友人】がいて、良い関係など築けるはずもなくピレニーもレオカディオとの未来を描くくらいなら、どんな貧乏生活でも良いので放逐された方がずっといいと考えるようになっていた。
しかし、父親よりも前の代。祖父の代で申し入れられた両家との婚約は【サレス侯爵が恩を返す】という意味合いがあり、格下の伯爵家は【恩の押し売り】だと判っていても爵位の差から断る事が出来なかった。
不貞の相手を【友人】と紹介してさらに嫌がらせを続けているレオカディオにはほとほと愛想が尽きた。
友人ではなく当て馬だったのか、何が目的なのかと考えてはみたものの、レオカディオとアエラは世間で言う【不適切な関係】も続いていると事からピレニーにしてみればアエラの【お古】は嫌だし、共有はもっと嫌だ。
目的が何であろうと生理的に受け付けない。
それがピレニーの結論だった。
そして多くの貴族が参加しているこのコチ公爵家主催の夜会で婚約者であるピレニーをエスコートせず、レオカディオはアエラと共に入場する。
きっとダンスも踊るだろうし、寄付を強要するような発言とその姿は「婚約を続ける意味」を問うものになるに違いない。
「これで結婚なんてしなくていいんじゃないかしら」
「またそんな事を!旦那様も奥様もお嬢様が側にいるのを喜んでおられますよ」
「でも、サレス侯爵家に嫁いで王都にいるってだけでしょう?冗談じゃないわ。そ・れ・に!今回は1年かけて計画しただけあってガッツリと食いついてくれているから安心よ」
ヘヘヘと笑うピレニーだったが、「面白そうな話をしているな」との声にアリサと共にビクリと体が少し宙に浮き、音にすればギギギと首を体をゆっくり後ろに向けてみれば・・・。
「モコ伯爵家のアリサという侍女を呼び出してくださいませっ!」
通常、貴族本人が呼び出しを頼む事は無い。
中座をする場合は、会場内で給仕などに声をかけて会場の扉前まで付き添いの使用人が向かってから共に馬車に向かう。そうすれば付き添いが向かっている間、馬車の手配が出来、馬車への乗車も待たせる事なく済むからである。
が、目の前のご令嬢は頬を紅潮させて肩で息をし、なんとその両手には履いていたであろうヒールが指先に引っ掛かっている。
――素足で走っても怪我のない廊下――
会場となったコチ公爵家の清掃人たちの苦労を実感しつつ、清掃人の中には妻もいる私兵はちょっとだけ鼻高々になり「お待ちください」と気前よく侍女アリサを呼び出した。
呼び出して直ぐに付き添いがやって来る訳ではない。
控室から出るにも確認作業があるため、少し時間がかかる。
私兵はその間にピレニーに話しかけた。
「お嬢さん。まだ陛下たちのご挨拶も始まっていないのでは?」
「そうね。まだだと思うわ」
「なのにもうお帰りで?」
「そうなの!善は急げと言うでしょう?陛下の挨拶ってきっと学園長の挨拶並みに長いに決まってるわ。それに私が聞いたってお父様が事業の手伝いをさせてくれるわけでもないし、令嬢向けに陛下が何かを仰る訳でもないし。それよりもしなきゃいけない事があるのよ」
――旦那様の挨拶よりも重要な事?――
私兵は聞き返しそうになった時、侍女アリサが「お待たせしました」と扉を開けてやって来た。
両親よりも一足早く屋敷に帰ろうと屋敷への帰路に就くための馬車留場で順番を待つ。ピレニーの心はもう領地に飛んでいた。
「やっと解放されそうよ。長かったわ」
ぐぅっと手を上にあげて体を伸ばしながらピレニーは隣に立つ侍女のアリサに微笑む。
アリサは「だといいんですけどね」と短く返した。
毎回父親のモコ伯爵に婚約の解消若しくは白紙を願い出ているのに父親は認めてはくれない。
ピレニーとレオカディオはピレニーがこの世に生を受けた瞬間から婚約者同士だった。1歳年上のレオカディオとの思い出に良いものは1つもない。
4歳から王都を離れて療養で遠い領地で10年を暮したピレニー。
なぜそうなったかと言えば、体がレオカディオを拒絶したのだ。
2、3歳のピレニーはレオカディオの顔をみれば火がついたように泣き出し、泣き止んだと思ったら痙攣をおこす。しまいには名前を聞いただけで喘息とも過呼吸とも思える症状が出始めたり、来訪する日に合わせて発熱したりで、まさか誰もレオカディオに対しての拒絶反応だとは思わず【病弱】だとして療養となった。
しかし、15歳のデヴュタントを前に何時までも領地でいる事も出来ず、領地では症状が一切なく超が付く健康優良児だったために15歳になる直前、王都に呼び戻された。
いつも年上風を吹かせ、人前でならピレニーの事はこれでもか!と蔑んだ物言いをしていたし、人の目のない所で話しかけて来るとすれば機嫌の良い時は「体を開け」と性的な事を要求し、機嫌の悪い時には無視をするか罵倒するか。
病弱を疑われる症状が出る事を期待したものの領地にも意地悪な子は性別問わずにいたのが幸か不幸か。年齢に応じた耐性が出来てしまった上にピレニーの神経も図太くなってしまっていた。
レオカディオがエスコートしていたアエラは領地から戻って来た時に年齢が近しいから友人にとレオカディオから紹介された令嬢だったが、まさか不貞相手とは思わなかった。
せいぜい【意地悪友人】程度かと思っていたが、スパイも兼ねた間女だったと気が付いた時はピレニーも【私もまだまだね】と居直ったものだ。
そんな【友人】がいて、良い関係など築けるはずもなくピレニーもレオカディオとの未来を描くくらいなら、どんな貧乏生活でも良いので放逐された方がずっといいと考えるようになっていた。
しかし、父親よりも前の代。祖父の代で申し入れられた両家との婚約は【サレス侯爵が恩を返す】という意味合いがあり、格下の伯爵家は【恩の押し売り】だと判っていても爵位の差から断る事が出来なかった。
不貞の相手を【友人】と紹介してさらに嫌がらせを続けているレオカディオにはほとほと愛想が尽きた。
友人ではなく当て馬だったのか、何が目的なのかと考えてはみたものの、レオカディオとアエラは世間で言う【不適切な関係】も続いていると事からピレニーにしてみればアエラの【お古】は嫌だし、共有はもっと嫌だ。
目的が何であろうと生理的に受け付けない。
それがピレニーの結論だった。
そして多くの貴族が参加しているこのコチ公爵家主催の夜会で婚約者であるピレニーをエスコートせず、レオカディオはアエラと共に入場する。
きっとダンスも踊るだろうし、寄付を強要するような発言とその姿は「婚約を続ける意味」を問うものになるに違いない。
「これで結婚なんてしなくていいんじゃないかしら」
「またそんな事を!旦那様も奥様もお嬢様が側にいるのを喜んでおられますよ」
「でも、サレス侯爵家に嫁いで王都にいるってだけでしょう?冗談じゃないわ。そ・れ・に!今回は1年かけて計画しただけあってガッツリと食いついてくれているから安心よ」
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