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第07話 駄犬と呼ばれる息子?
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チェサピックはコチ公爵家での潜入を終えると帰路に就いた。
帰る道すがら考えていたのは「足が痛くなかったか」という心配事。
平民でも木の皮を鞣したものか、木の靴を履いていて裸足で歩くのはスラム街でもごく少数。
仮にも貴族令嬢が裸足で歩くとすれば湯殿くらい。
部屋の中でさえルームシューズを履くものだ。
あまりにも気になり過ぎて、「抱きかかえれば良かったか」と考えてしまい、手綱を握る手にぽたりと赤い雫が落ちてしまった。
「どうしたんだ・・・お前、手に血が付いているぞ」
隣を騎乗し並走する父親のドベールに注意をされても上の空。
止まる事のない鼻血が手の甲に落ち続けて鞍の滑りも良くなってしまった。
「父上。靴屋はまだ営業しているでしょうか」
「は?どうした?水虫か?」
「裸足なんです」
「へ?」
チェサピックの視点は前を見ているが何を見ているかは不明。
ドベールは呆れてしまった。
「お前なぁ。今、何時だと思っているんだ?もう日付が変わっているんだぞ?飲み屋でも営業している店を探さないと酒にもありつけない時間帯だ。靴屋は今頃小人が明日の準備をしている頃だ」
「明日の準備・・・そうか。明日か・・・」
コチ公爵家には疑わしい点はない。いや、あるにはあるのだが今日の目的は夜会に集まって来る貴族達の中に監視対象者が複数名いたからだった。
密輸に関わっている子爵家を筆頭にあとは男爵家だったが、そちらはひとまずの収穫があった。貴族の悪い所は行いが良くないものに限って使用人や私兵などは草木と同じと考えているのか、口が軽くなる。
確かに聞いた話をペラペラと「ここだけの話」で広めるようでは使用人や私兵は務まらない。
情報を採取された場所を特定されないようドベールとチェサピックは幾つかの夜会に潜入する。こういうことをしている王族と知れ渡っているのに彼らは2人に警戒をしない。
髪色を変えているのもあるが、ドベールもチェサピックも公の場には姿を現さないので知られてないという事も大きい。
妃のゲルニカ妃も含め、3人が公に姿を見せる時は国王がバルコニーから民衆に向かって手を振る時に王太子夫妻の影に隠れるように「参加」はしたという事実を作る時くらい。
豆粒のようにしか見えない位置で柱などを上手く使うためにハッキリとその面持ちを見た者は少ない。
そんなドベールにもここ2、3年の間、頭を悩ませている事があった。
チェサピックの嫁取りである。
22歳となったチェサピックは女性恐怖症でもなければ男色でもない。
見合いをさせようと貴族に話を持ち掛けた事はあったが、王家の血を引かないチェサピックだと判るとどの家も丁寧な断りを入れて来た。
チェサピックの本当の父親は平民。
たたき上げで参謀補佐までのし上がった男で、ゲルニカ妃も実家は準男爵家。
チェサピックの出自は公表されているし、息子同然に育ててはきたが継承権はなく養子縁組も認められていないのでチェサピックの身分としては平民であるため、どの家も嫌がるのである。
貴族の間でチェサピックは「駄犬」と揶揄されていた。
ドベールに実子はいない。男色ではないがドベールの瞳は所謂オッドアイ。
王家に伝わっている文献で同じ瞳を持って生れて来た男性で子を授かった者は1人もいなかった。つまりはそう言う事だ。
が、王族としても初めて出産の立ち合いも行い、ドベールにはチェサピックは実子以上の存在である。戦で戦地の経験もあるドベールはまだ産湯にも浸からないチェサピックを抱いて命の素晴らしさをまじまじと実感したものだ。
「そろそろ相手を見つけてやらないとな」
好きになった女性がいれば、いつでも連れてこいと言ってはいるものの現在その数はゼロ。隣を並走するチェサピックをもう一度見たドベール。
「お前、いい加減にしないと鉄分不足に陥るぞ」
「あぁ‥そしたら剣でも齧っとく」
まだ上の空のチェサピックだったのだが…。
「齧るなら骨にしとけ。七面鳥なら何時でも用意してやるから」
「七面・・・それだ!!」
「うわぁ!!びっくりしたなぁ!もぉ!!」
突然大きな声を出したチェサピックにドベールは滑らない筈の鞍から滑り落ちそうになった。
「そうだよ!生誕祭に贈り物として贈ればいいんだ」
「何の事だ?」
「靴だよ。これで今夜は眠れそうだ。父上、悩みを解決してくれてありがとう!」
にっこりと笑ってドベールを見るチェサピックだったが、ドベールは月明かりに照らされるチェサピックの顔を見て思い切り馬に鞭を入れて爆走させる寸前。
鼻血が出過ぎて口元が血だらけの男に微笑まれて心臓がキュゥと縮み上がってしまったのだった。
そんなドベール。
翌日バザーに来客の振りをして訪れるのだった。
帰る道すがら考えていたのは「足が痛くなかったか」という心配事。
平民でも木の皮を鞣したものか、木の靴を履いていて裸足で歩くのはスラム街でもごく少数。
仮にも貴族令嬢が裸足で歩くとすれば湯殿くらい。
部屋の中でさえルームシューズを履くものだ。
あまりにも気になり過ぎて、「抱きかかえれば良かったか」と考えてしまい、手綱を握る手にぽたりと赤い雫が落ちてしまった。
「どうしたんだ・・・お前、手に血が付いているぞ」
隣を騎乗し並走する父親のドベールに注意をされても上の空。
止まる事のない鼻血が手の甲に落ち続けて鞍の滑りも良くなってしまった。
「父上。靴屋はまだ営業しているでしょうか」
「は?どうした?水虫か?」
「裸足なんです」
「へ?」
チェサピックの視点は前を見ているが何を見ているかは不明。
ドベールは呆れてしまった。
「お前なぁ。今、何時だと思っているんだ?もう日付が変わっているんだぞ?飲み屋でも営業している店を探さないと酒にもありつけない時間帯だ。靴屋は今頃小人が明日の準備をしている頃だ」
「明日の準備・・・そうか。明日か・・・」
コチ公爵家には疑わしい点はない。いや、あるにはあるのだが今日の目的は夜会に集まって来る貴族達の中に監視対象者が複数名いたからだった。
密輸に関わっている子爵家を筆頭にあとは男爵家だったが、そちらはひとまずの収穫があった。貴族の悪い所は行いが良くないものに限って使用人や私兵などは草木と同じと考えているのか、口が軽くなる。
確かに聞いた話をペラペラと「ここだけの話」で広めるようでは使用人や私兵は務まらない。
情報を採取された場所を特定されないようドベールとチェサピックは幾つかの夜会に潜入する。こういうことをしている王族と知れ渡っているのに彼らは2人に警戒をしない。
髪色を変えているのもあるが、ドベールもチェサピックも公の場には姿を現さないので知られてないという事も大きい。
妃のゲルニカ妃も含め、3人が公に姿を見せる時は国王がバルコニーから民衆に向かって手を振る時に王太子夫妻の影に隠れるように「参加」はしたという事実を作る時くらい。
豆粒のようにしか見えない位置で柱などを上手く使うためにハッキリとその面持ちを見た者は少ない。
そんなドベールにもここ2、3年の間、頭を悩ませている事があった。
チェサピックの嫁取りである。
22歳となったチェサピックは女性恐怖症でもなければ男色でもない。
見合いをさせようと貴族に話を持ち掛けた事はあったが、王家の血を引かないチェサピックだと判るとどの家も丁寧な断りを入れて来た。
チェサピックの本当の父親は平民。
たたき上げで参謀補佐までのし上がった男で、ゲルニカ妃も実家は準男爵家。
チェサピックの出自は公表されているし、息子同然に育ててはきたが継承権はなく養子縁組も認められていないのでチェサピックの身分としては平民であるため、どの家も嫌がるのである。
貴族の間でチェサピックは「駄犬」と揶揄されていた。
ドベールに実子はいない。男色ではないがドベールの瞳は所謂オッドアイ。
王家に伝わっている文献で同じ瞳を持って生れて来た男性で子を授かった者は1人もいなかった。つまりはそう言う事だ。
が、王族としても初めて出産の立ち合いも行い、ドベールにはチェサピックは実子以上の存在である。戦で戦地の経験もあるドベールはまだ産湯にも浸からないチェサピックを抱いて命の素晴らしさをまじまじと実感したものだ。
「そろそろ相手を見つけてやらないとな」
好きになった女性がいれば、いつでも連れてこいと言ってはいるものの現在その数はゼロ。隣を並走するチェサピックをもう一度見たドベール。
「お前、いい加減にしないと鉄分不足に陥るぞ」
「あぁ‥そしたら剣でも齧っとく」
まだ上の空のチェサピックだったのだが…。
「齧るなら骨にしとけ。七面鳥なら何時でも用意してやるから」
「七面・・・それだ!!」
「うわぁ!!びっくりしたなぁ!もぉ!!」
突然大きな声を出したチェサピックにドベールは滑らない筈の鞍から滑り落ちそうになった。
「そうだよ!生誕祭に贈り物として贈ればいいんだ」
「何の事だ?」
「靴だよ。これで今夜は眠れそうだ。父上、悩みを解決してくれてありがとう!」
にっこりと笑ってドベールを見るチェサピックだったが、ドベールは月明かりに照らされるチェサピックの顔を見て思い切り馬に鞭を入れて爆走させる寸前。
鼻血が出過ぎて口元が血だらけの男に微笑まれて心臓がキュゥと縮み上がってしまったのだった。
そんなドベール。
翌日バザーに来客の振りをして訪れるのだった。
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