婚約破棄になったら、駄犬に懐かれました

cyaru

文字の大きさ
8 / 25

第07話   駄犬と呼ばれる息子?

しおりを挟む
チェサピックはコチ公爵家での潜入を終えると帰路に就いた。

帰る道すがら考えていたのは「足が痛くなかったか」という心配事。
平民でも木の皮を鞣したものか、木の靴を履いていて裸足で歩くのはスラム街でもごく少数。

仮にも貴族令嬢が裸足で歩くとすれば湯殿くらい。
部屋の中でさえルームシューズを履くものだ。

あまりにも気になり過ぎて、「抱きかかえれば良かったか」と考えてしまい、手綱を握る手にぽたりと赤い雫が落ちてしまった。


「どうしたんだ・・・お前、手に血が付いているぞ」

隣を騎乗し並走する父親のドベールに注意をされても上の空。
止まる事のない鼻血が手の甲に落ち続けて鞍の滑りも良くなってしまった。


「父上。靴屋はまだ営業しているでしょうか」
「は?どうした?水虫か?」
「裸足なんです」
「へ?」


チェサピックの視点は前を見ているが何を見ているかは不明。
ドベールは呆れてしまった。

「お前なぁ。今、何時だと思っているんだ?もう日付が変わっているんだぞ?飲み屋でも営業している店を探さないと酒にもありつけない時間帯だ。靴屋は今頃小人が明日の準備をしている頃だ」

「明日の準備・・・そうか。明日か・・・」


コチ公爵家には疑わしい点はない。いや、あるにはあるのだが今日の目的は夜会に集まって来る貴族達の中に監視対象者が複数名いたからだった。

密輸に関わっている子爵家を筆頭にあとは男爵家だったが、そちらはひとまずの収穫があった。貴族の悪い所は行いが良くないものに限って使用人や私兵などは草木と同じと考えているのか、口が軽くなる。

確かに聞いた話をペラペラと「ここだけの話」で広めるようでは使用人や私兵は務まらない。

情報を採取された場所を特定されないようドベールとチェサピックは幾つかの夜会に潜入する。こういうことをしている王族と知れ渡っているのに彼らは2人に警戒をしない。

髪色を変えているのもあるが、ドベールもチェサピックも公の場には姿を現さないので知られてないという事も大きい。

妃のゲルニカ妃も含め、3人が公に姿を見せる時は国王がバルコニーから民衆に向かって手を振る時に王太子夫妻の影に隠れるように「参加」はしたという事実を作る時くらい。

豆粒のようにしか見えない位置で柱などを上手く使うためにハッキリとその面持ちを見た者は少ない。


そんなドベールにもここ2、3年の間、頭を悩ませている事があった。
チェサピックの嫁取りである。

22歳となったチェサピックは女性恐怖症でもなければ男色でもない。
見合いをさせようと貴族に話を持ち掛けた事はあったが、王家の血を引かないチェサピックだと判るとどの家も丁寧な断りを入れて来た。


チェサピックの本当の父親は平民。
たたき上げで参謀補佐までのし上がった男で、ゲルニカ妃も実家は準男爵家。
チェサピックの出自は公表されているし、息子同然に育ててはきたが継承権はなく養子縁組も認められていないのでチェサピックの身分としては平民であるため、どの家も嫌がるのである。

貴族の間でチェサピックは「駄犬」と揶揄されていた。


ドベールに実子はいない。男色ではないがドベールの瞳は所謂オッドアイ。
王家に伝わっている文献で同じ瞳を持って生れて来た男性で子を授かった者は1人もいなかった。つまりはそう言う男性不妊事だ。

が、王族としても初めて出産の立ち合いも行い、ドベールにはチェサピックは実子以上の存在である。戦で戦地の経験もあるドベールはまだ産湯にも浸からないチェサピックを抱いて命の素晴らしさをまじまじと実感したものだ。


「そろそろ相手を見つけてやらないとな」


好きになった女性がいれば、いつでも連れてこいと言ってはいるものの現在その数はゼロ。隣を並走するチェサピックをもう一度見たドベール。


「お前、いい加減にしないと鉄分不足に陥るぞ」
「あぁ‥そしたら剣でも齧っとく」


まだ上の空のチェサピックだったのだが…。


「齧るなら骨にしとけ。七面鳥なら何時でも用意してやるから」
「七面・・・それだ!!」
「うわぁ!!びっくりしたなぁ!もぉ!!」


突然大きな声を出したチェサピックにドベールは滑らない筈の鞍から滑り落ちそうになった。

「そうだよ!生誕祭に贈り物として贈ればいいんだ」
「何の事だ?」
「靴だよ。これで今夜は眠れそうだ。父上、悩みを解決してくれてありがとう!」

にっこりと笑ってドベールを見るチェサピックだったが、ドベールは月明かりに照らされるチェサピックの顔を見て思い切り馬に鞭を入れて爆走させる寸前。

鼻血が出過ぎて口元が血だらけの男に微笑まれて心臓がキュゥと縮み上がってしまったのだった。


そんなドベール。
翌日バザーに来客の振りをして訪れるのだった。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。

吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

旦那様から彼女が身籠る間の妻でいて欲しいと言われたのでそうします。

クロユキ
恋愛
「君には悪いけど、彼女が身籠る間の妻でいて欲しい」 平民育ちのセリーヌは母親と二人で住んでいた。 セリーヌは、毎日花売りをしていた…そんなセリーヌの前に毎日花を買う一人の貴族の男性がセリーヌに求婚した。 結婚後の初夜には夫は部屋には来なかった…屋敷内に夫はいるがセリーヌは会えないまま数日が経っていた。 夫から呼び出されたセリーヌは式を上げて久しぶりに夫の顔を見たが隣には知らない女性が一緒にいた。 セリーヌは、この時初めて夫から聞かされた。 夫には愛人がいた。 愛人が身籠ればセリーヌは離婚を言い渡される… 誤字脱字があります。更新が不定期ですが読んで貰えましたら嬉しいです。 よろしくお願いします。

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました

香木陽灯
恋愛
 伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。  これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。  実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。 「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」 「自由……」  もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。  ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。  再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。  ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。  一方の元夫は、財政難に陥っていた。 「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」  元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。 「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」 ※ふんわり設定です

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

処理中です...