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第06話 疑いだせばキリがない?
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「先月末付けで?何故に?」
聊か驚いたモコ伯爵にピレニーは婚約解消をしたいと申し出た。
しかも、日付を未来ではなく既に過ぎ去った過去にして欲しいと言う。
「夜会主催はサレス侯爵家。先月末付けで離縁していたとなれば縁は切れております。幸いにわたくしの事を次期侯爵夫人と思われている方も少ないようですし…わたくしは場を任されていた役員の一人として招いていた、としたほうがサレス侯爵家にも良いかと」
長い息を吐いてモコ伯爵はピレニーの言葉を頭の中で検証する。
確かに婚約の解消が先月末付けであれば、日数もある事だし不貞行為についての侯爵家へ慰謝料要求で済むが、何故ピレニーに婚約解消後も引き続き役を任せたのかとなれば言い訳が出来なくなる。
悩むモコ伯爵に家令のマメシーバが「はと」思い付いた事を提案する。
「旦那様は婚約解消に至る経緯を存じなかったとすればどうでしょうか。お嬢様をすぐに解任したとなれば今回のバザーはサレス侯爵家の肝いり事業。間際になるまで解らなかったのかとなればサレス侯爵様も立つ瀬が御座いませんから」
「だから!貴方は甘いと言うのですッ!」
ビクッと肩を縦に揺らした原因は妻のポラニアンの怒気を含んだ声だった。
ズカズカと執務室に入ってくると、先ずは使用人に「カモミールティーを頂戴」と優しく声をかけ、ギロリと夫を睨みつけた。
「宜しいかしら?」
「な、なんだい?ニアンが怒ってる気がするなぁ」
バシッ!!ポラニアンの手がソファテーブルを叩く。
音としては大きくはないが、夫への威力は落雷の直撃に等しい。
意識を飛ばしていないだけ褒めてはくれないだろうか?と妻に縋る視線を送るモコ伯爵。
「婚約者にと言ってきたのはサレス家。こちらは今の代でなくても良かったのよ?なんなら未来永劫、叶わない約束を引きずって頂いても結構なの?お・わ・か・り?」
レオカディオとアエラの関係が本当の所で知られていないと思っているのは当人のみ。
幾度となくモコ伯爵家からは抗議文も送っていて、その度にサレス侯爵家とミジャン伯爵家からは流行の菓子を添えて詫び状が届いていた。
サレス侯爵もレオカディオに。ミジャン伯爵もアエラに直接的な注意をしてはいるが、「事業を進める上での単なる仲間」だと言い張っていた。
なんなら「そこまで言うならピレニーも使用人の男達と距離が近い」と言い出す始末。
距離が近いと言われても侍女のアリサは必ず同席しているし、今回の事業に限らずピレニーは何かを行う前、最中、最後の確認と最低3回は問い合わせるし、時間がない時は打ち合わせをしながら簡単に食べられる軽食を皆で取りながらという事もある。
レオカディオとアエラのように2人きりで馬車の中にいたり、どこかに出掛けたりという事は無い。それはサレス侯爵も認める所で、そんな事まで疑われていたら同性であっても関係がある者がいるし、3人、4人と愉しむヤカラもいるのだからキリがない。
「婚約は解消。それが無理なら破棄ね。どれほどの慰謝料になるかしら」
はて?とポラニアンは頬に指をあてて金額を模索する。
そんなポラニアンを見て少し頬を染めながらモコ伯爵は気のいい言葉を発する。
「まぁ、昔の人の取り決めだからね。姻戚となれば伯爵家にも恩恵があると考えたんだろう。が、不貞と呼ばれるよな女性を作るのならもうこの取り決めについても…。話し合いの場を設けてくれればこちらとしても笑って握手すればそれで良かったんだがな」
「お父様はそれで良かったの?私はてっきり・・・」
「まさか!そりゃ自分の交わした約束なら履行してもらうけれど何代前の話だ。弟が生まれる度に意気消沈する両親や祖父母を見てきたんだ。元気で生まれてくれればそれ以上はないと言うのに結婚を前提としたような約束を子供に強要するのもどうかと・・・まぁ、それでニアと結婚出来たんだろう?と言われればそれまでだが」
ピレニーも曾祖父はもう生まれる前に亡くなっているし、祖父も既に他界していた。ぼんやりと祖母の面影が思いだせるだけだが、祖母も言ってみれば昔の人なので王家も絡んだ取り決めには従うようにとピレニーに語っていた。
「手が出せないようにしとかないと、何をしてくるか解らないわ」
ポラニアンが物騒な事を言い出し、ピレニーとモコ伯爵は目を合わせた。
元王女でもあり、今も暗殺を企てる者がいない訳ではないポラニアンが言うと冗談には聞こえない。
「何を驚いた顔をしているの?当たり前でしょう?わたくしは降嫁したとはいえ元王女。王族には暗殺は付き物よ。だからピレニーには絶対的な安全圏にいてもらう必要があるわね」
「だったらサレス家も同じじゃない!」
「貴女ねぇ…お花畑にも程があるわよ?外で色々と行動していた時、使用人の割には体躯の良い男性が必ずいたでしょう?サレス家もそれなりに考えての事なのよ」
――そうだったの?!――
思いだしてみれば確かに体つきの良い男性ばかりだったけれど、彼らを「私兵」だと感じた事は無かった。作業員のような事も頼めばしてくれたし、てっきりサレス家の一般使用人かと思っていたピレニー。
どうやら人の良さは父親譲りらしい。
「事を起こすとすれば・・・直近ならバザーの打ち上げかしらね」
成功する事が決められているような事業。バザーの開催と同時にお疲れ様の祝賀会の案内状も届いているのだから笑えない話。
「大叔父の葬儀があったから我が家は欠席だが・・・ピレニーもこの際だ。引き上げてはどうだ?」
気遣いをするモコ伯爵だったが、ピレニーは「いいえ」と答えた。
事を起こすのならその場にピレニーがいない事には始まらないだろう。
――終わりの始まりって奴ね。終演だと思えばやれるわ――
その前に明日のバザーを乗り切らねばならない。
ピレリーは終始走り回る事になり、レオカディオどころではない当日にゲンナリしてしまったのだった。
聊か驚いたモコ伯爵にピレニーは婚約解消をしたいと申し出た。
しかも、日付を未来ではなく既に過ぎ去った過去にして欲しいと言う。
「夜会主催はサレス侯爵家。先月末付けで離縁していたとなれば縁は切れております。幸いにわたくしの事を次期侯爵夫人と思われている方も少ないようですし…わたくしは場を任されていた役員の一人として招いていた、としたほうがサレス侯爵家にも良いかと」
長い息を吐いてモコ伯爵はピレニーの言葉を頭の中で検証する。
確かに婚約の解消が先月末付けであれば、日数もある事だし不貞行為についての侯爵家へ慰謝料要求で済むが、何故ピレニーに婚約解消後も引き続き役を任せたのかとなれば言い訳が出来なくなる。
悩むモコ伯爵に家令のマメシーバが「はと」思い付いた事を提案する。
「旦那様は婚約解消に至る経緯を存じなかったとすればどうでしょうか。お嬢様をすぐに解任したとなれば今回のバザーはサレス侯爵家の肝いり事業。間際になるまで解らなかったのかとなればサレス侯爵様も立つ瀬が御座いませんから」
「だから!貴方は甘いと言うのですッ!」
ビクッと肩を縦に揺らした原因は妻のポラニアンの怒気を含んだ声だった。
ズカズカと執務室に入ってくると、先ずは使用人に「カモミールティーを頂戴」と優しく声をかけ、ギロリと夫を睨みつけた。
「宜しいかしら?」
「な、なんだい?ニアンが怒ってる気がするなぁ」
バシッ!!ポラニアンの手がソファテーブルを叩く。
音としては大きくはないが、夫への威力は落雷の直撃に等しい。
意識を飛ばしていないだけ褒めてはくれないだろうか?と妻に縋る視線を送るモコ伯爵。
「婚約者にと言ってきたのはサレス家。こちらは今の代でなくても良かったのよ?なんなら未来永劫、叶わない約束を引きずって頂いても結構なの?お・わ・か・り?」
レオカディオとアエラの関係が本当の所で知られていないと思っているのは当人のみ。
幾度となくモコ伯爵家からは抗議文も送っていて、その度にサレス侯爵家とミジャン伯爵家からは流行の菓子を添えて詫び状が届いていた。
サレス侯爵もレオカディオに。ミジャン伯爵もアエラに直接的な注意をしてはいるが、「事業を進める上での単なる仲間」だと言い張っていた。
なんなら「そこまで言うならピレニーも使用人の男達と距離が近い」と言い出す始末。
距離が近いと言われても侍女のアリサは必ず同席しているし、今回の事業に限らずピレニーは何かを行う前、最中、最後の確認と最低3回は問い合わせるし、時間がない時は打ち合わせをしながら簡単に食べられる軽食を皆で取りながらという事もある。
レオカディオとアエラのように2人きりで馬車の中にいたり、どこかに出掛けたりという事は無い。それはサレス侯爵も認める所で、そんな事まで疑われていたら同性であっても関係がある者がいるし、3人、4人と愉しむヤカラもいるのだからキリがない。
「婚約は解消。それが無理なら破棄ね。どれほどの慰謝料になるかしら」
はて?とポラニアンは頬に指をあてて金額を模索する。
そんなポラニアンを見て少し頬を染めながらモコ伯爵は気のいい言葉を発する。
「まぁ、昔の人の取り決めだからね。姻戚となれば伯爵家にも恩恵があると考えたんだろう。が、不貞と呼ばれるよな女性を作るのならもうこの取り決めについても…。話し合いの場を設けてくれればこちらとしても笑って握手すればそれで良かったんだがな」
「お父様はそれで良かったの?私はてっきり・・・」
「まさか!そりゃ自分の交わした約束なら履行してもらうけれど何代前の話だ。弟が生まれる度に意気消沈する両親や祖父母を見てきたんだ。元気で生まれてくれればそれ以上はないと言うのに結婚を前提としたような約束を子供に強要するのもどうかと・・・まぁ、それでニアと結婚出来たんだろう?と言われればそれまでだが」
ピレニーも曾祖父はもう生まれる前に亡くなっているし、祖父も既に他界していた。ぼんやりと祖母の面影が思いだせるだけだが、祖母も言ってみれば昔の人なので王家も絡んだ取り決めには従うようにとピレニーに語っていた。
「手が出せないようにしとかないと、何をしてくるか解らないわ」
ポラニアンが物騒な事を言い出し、ピレニーとモコ伯爵は目を合わせた。
元王女でもあり、今も暗殺を企てる者がいない訳ではないポラニアンが言うと冗談には聞こえない。
「何を驚いた顔をしているの?当たり前でしょう?わたくしは降嫁したとはいえ元王女。王族には暗殺は付き物よ。だからピレニーには絶対的な安全圏にいてもらう必要があるわね」
「だったらサレス家も同じじゃない!」
「貴女ねぇ…お花畑にも程があるわよ?外で色々と行動していた時、使用人の割には体躯の良い男性が必ずいたでしょう?サレス家もそれなりに考えての事なのよ」
――そうだったの?!――
思いだしてみれば確かに体つきの良い男性ばかりだったけれど、彼らを「私兵」だと感じた事は無かった。作業員のような事も頼めばしてくれたし、てっきりサレス家の一般使用人かと思っていたピレニー。
どうやら人の良さは父親譲りらしい。
「事を起こすとすれば・・・直近ならバザーの打ち上げかしらね」
成功する事が決められているような事業。バザーの開催と同時にお疲れ様の祝賀会の案内状も届いているのだから笑えない話。
「大叔父の葬儀があったから我が家は欠席だが・・・ピレニーもこの際だ。引き上げてはどうだ?」
気遣いをするモコ伯爵だったが、ピレニーは「いいえ」と答えた。
事を起こすのならその場にピレニーがいない事には始まらないだろう。
――終わりの始まりって奴ね。終演だと思えばやれるわ――
その前に明日のバザーを乗り切らねばならない。
ピレリーは終始走り回る事になり、レオカディオどころではない当日にゲンナリしてしまったのだった。
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