婚約破棄になったら、駄犬に懐かれました

cyaru

文字の大きさ
16 / 25

第15話   感謝してよ?

しおりを挟む
初日と2日目は宿を取ってくれたのだが、3日目は思った通りの野宿。

ぱちぱちと小さな火の粉をあげる焚火を起こしたピレニーは戻って来た、いや逃げて来たチェサピックと共に河原を走り回る羽目になり、結果的にずぶ濡れになってしまった。


いたっ!もうちょっと優しくしてくれよ」
「何言ってるの!ほら!二の腕も出して!」

焚火の火だけがあたりを照らす中、ピレニーはチェサピックにヨモギを磨り潰し、皮膚に塗りこんでいく。

着ていた服は河原の石の上に夜中だと言うのに平干し。
朝になっても乾いていないだろうが、着替えを持って来ていて良かったと胸を撫でおろした。


★~★

事の起こりはもう1時間もすれば日暮れになる頃に「今日はここで休もう」とチェサピックが河原で足を止めた事から始まる。


「その辺で枯れ葉と小枝を集めてくれないか」
「何をするの?」
「何をするって、火を起こすのさ。俺は食べられそうなものを取って来る。集めて来るだけでいいからな」


集めて来るだけで良いと言われても、場所は河原。
ピレニーは昔取った杵柄よろしく燃えやすそうな枝などを集めていたのだが、夕食を探しに行くと言ったチェサピックがなかなか戻らない。

「確か火打石はアリサが入れてくれてたと思うんだけど」

カバンの中をごそごそと探して、火を起こしてしまった。
田舎暮らしが長かったので領民の子供達と川で泳いだ事がある。

川の水はとても冷たくて10分も浸っていると体が冷え切ってしまうので暑い真夏でも焚火を起こし、冷えた体を温めたもの。

「遅いなぁ。何をしてるのかしら」

昨夜宿泊をした宿屋を発つ時にパンを貰っていたので焚火の火で炙って食べようと、またもやカバンをごそごそとしていると、少し離れた所からチェサピックの叫び声が聞こえた。

「逃げろぉぉ~」
「えっ?えっ?何があったの?」

小脇に何かを抱えてチェサピックはピレニーのいる方向に走ってくるのだが「逃げろ」とはどういうことなのか?

考えている間にもチェサピックが叫びながら近づいてくる。

「スズメビーだ!逃げろぉぉーッ!」
「なんですって?!」

まさかと思ったが、声が聞こえた頃からするとチェサピックとの距離は半分ほどになっている。遠くだと見えなかった小脇に抱えた「何か」がスズメビーの巣だと知るとピレニーも立ち上がって足場の悪い中、走り出した。

「ダメだ!川に飛び込め!」
「何やってるのよ!もぉ!!」

重低音の羽音が幾つも近くまで来て逃げきれないと思った2人は夕暮れの川の中に服のまま飛び込んだのである。


「なんでこんな服を着てるんだよ!」

――なんでって騎乗だからよ!――

川に飛び込んだまでは良かったのだが、淵に飛び込んでしまい着ていた服が重くて手で水をかいていないと沈んでしまうのだが、腕も服が纏わりついて上手く動かない。

チェサピックは蜂の巣の次にはピレニーを抱えて泳ぐがかなり流されてしまった。

「焚火の灯りがあるな。助かった」
「感謝してよ?火を起こしてなかったら真っ暗だったんだから!」

やっとの事で焚火の場所まで戻ったのだが、折角の収穫物だった蜂の巣は抱えたまま川に飛び込んだため、流されてしまっていた。

着替えは馬の鞍につけたカバンの中。
ピレニーは2頭の馬の影に隠れながら着替えを済ませたのだが・・・。

「ひゃー。寒かったな。もうちょっと後の時期だったら飛び込んだ瞬間に氷像になる所だった」

そう言いながらピレニーの目の前で全裸になったチェサピック。

「・・・・」
「どうしたんだ?」
「腫れてるわ」
「イヤン♡これは腫れてるんじゃなく――」
「そんなところじゃないわ!」

股間を手で押さえたチェサピックだったが、蜂の巣を抱えた横腹あたりが蜂に刺されて赤くなっていた。

「よく判るな。う~ん。確かにチクチクと言うか、ジンジンするな」
「ススメビーに刺されるのは良くないのよ?薬は?」
「そんなの持ってるわけないだろう。舐めておけば治る」
「わき腹をどうやって舐めるのよ」
「え・・・」


チェサピックは胡坐で座り込み、わき腹に顔を近づけるのだが人間の体の構造からして大多数の人はわき腹を見ることは出来ても舐める事は出来ないだろう。

「くそっ!届かない!何時の間にこんなに体が硬くなっ‥そうか!川の水で冷えたからだ!」

――違うわよ!――

四苦八苦するチェサピックだったが、不意に動きを止めてピレニーを見た。

「舐めないわよ!」ピレニーはプイっと横を向くと焚火の中から少し大きめの枝を手に取り、松明にして草の生えている辺りに歩いた。

ブチブチと千切って来たのはヨモギ。
それを河原の平たい石で磨り潰し始めた。

「何してるんだ?晩飯?」
「違うわよ!虫刺されにはヨモギ!はい!塗るから手を挙げて」

「バンザイして」と言われ、大人しく従うチェサピックだったが、擦り込むのがくすぐったいのか身をよじる。

「逃げないの!」
「だって…わひゃっ♡ひゃひゃひゃ」
「(パチン!)大人しくして!」
「擽った・・・うぉおっち!痛いっ!そこ痛い!」
「刺されたんだから痛いに決まってるでしょ!」
「だってハチノコ美味しっ――痛いっ!!」

ほぼ上半身にヨモギを擦りこまれたチェサピック。
今回蜂の巣の奪取に失敗したのは、いつもは木などに作っている巣を取るのだが、今回は木の幹にあった蜂の巣を土を掘って取ろうとしたからだった。

翌朝は、明らかに腫れあがっていてボトムスは何とか穿けたのだが、股上を閉じる事が出来なかったが宿場町に到着し、医者に診てもらうまでどうにもならず、破廉恥な格好で騎乗する事になってしまった。


「だってさ。蜂の巣がそこにあるんだぜ?ここ掘れワンワンだろうがよ!」

――普通は素手なのに…そこまでしないわ――

食への飽くなき探求心は見上げたものだが、薬も持ち歩かずにする事ではない。薬を持ち歩いていても普通はしないのだが、これに懲りないのがチェサピック。

明日は領地の屋敷に到着という日にもやらかしたのだった。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。

吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

旦那様から彼女が身籠る間の妻でいて欲しいと言われたのでそうします。

クロユキ
恋愛
「君には悪いけど、彼女が身籠る間の妻でいて欲しい」 平民育ちのセリーヌは母親と二人で住んでいた。 セリーヌは、毎日花売りをしていた…そんなセリーヌの前に毎日花を買う一人の貴族の男性がセリーヌに求婚した。 結婚後の初夜には夫は部屋には来なかった…屋敷内に夫はいるがセリーヌは会えないまま数日が経っていた。 夫から呼び出されたセリーヌは式を上げて久しぶりに夫の顔を見たが隣には知らない女性が一緒にいた。 セリーヌは、この時初めて夫から聞かされた。 夫には愛人がいた。 愛人が身籠ればセリーヌは離婚を言い渡される… 誤字脱字があります。更新が不定期ですが読んで貰えましたら嬉しいです。 よろしくお願いします。

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました

香木陽灯
恋愛
 伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。  これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。  実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。 「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」 「自由……」  もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。  ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。  再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。  ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。  一方の元夫は、財政難に陥っていた。 「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」  元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。 「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」 ※ふんわり設定です

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

処理中です...