婚約破棄になったら、駄犬に懐かれました

cyaru

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第14話   これで行くの?

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「どうしろと言うのかしら」

元々長い間領地で暮らしていたピレニー。

王都に戻って来てたった3年足らずでまた領地に戻るとは思っていなかったが、予定通りサレス家に嫁ぐ事になっても避暑の名目で年に一度は領地に行かせてもらうつもりだったので、生活に困らない程度の荷物は領地にあるとはいえ、思わず顔色が青か緑になって「これは何だ?!」と言いたくなる。


「えぇっと・・・アリサは・・・」
「行きませんよ。半年後に結婚しますので結婚前から別居なんて嫌ですもん」
「そ、そうよね」


だからなのだろうか。目の前には「準備できたか?」とにこやかなチェサピックがいるのだがチェサピックの手に握られているのは2頭の手綱。


「まさかとは思うけど、馬車で片道3週間の道のりを騎乗・・・」
「そうだが何か問題があるのか?」

――問題ないでしょう!――

「何を言ってる?」と当たり前のように返事を返すチェサピック。
領地に行くには馬車を使うとばかり思っていたピレニーはやっと「荷物は少なめに」とアリサが纏めていた理由を悟った。

「騙したのね」とピレニー。
「騙してませんよ?言わなかっただけです」シレっと答えるアリサ。


チェサピックは肘でお互いを突きあうピレニーとアリサを見て「あぁそうか!」と馬の鼻を撫でた。

「こっちの栗毛が牝馬ひんばのグルーミング号で黒毛が牡馬ぼばのトリミング号なんだ。紹介をするのを忘れていたよ。アハハ」

――そこじゃない!――

「どっちがいい?どっちも俺が育てたんだ。産んだのは俺じゃないけど」

――人が馬を産んだら大問題でしょうに!――


チェサピックは騎乗で移動するのに慣れているかも知れないがピレニーは牧場内での乗馬の経験のみ。あまりにも無謀過ぎやしないか?とやんわり「ちょっと無理かも?」と言ってみればトリミング号の鞍につけたカバンから腰当を取り出した。


「大丈夫だ。尻が痛くなると思うから予備も持ってきた」

――そこじゃない!――

「鐙にも足を引っかけない時間を取ればいいし、全力で走らせるわけじゃないから大丈夫だ。予定では馬車で3週間の所をたった10日!半分以上の日程が短縮できるぞ」

「短縮はしなくていいんです。ゆっくりと道中を楽しもうと・・・」

「そうだよな!旅は途中を満喫するのが一番だ。馬車だといけない所でも騎乗なら行けるしな!」

――そうじゃないのよ――


チェサピックは全く悪気がない。
おそらくは馬車で移動するよりも日数の少ない騎乗での移動は安全という面で考えれば一番効率がいいだけ。馬車はどうしても休憩地や馬を交換する場が限られているし、1日当たりの移動距離も少ない。

襲撃をされるのも馬車が早くに走れない場を狙われるし、頭数に見合うだけの交換用の馬がいなければ宿場町に数日足止めをされる事もある。

騎乗すれば本来の休憩地から2つ先、3つ先まで進む事が出来るし、何よりピレニーの身の上を考えれば「まさか騎乗で移動はしないだろう」という意外性がある。

秘密裏に出立をするため、両親との別れは昨夜のうちに済ませ、父のモコ伯爵は寄合に出掛けたし、母親のポラニアンも茶会に向かった。

まさか騎乗して出立するとは思っておらず、こんな事なら馬車の準備が出来ているのかを確認しておけばよかったと思っても後の祭り。


騎乗で行くとなれば問題点もある。

「まさかと思うけど・・・野宿をするつもりなの?」
「基本はな」

――やっぱり――

「食事はどうするの?山の中じゃ宿泊所もないわ」
「山には何でもある!安心しろ。食えないのは木に生えてないキノコくらいだ」

――安心できる要素が皆無――


だが、馬車の用意と言っても今からでは御者の手配もせねばならず、出来ればレオカディオとアエラの結婚式が行われる日よりも先に出立をしたいので今日になった。

アエラは悪阻が始まり、起き上がる事もようようになっていると聞くが、レオカディオは隙あらば屋敷を抜け出そうとするため罪人のように両手両足を拘束具で固定され、食事の時間だけ口枷を外されていると言う。

――もう軟禁じゃなく監禁だわ――

可哀想だと思う気持ちもあるにはあるが、あれほどに願っていたアエラとこれからは四六時中一緒にいられると言うのに何が不満なのだろう。

逃げ出そうとさえしなければ最低限の衣食住は用意される。
そこに自由がないだけの生活が送れるというのに。

散々に自由な事をしてきたのだから帳尻が合うと考えれば良いだけだ。

――こんな風に思う私は結構冷たいのかも知れないわね――


レオカディオほどではないがピレニーも自由には制限がある。
そんな事を考えてはいたが、時間だけが過ぎていくのでピレニーは覚悟を決めた。


「仕方ないわ。騎乗するしかなさそうね。どっちの馬に乗ればいい?」
「栗毛のグルーミング号がいいかな。穏かな性格をしてるんだ」
「トリミング号は気性が荒いということ?」
「いや、若い女の子が好きなんで制御が効かないだけだ」

――大問題じゃないの!――


大丈夫なんだろうかと思いつつもピレニーはグルーミング号に跨り、チェサピックと共に屋敷を出発したのだった。
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