婚約破棄になったら、駄犬に懐かれました

cyaru

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第13話   末永くお幸せに?

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――口火を切ったのが息子だとは、情けない――


そんなサレス侯爵にモコ伯爵はそっと婚約に関するの書面を差し出した。
書かれている文字を見てサレス侯爵は夫人と共にギョッとした。

「日、日付が・・・」

泳いだ目をモコ伯爵に向けるが、モコ伯爵は涼しい顔で言い放った。


「バザーをするにあたり、お2人は足繁く他家の茶会に出向いておられたでしょう?今日の事も当家が泥棒猫?でしたか?大変に結構。婚約は既に無くなっていたとした方がサレス家も不貞行為を疑われなくて済むと言うもの。その間、娘は雇われとして茶会を催す家に先触れなどをだしておりましてね、これは妻の元王女と言う立場を利用してのものですので、かなり高額な賃金となります」

「そんな雇っていたなんて他家に知れたら何を言われるか!」

「ですから、継承権のあるものを雇っていたとなればこれもまたサレス家には分が悪い。と、言うことで婚約は破棄とさせて頂き、その慰謝料があまりにも多かったのでバザーの手伝いを娘が無償で行っていたとすれば角も立ちますまい」


どちらにしても進む先は地獄。ならばミジャン家のように全てを失うよりも領地を2つほど手放して金で解決をしたほうが傷が浅い。

「お宅の方がまだマシでしょう」と言いたげなミジャン伯爵の視線にサレス侯爵も頷きそうになったが、レオカディオは抗った。


「これからはアエラではなくピレニーと向き合う!もう過ちは起こさない!ピレニー!僕とやり直してくれないか?!これからは君の為に尽くすと誓うよ」

立ち上がり、ピレニーの元に行こうとするとレオカディオをアエラが覆いかぶさるようにして阻止した。

「何を言ってるの?!わたくしを捨てる気?お腹の子はどうなるのよ!」


アエラの発言に誰もが驚いた。ドベールですら驚いた。
が、ピレニーだけは表情が変わらなかった。

――まぁ、そうでしょうね。あれだけ泊りで出掛けていれば――


僅かな寄付金ですら私的に流用して日帰りだけでなく数泊の旅行に行っていた2人。想像も容易いがちらりとサレス侯爵夫妻を見ると、同行者にアエラがいたことは知ってはいたが、そんな関係だったとは思っていなかったようで生気が抜けていた。


「レオに棄てられたらわたくしはどうなるの?!この子はどうなるのよ!」

必死なアエラにレオカディオは顔を背けたまま言葉も返そうとしない。

――つくづく呆れた人――

夫としては最低だろうなと思うようにはなっていたが、人としても最低だったとはピレニーも思ってはいなかった。

貴族で結婚した後、それまでの恋人との関係が続くものがいる事は知っていた。だからこそこの婚約がどうにもならずレオカディオと結婚となってもレオカディオはアエラと関係を続けるのだと思っていた。

子供まで作っておいて、自分の立場が悪くなると居心地の良さそうな方に舵を取る。

――反吐が出そう――

「はぁ」と小さく溜息を吐いてピレニーはレオカディオに言う。


「貴方の気持ちがどちらに向いていようと子供が生まれる事実は変わらない。再構築を選んだとして、子供が出来た時に彼女の真似だと言われそうだし、貴方の全てが無理。申し訳ないけどやり直そうなんて思えない」

「そんな・・・本当の僕を見てくれよ!頼むよ!」

「本当も嘘も貴方を見ている時間が勿体無いわ。今までだって私には貴方との時間が無駄だと感じていたもの。以心伝心で通じる彼女とこの先を歩んだ方が貴方には無類の幸せじゃないかしら。私に出来るのは・・・末永くお幸せに?って・・・心からの言葉を贈る事だけだわ」

「子供がいたから、こんな性急に事を起こしたという事か。まぁ…大規模な事業の失敗をやらかしてくれた君たちの功績は大きいよ。後世にも『こんな失敗はしてはならない』と教訓にもなり、名を残すだろうから2人が夫婦でいてくれた方が記録係の手間も省けて済む。ミジャン家もこれからはサレス家におんぶに抱っこで安泰だな」


ドベールの言葉はこの先、この両家に手を差し伸べてくれるのはまともな家が1つもない事を示している。社交界だけでなく経済的にも付き合いを断たれるという事は死活問題。

ドベールが「記録係」と口にした事から既に王宮では後世に残す資料に家名も2人の名も記載をされたという事で、放逐も出来ない。
記録をされるという事はこの先10年以上、この件については詳細に聴き取りもされる。その時に当事者がいませんでは話にならない。

夫婦でいてくれた方が良いと言うのは、文官が2つの家を行ったり来たりする手間を省けと言う事にも繋がる。


「息子を信じたい気持ちは判るが、事業と色事はわけておくべきだったな。だがこれで後取りの心配も無くなったじゃないか。せいぜいその子供には『飢え』を体験させぬようにな。スラム街の住民には手厚い保護をするのだから、鳥ガラのようでは示しがつかぬ」

ドベールがとどめを刺すようにサレス侯爵に向かって言った。


「嫌だ!嫌だ!僕はピレニーとやり直すんだ!」

叫ぶレオカディオだったが、サレス侯爵はこれ以上喚くなら場所も王宮という事もあり、第2王子の取り決めに従えないとして反省するまで騎士団を通じ辺境の地に傭兵として送ると言えば失禁し静かになった。

剣すらまともに握れないレオカディオは塹壕掘り、若しくは砲弾の飛び交う中を走る伝令兵に使われるのが目に見えている。

「あの…わたくしは・・・」

大人しくなったレオカディオに縋りながらアエラがドベールの顔を見上げた。

「安心しろ。自由はないが生きていることは出来るだろう」
「自由はない・・・え?どういう事?」

アエラは両親のミジャン伯爵を見る。
父親は直ぐに目を逸らしたが、母親は「死ぬまで管理されるという事よ」と呟いた。

「そんなっ!待って。結婚なんてしなくていいの!侯爵夫人なんて望んでないわ!今まで通りでいいじゃないの!レオはピレニーと結婚すればいいわ!ね?そうでしょう?」

もう話を聞く価値もないとピレニーは先にポラニアンと部屋から出た。
背中にアエラの悲鳴様な叫びが突き刺さるが、もう振り返る事もない。


廊下に出たピレニーにポラニアンが問う。


「全く貴女って子は。嵌めるつもりでスラム街の案を出したのね?」
「あれ?お母様には判った?」
「遅かれ早かれ自滅はしただろうけど・・・思い切った事をするわね。国も利用するなんて」
「お母様?婚約破棄はオマケ。これでスラム街の事も貴族が考える機会が出来たでしょう?もう知らないなんて言えなくしたのよ?」
「そうね、汚いものはみない振りをしてきた国のツケ・・・って!話を逸らせてもダメよ?ピレニーには暫く領地で反省をしてもらいますからね!」


田舎育ちとも言っていいピレニー。
領地に行けるのは嬉しいが、自分もまたその立場からアエラと意味は違っても「死ぬまで管理される」のだなと思うと憂鬱な気分にもなる。

が、憂鬱な気分に輪をかけて面倒も加わりそうな予感がしてきた。


「1人じゃ危ないでしょう?ちゃんと護衛を用意しておいたわ。彼よ」

ポラニアンの言葉に柱の影から出てきたのは生誕祭にはまだ早いのに13.5cmの靴の入った箱を手にしたチェサピックだった。


★~★

初日はここまでです(*^-^*)

内容紹介の完結日。22日とロングに間違っておりましたが正しくは12日です。
ごめんなさい。間違ってました。ワンとニャンで浮かれちゃってましたー

明日は読んだ感じがガラリと変わります。

楽しんで頂けると嬉しいです(*^-^*)
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