あなたへの愛は時を超えて

cyaru

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最終話☆あなたへの愛は時を超えて

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「フフフ。これを見てくれたたまえ」

ザワノーシ教授が得意そうに取り出したのは、新しく見つかった記録書だった。大学院で見つかった文書の文字の解読を手伝うコレットは小躍りする教授を見て溜息を吐いた。

「あのですね、私は――」
「ちょっとでいいんだよ~。お願いっ。ここだけでもっ」

見つかった記録書は保存状態がとてもよく、当然見る事も出来ないようなページもあったがハッキリと文字が読み取れるページが今まで見つかった同年代のものよりも多かった。

「ここだけですからね」
「うんうん。イチゴを箱でつけるから頼むよ」
「イチゴっ?!やります。ではこのページだけ…残りは今度ですからね」
「解ってるよ。まとめる事に時間を取れる日がこんなに早く来るとは!2年前は思いもしなかったよ。これもコレット君のおかげだ」


上機嫌のザワノーシ教授はホレホレと解読して欲しい部分を指で指し示した。

「えぇっと…裁判記録‥というより収監された囚人の記録ですね」
「ほっほぅ。やはり昔から悪い事をするやつは牢屋なんだなぁ」

「えぇっと‥‥えっ?」
「どうしたんだね?」

コレットはその記録に見知った者の名前を見つけ息を飲んだ。
その名前とは「ブレイザー子爵家」だった。
債務超過で破産はしたが、貴族である子爵家の名前は残っていたため記載があるのだろうか。

「ブレイザー子爵他3名を窃盗と致傷罪で投獄…とあります」
「窃盗…致傷か。盗む際に家人に怪我でもさせたんだろうかねぇ」
「盗んだものは…王都第三騎士団の隊舎にあった備品で…」
「なんだね?」
「救護班が使用したあとの尿瓶だったとあります」
「し、尿瓶?!そんなものを貴族が盗むのか」
「供述では‥‥ワインだと思った…とあります。逃げる際に転んで尿瓶が割れてその破片で怪我をしたとあります。致傷は捕縛する際に隊員が1人負傷したと…」

飲む前で良かったねと声をかけてあげたい気もするが、おそらくはそのまま投獄になっただろうから臭いが酷かっただろうなぁと推測した。
しかし、それだけで記録に残るほどだろうかと読み進める。

「投獄後に、牢の中での問題が多かったため支給品を…えぇっと…支給品を取り上げた?すみません。支給品をの先が少し文字が読み取れませんが、虱が酷く囚人たちに虱を媒介とした疫病が蔓延したとなっています」

「虱か…。虱だけは清潔にするしかその時代はどうしようもなかっただろうねぇ。痒みを我慢しきれず貴婦人たちが木の棒なんかをドレスにもつけて歩いたのが300年ほど前だし。その当時なら疫病が蔓延したのなら牢ごと封鎖をしたんだろう。哀れだねぇ」


彼らの最後を知ったコレットはその記録書をケースに仕舞いこんだ。
保管庫の棚に仕舞い、鍵をかけると自分のデスクに荷物の入ったバッグを乗せる。

「おぉ、そろそろナイトが迎えに来る時間だな」
「就業時間はもう半刻過ぎていますけどね」
「大丈夫。その分は上乗せをしておくよ。おっと。これは私からの祝いの品だ」

ザワノーシ教授が取り出したのは「おくるみ」である。
最高級の綿を使用したもので、それなりのお値段がするそうだが競馬で万馬券を当てたのだそうだ。

「いやぁあの時、3番を6番にさらに倍に馬番をあげたのが功を奏したよ」
「競馬はダメですよ。ほどほどにしてくださいね」

大きなお腹を撫でながらコレットはザワノーシ教授に微笑んだ。
ガチャリと扉が開くとジークハルトが現れた。

「荷物、まとまったか?」
「はい。産休中も手当を出してくれるそうですよ」
「そうか。じゃぁ復帰するって事にしたのか?」
「えぇ。子供が生まれたらジークハルトのお給料だけじゃ心配だもの」

来月は臨月となるコレットは今日から産休に入るのだ。
荷物をジークハルトが抱えると、空いた手でコレットの手を握る。

「足元、ちゃんと見ろよ。また転ぶぞ」
「あの時はちょっとお腹が張ってしまっただけです。転んでません」
「はいはい。そう言う事にしておくよ」
「転んでないってば。お腹が張ると立ってると辛いだけなのっ」
「まぁまぁ、惚気はそれくらいにして。母子ともに健康、安産を願っているよ。復帰の日を楽しみにしているからね」


ザワノーシ教授に見送られて図書院に併設された研究室を出るとあの日のような真っ青な空が広がっていた。


「もうすぐ父親になるのかぁ。不思議な気持ちだな」
「そうですね。本当なら…この子は産まれなかったのに」
「コレットが時を飛び越えて来てくれたおかげだ」
「ふふっ。また飛んで行っちゃったらどうします?」
「俺の事を愛してるのに置いていくわけがないだろう?」


ジークハルト渾身のビッグマウスが炸裂した。

「男が良いなぁ…一緒に釣りをしたりオート三輪を解体したり組み立てたりするんだ」
「女の子だったらどうするんです?」
「決まってるだろ。嫁には出さない」
「まぁ…クスクス…」

仲良く手を繋ぎ、笑いながら帰途につく2人。
新しい家族が増えるのももう直ぐである。

祝福するように構内にある木々は風に葉を揺らした。


Fin
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