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VOL:11 ビアンカの叱責
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劇場の前でのサーシャはビアンカたちには作り笑いをしているように見えた。
令嬢らしからぬ舌打ちをしたのはエルサ。
泣き出し、取り乱したみっともない女を見て大笑いしようとしたのに当てが外れた。
その次もリヒトは勇んで出掛けたのにビアンカたちが陣取る席から見えた予約席は空席のまま。当日キャンセルの料金は一旦ビアンカが支払う事になったが、翌日リヒトは少し色を付けてビアンカに金を返すために「集う場」として用意した郊外の屋敷にやってきた。
持ち主はビアンカの父であるセニーゼン公爵だが、ビアンカがデヴュタントをした時に「友人たちの気のおけない茶会をしたい」と専用で使っている。
家を継ぐ長女には厳しい躾けをしたセニーゼン公爵も所詮は人の親。
妻に似た長女と違って、自身に似たビアンカの事は姉妹間で差をつけて可愛がっていた。と言っても溺愛ではなく家に残る長女と違っていずれは家を出ていくビアンカが娘でいる間だけの期間限定と口にするが「未来の事は判らない」と長女も父親のビアンカ贔屓には呆れていた。
そんな屋敷に訪れたリヒトにビアンカは容赦がない。
このメンバーの結成時、アベルとエルサもビアンカと同じ公爵家だったが同じ爵位でも優劣があり、家格はセニーゼン公爵家の方が上。現在は資金難からハゼーク家は侯爵家に格下げとなっている。
5人の関係はイーブンに見えてビアンカが仕切っていると言っても過言ではない。
「どういう事?勝手に予定を変えられたら困るんだけど?」
札を指で弾くように数えながらビアンカはリヒトに毒吐いた。
「すまない。一足遅かったようでもう帰宅した後だったんだ。声も掛けられなくてさ。一応探したんだ。そしたら遅くなってしまってレストランの予約時間を過ぎてたんだ」
ちゃんと役割を遂行しているか。監視役のような事をするのはフランクかリヒト。2人に都合がつかない時はアベルが行っていた。女性であるビアンカやエルサがすると高位貴族ゆえに狭い馬車は嫌だとごねるし、そんな馬車だとどうしても目立ってしまう。
今回はリヒトが当事者なのでフランクかアベルが監視をする筈だったが、フランクは父親に同行して領地に行くための準備で集まる事が出来ない。
アベルは屋敷には戻っているようだが連絡が一切ない。
リヒトはそれとなくエルサに聞いてみるかと思ったが、エルサの態度からやはり今日の返事も「知らない」だろうと見当をつけていた。
本当は誘えたけれど、こいつらに気づかれなくて良かったとフランクが動けなかった昨日はリヒトにとって不幸中の幸いだった。
――俺、今、こいつらって考えた?――
リヒトは仲間の事を蔑んたことはなかったが、改めてビアンカとエルサを見てみると身に纏っている衣類は確かに上質なもので、姿勢も綺麗なのだがリヒトには2人が騎士同士で行く安酒場にたむろする場末の娼婦と同じに見えた。
「仕方ないわね。アベルが途中で抜けるのは想定外だったけど…誘えたら連絡して。わたくしとエルサは来週からの茶会で小鹿の事を色々と吹き込んで来るわ」
「でもリヒトの相手なんだから、何もしなくても集中砲火浴びるんじゃないの?」
企むビアンカにエルサの疑問は当然のこと。
放っておいてもリヒトに声を掛けて来る令嬢は未だに後を絶たない。
中には一旦別れたかつての恋人も婚約者がいるくせに声を掛けてくる事もある。
ビアンカとエルサが悪意のある噂をわざわざ「伝聞」を装わなくてもリヒトが目をかけていると言うだけでサーシャはあっという間に囲まれて頭からワインを浴びるか、噴水で洗顔を強制される事だろう。
「それを阻んで小鹿の中で俺の評価をあげるのも必要なんだろう?気合入れて噂を広めてくれよ」
リヒトはそう言って2人を煽ると「任務中だから」と屋敷を後にした。
自分を基準にして物事を考えるのはビアンカとエルサの悪い癖だ。
目先の事を考えるビアンカとエルサには実のところ、男性陣のアベル、フランク、リヒトはどこか冷めた目で会話を続ける事も多い。
特にビアンカは筆頭公爵家の令嬢と言う事もあってヒエラルキーのトップ。
逆らう者や反論する者がいないので、常に自分の意見が優先されて当たり前だと思っている節がある。
エルサも元公爵令嬢の現侯爵令嬢だからか、肝心な所に気が付いてないとリヒトはほくそ笑んだ。
サーシャは貧乏なエトナ男爵家の娘。ビアンカたちが行くような茶会や夜会に出る事は稀であり、せっせと悪評を広げた所で当事者であるサーシャが茶会や夜会に出席すること自体が滅多にない。
今までリヒトが恋人にしてきたような暇を持て余し、悪口に生き甲斐を感じて強い者に同調している令嬢相手なら効果もあっただろうが、貴族令嬢という括りだけで物事を考えているので現実が見えていない。リヒトはそうタカを括り王宮までの道中で「勝手に気張ってろ」風に捨て台詞を預けた。
令嬢らしからぬ舌打ちをしたのはエルサ。
泣き出し、取り乱したみっともない女を見て大笑いしようとしたのに当てが外れた。
その次もリヒトは勇んで出掛けたのにビアンカたちが陣取る席から見えた予約席は空席のまま。当日キャンセルの料金は一旦ビアンカが支払う事になったが、翌日リヒトは少し色を付けてビアンカに金を返すために「集う場」として用意した郊外の屋敷にやってきた。
持ち主はビアンカの父であるセニーゼン公爵だが、ビアンカがデヴュタントをした時に「友人たちの気のおけない茶会をしたい」と専用で使っている。
家を継ぐ長女には厳しい躾けをしたセニーゼン公爵も所詮は人の親。
妻に似た長女と違って、自身に似たビアンカの事は姉妹間で差をつけて可愛がっていた。と言っても溺愛ではなく家に残る長女と違っていずれは家を出ていくビアンカが娘でいる間だけの期間限定と口にするが「未来の事は判らない」と長女も父親のビアンカ贔屓には呆れていた。
そんな屋敷に訪れたリヒトにビアンカは容赦がない。
このメンバーの結成時、アベルとエルサもビアンカと同じ公爵家だったが同じ爵位でも優劣があり、家格はセニーゼン公爵家の方が上。現在は資金難からハゼーク家は侯爵家に格下げとなっている。
5人の関係はイーブンに見えてビアンカが仕切っていると言っても過言ではない。
「どういう事?勝手に予定を変えられたら困るんだけど?」
札を指で弾くように数えながらビアンカはリヒトに毒吐いた。
「すまない。一足遅かったようでもう帰宅した後だったんだ。声も掛けられなくてさ。一応探したんだ。そしたら遅くなってしまってレストランの予約時間を過ぎてたんだ」
ちゃんと役割を遂行しているか。監視役のような事をするのはフランクかリヒト。2人に都合がつかない時はアベルが行っていた。女性であるビアンカやエルサがすると高位貴族ゆえに狭い馬車は嫌だとごねるし、そんな馬車だとどうしても目立ってしまう。
今回はリヒトが当事者なのでフランクかアベルが監視をする筈だったが、フランクは父親に同行して領地に行くための準備で集まる事が出来ない。
アベルは屋敷には戻っているようだが連絡が一切ない。
リヒトはそれとなくエルサに聞いてみるかと思ったが、エルサの態度からやはり今日の返事も「知らない」だろうと見当をつけていた。
本当は誘えたけれど、こいつらに気づかれなくて良かったとフランクが動けなかった昨日はリヒトにとって不幸中の幸いだった。
――俺、今、こいつらって考えた?――
リヒトは仲間の事を蔑んたことはなかったが、改めてビアンカとエルサを見てみると身に纏っている衣類は確かに上質なもので、姿勢も綺麗なのだがリヒトには2人が騎士同士で行く安酒場にたむろする場末の娼婦と同じに見えた。
「仕方ないわね。アベルが途中で抜けるのは想定外だったけど…誘えたら連絡して。わたくしとエルサは来週からの茶会で小鹿の事を色々と吹き込んで来るわ」
「でもリヒトの相手なんだから、何もしなくても集中砲火浴びるんじゃないの?」
企むビアンカにエルサの疑問は当然のこと。
放っておいてもリヒトに声を掛けて来る令嬢は未だに後を絶たない。
中には一旦別れたかつての恋人も婚約者がいるくせに声を掛けてくる事もある。
ビアンカとエルサが悪意のある噂をわざわざ「伝聞」を装わなくてもリヒトが目をかけていると言うだけでサーシャはあっという間に囲まれて頭からワインを浴びるか、噴水で洗顔を強制される事だろう。
「それを阻んで小鹿の中で俺の評価をあげるのも必要なんだろう?気合入れて噂を広めてくれよ」
リヒトはそう言って2人を煽ると「任務中だから」と屋敷を後にした。
自分を基準にして物事を考えるのはビアンカとエルサの悪い癖だ。
目先の事を考えるビアンカとエルサには実のところ、男性陣のアベル、フランク、リヒトはどこか冷めた目で会話を続ける事も多い。
特にビアンカは筆頭公爵家の令嬢と言う事もあってヒエラルキーのトップ。
逆らう者や反論する者がいないので、常に自分の意見が優先されて当たり前だと思っている節がある。
エルサも元公爵令嬢の現侯爵令嬢だからか、肝心な所に気が付いてないとリヒトはほくそ笑んだ。
サーシャは貧乏なエトナ男爵家の娘。ビアンカたちが行くような茶会や夜会に出る事は稀であり、せっせと悪評を広げた所で当事者であるサーシャが茶会や夜会に出席すること自体が滅多にない。
今までリヒトが恋人にしてきたような暇を持て余し、悪口に生き甲斐を感じて強い者に同調している令嬢相手なら効果もあっただろうが、貴族令嬢という括りだけで物事を考えているので現実が見えていない。リヒトはそうタカを括り王宮までの道中で「勝手に気張ってろ」風に捨て台詞を預けた。
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