3 / 27
序章
3・伯爵家の夜会
しおりを挟む
ビボル男爵家は猫の額ほどの小さな領地を所有する貧乏貴族だった。
数代前の当主が剣術大会で平民と言う身分にも関わらず騎士団長すら打ち破って下馬評を覆し優勝をした。その時に、アッパレと国王から男爵位を賜ったのが始まりである。
平民であれば裕福とまでは言わなくても困窮する生活はしなくて済んだだろう。
爵位があるばかりに、張らなくていい見栄も張らねばならず教会への寄付も必須。
困っている者がいれば助けてやらねばならず、ビボル男爵は子には爵位を継がせず返上しようとさえ考えていた。
それでも子供には少しでも良いところに嫁がせてやりたいのは親心である。
ビボル男爵は「相手を探して来い」と無理をして参加費用を工面し、伯爵家の夜会に子供たちを参加させた。カリスの下には弟妹が1人づつ。
息子には自分の服を手直しして用意をしたものの、娘2人のドレスは用意できなかった。
ワンピースで参加をした娘2人は家の事情も判っているので文句は言わなかった。
しかし、周囲の考えや常識、マナーは違う。ワンピースで出向いた娘2人はドレスコードを知らないのかと会場に入れてもらえず、揉めてしまった。
主催者の伯爵に用があり、偶然通りかかった第一王子のアレコスがその場を収めた。
一先ず控室に通されたが、泣きじゃくる妹を宥めるので精一杯のカリス。
疫病で半年前には妹の王女を亡くし、そして10日ほど前には弟の王子が床に伏せった。
アレコスはエカテリニの兄の補助をして比較的感染者が少なく、病状も軽い者が多い地域を回っていた。
身分を伏せている事もあってか、カリスは疫病対策を本気で取り組んでほしいと鼻息荒くアレコスに語った。アレコスの隣で伯爵は苦笑した。
カリスが語ったのは、疫病で父親の仕事が減ってしまい困っている。末端の貴族に対して優遇や支給金を給付して欲しいという全体を見たものではなく、身の回りの事ばかりだった。
「では、市井を君が案内をしてくれないだろうか」
アレコスも思うところはあったのだ。
視察に行っても清掃をされた場所を回り、トラブルもなく時間通りに終わる。
これが本当の姿なのだろうか。それでいいのだろうかと。
後に立つ従者が渋い顔をして小さく首を横に振るのをアレコスは見ないふりをして、王都近郊を視察する日をカリスに告げた。
4、5回目までは視察と言えば視察と言えなくもない内容だった。
事前に連絡もなく突然第一王子が救護院や孤児院、教会を訪れるのだ。
アレコスの感じていた「本当の姿」が見られる救護院もあったのも事実。
しかし回を重ねていくと、それは視察という名目のデートでしかなくなった。
人目を凌ぐようになり、遂には従者も外に待たせてアレコスはカリスの家に出入りをするようになった。
「高位貴族の…ご子息様かと思ってたわ」
「黙っていてすまない。身分で見て欲しくなかったんだ」
「でも、王子殿下だったなんて…私、失礼な事ばかり!ごめんなさい」
「やめてくれ。カリスには私と言う人間を見て欲しいんだ」
誰にも言えない関係は背徳感もあって、アレコスは溺れていく。
知られていない筈などない。アレコスはカリスに溺れ当たり前のことも見えなくなっていた。当然2人の関係は王家にも知らされ、エカテリニの耳にも情報はもたらされた。
「申し訳ない。厳しく叱り…再教育も必要だな」
「陛下、それには及びません」
「なんと!このままで良いと申すのか?」
「今、引き離せば恋に焦がれている2人は余計に燃え上るでしょう。そうなった時の方が手に負えません。恋の熱は何時かは冷めるもの。己の立場を理解するのであれば問題御座いません。知らぬが仏、見ぬは極楽とこちらも若気の至りと思えばよいかと」
「そうならなかったらどうする」
「それが判らぬ者ならその行く末は陛下もご存じで御座いましょう?特に国を統べるものが惚れた腫れたとなれば。頭のすげ替えは何時でも出来るのですから」
エカテリニは国王と王妃に薄く微笑んだ。
数代前の当主が剣術大会で平民と言う身分にも関わらず騎士団長すら打ち破って下馬評を覆し優勝をした。その時に、アッパレと国王から男爵位を賜ったのが始まりである。
平民であれば裕福とまでは言わなくても困窮する生活はしなくて済んだだろう。
爵位があるばかりに、張らなくていい見栄も張らねばならず教会への寄付も必須。
困っている者がいれば助けてやらねばならず、ビボル男爵は子には爵位を継がせず返上しようとさえ考えていた。
それでも子供には少しでも良いところに嫁がせてやりたいのは親心である。
ビボル男爵は「相手を探して来い」と無理をして参加費用を工面し、伯爵家の夜会に子供たちを参加させた。カリスの下には弟妹が1人づつ。
息子には自分の服を手直しして用意をしたものの、娘2人のドレスは用意できなかった。
ワンピースで参加をした娘2人は家の事情も判っているので文句は言わなかった。
しかし、周囲の考えや常識、マナーは違う。ワンピースで出向いた娘2人はドレスコードを知らないのかと会場に入れてもらえず、揉めてしまった。
主催者の伯爵に用があり、偶然通りかかった第一王子のアレコスがその場を収めた。
一先ず控室に通されたが、泣きじゃくる妹を宥めるので精一杯のカリス。
疫病で半年前には妹の王女を亡くし、そして10日ほど前には弟の王子が床に伏せった。
アレコスはエカテリニの兄の補助をして比較的感染者が少なく、病状も軽い者が多い地域を回っていた。
身分を伏せている事もあってか、カリスは疫病対策を本気で取り組んでほしいと鼻息荒くアレコスに語った。アレコスの隣で伯爵は苦笑した。
カリスが語ったのは、疫病で父親の仕事が減ってしまい困っている。末端の貴族に対して優遇や支給金を給付して欲しいという全体を見たものではなく、身の回りの事ばかりだった。
「では、市井を君が案内をしてくれないだろうか」
アレコスも思うところはあったのだ。
視察に行っても清掃をされた場所を回り、トラブルもなく時間通りに終わる。
これが本当の姿なのだろうか。それでいいのだろうかと。
後に立つ従者が渋い顔をして小さく首を横に振るのをアレコスは見ないふりをして、王都近郊を視察する日をカリスに告げた。
4、5回目までは視察と言えば視察と言えなくもない内容だった。
事前に連絡もなく突然第一王子が救護院や孤児院、教会を訪れるのだ。
アレコスの感じていた「本当の姿」が見られる救護院もあったのも事実。
しかし回を重ねていくと、それは視察という名目のデートでしかなくなった。
人目を凌ぐようになり、遂には従者も外に待たせてアレコスはカリスの家に出入りをするようになった。
「高位貴族の…ご子息様かと思ってたわ」
「黙っていてすまない。身分で見て欲しくなかったんだ」
「でも、王子殿下だったなんて…私、失礼な事ばかり!ごめんなさい」
「やめてくれ。カリスには私と言う人間を見て欲しいんだ」
誰にも言えない関係は背徳感もあって、アレコスは溺れていく。
知られていない筈などない。アレコスはカリスに溺れ当たり前のことも見えなくなっていた。当然2人の関係は王家にも知らされ、エカテリニの耳にも情報はもたらされた。
「申し訳ない。厳しく叱り…再教育も必要だな」
「陛下、それには及びません」
「なんと!このままで良いと申すのか?」
「今、引き離せば恋に焦がれている2人は余計に燃え上るでしょう。そうなった時の方が手に負えません。恋の熱は何時かは冷めるもの。己の立場を理解するのであれば問題御座いません。知らぬが仏、見ぬは極楽とこちらも若気の至りと思えばよいかと」
「そうならなかったらどうする」
「それが判らぬ者ならその行く末は陛下もご存じで御座いましょう?特に国を統べるものが惚れた腫れたとなれば。頭のすげ替えは何時でも出来るのですから」
エカテリニは国王と王妃に薄く微笑んだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
948
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる