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30:☆備蓄食料の期限
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大きな袋の中を覗き込むロランド様。
何をされているのかと言うと【備蓄食料の目視点検】なのだそうです。
肝心な時に食べられなかったら意味がないと、気が向いたら点検をしているのだと言います。
――気が向いたらって、どうなの?――
私、多くを深く考えるのを放棄してしまう最近の悪い癖が出ました。
確かに住んでいたやまめ荘でも、防災の日に合わせて大家さんが備蓄食料の入れ替えをしていたのを見た事があります。
『そこのお水!ここに並べて頂戴』
『大家さん、このお水。消費期限が切れていますけど』
『大丈夫よ。開封していないからまだイケる!って店員さんが言ってたもの。入れ替えるお水なら1本50円で売ってあげるわよ?』
『そっちは4年前に期限切れって書いてますけど』
『開封してないから大丈夫よ。未開封と冷蔵庫、冷凍庫保管は半永久的よ』
絶対に違うと思いますけどね。
80歳を超えていた大家さん。冷蔵庫には絶対の信頼を置いているのですが、時々ゴミの日に新聞紙に包んで捨てているのを知っておりました。
【元は何なのか判別不能の液体になった野菜】
【固形となったお寿司についてる四角いワサビ】
【冷凍焼けに冷凍を重ね、レジ袋を食い込むように挟んたかつての肉】
防災用の備蓄食料入れ替えにあわせて、他の地区の備蓄放出祭りIN半額セールで買っていた事実を目の当たりにした日。【これって二次災害なんじゃ?】と思ってしまったのは内緒でした。
住み込みから一人暮らしをするにあたり、6帖の洋間と3帖の台所、床が湿気で抜けているので中棚から上しか使えない押し入れ。最寄駅から徒歩35分。トイレとお風呂は別!という言葉とお家賃が毎月2万8千円だったので契約をしたのです。
お隣さんに【若いのに気にならないなんて変わってるね】と言われたのですが、施設ではトイレもお風呂も共同でしたし、住み込みで働いた2年間はユニットのお風呂と一緒の空間にあるトイレ。カーテンで仕切るのに比べれば別にあるのは有難かったのです。
共同だからと言って何の不便も感じません。
私としては、小さくても【台所】がすぐそこにある!という事実の方が斬新でした。
一般の方は【お風呂・トイレ別】と言うのは空間そのものが【別】なのだそう。
どんな広い豪邸に住んでいるのかしら。
ちなみにあの彼の部屋。トイレは扉が開かなかったですしお風呂もペットボトルで埋め尽くされていました。ほぼ1年をかけてゴミで埋もれた部屋を回収日に合わせてゴミ出しをして掃除をしたのです。
変色したり、浮遊感を感じる床になってしまった部分もありましたが、いつ管理会社が来てもテレビのある部屋まで案内できるように片付けたのですが、ゴミではなく女性を引っ張り込むようになってしまった彼。
【最後の一仕事】と思っていたお風呂とトイレでしたが、不便を感じないほどに愛し合っていたんでしょうね。掃除しなきゃ使えない!と思った私とは、今まさに生きる世界が違うようになってしまいました。
長く思い出してしまいましたが、ロランド様はごそごそと袋の中から何かを探しています。
「これはダメだ…あぁこれも!これもだ!全然ダメだ」
「何を探しているんですか?」
「甘いやつ」
「甘いやつ?なんですか?」
「おぉぉ!!あった!あったぞ!」
袋から顔を出すと、凄く嬉しそうな顔で大きな指に何かを持っています。
「それは何ですか?」
「栗だ。栗!この実を取った木はいつも口当たりのいい実をつけるんだ」
通常、口当たりの良いとなるとペースト状になっていたり、クリーム状だったり滑らかさを感じるのですけど、目の前に差し出された栗はどう見ても拾っただけの、湯なんか知らない無垢な栗なので剝かれていません。
「食うか?良い感じに実が締ってるはずだ」
――締ってるって…魚とかの身じゃなくて?――
渋皮すらギュッと凝縮された形になっている栗。
ロランド様は言うのです。
「自然派の食料だ」
――派はいらないのでは?自然の食料で間違いないですし――
その後も出てくるシイの実やドングリ。乾燥シイタケかと思ったらヒラタケが本当に3、4年の年月をかけて乾燥せざるを得なかった残骸まで出てきます。
「袋の中も掃除しなくちゃいけないなぁ」
「いつもはどうしてるんですか?」
「見つけたら入れる。腹が減ったら適当に手を入れて掴んだ物を食う」
だから底に行けば行くほど、「実の締った」モノになって行くのでしょう。
探していた栗は昨年拾ったものだそうで、実はとても甘くてホロホロしていたと言います。
但し、生 ですが。
よくお腹を壊さなかったものです。
ロランド様は服でゴシゴシと栗の汚れを取ると、私に手渡します。
「虫食いじゃないから。剥いてみ?」
――無理です。生栗を剥けるような爪も指先の力もありません――
「残ったら勿体ないし…マリィの食べかけなら大好物だから」
――出された食事は残しませんけどね?――
「旨いぞ?これなんか見てみろ。これだけ虫が食ってる栗なんか見た事ないぞ」
パッと手で強引に割った栗を見せてくれますが、一言で言うなら「食べる前に見せるな」です。
その昔、聞いた事のある【空耳アワー】の延長戦にあった日常会話。
『ホッタイモイジルナ』(掘った芋、弄るな→今何時の英語)と得意気に言いまわるクラスメイトの男子が目の前を駆け抜けていきました。
「マリィは小食だからなぁ。仕方ない、食後に俺が食うか。よく考えたらマリィに新鮮な食材以外なんて許せなくなってきた」
――そうめんは大古物が好きですけど?――
その日の夕食。
美味しそうに何も手を加えていないあの栗をロランド様は美味しそうに皮も剥かず、頬張っておられましたが、いつもより食後のミルクに入れる蜂蜜が多かったのは想像以上に渋かったのかも知れません。
何をされているのかと言うと【備蓄食料の目視点検】なのだそうです。
肝心な時に食べられなかったら意味がないと、気が向いたら点検をしているのだと言います。
――気が向いたらって、どうなの?――
私、多くを深く考えるのを放棄してしまう最近の悪い癖が出ました。
確かに住んでいたやまめ荘でも、防災の日に合わせて大家さんが備蓄食料の入れ替えをしていたのを見た事があります。
『そこのお水!ここに並べて頂戴』
『大家さん、このお水。消費期限が切れていますけど』
『大丈夫よ。開封していないからまだイケる!って店員さんが言ってたもの。入れ替えるお水なら1本50円で売ってあげるわよ?』
『そっちは4年前に期限切れって書いてますけど』
『開封してないから大丈夫よ。未開封と冷蔵庫、冷凍庫保管は半永久的よ』
絶対に違うと思いますけどね。
80歳を超えていた大家さん。冷蔵庫には絶対の信頼を置いているのですが、時々ゴミの日に新聞紙に包んで捨てているのを知っておりました。
【元は何なのか判別不能の液体になった野菜】
【固形となったお寿司についてる四角いワサビ】
【冷凍焼けに冷凍を重ね、レジ袋を食い込むように挟んたかつての肉】
防災用の備蓄食料入れ替えにあわせて、他の地区の備蓄放出祭りIN半額セールで買っていた事実を目の当たりにした日。【これって二次災害なんじゃ?】と思ってしまったのは内緒でした。
住み込みから一人暮らしをするにあたり、6帖の洋間と3帖の台所、床が湿気で抜けているので中棚から上しか使えない押し入れ。最寄駅から徒歩35分。トイレとお風呂は別!という言葉とお家賃が毎月2万8千円だったので契約をしたのです。
お隣さんに【若いのに気にならないなんて変わってるね】と言われたのですが、施設ではトイレもお風呂も共同でしたし、住み込みで働いた2年間はユニットのお風呂と一緒の空間にあるトイレ。カーテンで仕切るのに比べれば別にあるのは有難かったのです。
共同だからと言って何の不便も感じません。
私としては、小さくても【台所】がすぐそこにある!という事実の方が斬新でした。
一般の方は【お風呂・トイレ別】と言うのは空間そのものが【別】なのだそう。
どんな広い豪邸に住んでいるのかしら。
ちなみにあの彼の部屋。トイレは扉が開かなかったですしお風呂もペットボトルで埋め尽くされていました。ほぼ1年をかけてゴミで埋もれた部屋を回収日に合わせてゴミ出しをして掃除をしたのです。
変色したり、浮遊感を感じる床になってしまった部分もありましたが、いつ管理会社が来てもテレビのある部屋まで案内できるように片付けたのですが、ゴミではなく女性を引っ張り込むようになってしまった彼。
【最後の一仕事】と思っていたお風呂とトイレでしたが、不便を感じないほどに愛し合っていたんでしょうね。掃除しなきゃ使えない!と思った私とは、今まさに生きる世界が違うようになってしまいました。
長く思い出してしまいましたが、ロランド様はごそごそと袋の中から何かを探しています。
「これはダメだ…あぁこれも!これもだ!全然ダメだ」
「何を探しているんですか?」
「甘いやつ」
「甘いやつ?なんですか?」
「おぉぉ!!あった!あったぞ!」
袋から顔を出すと、凄く嬉しそうな顔で大きな指に何かを持っています。
「それは何ですか?」
「栗だ。栗!この実を取った木はいつも口当たりのいい実をつけるんだ」
通常、口当たりの良いとなるとペースト状になっていたり、クリーム状だったり滑らかさを感じるのですけど、目の前に差し出された栗はどう見ても拾っただけの、湯なんか知らない無垢な栗なので剝かれていません。
「食うか?良い感じに実が締ってるはずだ」
――締ってるって…魚とかの身じゃなくて?――
渋皮すらギュッと凝縮された形になっている栗。
ロランド様は言うのです。
「自然派の食料だ」
――派はいらないのでは?自然の食料で間違いないですし――
その後も出てくるシイの実やドングリ。乾燥シイタケかと思ったらヒラタケが本当に3、4年の年月をかけて乾燥せざるを得なかった残骸まで出てきます。
「袋の中も掃除しなくちゃいけないなぁ」
「いつもはどうしてるんですか?」
「見つけたら入れる。腹が減ったら適当に手を入れて掴んだ物を食う」
だから底に行けば行くほど、「実の締った」モノになって行くのでしょう。
探していた栗は昨年拾ったものだそうで、実はとても甘くてホロホロしていたと言います。
但し、生 ですが。
よくお腹を壊さなかったものです。
ロランド様は服でゴシゴシと栗の汚れを取ると、私に手渡します。
「虫食いじゃないから。剥いてみ?」
――無理です。生栗を剥けるような爪も指先の力もありません――
「残ったら勿体ないし…マリィの食べかけなら大好物だから」
――出された食事は残しませんけどね?――
「旨いぞ?これなんか見てみろ。これだけ虫が食ってる栗なんか見た事ないぞ」
パッと手で強引に割った栗を見せてくれますが、一言で言うなら「食べる前に見せるな」です。
その昔、聞いた事のある【空耳アワー】の延長戦にあった日常会話。
『ホッタイモイジルナ』(掘った芋、弄るな→今何時の英語)と得意気に言いまわるクラスメイトの男子が目の前を駆け抜けていきました。
「マリィは小食だからなぁ。仕方ない、食後に俺が食うか。よく考えたらマリィに新鮮な食材以外なんて許せなくなってきた」
――そうめんは大古物が好きですけど?――
その日の夕食。
美味しそうに何も手を加えていないあの栗をロランド様は美味しそうに皮も剥かず、頬張っておられましたが、いつもより食後のミルクに入れる蜂蜜が多かったのは想像以上に渋かったのかも知れません。
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