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ドリスは追い払う
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今日もドリスとタッグを組んだ女性5人衆は朝から忙しい。
シャルノーの懐妊はまだ安定期ではない事から様子を見てくれと言ってあったにも関わらず、どこからか洩れて市井の民が知る所となった。
民が知っていて貴族が知らないはずがない。
ドリス達が忙しいのは、それまで第一王子、第二王子派だった貴族も手を揉み合わせて贈り物を持って来るのだ。樽を転がして運んでくる水が今までとは比べ物にならないほど新鮮で薬以上の効能があるとの噂も立つようになったため、貴族たちはここは風を見極める場だとばかりに押し寄せる。
第一王子にも第二王子にも子はいない。懐妊の兆しは全くないのだ。
肉欲のある豊満な体つきの2人の王子妃だが、夫の王子とは寝室は別。双方とも父親から厳命をされているのだ。娘は王家の血は入っていないが、その子供となれば違う。
部族の主だとはいえ、娘同様に孫も可愛い。しかし娘と違って孫は王家の人間でもある。孫を使って水についての利権にとやかく口を出されたくはないのだ。
その為に2人の王子妃は避妊をする事を欠かしたことはない。
眩暈を我慢し、体調が不調であっても王子妃の月のものにあわせた房事をこなしていた王子は事実をしって王子妃と並んで寝る事は無くなった。
王子とて人間である。心に思う人は居たが国の為に部族の娘を娶ったのだ。
務めを果たそうとしても相手が避妊をするのなら無理強いは出来ないからである。
しかしここにきて潮目が変わった。シャルノーの懐妊である。
3人の王子で末っ子のチェザーレがまず父親になる。若いのだから次も望める。人々は勝手な事を口にする。それがまた2人の王子妃の癪に障るのだ。
シャルノーの離宮には差出人不明の荷物も多く届けられる。
全てドリス達が誰から、いつ送られてきたのか、そして開封し中身を確認して台帳を作っていく。喜ばしいことなのに、全ての人間が喜んでくれるわけではない事は贈り物でわかる。
ムカデの詰め合わせが届いた事もあるし、毒キノコの詰め合わせが届いた事もある。
古代文字で書かれたような呪詛のような手紙が本のような厚さで届いた事もある。遂には女性が王宮の正門の前で、「私のお腹には第三王子の子がいるのに!」と叫ぶ女性も出て来た。
上の2人の王子にオメデタの知らせは流れない。種なしなのであれば子が出来たと名乗り出る事で托卵を疑われてしまうが、種がある王子なら別だ。
男なら冒険の一つや二つと信じたものがそうやって門の前で叫ぶのだ。
「申し訳ございません。まだ安静中ですのでお引き取りを」
「どうして?私の孫なの。侍女如きのお前に指図される覚えはない!」
離宮にやってきたチェザーレの母の側妃はドリスに嚙みついた。
「そうで御座いますか。では、ここまでの道のりに何か仰りたい事は?」
「と、遠いわね…こんなのは王宮に住まえば解決する事よ。それに何?2人の王子よりも早く子が出来た我が子チェーザレがこんな狭くて小さな屋敷だなんてあり得ないわ」
「この屋敷は、あなた方王家から住まうようにと賜ったものですが?」
「それは私とは無関係。あの2人の勝手にした事だもの。もうね、心が苦しくて仕方なかったのよ?」
およよと体をしならせて側妃は泣き真似をするがドリスには通用しない。
「苦しいのは心ではなく、締め付けた胴体と財布、そして言い訳でしょう?兎に角お引き取りを。お引き取り頂けないのならこちらもこれまでの所業を国に報告をせねばなりません。今までイーストノア王国から何も言ってきていないのは姫様の温情です。ですが今は大事な体。その体を守るためなら――」
「わ、わかったわ。今日は帰る。でもわたくしが一番心配して心を痛めていた事は伝えておいてね?いい?」
「痛い人だと伝えておきます」
国王も王妃もやって来る。そしてあの小道の整備を勝手に突然始めたりと忙しいのだ。
整備をされてしまった事で、面倒な来客もある。今日もドリス達は忙しいのだ。
そんな中、バシャバシャと朝から水を浴びているのはチェザーレである。
子が出来たと判った以上、そのままにしてはおけない。
ドリスはチェザーレにもついに離宮の湯殿を使う事を許可した。
だが、元々サウスノア王国は水が貴重なために入浴する習慣がない。
習慣はないが、香水で誤魔化しきれないと判断した時だけ腐った水を沸かして国王夫妻は湯殿を利用する。湯なのか香油なのか判らない入浴が行われるのは、他国の王族、皇族や重要人物と会う時だけだ。
「兎に角ね、あなたは臭いんです。汚いんです。ゲスいんです」
「酷い言われようだな」
「事実を申しただけです。姫様に近づきたい、声を聞きたい、顔を見たいのなら清潔にして頂きます」
「清潔って。俺は清潔だ。今日も香水はふったし昨夜は爪も切った」
かの日、シャルノーがキャシーたちを見たようにドリスも鼻を抓んでチェザーレを至近距離で確認する。
「熱湯風呂でいいんじゃないかしら。温度は沸騰する温度で」
「そんな湯に触れたら火傷するだろうが!」
「垢が溶かされて火傷どころか…湯の方が腐った火傷ですわ」
「貴様ぁ…侍女の分際でぇ!」
「たかが夫の癖に。そこへ数か月で家族面すんじゃないわよ。こちとら22年、姫様を見守ってきたんだからねッ」
そうやって磨き上げられる事、2カ月。
シャルノーのお腹が少しだけポコっと出た頃、やっと無理のない範囲で動いていいとのお許しが出た事からチェザーレはシャルノーの部屋を訪れた。
「シャル‥‥」
「55、56、57っ…ハァハァ…58ッ」
バササーっと名前を考えた書類が床に散らばる。
チェザーレの目の前にはどうやってそこまで?!と聞きたくなるような場所、天井の飾り縁に指をかけて懸垂をしているシャルノーがいたのだった。
シャルノーの懐妊はまだ安定期ではない事から様子を見てくれと言ってあったにも関わらず、どこからか洩れて市井の民が知る所となった。
民が知っていて貴族が知らないはずがない。
ドリス達が忙しいのは、それまで第一王子、第二王子派だった貴族も手を揉み合わせて贈り物を持って来るのだ。樽を転がして運んでくる水が今までとは比べ物にならないほど新鮮で薬以上の効能があるとの噂も立つようになったため、貴族たちはここは風を見極める場だとばかりに押し寄せる。
第一王子にも第二王子にも子はいない。懐妊の兆しは全くないのだ。
肉欲のある豊満な体つきの2人の王子妃だが、夫の王子とは寝室は別。双方とも父親から厳命をされているのだ。娘は王家の血は入っていないが、その子供となれば違う。
部族の主だとはいえ、娘同様に孫も可愛い。しかし娘と違って孫は王家の人間でもある。孫を使って水についての利権にとやかく口を出されたくはないのだ。
その為に2人の王子妃は避妊をする事を欠かしたことはない。
眩暈を我慢し、体調が不調であっても王子妃の月のものにあわせた房事をこなしていた王子は事実をしって王子妃と並んで寝る事は無くなった。
王子とて人間である。心に思う人は居たが国の為に部族の娘を娶ったのだ。
務めを果たそうとしても相手が避妊をするのなら無理強いは出来ないからである。
しかしここにきて潮目が変わった。シャルノーの懐妊である。
3人の王子で末っ子のチェザーレがまず父親になる。若いのだから次も望める。人々は勝手な事を口にする。それがまた2人の王子妃の癪に障るのだ。
シャルノーの離宮には差出人不明の荷物も多く届けられる。
全てドリス達が誰から、いつ送られてきたのか、そして開封し中身を確認して台帳を作っていく。喜ばしいことなのに、全ての人間が喜んでくれるわけではない事は贈り物でわかる。
ムカデの詰め合わせが届いた事もあるし、毒キノコの詰め合わせが届いた事もある。
古代文字で書かれたような呪詛のような手紙が本のような厚さで届いた事もある。遂には女性が王宮の正門の前で、「私のお腹には第三王子の子がいるのに!」と叫ぶ女性も出て来た。
上の2人の王子にオメデタの知らせは流れない。種なしなのであれば子が出来たと名乗り出る事で托卵を疑われてしまうが、種がある王子なら別だ。
男なら冒険の一つや二つと信じたものがそうやって門の前で叫ぶのだ。
「申し訳ございません。まだ安静中ですのでお引き取りを」
「どうして?私の孫なの。侍女如きのお前に指図される覚えはない!」
離宮にやってきたチェザーレの母の側妃はドリスに嚙みついた。
「そうで御座いますか。では、ここまでの道のりに何か仰りたい事は?」
「と、遠いわね…こんなのは王宮に住まえば解決する事よ。それに何?2人の王子よりも早く子が出来た我が子チェーザレがこんな狭くて小さな屋敷だなんてあり得ないわ」
「この屋敷は、あなた方王家から住まうようにと賜ったものですが?」
「それは私とは無関係。あの2人の勝手にした事だもの。もうね、心が苦しくて仕方なかったのよ?」
およよと体をしならせて側妃は泣き真似をするがドリスには通用しない。
「苦しいのは心ではなく、締め付けた胴体と財布、そして言い訳でしょう?兎に角お引き取りを。お引き取り頂けないのならこちらもこれまでの所業を国に報告をせねばなりません。今までイーストノア王国から何も言ってきていないのは姫様の温情です。ですが今は大事な体。その体を守るためなら――」
「わ、わかったわ。今日は帰る。でもわたくしが一番心配して心を痛めていた事は伝えておいてね?いい?」
「痛い人だと伝えておきます」
国王も王妃もやって来る。そしてあの小道の整備を勝手に突然始めたりと忙しいのだ。
整備をされてしまった事で、面倒な来客もある。今日もドリス達は忙しいのだ。
そんな中、バシャバシャと朝から水を浴びているのはチェザーレである。
子が出来たと判った以上、そのままにしてはおけない。
ドリスはチェザーレにもついに離宮の湯殿を使う事を許可した。
だが、元々サウスノア王国は水が貴重なために入浴する習慣がない。
習慣はないが、香水で誤魔化しきれないと判断した時だけ腐った水を沸かして国王夫妻は湯殿を利用する。湯なのか香油なのか判らない入浴が行われるのは、他国の王族、皇族や重要人物と会う時だけだ。
「兎に角ね、あなたは臭いんです。汚いんです。ゲスいんです」
「酷い言われようだな」
「事実を申しただけです。姫様に近づきたい、声を聞きたい、顔を見たいのなら清潔にして頂きます」
「清潔って。俺は清潔だ。今日も香水はふったし昨夜は爪も切った」
かの日、シャルノーがキャシーたちを見たようにドリスも鼻を抓んでチェザーレを至近距離で確認する。
「熱湯風呂でいいんじゃないかしら。温度は沸騰する温度で」
「そんな湯に触れたら火傷するだろうが!」
「垢が溶かされて火傷どころか…湯の方が腐った火傷ですわ」
「貴様ぁ…侍女の分際でぇ!」
「たかが夫の癖に。そこへ数か月で家族面すんじゃないわよ。こちとら22年、姫様を見守ってきたんだからねッ」
そうやって磨き上げられる事、2カ月。
シャルノーのお腹が少しだけポコっと出た頃、やっと無理のない範囲で動いていいとのお許しが出た事からチェザーレはシャルノーの部屋を訪れた。
「シャル‥‥」
「55、56、57っ…ハァハァ…58ッ」
バササーっと名前を考えた書類が床に散らばる。
チェザーレの目の前にはどうやってそこまで?!と聞きたくなるような場所、天井の飾り縁に指をかけて懸垂をしているシャルノーがいたのだった。
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