王子妃シャルノーの憂鬱

cyaru

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最終話☆夫婦の形

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王宮内は騒がしい。チェザーレと共に捕縛されたアダルシアとヴィアナはてっきり尋問をされるのかと思いきや、広い広間に通されると同時に両脇に兵士はいるものの拘束は解かれた。

アダルシアはそこが謁見の間である事は知っているが、ヴィアナは知らない。
王子妃教育をしていたとはいえ、王宮内の全ての部屋を見て回れるわけではないし、ごく一部の限られた者しか使用できない部屋は王子の婚約者という立場では入室も、開いた扉から覗く事も禁じられていた。

しばらく待たされるが、人の声がし始めると数人の男性が部屋に入って来た。

「お父様!」

オリオス伯爵を見たヴィアナは叫んだがオリオス伯爵は聞こえないふりをした。
入って来たのはオリオス伯爵だけではない。ぞろぞろと年老いた者から若い者まで夜の時間帯だと言うのに呼び出しに馳せ参じた者が続々と正装をして入室してきた。

「なんなの…」

呟くヴィアナに隣のアダルシアは小さく答えた。

「ここは謁見の間。間もなく国王陛下の謁見が始まるわ」
「え、謁見…」

小さな声も離れている筈の者達には聞こえているのか、ヴィアナは睨まれている気がした。
父の伯爵がいる場所は数人の塊になっており、爵位ごとに並んでいる訳ではないのだと感じると急に怖くなってきてしまった。


「国王陛下、王妃殿下、参られました」

従者の声に一斉して臣下の礼を取る。ザっと短く響いた音が消えた後、壇上に国王、王妃が現れ玉座に腰を下ろした。

「アダルシア。前に」

ヴィアナの隣からアダルシアが静かに前に向かって歩き出す。衣擦れの音が止まるとアダルシアはカーテシーを取った。

「申し開く事はあるか」
「御座いません。御座いませんが、聞いて頂きたい事が御座います」
「構わぬ。申してみよ」
「ありがとうございます」

アダルシアは深く頭を下げ、それを起こすと同時に右後方から右前方へ、左後方から左前方へ両脇に並ぶ貴族の顔をゆっくりとみた。

「我が部族の住まう地から汲み上げ、運んだ水。全ては支流の水では御座いません」
「どこの水だと言うのだ」

「我が部族の住む集落には確かに生活に使える水は御座います。ですが王都に運べるほどの量はなく3分の1ほどを取水しましたら運び出します。王都に向かう経路にあるオリオス伯爵領にて地下水を汲み上げ、それを足して王都まで運んでおりました。ただこの地下水は廃坑になった坑道に繋がる水脈の水。死の川の水のように飲めばすぐに症状が出る物ではなかったためです」

「では、オリオス伯爵領の地下水がほとんどであったと言う事か」

「はい。但し直接見た訳では御座いません。部族長である父が登城した際にわたくしに語った事。父は王家を国を謀りました。オリオス伯爵家が街道の整備をさせなかった理由はそこに御座います。お調べくださいませ」

「嘘だ!何を言い出すかと思えば!罪を軽くしようと我が伯爵家を巻き込むなど!陛下!卑しい部族の人間の言う事など信用してはなりません!」

オリオス伯爵は唾を飛ばしながらアダルシアと陛下の中間に飛び出した。
ヴィアナはそう言う事かと妙に納得をした。幼い頃からだが伯爵領に行くと立ち寄る事すら許されない区域があった。そこには珍しい花が咲いていて摘んだ花を見せた時に恐ろしい形相の父に聞かれたのだ。【何を見たのだ】と。

パンパンパン!手を打ち鳴らす音が謁見の間に響いた。
従者を2人連れた男性が入ってくると一部の貴族は頭を下げた。

「フェルナンド殿下。間に合いましたか?」

「それはもう。第一王子サジウスは私の友。友の頼みとあれば案件の合間をぬう事は容易い事。なかなかに面白いものを見せて頂きました。百聞は一見に如かず。これで憂いなく妹の出産にも立ち会えるというもの」

フェルナンドの従者が報告書なのだろう。側にいた従者に報告書を手渡す。

「後々お集りの皆様には場を設けますが、私はイーストノア王国第一王子フェルナンド。以後お見知りおき頂ければ幸い。この度は、ドゥルル…いや、省略します。この度はイーストノア王国のラージ湖より取水するため我が国の工事は完了致しました。ですがサウスノア王国の工事をする際に問題がトテポロ帝国の工事主任者より提議され、給水管を設置するのは不可能。との結論となりました」

「なんだって?」「それでは水はどうなる」貴族たちは口口に呟き始めた。

「国境付近の気候は大変厳しく給水管の凍結は避けられません。金属であるがために熱伝導の良さからラージ湖まで部分的に凍結してしまう可能性が非常に高い。ですので、給水管は部分的に切り、設置できない部分には人工的な河、運河を建設して頂きます。ただこれも問題が御座いまして重機という機械が働くのですが入れないのです。どうしても人力で掘って頂くしかない。そこで!はい!国王陛下。出番です。バトンタッチ♡」

「うっ…オホン。その人力で掘らねばならない箇所。それをアダルシアの実家、ボルディ部族、及びオリオス伯爵家一同に命じる。工期は2年。山2つ分の掘削土については、ハイネス子爵領沿岸に大型船が寄港できる港湾を建設するため、そこに運搬をするように」

「ま、待ってください。そんな莫大な工事費出せるはずが――」

フェルナンドはニコニコしながらオリオス伯爵の顔を覗き込んだ。

「ありますよねぇ。間引きしたり~経費とかって節税と言う名の脱税した金。大丈夫。足らなければ借りればいいんですよ。今まで仲良くしていた貴族さんは快く財布の紐を緩めてくれますよ?だって緩めないと首にかけられる紐は緩みませんからね?」

そして、覗き込むのをやめて姿勢を正す。途端に表情が変わった。

「詰めが甘いんだよ。命を削って民を憂いたサルバスの思いもしっかり私が回収してやろう。それから妹の住まう離宮の改修工事も請け負ったのはお前だ。黙って妹の不遇を見ていただけだと思ったか?こっちもしっかり回収させてもらう。腐った水のように間引けると思うなよ。経理はこちらが特別に担当してやる。お前のツケでな」

フェルナンドが国王に礼をして下がっていくとアダルシアが声をあげた。

「陛下!お願いを聞いて頂けませんか?」
「なんだ?申してみよ」
「絞首刑も毒杯も受ける覚悟でおります。ただわたくしはそれまでの生活はとても褒められるものでは御座いませんでした。港湾整備の期間、そこに働く人夫の仕事がしやすいよう、掃除夫でも炊事婦でも構いません。おいて頂けませんか?その後に刑を受けたく」
「善処しよう」
「ありがとうございます」

「皆の者、また手間を掛けさせるが、よろしく頼む」

国王がまた、あの日のように頭を下げた。が、ヴィアナの声が響いた。

「わたくしはいやっ!汚い工事なんかしたくない!悪いのはお父様なのです。わたくしは関係ない!陛下!お願いで御座います。側妃でも構いません。私をチェザーレ殿下の元に置いてくださいませ!陛下!陛下!」

ヴィアナの声は虚しく響くだけ。国王も貴族たちも順に退室していく。
残ったのはオリオス伯爵とヴィアナ。そして護送する兵士だった。





☆〇☆〇☆

「もうすぐ生まれるかな‥‥まだかな」
「もう!お兄様、暑苦しい!向こうに行ってて!」
「えぇ~可愛い妹の為に折角来たのに…」
「こンの!大事な時に五月蠅い事を言わないでくださいませ!」

シャルノーの陣痛が始まり、まだ1時間置きではあるがフェルナンドが纏わりつく。

「殿下!お兄様を連れ出して!…痛…っ!痛たたた」
「姫様、息をゆっくり、ゆっくり吐くのですよ」

ドリスにも睨まれて、チェザーレに背を押されたフェルナンドが部屋から出て行く。

「そろそろ立ち入り禁止といたしますので、どこかで遊んでいてくださいませ」

アリッサが2人に冷たく言い放ち、扉を閉じた。

「決心はついたか?」

フェルナンドがチェザーレに問う。

「はい。離れるのは正直きついなとは思いますが、希望はありますから」


サウスノア王国は問題を多く抱えた国。これから化学の国として成長を遂げ、10年後にはノア大陸の中で最も法整備、交通機関の進んだ国になる。

シャルノーは出産後、3年をめどにしてサウスノアの西端にある離宮へ移り、地熱貯留層に地熱発電所を作ってサウスノア王国に太陽の光は噴煙に邪魔されて降り注がなくても、照明で照らす。西側から始めるのは西側に地熱貯留層が多くあることもあるが、ウエストノア王国が近いのだ。ハイネス子爵領沿岸に大型船が寄港できる港湾は建設に10年はかかる。その間大型船で荷を運べるのはウエストノア王国。
発電所と同時に鉄道の敷設も行う。鉄道が出来れば東側に延伸出来る。

チェザーレは子供と共に王宮に残る。施政をせねばならないからである。

シャルノーはチェザーレに言った。

「王族であるには王族たらんとする姿勢が必要。これも一つの夫婦の形。何事も経験です」

「だけど夫婦は一緒にいたほうが良いと思うんだ」

「市井の民で言う単身赴任ですわよ。それで壊れる夫婦なら元々縁がないという事ですわ。第一、毎朝毎晩夫の顔を見てもさほどに面白いものでもありません。憂鬱になる事を仰らないで」

チェザーレは決めた。
さっさと子供に限らず、有能な者に座を譲れるように法を整備しようと。

Fin

☆彡☆彡☆彡

長い話にお付き合い頂きありがとうございました<(_ _)>
この後、数日かけてコメントの返信をさせて頂きます。
まだかな~まだかな~と思われる方もおられると思いますがお待ち頂けると嬉しいです(*^-^*)
返信は、誤字脱字のご指摘分からする事があるので、順不同とお考え下さい。

また厳しいご意見の中に、返信はしたいのですが返信をすると、どうかな?という表現があるコメントは申し訳ないですが非公開…却下ですかね。俗にいう…放送禁止用語は部分的な伏字でも承認は出来ないのでご了承ください。
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みんなの感想(119件)

エピロス
2022.10.26 エピロス

とっっても楽しかったです!!
他の作品もですが、こちらの作品を書籍として読める日がくればなぁ、と陰ながらお祈りしております!!
(嫌だったらすいません!)

cyaru
2022.10.26 cyaru

コメントありがとうございます。<(_ _)>

とっっても楽しい!!頂きました~!ありがとうございます(*´▽`*人)ウレシイ
面白かった、楽しかったとお声を頂けると公開してよかった~と思っておりますよ~。

なんと書籍として読む日?! それはねぇ…銀河系の果てまでタッチアンドゴーするくらい難しいかなぁ。
ほら、ワシ…外道なんですよ(笑)しかもまだ見習いでしてね。
おまけに誤字脱字がメッチャ多くて毎日穴掘って反省してる身の上なんで御座いますよ~(笑)

これが外道の道を極める事が出来れば!考える事もあるかも?なんですが、見習いを昇格したら10級から始まって1級まで行くと今度は「段」っていう道のりがありましてね(笑)
柔道で言えばまだ白帯なので遠い道のりですにゃ~(/ω\)

ですが、そんなワシの話でも楽しんでもらえたとおもうと、感謝の極み!
ありがとうで御座いますよ!!

ラストまでお付き合いいただきありがとうございました。<(_ _)>

解除
チーコ(ニャンコ先生の奥様)(笑)

ごめんなさーい。
思いの外長いはなしになっちゃった。
あはは(*゚∀゚)

パトリックまで飛び出して、妄想はかどりました❤️

チーコのきったなーい肉球🐾

真空パックの永久保存版。
ありがとうございます😁😁😁

cyaru
2022.10.26 cyaru

コメントありがとうございます。<(_ _)>

いえいえ。楽しいお話しありがとうございます!
キリ番ゲット出来そうで出来ないんですよねぇ…。前回は100まで到達していないのでまず!100までコメントがあるかどうかって所もありますし‥‥。
今回は20弱(15、16くらいだったかな…)しかコメントのお返事をしていない状態で完結まで突っ走ったのでさらに読めなかったかも?(そもそも読む物か?)
完結した時点ではまだ到達してなかったんですよ(笑)

読んでくださった上に、コメントまで頂けるのでちょっとしたラッキー☆になればとやっておりますが、皆さん喜んでくれるので、ワシも嬉しい( *´艸`)

ついでに皆さんの夢の中にお邪魔できると妄想もはかどる~♡

喜んで頂けてなにより♡チーコ様にもよろしくニャンです(*^-^*)/

追伸で御座る。
サビネコ便の創始者、トーティシェルとハインリヒの話は手直し終わったので公開しておりますよ(*^-^*)
ちょうどサビネコ便だったので(/ω\)ヒミツヨ

解除
チーコ(ニャンコ先生の奥様)(笑)

ゆっくりと寝返りをしてみると…。

「あらぁ?誰もいないわ?」気のせいだったかしらと、再び眠りにつこうとしたその時!Σ( ̄□ ̄;)携帯の防災アラームが、けたたましく鳴り響いた。
しかし私は、某アニメネコ型ロボットに出てくる少年の如く眠りに落ちる速度は0.02秒。少年よりも百分の二秒速かったのだ。夜中に大音量で鳴り響く防災アラーム。しかし持ち主は全く起きない。
「こんな大音量の中いびきかいてやがる。色気のない女だな。」とベットの下からcyaru様が這い出して来ると、携帯の防災アラームを停めた。

…チュンチュン…チュン…バサッ
カァーカァー カッカッカッカァー。
雀ではなく、朝からカラスの声で目が覚めた。今日は生ゴミ可燃ゴミの日だ。きちんと出さないとカラス達に散らかされて仕事前に大変な目にあってしまうそう思いながら、眠い眼を擦りながら台所に向かうと…。

いつもと何か違う(-д- 三 -д-)ナーンか違うのだ。とりあえず冷蔵庫を開けてみるとそこには…ない。 弁当に入れようと思っていた珍しく上手くできたタコサンウインナーそして真ん中にチーズ回りにハムを巻いて花びらの様にした可愛らしいおかず。厚焼きの甘い卵焼き。崎陽軒のシウマイ。そしてミミガー。

「きやー!私のお弁当のおかずが~😱
はっ!Σ( ̄□ ̄;)そういえば注意書にあったわ。冷蔵庫に注意しろと…。
うぅぅ…(;´Д⊂)仕方ない今日はがっかりチーズパンにしよう。食パンにチーズをのせて、休憩室のトースターで焼くだけ。ホントはハムもあれば良かったけどないから、がっかりチーズパン。」大急ぎで支度をしていると、庭にわにわにわとりが…じゃなくて、野良猫チーコ様が、朝ごはんを早く寄越せと私をギロリと睨み付けていた。

…疲れたぁ。今日も忙しかったけど、( -_・)?んー?サビネコ便?
帰宅すると、サビネコ便から不在伝票が入っていた。どうやらホルストの野郎がやらかしたらしくお詫びの品だと言う。
早速、サビネコcallをすると後5分で着くと言う。流石サビネコ便だ。昨日のくだりはないハズと思っていたら、門のまえでばったり会ったチーコ様からサビネコ配達員はそれは可愛らしい肉球🐾をもらったそうだ。荷物を受け取ると、ひろは包装紙を破った。何枚も何枚も。いい加減飽きた頃出てきたのは本ガレ鰹節。チーコ様に取られた事は言うまでもない。

cyaru
2022.10.26 cyaru

コメントありがとうございます。<(_ _)>

地震速報のアラートでも起きないとは!!(@ ̄□ ̄@;)!!
流石で御座いますよ!!

冷蔵庫も気が付かれてしまったか…。夕食の残りであるビーフストロガノフもしっかり頂きました(*^-^*)
一口でね、やめようと思ったんですけど気が付いたら一口分!ってことで、綺麗さっぱり頂きましてお皿を洗ってたら小腹が…。つい「お弁当のおかずだよな~」っと思いつつ、「白雪姫もちょっとずつ食べてたじゃん!」っと幾つかのおかずをアイ・ウォンチュー(アイ・ウォンチュー)アイ・ニードユウー(アイ・ニードユー)っとヘヴィーにローテーションしてたら!!無くなってるし!!

とても美味しく頂きました(*^人^*)ゴチソウサマ

本枯れ節を取っていくとは流石チーコ様。下手すると凶器になりますからね(笑)
おっと、今度からは環境にやさしくマトリョーシカ梱包ではなく、マクシムの腰布一枚くらいな簡易包装にするよう伝えておきます(笑)

お受け取りありがとうニャーン♡

解除
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