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幼馴染の騎士
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【何のためにここにいるのだろう】
静かに窓の外を見て何かを考え込んでいるエンジェリーナをフレデリックは護衛である身を呪った。
フォンテ伯爵家の嫡男であるフレデリック・ネイツ・フォンテ。
エンジェリーナの兄アレフェットと同い年で親友である。
2歳年下のエンジェリーナの事は気が付いたら意識をしていた。
最初は8歳か9歳だっただろうか。アレフェットと武術の稽古をしていて勝利をした時である。
ずっと椅子に腰かけてみていたエンジェリーナがシロツメクサで編んだ王冠をフレデリックの頭に載せた。
小さなエンジェリーナの前で膝をつき、頭を垂れて花冠を受け取る。
「騎士とお姫様みたい!」
そう言ってヒマワリのように笑うエンジェリーナが瞼を閉じても浮かぶようになった。
本格的な淑女教育の家庭教師がつくと以前のように3人で庭で走り回る事はなくなり会う機会も減った。
だが、時折みるエンジェリーナはどんどん美しくなっていった。
一時期アレフェットが婚約者を作らず、意中の女の子もいないと言ったのは妹のエンジェリーナと比べてしまっているのでは、いや…愛しているのではと思ったこともあった。
婚約者がいなかったのはゲラン侯爵が宰相とするために隣国、特に強国である国の有力貴族の令嬢をあてがおうとしていただけであった。
アレフェットに意中の女の子がいなかったのは単に出会いがない事と綺麗な顔立ちでもやはりエンジェリーナと比べてしまうんだと聞かされたがそれは通常ではない家庭が大きく影響をしていた。
フレデリックから見ても、ゲラン侯爵のアレフェットに対する執着は身震いするほど気持ちが悪かった。
反吐が出そうなほどの選民思考と、ここまではっきりしていれば逆に気持ちがいいほどの男尊女卑を当たり前のように口にするゲラン侯爵。
アレフェットに害とみるとどのような手を使っても潰していった。
フレデリックが【生き残った】のは父が爵位に対しては封建的な思想を持っており親友と言ってもゲラン侯爵を決して下げる事をしなかったのと、アレフェットの親友であった事である。
アレフェットがエンジェリーナを守ろうとしているのと同じように、フレデリックもまたエンジェリーナの盾となり守ってあげたいと思うようになった。
幸い家系が騎士の家系である事から武術、剣術の腕を磨くのは環境にも恵まれていた。
エンジェリーナに対して兄ような守ってやりたいという気持ちが、恋や愛という気持ちなのだと知ったのはエンジェリーナのデヴュタントの時である。
王宮に向かうゲラン侯爵とエンジェリーナの馬車の護衛を頼まれ引き受けた。
玄関から出て来たエンジェリーナはフレデリックの心を大きく揺さぶった。
幼馴染だからか、兄の親友だからかフレデリックには一遍の警戒もない。
静かに微笑む表情はつぼみから花びらを開いていくバラのように見え、屈託なく笑う時はヒマワリのように見えた。
また時折かわいいいたずらをしてくる時はマーガレットのようだった。
コロコロと自分とアレフェットの前だけで表情を変えるエンジェリーナ。
ふと手が触れた時、エンジェリーナの頬が赤くなった。自分と同じ気持ちなのかもしれないと思い、胸の内を打ち明けようとしたが、ゲラン侯爵の目が合った。
アレフェットから早いうちにゲラン侯爵から家督を譲ってもらう計画を聞いた時は即座に手助けを申し出た。
自分のエンジェリーナへの気持ちはアレフェットにも当然勘づかれていた。
それからは静かにエンジェリーナを見守ってきた。
だが、アレフェットがゲラン侯爵から家督を譲ってもらうために動けるまであと数週間というところでエンジェリーナが18歳の誕生日を迎えた。
青天の霹靂だった。まさか誕生日当日に、しかも第三王子直々に結婚を申し入れに来るとは誰も思わなかったのだ。
兵団の中でも第三王子の手腕は群を抜いている。しかしその非道さは思わず目をそむけたくなる程だった。
スパイとなっていた兵士の目の前で彼の妻子を彼に殺せと命じる。
出来ないと言えば、関係ない隣人をやるというまで切り殺す。
最後は兵士に自死をさせ、狂った兵士のやった事だと処理をさせる。
降伏をした敵兵にも全く容赦はなかった。
エンジェリーナとの結婚に際し、アレフェットはおそらく何かを感じたのだろう。
フレデリックに護衛についてくれと頼んできた。断るはずがない。即答で引き受けた。
結婚式の日、騎乗してエンジェリーナの馬車を護衛する。
どんな思いでその時を待っているのか。フレデリックの胸は張り裂けそうだった。
しかし、侍女のシンディから初夜は本当に何事も無く終わったと知らされた時、これから起きるエンジェリーナへの冷遇に怒る気持ちよりも、エンジェリーナがまだ誰のものでもないという事が嬉しかった。
そして純潔がまだ守られているのであれば、3年で王族と言えど白い結婚を申請できるとアレフェットから知らされた。自由の身にした時にエンジェリーナが困らないようアレフェットは王都から離れた地に小さな屋敷を秘密裏に購入した。教会で認められたらエンジェリーナとその地で暮らせとアレフェットは言った。
目の前で窓の外を見て虚ろな目をするエンジェリーナを元気づけようとフレデリックは努めて明るく話しかけた。
【エンジェリーナ。どうしたんだい】
静かに窓の外を見て何かを考え込んでいるエンジェリーナをフレデリックは護衛である身を呪った。
フォンテ伯爵家の嫡男であるフレデリック・ネイツ・フォンテ。
エンジェリーナの兄アレフェットと同い年で親友である。
2歳年下のエンジェリーナの事は気が付いたら意識をしていた。
最初は8歳か9歳だっただろうか。アレフェットと武術の稽古をしていて勝利をした時である。
ずっと椅子に腰かけてみていたエンジェリーナがシロツメクサで編んだ王冠をフレデリックの頭に載せた。
小さなエンジェリーナの前で膝をつき、頭を垂れて花冠を受け取る。
「騎士とお姫様みたい!」
そう言ってヒマワリのように笑うエンジェリーナが瞼を閉じても浮かぶようになった。
本格的な淑女教育の家庭教師がつくと以前のように3人で庭で走り回る事はなくなり会う機会も減った。
だが、時折みるエンジェリーナはどんどん美しくなっていった。
一時期アレフェットが婚約者を作らず、意中の女の子もいないと言ったのは妹のエンジェリーナと比べてしまっているのでは、いや…愛しているのではと思ったこともあった。
婚約者がいなかったのはゲラン侯爵が宰相とするために隣国、特に強国である国の有力貴族の令嬢をあてがおうとしていただけであった。
アレフェットに意中の女の子がいなかったのは単に出会いがない事と綺麗な顔立ちでもやはりエンジェリーナと比べてしまうんだと聞かされたがそれは通常ではない家庭が大きく影響をしていた。
フレデリックから見ても、ゲラン侯爵のアレフェットに対する執着は身震いするほど気持ちが悪かった。
反吐が出そうなほどの選民思考と、ここまではっきりしていれば逆に気持ちがいいほどの男尊女卑を当たり前のように口にするゲラン侯爵。
アレフェットに害とみるとどのような手を使っても潰していった。
フレデリックが【生き残った】のは父が爵位に対しては封建的な思想を持っており親友と言ってもゲラン侯爵を決して下げる事をしなかったのと、アレフェットの親友であった事である。
アレフェットがエンジェリーナを守ろうとしているのと同じように、フレデリックもまたエンジェリーナの盾となり守ってあげたいと思うようになった。
幸い家系が騎士の家系である事から武術、剣術の腕を磨くのは環境にも恵まれていた。
エンジェリーナに対して兄ような守ってやりたいという気持ちが、恋や愛という気持ちなのだと知ったのはエンジェリーナのデヴュタントの時である。
王宮に向かうゲラン侯爵とエンジェリーナの馬車の護衛を頼まれ引き受けた。
玄関から出て来たエンジェリーナはフレデリックの心を大きく揺さぶった。
幼馴染だからか、兄の親友だからかフレデリックには一遍の警戒もない。
静かに微笑む表情はつぼみから花びらを開いていくバラのように見え、屈託なく笑う時はヒマワリのように見えた。
また時折かわいいいたずらをしてくる時はマーガレットのようだった。
コロコロと自分とアレフェットの前だけで表情を変えるエンジェリーナ。
ふと手が触れた時、エンジェリーナの頬が赤くなった。自分と同じ気持ちなのかもしれないと思い、胸の内を打ち明けようとしたが、ゲラン侯爵の目が合った。
アレフェットから早いうちにゲラン侯爵から家督を譲ってもらう計画を聞いた時は即座に手助けを申し出た。
自分のエンジェリーナへの気持ちはアレフェットにも当然勘づかれていた。
それからは静かにエンジェリーナを見守ってきた。
だが、アレフェットがゲラン侯爵から家督を譲ってもらうために動けるまであと数週間というところでエンジェリーナが18歳の誕生日を迎えた。
青天の霹靂だった。まさか誕生日当日に、しかも第三王子直々に結婚を申し入れに来るとは誰も思わなかったのだ。
兵団の中でも第三王子の手腕は群を抜いている。しかしその非道さは思わず目をそむけたくなる程だった。
スパイとなっていた兵士の目の前で彼の妻子を彼に殺せと命じる。
出来ないと言えば、関係ない隣人をやるというまで切り殺す。
最後は兵士に自死をさせ、狂った兵士のやった事だと処理をさせる。
降伏をした敵兵にも全く容赦はなかった。
エンジェリーナとの結婚に際し、アレフェットはおそらく何かを感じたのだろう。
フレデリックに護衛についてくれと頼んできた。断るはずがない。即答で引き受けた。
結婚式の日、騎乗してエンジェリーナの馬車を護衛する。
どんな思いでその時を待っているのか。フレデリックの胸は張り裂けそうだった。
しかし、侍女のシンディから初夜は本当に何事も無く終わったと知らされた時、これから起きるエンジェリーナへの冷遇に怒る気持ちよりも、エンジェリーナがまだ誰のものでもないという事が嬉しかった。
そして純潔がまだ守られているのであれば、3年で王族と言えど白い結婚を申請できるとアレフェットから知らされた。自由の身にした時にエンジェリーナが困らないようアレフェットは王都から離れた地に小さな屋敷を秘密裏に購入した。教会で認められたらエンジェリーナとその地で暮らせとアレフェットは言った。
目の前で窓の外を見て虚ろな目をするエンジェリーナを元気づけようとフレデリックは努めて明るく話しかけた。
【エンジェリーナ。どうしたんだい】
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