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疑問と願い
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「どうしたんだい。エンジェリーナ」
窓際にあるテーブルセットに腰掛けるエンジェリーナと、扉の前で護衛として立っているフレデリックとの距離は遠い。
それはまるで2人の今の立ち位置を示しているかのようである。
エンジェリーナは静かにフレデリックの方に視線を向けると、目の前の椅子に腰かけろと手振りで示す。
ゆっくりとフレデリックは近づいた。
「元気がないぞ。朝のパンは好きではなかったか?」
小さく首を横に振りながら、微笑んでくるエンジェリーナを抱きしめたい衝動に駆られつつも己を律する。
「フレデリック、座って」
気さくに声をかけても変わらない主従の関係である。エンジェリーナが声をかけ、勧めない限りフレデリックが着席する事は許されない。
しかしフレデリックは椅子には腰掛けず、エンジェリーナの前に跪く。
「エンジェ。どうしたんだい?元気がない」
「その呼び名。懐かしいわ」
「たまにはいいだろう」
「えぇ。なんだかとっても懐かしくて昔にもどったみたい」
「僕はいつもエンジェには笑っていて欲しいんだ。ほら笑って」
手で頬を引っ張り、おかしな顔を作ってエンジェリーナを笑わせようとする。
「ふふっ。フレデリックそのお顔…」
「元気がちょっとは出たかな」
「えぇ、ありがとう」
「何を考えているんだ?」
ふっとフレデリックから目を逸らしてまた窓の方を眺めながら小さく呟いた。
「どうしてなのだろうって思って」
クっと小さく指が動く。力を込めたのだろうとフレデリックはその手にそっと手を重ねた。
「王妃様は殿下がわたくしを望んだと仰った。だけどわたくしは……初夜に契りのなかった花嫁がどんな仕打ちを受けるかもご存じの上で未だに寵愛を他の方に捧げている方を…どうやってこの先待てばよいのでしょう。そして待つことに意味があるのかと」
「エンジェ。ここから‥‥出たいか?」
「そうね…出てみたい。ここだけじゃなくて向こうの空の下は何があるんだろうと考えるの。星は動いて旅をしていくようにわたくしも旅に出たい」
「出してやる。俺と‥‥ここから出よう」
思いもよらないフレデリックの言葉に思わず窓からフレデリックに目線を戻すと、そこには先程まで自分を笑わそうとふざけた男の顔ではない表情のフレデリックがいた。
「あ、冗談。冗談よ。昨夜冒険ものの本を読んだから主人公になったつもりだったわ」
「違うだろう?」
「ち、違いませんわ。ほら、シンディだっていま…」
「エンジェ!」
「フレデリック‥‥いけません。手を放してくださいまし」
フレデリックの瞳に本気を感じてしまった。
手を取って逃げるのは容易ではない。だがフレデリックは何としても願いを叶えようとするだろう。
もし掴まれば大罪人となる事は目に見えている。自分は鞭で打たれようと剣で切り裂かれようとかまわない。
だけど目の前のフレデリックが酷い目にあうのは絶対に許されない。
握られた手からはフレデリックの思いが傾れ込んでくるかのような温度を感じる。
「エンジェ。俺は…君となら何処へでも行ける。いや、連れて行く」
「フレデリック。いけません。それ以上は言わないで」
「エンジェ‥‥愛している」
フレデリックの唇が指先に触れ、喉元まで自分もそうだと声が出かかった。だがグっと言葉を飲み干す。
ここにいる以上、それは絶対に許されない事なのだと改めて心に強く思う。
そっと手を離すと席を立ちあがりバルコニーで風を感じた。
ふと、バルコニーから見える庭に目をやるとそこには数人の侍女と愛人の1人の女性がいた。
エンジェリーナの視線を感じたのか、フっと目をそらし下腹を撫でだす。
バルコニーからは見えないが、愛人の口元が少し上がった。
窓際にあるテーブルセットに腰掛けるエンジェリーナと、扉の前で護衛として立っているフレデリックとの距離は遠い。
それはまるで2人の今の立ち位置を示しているかのようである。
エンジェリーナは静かにフレデリックの方に視線を向けると、目の前の椅子に腰かけろと手振りで示す。
ゆっくりとフレデリックは近づいた。
「元気がないぞ。朝のパンは好きではなかったか?」
小さく首を横に振りながら、微笑んでくるエンジェリーナを抱きしめたい衝動に駆られつつも己を律する。
「フレデリック、座って」
気さくに声をかけても変わらない主従の関係である。エンジェリーナが声をかけ、勧めない限りフレデリックが着席する事は許されない。
しかしフレデリックは椅子には腰掛けず、エンジェリーナの前に跪く。
「エンジェ。どうしたんだい?元気がない」
「その呼び名。懐かしいわ」
「たまにはいいだろう」
「えぇ。なんだかとっても懐かしくて昔にもどったみたい」
「僕はいつもエンジェには笑っていて欲しいんだ。ほら笑って」
手で頬を引っ張り、おかしな顔を作ってエンジェリーナを笑わせようとする。
「ふふっ。フレデリックそのお顔…」
「元気がちょっとは出たかな」
「えぇ、ありがとう」
「何を考えているんだ?」
ふっとフレデリックから目を逸らしてまた窓の方を眺めながら小さく呟いた。
「どうしてなのだろうって思って」
クっと小さく指が動く。力を込めたのだろうとフレデリックはその手にそっと手を重ねた。
「王妃様は殿下がわたくしを望んだと仰った。だけどわたくしは……初夜に契りのなかった花嫁がどんな仕打ちを受けるかもご存じの上で未だに寵愛を他の方に捧げている方を…どうやってこの先待てばよいのでしょう。そして待つことに意味があるのかと」
「エンジェ。ここから‥‥出たいか?」
「そうね…出てみたい。ここだけじゃなくて向こうの空の下は何があるんだろうと考えるの。星は動いて旅をしていくようにわたくしも旅に出たい」
「出してやる。俺と‥‥ここから出よう」
思いもよらないフレデリックの言葉に思わず窓からフレデリックに目線を戻すと、そこには先程まで自分を笑わそうとふざけた男の顔ではない表情のフレデリックがいた。
「あ、冗談。冗談よ。昨夜冒険ものの本を読んだから主人公になったつもりだったわ」
「違うだろう?」
「ち、違いませんわ。ほら、シンディだっていま…」
「エンジェ!」
「フレデリック‥‥いけません。手を放してくださいまし」
フレデリックの瞳に本気を感じてしまった。
手を取って逃げるのは容易ではない。だがフレデリックは何としても願いを叶えようとするだろう。
もし掴まれば大罪人となる事は目に見えている。自分は鞭で打たれようと剣で切り裂かれようとかまわない。
だけど目の前のフレデリックが酷い目にあうのは絶対に許されない。
握られた手からはフレデリックの思いが傾れ込んでくるかのような温度を感じる。
「エンジェ。俺は…君となら何処へでも行ける。いや、連れて行く」
「フレデリック。いけません。それ以上は言わないで」
「エンジェ‥‥愛している」
フレデリックの唇が指先に触れ、喉元まで自分もそうだと声が出かかった。だがグっと言葉を飲み干す。
ここにいる以上、それは絶対に許されない事なのだと改めて心に強く思う。
そっと手を離すと席を立ちあがりバルコニーで風を感じた。
ふと、バルコニーから見える庭に目をやるとそこには数人の侍女と愛人の1人の女性がいた。
エンジェリーナの視線を感じたのか、フっと目をそらし下腹を撫でだす。
バルコニーからは見えないが、愛人の口元が少し上がった。
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