純白の王子妃だった君へ

cyaru

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失言

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サロンから見える庭園に見入る第三王子セドリックは逸る心を押さえつける。
これから会うのはおそらくは自分の事を快く思っていない兄である。

セドリックは3歳年下のアレフェットの事は良く知っている。
兄の王太子の側近の中で一番年が若いにも関わらず一番の側近と言われている。
それまで側近候補だった男は年下の学園に入ったばかりの新入生であるアレフェットにその座を奪われた。
5歳も年下の若僧に追いやられた公爵家の次男は快く思わなかったであろう。
当然その父親である公爵も。

しかし側近候補となり僅か2か月で公爵家の次男だけでなく、父親の公爵もアレフェットを褒めたたえた。
上辺だけかと思われたが、惜しみなくアレフェットが提案する事業計画に参加し資金も提供する。
娘がいれば嫡男ではなく、アレフェットを婿養子に迎えて公爵家を継がせるとまで言った。
どのような手を使ったかはわからないが、今でも態度が変わらないとなればそれも彼の手腕の一つなのだろう。

【お待たせいたしました】

サロンに入ってくる男。3年前よりは幾分大人になった印象を受ける。
ソファに促され、向かい合わせに座る。
3年前は目の前に座ったのは父だったゲラン侯爵。アレフェットは隣に立っていた。
表情からは伺い知れないが、直感で余計な一言は命取りになりかねないと感じる。

【ゲラン侯爵。この度は本当に申し訳なかった】

セドリックはこの男には駆け引きは通用しないと自分の非はすべて認めると頭を下げる。
だが、アレフェットはそれを見ているだけで何も言わず、動かない。

アレフェットの心の中はその謝罪に子供の事があるのかを計りかねていた。
おそらくは身籠ったのは離宮にいる間だろう。
今の月数からすれば襲撃を受ける少し前だろう。状況が全く分からないのである。

エンジェリーナが体を許したのであれば、何故出ようと思えば出られた渓谷から出なかったのだ?
迎えに行った様子からはセドリックに見つけてほしかったとは考えられない。

ならば本当はフレデリックの子なのだろうかとも考えた。
それも違うと本能が答える。数年会わなくともフレデリックの事は知っているつもりである。
フレデリックの答え方からすればフレデリックの子ではない。
まさかとは思うが、目の前の第三王子でもなく、フレデリックの子でもないのか。
その答えはエンジェリーナしか出せないだろうが、徹底した淑女教育を受けている妹である。
それに第三者と関係を持とうにも持てないのではないか。
生まれてしまえば少なくとも第三王子の子なのかどうかは判る。どこで出産をさせるか。
アレフェットはそう考えて目の前の男に話しかけた。

「殿下、殿下は何故エンジェリーナをそこまで想われるのですか」
「わからない」

ポツリとセドリックは呟く。そして…

「わからないのだ。だが‥‥エンジェリーナでなければだめなのだ。他にはいらない。今は後悔しかない」

言葉に引っかかりを覚えたアレフェットは眉間に皺を寄せる。

「夜会で初めて見て‥‥心を奪われた。その日から…どうすればいいのかと。その選択が間違っていた事で彼女を傷つけた。何もかもが後手になった。あの時も」

「あの時?とは何ですか殿下」

「あの夜、指輪を渡そうと思ったのだ。床に伏せるまで何もしてやれなかった。だが離縁をしてくれと言われ我を忘れた。彼女を失うかと思うと、その可能性を潰さねばと本当に後悔している」

アレフェットは立ち上がる。テーブルが大きく揺れて茶が零れる。
冷静沈着なアレフェットは思わず声を荒げてしまった。

「後悔?後悔だって??ふざけるな!子まで作っておきながら後悔などと!!」
「子?‥‥子供がいるのか?!身籠っているのか?!」

セドリックも立ち上がり、アレフェットの肩に手をかけ大きく揺する。
アレフェットは即座に失言をした、しくじったと思った。目の前の男の様子から関係を持った事はあったのだろう。しかし、子が出来た事までは知らなかったのを瞬時に察した。

「ゲラン侯爵!エンジェリーナは身籠っているのか?!ゲラン侯爵ッ!!」

セドリックが掴んだ手を引きはがし、アレフェットは力なくソファに腰を下ろす。
もう隠し立ては出来ない。放っておけば屋敷中を探し回り無理にでもエンジェリーナを連れて行くだろう。

「殿下‥‥お座りくださいませ」

興奮で頬が紅潮しながらもセドリックは腰を下ろす。

「エンジェリーナは身籠っています。殿下の御子でしょう」
「まことかっ!エンジェリーナは何処に?」
「殿下、話を」
「あ、あぁ。申し訳ない。突然で…驚いてしまった」
「ただ、今は非常に精神的に不安定なのです。お心当たりがあるのでは?」

そう言われ、思わず心臓がドクンと飛び跳ねる。

「ゲラン侯爵、話は出来ないか?直接話がしたい」
「殿下、今も言いましたが妹は精神的に不安定な状態なのです。ただどうこう言いましても殿下と妹は結婚をしている間柄です。決めるのは2人だと解っています。いるのですが時間を頂けませんか」

「何故だ?不安定なのであれば王宮で静養をすれば良い、王宮ならば離宮のような事は起こらない。王子宮が嫌なら母上、いや王妃殿下の元で静養をさせる。嫌な思いはさせない。約束する」

「殿下。お断りします」

アレフェットは即答をした。
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