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交渉
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「殿下、お断りします」
即答するアレフェットに身を乗り出してセドリックは詰めよった。
だが、思いとどまる。
「殿下、先程も言いましたように非常に精神的に不安定なのです。時間を頂けたらと考えます」
「どのくらいだ。2日か3日か?」
「殿下、妹は王子宮でどれほど殿下を待ったのでしょうか」
セドリックの目が泳ぐ。グルグルと頭の中で当時の事を思い出す。思い出したくもない女たちの顔が浮かぶ。そして食事をしないエンジェリーナ。痩せ細り横たわるエンジェリーナ。
違う違うと大きく首をふり、髪を手でかきむしるセドリック。
「私は殿下と妹の婚姻には反対でした」
「そう‥‥だろうな」
「父は妹を道具として扱っていたのをご存じですか?」
「道具?我が子を道具だと?」
セドリックも前ゲラン侯爵は強い選民思想とはっきりとした男尊女卑をする男だとは知っていた。だが子供を道具として扱うというのは初めて知った。
道具なのであれば、目の前の男はなんなのだ?誰もがうらやむような環境で勉学に勤しみ、通常10歳あたりからつけられる専任の執事や従者などは物心つく前からこの男にはついていたはずである。
金にものを言わせぬほど心血を注いでいたとしか思えなかったのである。
「父は…私を育て宰相候補とする事に異常なまでの執着をしておりました。その為に妹は道具として育てられました。第二王子殿下、若しくは殿下、あなたに嫁ぐように育てたのです」
「兄ではなく…?何故だ?そこまでするなら王太子妃を狙うであろうが」
「えぇ。通常ではね。だが父は違うのです。王族の中でも王太子は別格です、玉座が約束されています。その一番高い位置に座る女性、王妃になるのは許しませんでした。妹が王太子妃となり子を産めばその子が王になる可能性がる。兎に角私よりもエンジェリーナ、いえ妹が崇められる事は許せない男でした」
「何故それで我なら良いのだ」
「失礼なのですが、王太子に男児の御子が出来れば殿下の継承権は下がります。そして色々な閣議での決定権は王太子殿下にある。その王太子殿下に進言をするのは宰相。宰相に申し立てるのが殿下や議会です」
「そんなところまで…だからあんなに喜んでいたのか」
「えぇ。殿下、貴方は上手く担がれたのですよ」
知らなかった事実に混乱をしてしまうセドリック。だが首をふる。
「違う。確かに担がれたかも知れない。だが、エンジェリーナを望んだのは私だ。それは今も変わらない」
俯き、小さく首をふるセドリックを見つめながらその姿にフレデリックを重ねる。
フレデリックもまた違う男の子供を宿した妹を自分が望んだのだと譲らない。
最善の道を模索する。
「ゲラン侯爵。判っているのだ。全て悪いのは私だ。判っているだが!」
「殿下、ならば時間をください。2年とは言いません」
「あの男か…」
「あの男?と申しますと」
アレフェットは突然に感じた冷たいオーラにピクリとする。
顔をあげた目の前の男の目には嫉妬と憎悪が見てとれる。帯剣していれば間違いなく剣を抜いていただろうと思うような冷気は殺気なのだと悟る。
「あの護衛だ…殺してやる」
「フレデリックの事でしょうか」
「フレデリック…そうだ、その名だ。確かフォンテ伯爵家だったな」
「彼は関係ありません」
「関係がないだと?あの男の目を見た事があるのか?」
「ございます。だから言えるのです。関係ないと」
「そうか…確か護衛に押したのはそなたであったな…そういう事か」
アレフェットは今にもしでかしそうな男をどうやって止めるべきか思案する。
扉を出れば連れてきた兵を呼び、エンジェリーナを探すだろう。
そこに突然、扉の向こうが騒がしくなった。
「お待ちください!」
「大事なお客様とのお話中なのです!お待ちください!」
必死で使用人たちが足止めをしようとしている声が近づいてくる。
その声にセドリックの殺気が薄まる。アレフェットも何事かと扉の方を見た。
乱暴に扉が開いた。
即答するアレフェットに身を乗り出してセドリックは詰めよった。
だが、思いとどまる。
「殿下、先程も言いましたように非常に精神的に不安定なのです。時間を頂けたらと考えます」
「どのくらいだ。2日か3日か?」
「殿下、妹は王子宮でどれほど殿下を待ったのでしょうか」
セドリックの目が泳ぐ。グルグルと頭の中で当時の事を思い出す。思い出したくもない女たちの顔が浮かぶ。そして食事をしないエンジェリーナ。痩せ細り横たわるエンジェリーナ。
違う違うと大きく首をふり、髪を手でかきむしるセドリック。
「私は殿下と妹の婚姻には反対でした」
「そう‥‥だろうな」
「父は妹を道具として扱っていたのをご存じですか?」
「道具?我が子を道具だと?」
セドリックも前ゲラン侯爵は強い選民思想とはっきりとした男尊女卑をする男だとは知っていた。だが子供を道具として扱うというのは初めて知った。
道具なのであれば、目の前の男はなんなのだ?誰もがうらやむような環境で勉学に勤しみ、通常10歳あたりからつけられる専任の執事や従者などは物心つく前からこの男にはついていたはずである。
金にものを言わせぬほど心血を注いでいたとしか思えなかったのである。
「父は…私を育て宰相候補とする事に異常なまでの執着をしておりました。その為に妹は道具として育てられました。第二王子殿下、若しくは殿下、あなたに嫁ぐように育てたのです」
「兄ではなく…?何故だ?そこまでするなら王太子妃を狙うであろうが」
「えぇ。通常ではね。だが父は違うのです。王族の中でも王太子は別格です、玉座が約束されています。その一番高い位置に座る女性、王妃になるのは許しませんでした。妹が王太子妃となり子を産めばその子が王になる可能性がる。兎に角私よりもエンジェリーナ、いえ妹が崇められる事は許せない男でした」
「何故それで我なら良いのだ」
「失礼なのですが、王太子に男児の御子が出来れば殿下の継承権は下がります。そして色々な閣議での決定権は王太子殿下にある。その王太子殿下に進言をするのは宰相。宰相に申し立てるのが殿下や議会です」
「そんなところまで…だからあんなに喜んでいたのか」
「えぇ。殿下、貴方は上手く担がれたのですよ」
知らなかった事実に混乱をしてしまうセドリック。だが首をふる。
「違う。確かに担がれたかも知れない。だが、エンジェリーナを望んだのは私だ。それは今も変わらない」
俯き、小さく首をふるセドリックを見つめながらその姿にフレデリックを重ねる。
フレデリックもまた違う男の子供を宿した妹を自分が望んだのだと譲らない。
最善の道を模索する。
「ゲラン侯爵。判っているのだ。全て悪いのは私だ。判っているだが!」
「殿下、ならば時間をください。2年とは言いません」
「あの男か…」
「あの男?と申しますと」
アレフェットは突然に感じた冷たいオーラにピクリとする。
顔をあげた目の前の男の目には嫉妬と憎悪が見てとれる。帯剣していれば間違いなく剣を抜いていただろうと思うような冷気は殺気なのだと悟る。
「あの護衛だ…殺してやる」
「フレデリックの事でしょうか」
「フレデリック…そうだ、その名だ。確かフォンテ伯爵家だったな」
「彼は関係ありません」
「関係がないだと?あの男の目を見た事があるのか?」
「ございます。だから言えるのです。関係ないと」
「そうか…確か護衛に押したのはそなたであったな…そういう事か」
アレフェットは今にもしでかしそうな男をどうやって止めるべきか思案する。
扉を出れば連れてきた兵を呼び、エンジェリーナを探すだろう。
そこに突然、扉の向こうが騒がしくなった。
「お待ちください!」
「大事なお客様とのお話中なのです!お待ちください!」
必死で使用人たちが足止めをしようとしている声が近づいてくる。
その声にセドリックの殺気が薄まる。アレフェットも何事かと扉の方を見た。
乱暴に扉が開いた。
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