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妻の存在意義
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翌朝の事である。
気忙しい者達が突然部屋にやってくるなり家財を運び始めた。
何事かと聞けば部屋を移るのだと言う。
「そんな事は聞いておりませんが」
ルシェルは不自由過ぎる中にも楽しみを見つけ、帰らないオレリアンの事を考える事もなく穏かに過ごせるように思えた矢先の引っ越しに声を荒げた。
「なぁに。騒々しいわね」
全ての指に嵌った指輪の位置に視線を落としながら侯爵夫人、義母となった女性は部屋に入るなり家具や調度品を運び出そうとする男達に、全て荷馬車に載せるよう指示を出した。
「奥様、これは若奥様の輿入れした家具で御座いますよ」
「何を言ってるの。部屋に入らないゴミは買い取ってもらうのが一番なのよ。昨日運び込んだばかりだからまだ新品。値が付くうちに買い取って貰わないと意味がないじゃない」
侯爵夫人はそのままクローゼットに進むと誰に断るもなくクローゼットを開いた。
用途別に分けられて揃えられてるドレスや帽子などの小物も幾つかを残し無造作に掴むとメイドに向かって放り投げた。
「この布地なら買い取って貰えるわ。まとめて頂戴」
「奥様っ!流石にこれは許されません」
バチン! 侯爵夫人の扇が抗議したメイドの頬を打った。
「誰に雇われているの?辞めてもらっていいのよ?」
「も…申し訳…御座いません」
「お止めくださいませ。彼女は間違った事は言っておりません」
ルシェルは堪りかねて頬を手で押さえるメイドの前に盾になった。
侯爵夫人はルシェルを頭から足元まで数回舐めるように視線を往復させた。
「もう夫人気取り?成り上がり者の考えそうなことだわ。いい?この家の女主人はわたくしなの。オレリアンもとんだ貧乏くじを引かされたけれど‥‥分相応という言葉を教えてあげる」
言葉を発する間も次々に家具、調度品、ドレスなどが運び出されていく。
残ったドレスは夜会にも茶会にも使えそうなドレスが2着。そして数日分の下着。
宝飾品の類はこれから片付けようとしていたため難を逃れたが、ルシェルが輿入れ道具として持ち込んだほとんどの物は業者が荷馬車に積み込み、金貨の入った袋になった。
「貴女の部屋はここ。食事は使用人の余り物でも食べると良いわ」
「ここは…」
その部屋は本宅の勝手口からのみ出入りが出来る部屋で外鍵が付けられていた。
中は質素で椅子にするには大きいが横になるのは小さい寝台が1つ。
傾いたテーブルと座ればギシギシと音を立てる椅子が一脚。
「この部屋ね、男爵家から嫁いだ娘が使ってたんだけど今は空き部屋よ。貴女のような穢れた平民の血が流れる成り上がり者の貴族にはピッタリ。おとなしくしてて頂戴。生きていてくれればいいの。それが貴女の妻としての存在意義。クックック…」
「わたくしの嫁入り道具はどう扱おうと構いません。思い入れがあるものでもありませんから。ですが買い取って貰ったのならその代金は世話をする使用人に分けてください」
「オーホッホ。使用人に?嫌だわ。貴族の真似事?施しをすれば崇められるとでも?あの金貨は貴女をここに住まわせる経費。お判り?経費よ」
二の句が継げないとはこの事だろうか。
与えられた部屋は日当たりはあまり良くはない部屋だった。
伯爵家では父に道具扱いはされたけれど、必要最低限のものはあったしそれなりのランクのものだった。安物ばかりに囲まれていては価値が下がるという父の考え方からだ。
――使用人部屋でないのが救いと思わないといけないわね――
ルシェルは薄く積もった埃を指先でなぞった。
気忙しい者達が突然部屋にやってくるなり家財を運び始めた。
何事かと聞けば部屋を移るのだと言う。
「そんな事は聞いておりませんが」
ルシェルは不自由過ぎる中にも楽しみを見つけ、帰らないオレリアンの事を考える事もなく穏かに過ごせるように思えた矢先の引っ越しに声を荒げた。
「なぁに。騒々しいわね」
全ての指に嵌った指輪の位置に視線を落としながら侯爵夫人、義母となった女性は部屋に入るなり家具や調度品を運び出そうとする男達に、全て荷馬車に載せるよう指示を出した。
「奥様、これは若奥様の輿入れした家具で御座いますよ」
「何を言ってるの。部屋に入らないゴミは買い取ってもらうのが一番なのよ。昨日運び込んだばかりだからまだ新品。値が付くうちに買い取って貰わないと意味がないじゃない」
侯爵夫人はそのままクローゼットに進むと誰に断るもなくクローゼットを開いた。
用途別に分けられて揃えられてるドレスや帽子などの小物も幾つかを残し無造作に掴むとメイドに向かって放り投げた。
「この布地なら買い取って貰えるわ。まとめて頂戴」
「奥様っ!流石にこれは許されません」
バチン! 侯爵夫人の扇が抗議したメイドの頬を打った。
「誰に雇われているの?辞めてもらっていいのよ?」
「も…申し訳…御座いません」
「お止めくださいませ。彼女は間違った事は言っておりません」
ルシェルは堪りかねて頬を手で押さえるメイドの前に盾になった。
侯爵夫人はルシェルを頭から足元まで数回舐めるように視線を往復させた。
「もう夫人気取り?成り上がり者の考えそうなことだわ。いい?この家の女主人はわたくしなの。オレリアンもとんだ貧乏くじを引かされたけれど‥‥分相応という言葉を教えてあげる」
言葉を発する間も次々に家具、調度品、ドレスなどが運び出されていく。
残ったドレスは夜会にも茶会にも使えそうなドレスが2着。そして数日分の下着。
宝飾品の類はこれから片付けようとしていたため難を逃れたが、ルシェルが輿入れ道具として持ち込んだほとんどの物は業者が荷馬車に積み込み、金貨の入った袋になった。
「貴女の部屋はここ。食事は使用人の余り物でも食べると良いわ」
「ここは…」
その部屋は本宅の勝手口からのみ出入りが出来る部屋で外鍵が付けられていた。
中は質素で椅子にするには大きいが横になるのは小さい寝台が1つ。
傾いたテーブルと座ればギシギシと音を立てる椅子が一脚。
「この部屋ね、男爵家から嫁いだ娘が使ってたんだけど今は空き部屋よ。貴女のような穢れた平民の血が流れる成り上がり者の貴族にはピッタリ。おとなしくしてて頂戴。生きていてくれればいいの。それが貴女の妻としての存在意義。クックック…」
「わたくしの嫁入り道具はどう扱おうと構いません。思い入れがあるものでもありませんから。ですが買い取って貰ったのならその代金は世話をする使用人に分けてください」
「オーホッホ。使用人に?嫌だわ。貴族の真似事?施しをすれば崇められるとでも?あの金貨は貴女をここに住まわせる経費。お判り?経費よ」
二の句が継げないとはこの事だろうか。
与えられた部屋は日当たりはあまり良くはない部屋だった。
伯爵家では父に道具扱いはされたけれど、必要最低限のものはあったしそれなりのランクのものだった。安物ばかりに囲まれていては価値が下がるという父の考え方からだ。
――使用人部屋でないのが救いと思わないといけないわね――
ルシェルは薄く積もった埃を指先でなぞった。
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