すべては、あなたの為にした事です。

cyaru

文字の大きさ
10 / 40

妻の存在意義

しおりを挟む
翌朝の事である。

気忙しい者達が突然部屋にやってくるなり家財を運び始めた。
何事かと聞けば部屋を移るのだと言う。

「そんな事は聞いておりませんが」

ルシェルは不自由過ぎる中にも楽しみを見つけ、帰らないオレリアンの事を考える事もなく穏かに過ごせるように思えた矢先の引っ越しに声を荒げた。


「なぁに。騒々しいわね」

全ての指に嵌った指輪の位置に視線を落としながら侯爵夫人、義母となった女性は部屋に入るなり家具や調度品を運び出そうとする男達に、全て荷馬車に載せるよう指示を出した。

「奥様、これは若奥様の輿入れした家具で御座いますよ」
「何を言ってるの。部屋に入らないゴミは買い取ってもらうのが一番なのよ。昨日運び込んだばかりだからまだ新品。値が付くうちに買い取って貰わないと意味がないじゃない」

侯爵夫人はそのままクローゼットに進むと誰に断るもなくクローゼットを開いた。
用途別に分けられて揃えられてるドレスや帽子などの小物も幾つかを残し無造作に掴むとメイドに向かって放り投げた。

「この布地なら買い取って貰えるわ。まとめて頂戴」
「奥様っ!流石にこれは許されません」

バチン! 侯爵夫人の扇が抗議したメイドの頬を打った。

「誰に雇われているの?辞めてもらっていいのよ?」
「も…申し訳…御座いません」

「お止めくださいませ。彼女は間違った事は言っておりません」

ルシェルは堪りかねて頬を手で押さえるメイドの前に盾になった。
侯爵夫人はルシェルを頭から足元まで数回舐めるように視線を往復させた。

「もう夫人気取り?成り上がり者の考えそうなことだわ。いい?この家の女主人はわたくしなの。オレリアンもとんだ貧乏くじを引かされたけれど‥‥分相応という言葉を教えてあげる」

言葉を発する間も次々に家具、調度品、ドレスなどが運び出されていく。
残ったドレスは夜会にも茶会にも使えそうなドレスが2着。そして数日分の下着。

宝飾品の類はこれから片付けようとしていたため難を逃れたが、ルシェルが輿入れ道具として持ち込んだほとんどの物は業者が荷馬車に積み込み、金貨の入った袋になった。

「貴女の部屋はここ。食事は使用人の余り物でも食べると良いわ」
「ここは…」

その部屋は本宅の勝手口からのみ出入りが出来る部屋で外鍵が付けられていた。
中は質素で椅子にするには大きいが横になるのは小さい寝台が1つ。
傾いたテーブルと座ればギシギシと音を立てる椅子が一脚。

「この部屋ね、男爵家から嫁いだ娘が使ってたんだけど今は空き部屋よ。貴女のような穢れた平民の血が流れる成り上がり者の貴族にはピッタリ。おとなしくしてて頂戴。生きていてくれればいいの。それが貴女の妻としての存在意義。クックック…」

「わたくしの嫁入り道具はどう扱おうと構いません。思い入れがあるものでもありませんから。ですが買い取って貰ったのならその代金は世話をする使用人に分けてください」

「オーホッホ。使用人に?嫌だわ。貴族の真似事?施しをすれば崇められるとでも?あの金貨は貴女をここに住まわせる経費。お判り?経費よ」



二の句が継げないとはこの事だろうか。

与えられた部屋は日当たりはあまり良くはない部屋だった。

伯爵家では父に道具扱いはされたけれど、必要最低限のものはあったしそれなりのランクのものだった。安物ばかりに囲まれていては価値が下がるという父の考え方からだ。


――使用人部屋でないのが救いと思わないといけないわね――


ルシェルは薄く積もった埃を指先でなぞった。
しおりを挟む
感想 136

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...