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第04話 国王の処世術には付き合えない
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そんな横暴ぶりに「こんなのが国王だなんて」と国民が思っているかと言えば少し違う。
建国以来2000年以上続いている王家は血が絶えた事が無い。
1つの家が長くその血を繋いでいる。何世紀かに1度は大きな戦乱期があり滅亡していく国が多い中で、唯一国も血も繋いでいる王家はそれだけで信仰の対象。
他国でも神話になって語られる王家を国民は絶対信仰しているので、存在してもらうだけで国が安泰なのだからわざわざ事を荒立てる必要もない。
頭がスッカラカンなら首から下がしっかりすればよいだけ。
割り切っているのだ。「王家は存続すればそれだけでいい」と。
こんな王家でも、時折「本当に出来るやつ」が生まれてくる。
現在の第2王子のセサル第3王子のルカスが良い例だ。
過去にそんな王子や王女がクーデターを起こした事がある。直近なら670年前の王子。その時は国が傾いたが、なんとか元に戻したのは貴族達。
この世は性善説では成り立たない。
貴族達も国がひっくり返ってしまったら自分の立場が危ういのだから必死。
残念な事にこの時は国民がクーデターを起こした王子を処刑してしまった。
何故かと言えば大きく国を変える時は痛みを伴う。一時的なインフレになったり税の負担が大きくなったり。
それを乗り越えれば子供の代、孫の代で楽になるけれど自分が苦しいのは困る。そんな理由でクーデターは失敗に終わり、以後このような事が無いようどんなに実力があっても王家は傀儡である事を余儀なくされ、決め事は議会で可決されるようになった。
国王のお仕事は、議会で決められた事にハンコを押す。
とても簡単な仕事で3食食べられて、質の良い服を着られ、使用人に世話をしてもらえる生活が確約された。
貴族の都合がいいように飼い馴らされた国民の意識を本来あるべき姿に向けるのは至難の業。
傀儡となりただのお飾りの王家にいても良いことなど1つもない。
だから王家に生まれてくる「本当に出来るやつ」は距離を置く事を学んだ。
貴族も自分たちが生きることには必死なので国の経済をやりくりする。それで国が回るのだから国民も事を荒立てることはしない。
ただ、そのためには人身御供となる令嬢が1人必要だった。
過去はその役目を現王妃が担ったが、郷にいては郷に従えとでもいうのか。それとも夫婦は似てくるからか。
グラシアナと同じように教育をされるのは一番間近で王家を監視する役目があるからなのだが、何時の間にか自由気ままで堕落したお飾りの生活に慣れ、それが当然となり今に至る。
ただ国王も解ってはいる。
クリスティアンとグラシアナの婚約は議会か決めたもの。
息子可愛さにイメルダを認めてしまえば中立を貫く筆頭公爵家でもあるロペ公爵家を敵に回し、議会の決定を無視してしまう事になる。
議会を怒らせてしまえば玉座からはあっという間に引きずり降ろされて臣籍降下して貴族となった実弟が即位となる。
セサルやルカスがクリスティアンを良く思っていないように国王とて王弟に慕われてもいない。むしろ嫌われていると言った方が早く、先王となれば引退と言う名の蟄居や幽閉に等しい処遇となる。
今の生活を続けたければ議会が決めたことに従う。
それが国王と王妃の処世術。
★~★
そんな生き方など真っ平ごめん。
グラシアナには夢があった。
その夢が王家に嫁ぐ事を前提とした教えから得た物なのはこの際横に置いておく。
「海が見たいわ。透明なのに青や紺碧、そして白に輝く海が見たい」
四方を山に囲まれて白の中だけでなく、国内にも閉塞感を感じ、グラシアナは何処までも広く続き終わりが見えない海を見てみたかった。
そして。
「思いっきり走ってみたいわ。天気の良い日に眺めの良い丘に生える若葉の上を転がってみたい」
所作だなんだと茶器を置く音すらさせてはならない静かな生活には息が詰まる。
時折執務の最中に窓の外を見て、窓枠で羽を休める鳥が飛び立つ時、グラシアナは鳥に心を預ける事が出来ればいいのにと思う事が何度もあった。
決められた場所に決められた時間。何もかもが制約だらけ。
そんな中でも窓を開けていると庭から聞こえてくるのはクリスティアンとイメルダの楽しげな声。
――やってられっか!!――
何度思ったか。数えきれない。
★~★
だが、これで思いが遂げられるかも知れない。
手を握り、目に涙を溜めて愛を乞うクリスティアンは邪魔な存在でしかない。
「盾になるとは?申し訳ございません。その盾とは何か先ず教えて頂けますか?」
「え?・・・盾は盾だよ。鉄製の他に鋼もあるだろう?」
「あるだろうと仰られても見た事が無いので」
大嘘である。6歳を目前に始まった近衛騎士による武術講義は11歳になる辺りまではただ寝かせてもらえる至福の時間だったが、以降は近衛騎士が丁寧に教えてくれた。
トーナメントに出場はまだ無理だが、グラシアナは双剣の使い手。
多くの騎士は叩きつけて相手にダメージを与える剣を持つが、グラシアナは重さを抑えるために装飾も軽微で、主に突く動作が基本で、決闘によく使われるレイピアを扱う。
両手にレイピアを握るため盾は持てないが、どのようなものであるかなど知らないはずがない。
「嘘だろ…なぁ!知らない振りをしたって僕は誤魔化せないぞ」
「誤魔化すも何も・・・知らないのに知っているとする方が誤魔化しでは?」
「本当に知らないのか?いや、僕が判らないのか?」
「男性である事は解りますが…申し訳ございません。お名前をお伺いしても?」
「グラシアナっ!!僕の名前まで・・・なんて事だ!!あんなに愛称で呼び合ったのに」
――は?愛称?覚えがないんだけど――
クリスティアンは更にグラシアナを困惑させる言葉を吐いたのだった。
建国以来2000年以上続いている王家は血が絶えた事が無い。
1つの家が長くその血を繋いでいる。何世紀かに1度は大きな戦乱期があり滅亡していく国が多い中で、唯一国も血も繋いでいる王家はそれだけで信仰の対象。
他国でも神話になって語られる王家を国民は絶対信仰しているので、存在してもらうだけで国が安泰なのだからわざわざ事を荒立てる必要もない。
頭がスッカラカンなら首から下がしっかりすればよいだけ。
割り切っているのだ。「王家は存続すればそれだけでいい」と。
こんな王家でも、時折「本当に出来るやつ」が生まれてくる。
現在の第2王子のセサル第3王子のルカスが良い例だ。
過去にそんな王子や王女がクーデターを起こした事がある。直近なら670年前の王子。その時は国が傾いたが、なんとか元に戻したのは貴族達。
この世は性善説では成り立たない。
貴族達も国がひっくり返ってしまったら自分の立場が危ういのだから必死。
残念な事にこの時は国民がクーデターを起こした王子を処刑してしまった。
何故かと言えば大きく国を変える時は痛みを伴う。一時的なインフレになったり税の負担が大きくなったり。
それを乗り越えれば子供の代、孫の代で楽になるけれど自分が苦しいのは困る。そんな理由でクーデターは失敗に終わり、以後このような事が無いようどんなに実力があっても王家は傀儡である事を余儀なくされ、決め事は議会で可決されるようになった。
国王のお仕事は、議会で決められた事にハンコを押す。
とても簡単な仕事で3食食べられて、質の良い服を着られ、使用人に世話をしてもらえる生活が確約された。
貴族の都合がいいように飼い馴らされた国民の意識を本来あるべき姿に向けるのは至難の業。
傀儡となりただのお飾りの王家にいても良いことなど1つもない。
だから王家に生まれてくる「本当に出来るやつ」は距離を置く事を学んだ。
貴族も自分たちが生きることには必死なので国の経済をやりくりする。それで国が回るのだから国民も事を荒立てることはしない。
ただ、そのためには人身御供となる令嬢が1人必要だった。
過去はその役目を現王妃が担ったが、郷にいては郷に従えとでもいうのか。それとも夫婦は似てくるからか。
グラシアナと同じように教育をされるのは一番間近で王家を監視する役目があるからなのだが、何時の間にか自由気ままで堕落したお飾りの生活に慣れ、それが当然となり今に至る。
ただ国王も解ってはいる。
クリスティアンとグラシアナの婚約は議会か決めたもの。
息子可愛さにイメルダを認めてしまえば中立を貫く筆頭公爵家でもあるロペ公爵家を敵に回し、議会の決定を無視してしまう事になる。
議会を怒らせてしまえば玉座からはあっという間に引きずり降ろされて臣籍降下して貴族となった実弟が即位となる。
セサルやルカスがクリスティアンを良く思っていないように国王とて王弟に慕われてもいない。むしろ嫌われていると言った方が早く、先王となれば引退と言う名の蟄居や幽閉に等しい処遇となる。
今の生活を続けたければ議会が決めたことに従う。
それが国王と王妃の処世術。
★~★
そんな生き方など真っ平ごめん。
グラシアナには夢があった。
その夢が王家に嫁ぐ事を前提とした教えから得た物なのはこの際横に置いておく。
「海が見たいわ。透明なのに青や紺碧、そして白に輝く海が見たい」
四方を山に囲まれて白の中だけでなく、国内にも閉塞感を感じ、グラシアナは何処までも広く続き終わりが見えない海を見てみたかった。
そして。
「思いっきり走ってみたいわ。天気の良い日に眺めの良い丘に生える若葉の上を転がってみたい」
所作だなんだと茶器を置く音すらさせてはならない静かな生活には息が詰まる。
時折執務の最中に窓の外を見て、窓枠で羽を休める鳥が飛び立つ時、グラシアナは鳥に心を預ける事が出来ればいいのにと思う事が何度もあった。
決められた場所に決められた時間。何もかもが制約だらけ。
そんな中でも窓を開けていると庭から聞こえてくるのはクリスティアンとイメルダの楽しげな声。
――やってられっか!!――
何度思ったか。数えきれない。
★~★
だが、これで思いが遂げられるかも知れない。
手を握り、目に涙を溜めて愛を乞うクリスティアンは邪魔な存在でしかない。
「盾になるとは?申し訳ございません。その盾とは何か先ず教えて頂けますか?」
「え?・・・盾は盾だよ。鉄製の他に鋼もあるだろう?」
「あるだろうと仰られても見た事が無いので」
大嘘である。6歳を目前に始まった近衛騎士による武術講義は11歳になる辺りまではただ寝かせてもらえる至福の時間だったが、以降は近衛騎士が丁寧に教えてくれた。
トーナメントに出場はまだ無理だが、グラシアナは双剣の使い手。
多くの騎士は叩きつけて相手にダメージを与える剣を持つが、グラシアナは重さを抑えるために装飾も軽微で、主に突く動作が基本で、決闘によく使われるレイピアを扱う。
両手にレイピアを握るため盾は持てないが、どのようなものであるかなど知らないはずがない。
「嘘だろ…なぁ!知らない振りをしたって僕は誤魔化せないぞ」
「誤魔化すも何も・・・知らないのに知っているとする方が誤魔化しでは?」
「本当に知らないのか?いや、僕が判らないのか?」
「男性である事は解りますが…申し訳ございません。お名前をお伺いしても?」
「グラシアナっ!!僕の名前まで・・・なんて事だ!!あんなに愛称で呼び合ったのに」
――は?愛称?覚えがないんだけど――
クリスティアンは更にグラシアナを困惑させる言葉を吐いたのだった。
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