あなたの事は記憶に御座いません

cyaru

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第03話  王太子が嫌い

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ずぅぅーっと我慢をしてきた。

立場と言うのは非常に面倒な物で思った事も口には出来ない。
1歳で婚約者となりもう21年。グラシアナは毎日が我慢と忍耐の日々だった。

クリスティアンの性格はハッキリ言って人から嫌われるのだが、周囲も同じような人間で固めているので本人はその醜悪さに全く気が付かない。

類は友を呼ぶとはよく言ったもので、イメルダも令嬢からはどちらかと言えば嫌われている。

妃教育をしている間はほぼ王城で生活をしていた。そうしなければ講義の時間に間に合わない。
5歳頃までは朝も早くに起きることはなかったが、1人で食事をするのが当たり前になっていた。

グラシアナは5歳当時、朝は6時に起こされて8時に講師が来るのでそれまでに朝食や身支度をせねばならなかった。ちなみに国王や王妃の起床時間は9時前後。婚約者のクリスティアンは起きた時が起床時間だった。

しかしある時からグラシアナの起床時間は午前4時になった。
万が一の時に備えての護身術と、最後は身を盾にしてクリスティアンを守るための武術の習得を課せられたからである。

ちなみに就寝時間は変わっていない。午前1時だ。
なので寝不足のグラシアナはフラフラになって筋力作りから始めねばならなかった。

この事に武術を任された近衛隊長は国王に「無理だ」と何度も断りを入れている。
5、6歳児に騎士の見習生と同じカリキュラムを組む事もだが、睡眠時間が長い時で3時間はあり得ない。

なので、近衛騎士達が取った対応は独自の物。
自分たちの管轄下にある時間はグラシアナを休ませることを独断で決めた。


『人なんですから休む事も必要ですよ』
『休んでも良いと仰るの?』
『貴女はまだ6歳。その年齢ならぐっすりと寝て沢山遊ぶ。それこそが勉強です』
『そんな事を言われたのは初めてよ。寝ている暇があるのかと毎日言われるの』
『では、我々が当番の時はお休みください』
『いいの?貴方たちが叱られるわよ?』


そもそもでグラシアナの体重とほぼ同じ重さのある剣を振れるはずもない。
近衛騎士達は「基礎体力作りが先」と午前4時から朝食が用意される7時前までグラシアナに睡眠を与えた。一度起きねばならないが、それでもないよりマシ。

騎士達の心遣いが無ければグラシアナはとっくに儚くなっていたかも知れない。



クリスティアンはグラシアナよりも5歳年上である。

クリスティアンにはグラシアナほど学問を学ぶ時間は設定されておらず、自分の倍以上の時間を講師との講義時間に費やすグラシアナの事を見下していたが、グラシアナが8歳になった時に逆転する。

するとクリスティアンはグラシアナとの時間では愚痴と不満ばかりを口にするようになる。
自分に付けられている講師とグラシアナの講師には雲泥の差があるのでグラシアナの学力が自分と横並びになるのは当然のことだと言い放つ。

グラシアナは思う。
13歳で8歳と横並び。そちらを恥ずかしいと思わないのかと。


そして何に付けても何につけても自分の価値観を押し付けてくる。
他者の身体的要素を笑いの種にする喜劇、暴力シーンの多い男性優位な歌劇。
これらを好み、グラシアナに時間を開けさせて劇場に引っ張っていく。
正直言って、面白くもなんともないし見た後は後悔とこんなものに税金を使ってしまった罪悪感を感じる。

『あれを面白くないなんて言う人間が信じられないよ。人類最高傑作だ』

グラシアナは思う。
こんな王太子。国民が恥ずかしいと思わないと思っているのかと。



その他にもクリスティアンは自分が人の輪の中心にいて、自分が1番でないと機嫌を悪くする。

国王と王妃には3人の王子がいるが、第一子であるクリスティアンの事は殊更可愛がっていて、一番出来が悪いのにそれは周囲が悪いと言い放つ。
クリスティアンの我儘ぶりは間違いなく国王と王妃の考えが遺伝したものだ。


明らかに頭の出来は第2王子のセサルのほうが良いし、武術は第3王子のルカスの方が優れているのに親である国王と王妃が褒めるのはクリスティアン。

2人の弟たちに親である国王と王妃が『なぜ兄を立てないのだ』と叱り飛ばしたのは有名な話。


だからなのか第2王子セサルは隣国の侯爵家の令嬢とすったもんだの末、ようやく婚約に漕ぎつけ婿入りが決まっているし、第3王子のルカスも自国の伯爵家に臣籍降下する事を早々に議会に認めさせた。
2人の弟はもう王家と言えど実家と縁切りする事を選んだ。

ちなみにセサル王子の婚約者にと最初に名前が挙がったのは隣国の王女。
これには国王と王妃が猛反対した。

隣国は力もあり港が出来たことから海の向こうとの交易も盛んな国。その王女と姻戚関係が持てるのに猛反対した理由に誰もが絶句した。

『クリスの婚約者は公爵令嬢だ。弟の分際で兄より立場が上の妃など認めない』

親馬鹿も行き過ぎると害しかない。
なので、王女は隣国王妃の実家、侯爵家に養子となり婚約をした。

国王なのにあり得ない!そんな声が聞こえてきそうだが実質の権力を持たなくても声が大きいと周囲が迷惑をする。王女のままで婚約をするのなら婚約式には出席しないと言い出してしまった。

なんとか隣国とのパイプを繋ぎたい議会は王女に養子に出てもらうという建前を法外な金を積んで隣国に了承してもらうしかなかった。

もうつける薬もなく、馬と鹿が「めぇぇ」「ぶひぶひ」と吠えても不思議ではない。


いい加減嫌気がさしている所にクリスティアンが何を思ったか。
イメルダを側に侍らせ始めた。

グラシアナの我慢も限界にきていたのだ。
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