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第02話 記憶喪失、本格始動
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夜が明けると途端に騒がしくなる。
グラシアナが目覚め、顔色を失ったステラが侍医を呼びに走ったのは言うまでもないが侍医が来る前に狸寝入りを決め込んだグラシアナは、耳元でゴチャゴチャとする音を子守歌に本当に寝入ってしまった。
痛み止めの薬の効果なのかも知れないが、次に目覚めた時は太陽もかなり上った昼前。
開いた眼には父と母、そして白々しくも心配そうな顔を向けるクリスティアンの顔が映った。
「おぉ。シア!!目覚めたか。父さんだ。判るか?」
「お母様よ。判る?」
取り敢えずはこう答えるしかない。
「はぁ…どちら様の?」
目の前の2人を両親だと認めれば記憶喪失にはならない。思いっきり見知ってはいるがグラシアナは他人を装った。
「そんなっ!!お母様が判らないのっ?!」
――くっ!面倒ね…そんな時は――
「痛い・・・足がっ足が痛いっ」
「そ、そうね!お母様が性急すぎたわ。先生!診てやって下さいませっ」
足が痛いのは本当。但し痛いと苦しいが一緒になっている。
パニエを形成している枠が貫通していたりで負傷しているのだから止血の為に包帯をきつく巻いているから足が締め付けられて苦しいのは当たり前。
掛布を捲られると冷たい空気に触れて快適さが少し失われた。
包帯を解くとなれば侍医と助手以外が退室をしていく。
――さて、どうやって誤魔化そうかな――
その前に確認をしておくのは自分の負傷の状態。今後歩行も困難となれば杖を愛用せねばならないし、傷が残ろうが残るまいがオルタ侯爵家の賠償金問題は発生する。
程度によってどの程度かも決まる事なのでしっかり把握しておいて損はない。
記憶喪失となれば今まで苦労して学ばせてきた妃教育は全てパーになるのだから議会も王家も1からの教育になるのならクリスティアンがご執心のイメルダに受けさせても良いと考えるだろう。
心配そうな顔をしている両親だって誰がやっても1からの教育となるのなら「体が覚えている事もあるはずだ」とグラシアナに再度のチャンスをと言い出し兼ねない。
――そんなチャンスいらないし!――
歩けないとなれば妃教育をさせようにもダンスは無理だし、礼などの姿勢も取れないのだからクリスティアンの婚約者からは必然的に降りることになる。
自力で歩く事が出来るなら、時間を稼がねばならない。再教育なんて真っ平ごめんだ。
一朝一夕で身につくものではない妃教育には時間がかかる。
人が年に1つ年を取るのと一緒でクリスティアンも年を取るし、何より女性には出産できる年齢には制限がある。
動きを伴う事項の習得にはさらに時間がかかるとなれば?
現在22歳のグラシアナが同じ教育を同じ時間で受けるとすれば王妃の時は17年かかったのだから同等の時間が必要になる。そんな長い時間をかけて「やっとの合格点」が出るのは39歳。
歩くのに支障があるならまだ時間がかかるとなれば40歳を軽く超えてしまう。
現在国王は45歳。17年も待てば還暦を過ぎてしまうので周りもそこまで待てない。
なんにせよ記憶喪失を続行する上で、怪我の状態を知るのは大事な事だ。
「先生、怪我の具合ってどうでしょうか」
顔を敢えて歪めて問えば、包帯を解き、薬草のたっぷりついた湿布を取り替えながら侍医が言う。
「痛みと皮膚が引き攣れる感覚は残るでしょうが、しばらくすれば歩けるようにはなります」
「では、傷跡も判らなくなると?」
「それは・・・年月が経てば薄くはなるとしか言えません。ロペ公爵令嬢様、ご自身のお名前も思い出せませんか?」
――OH!なんて僥倖!――
怪我をして、傷む事が嬉しいのではなくこれは立派な傷物扱い。
これからをどうしようかと考えて失念していたが、醜い傷跡が残るとなればそれだけで妃枠には入りづらくなる。なんせ生まれ持った痣も、場所や大きさによっては黒子ですら「お目汚し」として敬遠されるのだ。
――薄くなっても傷跡が残るなんて最高じゃない!――
決して被虐趣味やそちらの性癖があるわけではなく、これなら記憶喪失もそこそこで切り上げられる?とまで考えてしまう。
表情筋が崩壊しないように気を付けながら、さて今後どうするか。
ごたごたは「運命の人」同士でもある2人に何とでもしてもらうとして、傷跡が残るという最高のアドバンテージを手に入れたグラシアナは申し訳なさそうに侍医に答えを返した。
「ロペと言うのが私の名前なのですね」
「いえ、そうではなくロペは家名で御座いますよ」
「家名・・・では、名はまた別の?」
「はい、貴女様はグラシアナ・ロペ様。正しくはグラシアナ・アルベルタ・ロペ様で御座います」
「グラシ?・・・申し訳ないのですがもう一度ゆっくりお願いできます?」
絶望にも似た侍医の表情。
――最っ高!!――
しかし、不思議な事が起こった。
侍医の助手が部屋の外にいるグラシアナの両親にその事を知らせに行くと真っ先に部屋に飛び込んできたのはクリスティアンで何故かグラシアナの手を握り、目に涙をいっぱいに溜めて言うのだ。
「こうなったのも全て私の責任だ。君の生涯、どんな時も私が隣で君を支え、いかなる声にも盾になると誓う」
――え?盾になったり隣にいる人が違うんじゃない?――
そう思うのは間違っているだろうか?
グラシアナは自問自答した。
★~★
この後、15時10分、その次は18時10分、19時10分と続きます(*^-^*)
グラシアナが目覚め、顔色を失ったステラが侍医を呼びに走ったのは言うまでもないが侍医が来る前に狸寝入りを決め込んだグラシアナは、耳元でゴチャゴチャとする音を子守歌に本当に寝入ってしまった。
痛み止めの薬の効果なのかも知れないが、次に目覚めた時は太陽もかなり上った昼前。
開いた眼には父と母、そして白々しくも心配そうな顔を向けるクリスティアンの顔が映った。
「おぉ。シア!!目覚めたか。父さんだ。判るか?」
「お母様よ。判る?」
取り敢えずはこう答えるしかない。
「はぁ…どちら様の?」
目の前の2人を両親だと認めれば記憶喪失にはならない。思いっきり見知ってはいるがグラシアナは他人を装った。
「そんなっ!!お母様が判らないのっ?!」
――くっ!面倒ね…そんな時は――
「痛い・・・足がっ足が痛いっ」
「そ、そうね!お母様が性急すぎたわ。先生!診てやって下さいませっ」
足が痛いのは本当。但し痛いと苦しいが一緒になっている。
パニエを形成している枠が貫通していたりで負傷しているのだから止血の為に包帯をきつく巻いているから足が締め付けられて苦しいのは当たり前。
掛布を捲られると冷たい空気に触れて快適さが少し失われた。
包帯を解くとなれば侍医と助手以外が退室をしていく。
――さて、どうやって誤魔化そうかな――
その前に確認をしておくのは自分の負傷の状態。今後歩行も困難となれば杖を愛用せねばならないし、傷が残ろうが残るまいがオルタ侯爵家の賠償金問題は発生する。
程度によってどの程度かも決まる事なのでしっかり把握しておいて損はない。
記憶喪失となれば今まで苦労して学ばせてきた妃教育は全てパーになるのだから議会も王家も1からの教育になるのならクリスティアンがご執心のイメルダに受けさせても良いと考えるだろう。
心配そうな顔をしている両親だって誰がやっても1からの教育となるのなら「体が覚えている事もあるはずだ」とグラシアナに再度のチャンスをと言い出し兼ねない。
――そんなチャンスいらないし!――
歩けないとなれば妃教育をさせようにもダンスは無理だし、礼などの姿勢も取れないのだからクリスティアンの婚約者からは必然的に降りることになる。
自力で歩く事が出来るなら、時間を稼がねばならない。再教育なんて真っ平ごめんだ。
一朝一夕で身につくものではない妃教育には時間がかかる。
人が年に1つ年を取るのと一緒でクリスティアンも年を取るし、何より女性には出産できる年齢には制限がある。
動きを伴う事項の習得にはさらに時間がかかるとなれば?
現在22歳のグラシアナが同じ教育を同じ時間で受けるとすれば王妃の時は17年かかったのだから同等の時間が必要になる。そんな長い時間をかけて「やっとの合格点」が出るのは39歳。
歩くのに支障があるならまだ時間がかかるとなれば40歳を軽く超えてしまう。
現在国王は45歳。17年も待てば還暦を過ぎてしまうので周りもそこまで待てない。
なんにせよ記憶喪失を続行する上で、怪我の状態を知るのは大事な事だ。
「先生、怪我の具合ってどうでしょうか」
顔を敢えて歪めて問えば、包帯を解き、薬草のたっぷりついた湿布を取り替えながら侍医が言う。
「痛みと皮膚が引き攣れる感覚は残るでしょうが、しばらくすれば歩けるようにはなります」
「では、傷跡も判らなくなると?」
「それは・・・年月が経てば薄くはなるとしか言えません。ロペ公爵令嬢様、ご自身のお名前も思い出せませんか?」
――OH!なんて僥倖!――
怪我をして、傷む事が嬉しいのではなくこれは立派な傷物扱い。
これからをどうしようかと考えて失念していたが、醜い傷跡が残るとなればそれだけで妃枠には入りづらくなる。なんせ生まれ持った痣も、場所や大きさによっては黒子ですら「お目汚し」として敬遠されるのだ。
――薄くなっても傷跡が残るなんて最高じゃない!――
決して被虐趣味やそちらの性癖があるわけではなく、これなら記憶喪失もそこそこで切り上げられる?とまで考えてしまう。
表情筋が崩壊しないように気を付けながら、さて今後どうするか。
ごたごたは「運命の人」同士でもある2人に何とでもしてもらうとして、傷跡が残るという最高のアドバンテージを手に入れたグラシアナは申し訳なさそうに侍医に答えを返した。
「ロペと言うのが私の名前なのですね」
「いえ、そうではなくロペは家名で御座いますよ」
「家名・・・では、名はまた別の?」
「はい、貴女様はグラシアナ・ロペ様。正しくはグラシアナ・アルベルタ・ロペ様で御座います」
「グラシ?・・・申し訳ないのですがもう一度ゆっくりお願いできます?」
絶望にも似た侍医の表情。
――最っ高!!――
しかし、不思議な事が起こった。
侍医の助手が部屋の外にいるグラシアナの両親にその事を知らせに行くと真っ先に部屋に飛び込んできたのはクリスティアンで何故かグラシアナの手を握り、目に涙をいっぱいに溜めて言うのだ。
「こうなったのも全て私の責任だ。君の生涯、どんな時も私が隣で君を支え、いかなる声にも盾になると誓う」
――え?盾になったり隣にいる人が違うんじゃない?――
そう思うのは間違っているだろうか?
グラシアナは自問自答した。
★~★
この後、15時10分、その次は18時10分、19時10分と続きます(*^-^*)
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