あなたの事は記憶に御座いません

cyaru

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第09話  贈り物とは

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――ゲェ。また来た――

見た目だけなら二度見、三度見をしてしまう美丈夫だが、中身を知っているグラシアナとしては及第点どころか点をつける気にもなれない。

「流行りの菓子だそうだ。イメルダが旨いというんで買いに走らせた」

ツッコミどころ満載なのだがクリスティアンは得意げ。

――他の女に聞いた菓子を持って来るな!自分で買いに行け――

そう言いたいが王太子ともなればどうやって暇をつぶすか考えることで忙しいのかも知れないが、持ってきた流行りの菓子に正直困ってしまう。

珍しいチョコレート菓子なのだが、内部が空洞になっていてラム酒やウィスキー、時にスコッチなどが入っている。成人をしているのでアルコールの摂取を咎められる事はないが、病人、怪我人への見舞いの品としてこれはどうなのか考えてしまう。


しかし腐っても王太子。見舞いの品を突き返す事も出来ない。

「お気を使って頂かなくて構わないのですよ」
「僕がしたいんだ。ほら、シアはチョコレート好きだっただろう?」

――いいえ?くしゃみが止まらなくなるので避けていますが?――


そうなのだ。グラシアナはチョコレートの原料となるカカオに対してアレルギーを発症する。口の周りがポテっと腫れてしまったり、クシャミが止まらなくなるのだ。

もしかすればチョコレートを作る時に混ぜる乳成分かも知れないが、牛乳などは飲んでも問題がないので省いて行った結果チョコレートが残った。

王宮内で知らなかった人が婚約者だなんて笑い話にも出来ない。


先日も大量の百合の花を見舞いだと持って来て部屋の中は百合の香りで窓を開けておかねば気分が悪くなるくらいだったし、次元のズレた知識で持ち込むので始末に負えない。

『真っ赤な薔薇の999本にしようと思ったんだが、薔薇が無かったんだ』

と言って999本の百合。
迷惑を軽く飛び越えている。

頭のネジが飛んでいるのかと思いきや、これが普通だったと思い直した。

だが、言わせてもらう。
グラシアナはクリスティアンからこうなるまで贈り物をもらった事はない。

夜会などに着るドレスは議会が承認した予算で購入をしている。それも税金なので「王家は税金で暮らしている」と一括りにされてしまえばクリスティアンからの贈り物と無理矢理こじつけることは出来るかも知れないが、バースディガードの1枚も貰った事はない。

庭の花を手折って貰った事もない。
夜空よりも広い範囲で捉えれば、夜会などで給仕からワイングラスを差し出され「ほら」と回された事はある。それはよりもだろう。



そんなクリスティアンだが、都合の悪いことは忘れるのか、それとも誰かと間違っているのか。

「シア、もうすぐ誕生日だったよね」
「は?」
「あれ?違った?」

――とっくに過ぎてますけどね?――

グラシアナの誕生日は負傷をする前に終わっている。
近衛騎士達からは何故かクマのぬいぐるみを貰ったけれど、他からは何も贈られていない。
なんなら毎年夕食も1人だったし、特に誕生日だからと特別メニューでもなかった。

「申し訳ございません。名前も先日教えて頂いたので」
「あぁ、そうだったね。シアの誕生日と言えば…去年の事を思い出すよ」
「昨年・・・ですか?」

――何かあったかしら?あぁ、教会へ1人で慰問に行って帰りに馬車が壊れたんだわ――

昨年の誕生日はクリスティアンと教会に慰問に行くはずだったが、クリスティアンが風邪をひいてしまい1人で慰問に出掛けた。帰りに馬車に乗り込んだものの教会を出て直ぐぬかるみに嵌ってしまい、車輪の軸が折れたのだ。

替えの馬車を用意するにも時刻が夕刻だった事もあって、その日は教会に泊めてもらい「実は誕生日なの」と言ったら子供たちがプレゼントだと讃美歌を歌ってくれたのだった。

なのに去年の何を思い出すのか?


「2人で歌劇に行ったよね。戦記物だったけど感慨深いよ」

――それ、誕生日と全く関係ないんだけど――

確かにクリスティアンに誘われて戦記物の歌劇を観劇をした事はある。

ちなみに言わせてもらうなら「去年」ではなく「今年」だ。
ついでに言うなら「2人」ではなくクリスティアンの男性の友人8人と一緒だったので、BOX席は酒も運ばれてきて観劇の途中でデキあがった者がクダを巻き出し散々だった。


「また行きたいよ」

――勝手にどうぞ――

「そうやって微笑んで・・・僕をどうしたいんだ?」

――出来れば帰って欲しいかな――

「シアは僕を見ると本当に幸せそうに笑うよね」

――え?腹の底で?オーッホッホって?――

「だけどさ・・・シアの笑顔は良いんだけど、もう退散するよ。公爵の機嫌が悪いようだからね。それにこの後イメルダの所に行かなきゃいけないんだ」

――後半、報告の必要ないわね――

「左様でございますか」

「怒らないでくれよ」

――全然怒ってませんが?――

「何度も言ったがイメルダとはただの幼馴染だし はとこ ってだけなんだ。それ以上の関係じゃない。僕たちの間には誤解が多いんだ。僕はそれを正したい。僕が愛しているのはシアだけなんだ」

「そう言われましても…婚約も記憶がないので」

「だからもう思い出さなくていい。1から新しい思い出を一緒に作っていこう」

――お断りです。全部覚えてるのでキャパオーバーなんです――


だが、クリスティアンの見舞いも今日で最後。
明日の昼にはロペ公爵家に戻るのだ。

グラシアナはやっとクリスティアンから物理的距離が取れることと、兄妹らしい会話もした事もない兄エリアスがどのような人なのか。そちらが楽しみで仕方がない。

クリスティアンが帰っていく時は、自分でも「こんなに笑えるのね」と思う満面の笑みで見送ったのだった。
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