9 / 48
第09話 贈り物とは
しおりを挟む
――ゲェ。また来た――
見た目だけなら二度見、三度見をしてしまう美丈夫だが、中身を知っているグラシアナとしては及第点どころか点をつける気にもなれない。
「流行りの菓子だそうだ。イメルダが旨いというんで買いに走らせた」
ツッコミどころ満載なのだがクリスティアンは得意げ。
――他の女に聞いた菓子を持って来るな!自分で買いに行け――
そう言いたいが王太子ともなればどうやって暇をつぶすか考えることで忙しいのかも知れないが、持ってきた流行りの菓子に正直困ってしまう。
珍しいチョコレート菓子なのだが、内部が空洞になっていてラム酒やウィスキー、時にスコッチなどが入っている。成人をしているのでアルコールの摂取を咎められる事はないが、病人、怪我人への見舞いの品としてこれはどうなのか考えてしまう。
しかし腐っても王太子。見舞いの品を突き返す事も出来ない。
「お気を使って頂かなくて構わないのですよ」
「僕がしたいんだ。ほら、シアはチョコレート好きだっただろう?」
――いいえ?くしゃみが止まらなくなるので避けていますが?――
そうなのだ。グラシアナはチョコレートの原料となるカカオに対してアレルギーを発症する。口の周りがポテっと腫れてしまったり、クシャミが止まらなくなるのだ。
もしかすればチョコレートを作る時に混ぜる乳成分かも知れないが、牛乳などは飲んでも問題がないので省いて行った結果チョコレートが残った。
王宮内で知らなかった人が婚約者だなんて笑い話にも出来ない。
先日も大量の百合の花を見舞いだと持って来て部屋の中は百合の香りで窓を開けておかねば気分が悪くなるくらいだったし、次元のズレた知識で持ち込むので始末に負えない。
『真っ赤な薔薇の999本にしようと思ったんだが、薔薇が無かったんだ』
と言って999本の百合。
迷惑を軽く飛び越えている。
頭のネジが飛んでいるのかと思いきや、これが普通だったと思い直した。
だが、言わせてもらう。
グラシアナはクリスティアンからこうなるまで贈り物をもらった事はない。
夜会などに着るドレスは議会が承認した予算で購入をしている。それも税金なので「王家は税金で暮らしている」と一括りにされてしまえばクリスティアンからの贈り物と無理矢理こじつけることは出来るかも知れないが、バースディガードの1枚も貰った事はない。
庭の花を手折って貰った事もない。
夜空よりも広い範囲で捉えれば、夜会などで給仕からワイングラスを差し出され「ほら」と回された事はある。それは贈り物よりも送り物だろう。
そんなクリスティアンだが、都合の悪いことは忘れるのか、それとも誰かと間違っているのか。
「シア、もうすぐ誕生日だったよね」
「は?」
「あれ?違った?」
――とっくに過ぎてますけどね?――
グラシアナの誕生日は負傷をする前に終わっている。
近衛騎士達からは何故かクマのぬいぐるみを貰ったけれど、他からは何も贈られていない。
なんなら毎年夕食も1人だったし、特に誕生日だからと特別メニューでもなかった。
「申し訳ございません。名前も先日教えて頂いたので」
「あぁ、そうだったね。シアの誕生日と言えば…去年の事を思い出すよ」
「昨年・・・ですか?」
――何かあったかしら?あぁ、教会へ1人で慰問に行って帰りに馬車が壊れたんだわ――
昨年の誕生日はクリスティアンと教会に慰問に行くはずだったが、クリスティアンが風邪をひいてしまい1人で慰問に出掛けた。帰りに馬車に乗り込んだものの教会を出て直ぐぬかるみに嵌ってしまい、車輪の軸が折れたのだ。
替えの馬車を用意するにも時刻が夕刻だった事もあって、その日は教会に泊めてもらい「実は誕生日なの」と言ったら子供たちがプレゼントだと讃美歌を歌ってくれたのだった。
なのに去年の何を思い出すのか?
「2人で歌劇に行ったよね。戦記物だったけど感慨深いよ」
――それ、誕生日と全く関係ないんだけど――
確かにクリスティアンに誘われて戦記物の歌劇を観劇をした事はある。
ちなみに言わせてもらうなら「去年」ではなく「今年」だ。
ついでに言うなら「2人」ではなくクリスティアンの男性の友人8人と一緒だったので、BOX席は酒も運ばれてきて観劇の途中でデキあがった者がクダを巻き出し散々だった。
「また行きたいよ」
――勝手にどうぞ――
「そうやって微笑んで・・・僕をどうしたいんだ?」
――出来れば帰って欲しいかな――
「シアは僕を見ると本当に幸せそうに笑うよね」
――え?腹の底で?オーッホッホって?――
「だけどさ・・・シアの笑顔は良いんだけど、もう退散するよ。公爵の機嫌が悪いようだからね。それにこの後イメルダの所に行かなきゃいけないんだ」
――後半、報告の必要ないわね――
「左様でございますか」
「怒らないでくれよ」
――全然怒ってませんが?――
「何度も言ったがイメルダとはただの幼馴染だし はとこ ってだけなんだ。それ以上の関係じゃない。僕たちの間には誤解が多いんだ。僕はそれを正したい。僕が愛しているのはシアだけなんだ」
「そう言われましても…婚約も記憶がないので」
「だからもう思い出さなくていい。1から新しい思い出を一緒に作っていこう」
――お断りです。全部覚えてるのでキャパオーバーなんです――
だが、クリスティアンの見舞いも今日で最後。
明日の昼にはロペ公爵家に戻るのだ。
グラシアナはやっとクリスティアンから物理的距離が取れることと、兄妹らしい会話もした事もない兄エリアスがどのような人なのか。そちらが楽しみで仕方がない。
クリスティアンが帰っていく時は、自分でも「こんなに笑えるのね」と思う満面の笑みで見送ったのだった。
見た目だけなら二度見、三度見をしてしまう美丈夫だが、中身を知っているグラシアナとしては及第点どころか点をつける気にもなれない。
「流行りの菓子だそうだ。イメルダが旨いというんで買いに走らせた」
ツッコミどころ満載なのだがクリスティアンは得意げ。
――他の女に聞いた菓子を持って来るな!自分で買いに行け――
そう言いたいが王太子ともなればどうやって暇をつぶすか考えることで忙しいのかも知れないが、持ってきた流行りの菓子に正直困ってしまう。
珍しいチョコレート菓子なのだが、内部が空洞になっていてラム酒やウィスキー、時にスコッチなどが入っている。成人をしているのでアルコールの摂取を咎められる事はないが、病人、怪我人への見舞いの品としてこれはどうなのか考えてしまう。
しかし腐っても王太子。見舞いの品を突き返す事も出来ない。
「お気を使って頂かなくて構わないのですよ」
「僕がしたいんだ。ほら、シアはチョコレート好きだっただろう?」
――いいえ?くしゃみが止まらなくなるので避けていますが?――
そうなのだ。グラシアナはチョコレートの原料となるカカオに対してアレルギーを発症する。口の周りがポテっと腫れてしまったり、クシャミが止まらなくなるのだ。
もしかすればチョコレートを作る時に混ぜる乳成分かも知れないが、牛乳などは飲んでも問題がないので省いて行った結果チョコレートが残った。
王宮内で知らなかった人が婚約者だなんて笑い話にも出来ない。
先日も大量の百合の花を見舞いだと持って来て部屋の中は百合の香りで窓を開けておかねば気分が悪くなるくらいだったし、次元のズレた知識で持ち込むので始末に負えない。
『真っ赤な薔薇の999本にしようと思ったんだが、薔薇が無かったんだ』
と言って999本の百合。
迷惑を軽く飛び越えている。
頭のネジが飛んでいるのかと思いきや、これが普通だったと思い直した。
だが、言わせてもらう。
グラシアナはクリスティアンからこうなるまで贈り物をもらった事はない。
夜会などに着るドレスは議会が承認した予算で購入をしている。それも税金なので「王家は税金で暮らしている」と一括りにされてしまえばクリスティアンからの贈り物と無理矢理こじつけることは出来るかも知れないが、バースディガードの1枚も貰った事はない。
庭の花を手折って貰った事もない。
夜空よりも広い範囲で捉えれば、夜会などで給仕からワイングラスを差し出され「ほら」と回された事はある。それは贈り物よりも送り物だろう。
そんなクリスティアンだが、都合の悪いことは忘れるのか、それとも誰かと間違っているのか。
「シア、もうすぐ誕生日だったよね」
「は?」
「あれ?違った?」
――とっくに過ぎてますけどね?――
グラシアナの誕生日は負傷をする前に終わっている。
近衛騎士達からは何故かクマのぬいぐるみを貰ったけれど、他からは何も贈られていない。
なんなら毎年夕食も1人だったし、特に誕生日だからと特別メニューでもなかった。
「申し訳ございません。名前も先日教えて頂いたので」
「あぁ、そうだったね。シアの誕生日と言えば…去年の事を思い出すよ」
「昨年・・・ですか?」
――何かあったかしら?あぁ、教会へ1人で慰問に行って帰りに馬車が壊れたんだわ――
昨年の誕生日はクリスティアンと教会に慰問に行くはずだったが、クリスティアンが風邪をひいてしまい1人で慰問に出掛けた。帰りに馬車に乗り込んだものの教会を出て直ぐぬかるみに嵌ってしまい、車輪の軸が折れたのだ。
替えの馬車を用意するにも時刻が夕刻だった事もあって、その日は教会に泊めてもらい「実は誕生日なの」と言ったら子供たちがプレゼントだと讃美歌を歌ってくれたのだった。
なのに去年の何を思い出すのか?
「2人で歌劇に行ったよね。戦記物だったけど感慨深いよ」
――それ、誕生日と全く関係ないんだけど――
確かにクリスティアンに誘われて戦記物の歌劇を観劇をした事はある。
ちなみに言わせてもらうなら「去年」ではなく「今年」だ。
ついでに言うなら「2人」ではなくクリスティアンの男性の友人8人と一緒だったので、BOX席は酒も運ばれてきて観劇の途中でデキあがった者がクダを巻き出し散々だった。
「また行きたいよ」
――勝手にどうぞ――
「そうやって微笑んで・・・僕をどうしたいんだ?」
――出来れば帰って欲しいかな――
「シアは僕を見ると本当に幸せそうに笑うよね」
――え?腹の底で?オーッホッホって?――
「だけどさ・・・シアの笑顔は良いんだけど、もう退散するよ。公爵の機嫌が悪いようだからね。それにこの後イメルダの所に行かなきゃいけないんだ」
――後半、報告の必要ないわね――
「左様でございますか」
「怒らないでくれよ」
――全然怒ってませんが?――
「何度も言ったがイメルダとはただの幼馴染だし はとこ ってだけなんだ。それ以上の関係じゃない。僕たちの間には誤解が多いんだ。僕はそれを正したい。僕が愛しているのはシアだけなんだ」
「そう言われましても…婚約も記憶がないので」
「だからもう思い出さなくていい。1から新しい思い出を一緒に作っていこう」
――お断りです。全部覚えてるのでキャパオーバーなんです――
だが、クリスティアンの見舞いも今日で最後。
明日の昼にはロペ公爵家に戻るのだ。
グラシアナはやっとクリスティアンから物理的距離が取れることと、兄妹らしい会話もした事もない兄エリアスがどのような人なのか。そちらが楽しみで仕方がない。
クリスティアンが帰っていく時は、自分でも「こんなに笑えるのね」と思う満面の笑みで見送ったのだった。
2,341
あなたにおすすめの小説
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました
Blue
恋愛
幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった
Blue
恋愛
王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。
「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」
シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。
アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。
竜王の花嫁は番じゃない。
豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」
シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。
──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。
私があなたを好きだったころ
豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」
※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。
お姉様優先な我が家は、このままでは破産です
編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。
だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!
愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理!
姉の結婚までにこの家から逃げたい!
相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる