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第18話 身軽になった未来の義弟
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パンディトンは翌日支給されていた隊服と退職願を持って屋敷を出た。
近衛騎士になった時は両親も手放しで喜んでくれたし、弟妹も「自慢の兄だ」と言ってくれた。騎士を辞する事に寂しさはあっても後悔はない。
昨夜は父親と弟。男同士で話をした。
何故かと言えばパンディトンはバルディベア伯爵家を継ぐはずだった。
騎士を辞するのと同時に爵位を継ぐのも弟に譲る為、弟も同席した。
弟はロペ公爵家の当主となったエリアスと同期でエリアスも弟の事は学問だが一目置く存在。元々騎士をしている自分よりも学問に秀でた弟の方が相応しいとは思っていた。
「騎士を辞めて、家からも籍を抜けと?馬鹿を言うな」
「決めたんだ。我儘を言って申し訳ないと思っている。でも家よりも立場よりも守りたい女性がいるんだ」
「平民か?文句は言わん。妻に迎えればいい」
身分差があろうと爵位のあるなしに関係なく結婚は出来る。制約を受けるのは王家くらいだ。
実際パンディトンの妹は平民で靴の修理をする男と結婚をしている。
「平民だとかそんなんじゃない。彼女以外を守る気がない。それだけなんだ」
「何も持たずに何を守れると言うんだ。伯爵と言う立場があればこそだろう」
「父さん。兄さんを認めてよ。代わりなら僕がするからさ」
エリアスから許可を貰っている訳でもなく、グラシアナにも「おや?」とかわされたなとは感じたがパンディトンはグラシアナの気持ちを聞いた今、グラシアナのいない場所を守る気はなかった。
空が白み始めるまで父親を説得し、早出の出仕時刻よりも早い時間だが隊舎に向かったパンディトンは隊舎から出た時、本当に身一つとなった。
その足でロペ公爵家に向かいエリアスに頼み込んだ。
「頼むっ!この通りだ!」
「朝早くからなんだと思えば・・・私兵に雇ってくれって?それは良いけど私兵でいいのか?」
「傭兵でも良いし下男でも雑用係でも何でもいい。頼むっ」
「そういう事じゃないんだけど。いいよ。そろそろヤツも動きそうだから護衛は欲しいと思っていたからね」
そう言ってエリアスはポンとパンディトンの目の前に封書を置いた。
「見ても?」
「どうぞ、どうぞ。血圧上がるけどね」
蝋封を見ればクリスティアンの印がある。
それだけでイラっと度合は倍になるが、中身を読まない事には話にならない。
ガサガサと開いてみれば、髪の毛が逆立ちそうなくらいに血液が沸騰する。
「冗談じゃない。王妃が無理なら側妃の1人になれだってさ。何人の女を侍らせれば気が済むんだろうね」
今回の事で議会は荒れに荒れた。
これまで側妃制度は設けておらず、王家に生まれても第2、第3王子のように事が判るものは自ら離れて距離を置いてくれるので王家の管理はし易かった。
側妃を召し上げれば所謂職業妃となるため、1人の令嬢が背負う負担は軽減される。1からの教育になるかも知れないが今のグラシアナに何が向いているかを確認したいので移動椅子を許可するので登城しろという命令書だった。
「何と返したんだ?」
「何って。歩けないんだから登城は無理。そう返したよ」
「歩け‥‥王家にはまだ知られていないのか?」
「私がそんな機密をバラすとでも?大事な妹なんだぞ?好き勝手をさせる訳がない」
エリアスは徹底した箝口令を布いていて公爵家で働く使用人は誰一人屋敷の中のグラシアナを口外していない。だからこそ命令書にも移動椅子を許可するとある。
「殿下は殊の外ご執心でね。側妃ともなれば数人の中で1人だけお手付きになる可能性しかない。誰の事だかわかるだろう?」
パンディトンは手にしていた封書を丸め、テーブルに叩きつけた。
「判らいでか!!」
床に転がった封書を拾い上げたエリアスは「こんなにしちゃって」と言いながら広げて皺を伸ばした命令書をビリビリと破った。
「グラシアナを屋敷から出す気はない。護衛の役目はしっかり果たしてくれよ?」
「承知した」
「家の掃除は簡単だったけど、国の掃除は骨が折れるよ」
世代交代の時期には入っているものの、家督を譲らない当主も多い。
エリアスが声を掛けた貴族の3分の1にも満たない数しかまだ味方はいない。パンディトンは脳筋ではないもののエリアスが何をしようとしているのかまでは解らなかった。
――弟なら判ったかも知れないがな――
もう少し学問を齧った方が良かったか。そんな思いも芽生えたが執事が招かれざる客が来た事を告げる声にエリアスと目配せをして、静かに席を立った。
「頼んだよ」
「任せてくれ。無理はするな。何かあれば呼べ。家とも縁が切れた俺だ。使い道もあるだろう」
「まさか未来の義弟を捨て駒にしろと?無茶を言う」
「未来っ?!うぇっ?」
「未来は自分の力でつかみ取るとしますかね」
パンディトンの肩を叩いたエリアスは先に部屋を出ていった。
★~★
「いつまで待たせるつもりなんだ!僕は王太子なんだぞ?」
「お約束が無ければどなたであってもお待ち頂いております」
憤るクリスティアンを静かに諫める老執事。
いらいらと玄関ホールで待たされることに右に数歩、左に数歩とうろうろするクリスティアンだったが、ゆっくりと奥から歩いて来たエリアスを見つけると、顔が綻び駆け寄ってきた。
「待ちくたびれた!今日こそ話を聞いてくれ。で?シアはどこだ?」
「困った客ですね。臣下が皆、こんな来訪を歓迎するとでもお思いで?」
「困っただと?わざわざ僕が足を運んだと言うのに!」
「わざわざね。21年間、こちらが何度頼んでも妹の息抜きも許さず、姻戚になるやもしれない公爵家に時候の挨拶すらなかった貴方にだけは言われたくありませんが」
飄々とするエリアスにクリスティアンは更に1歩前に出た。
近衛騎士になった時は両親も手放しで喜んでくれたし、弟妹も「自慢の兄だ」と言ってくれた。騎士を辞する事に寂しさはあっても後悔はない。
昨夜は父親と弟。男同士で話をした。
何故かと言えばパンディトンはバルディベア伯爵家を継ぐはずだった。
騎士を辞するのと同時に爵位を継ぐのも弟に譲る為、弟も同席した。
弟はロペ公爵家の当主となったエリアスと同期でエリアスも弟の事は学問だが一目置く存在。元々騎士をしている自分よりも学問に秀でた弟の方が相応しいとは思っていた。
「騎士を辞めて、家からも籍を抜けと?馬鹿を言うな」
「決めたんだ。我儘を言って申し訳ないと思っている。でも家よりも立場よりも守りたい女性がいるんだ」
「平民か?文句は言わん。妻に迎えればいい」
身分差があろうと爵位のあるなしに関係なく結婚は出来る。制約を受けるのは王家くらいだ。
実際パンディトンの妹は平民で靴の修理をする男と結婚をしている。
「平民だとかそんなんじゃない。彼女以外を守る気がない。それだけなんだ」
「何も持たずに何を守れると言うんだ。伯爵と言う立場があればこそだろう」
「父さん。兄さんを認めてよ。代わりなら僕がするからさ」
エリアスから許可を貰っている訳でもなく、グラシアナにも「おや?」とかわされたなとは感じたがパンディトンはグラシアナの気持ちを聞いた今、グラシアナのいない場所を守る気はなかった。
空が白み始めるまで父親を説得し、早出の出仕時刻よりも早い時間だが隊舎に向かったパンディトンは隊舎から出た時、本当に身一つとなった。
その足でロペ公爵家に向かいエリアスに頼み込んだ。
「頼むっ!この通りだ!」
「朝早くからなんだと思えば・・・私兵に雇ってくれって?それは良いけど私兵でいいのか?」
「傭兵でも良いし下男でも雑用係でも何でもいい。頼むっ」
「そういう事じゃないんだけど。いいよ。そろそろヤツも動きそうだから護衛は欲しいと思っていたからね」
そう言ってエリアスはポンとパンディトンの目の前に封書を置いた。
「見ても?」
「どうぞ、どうぞ。血圧上がるけどね」
蝋封を見ればクリスティアンの印がある。
それだけでイラっと度合は倍になるが、中身を読まない事には話にならない。
ガサガサと開いてみれば、髪の毛が逆立ちそうなくらいに血液が沸騰する。
「冗談じゃない。王妃が無理なら側妃の1人になれだってさ。何人の女を侍らせれば気が済むんだろうね」
今回の事で議会は荒れに荒れた。
これまで側妃制度は設けておらず、王家に生まれても第2、第3王子のように事が判るものは自ら離れて距離を置いてくれるので王家の管理はし易かった。
側妃を召し上げれば所謂職業妃となるため、1人の令嬢が背負う負担は軽減される。1からの教育になるかも知れないが今のグラシアナに何が向いているかを確認したいので移動椅子を許可するので登城しろという命令書だった。
「何と返したんだ?」
「何って。歩けないんだから登城は無理。そう返したよ」
「歩け‥‥王家にはまだ知られていないのか?」
「私がそんな機密をバラすとでも?大事な妹なんだぞ?好き勝手をさせる訳がない」
エリアスは徹底した箝口令を布いていて公爵家で働く使用人は誰一人屋敷の中のグラシアナを口外していない。だからこそ命令書にも移動椅子を許可するとある。
「殿下は殊の外ご執心でね。側妃ともなれば数人の中で1人だけお手付きになる可能性しかない。誰の事だかわかるだろう?」
パンディトンは手にしていた封書を丸め、テーブルに叩きつけた。
「判らいでか!!」
床に転がった封書を拾い上げたエリアスは「こんなにしちゃって」と言いながら広げて皺を伸ばした命令書をビリビリと破った。
「グラシアナを屋敷から出す気はない。護衛の役目はしっかり果たしてくれよ?」
「承知した」
「家の掃除は簡単だったけど、国の掃除は骨が折れるよ」
世代交代の時期には入っているものの、家督を譲らない当主も多い。
エリアスが声を掛けた貴族の3分の1にも満たない数しかまだ味方はいない。パンディトンは脳筋ではないもののエリアスが何をしようとしているのかまでは解らなかった。
――弟なら判ったかも知れないがな――
もう少し学問を齧った方が良かったか。そんな思いも芽生えたが執事が招かれざる客が来た事を告げる声にエリアスと目配せをして、静かに席を立った。
「頼んだよ」
「任せてくれ。無理はするな。何かあれば呼べ。家とも縁が切れた俺だ。使い道もあるだろう」
「まさか未来の義弟を捨て駒にしろと?無茶を言う」
「未来っ?!うぇっ?」
「未来は自分の力でつかみ取るとしますかね」
パンディトンの肩を叩いたエリアスは先に部屋を出ていった。
★~★
「いつまで待たせるつもりなんだ!僕は王太子なんだぞ?」
「お約束が無ければどなたであってもお待ち頂いております」
憤るクリスティアンを静かに諫める老執事。
いらいらと玄関ホールで待たされることに右に数歩、左に数歩とうろうろするクリスティアンだったが、ゆっくりと奥から歩いて来たエリアスを見つけると、顔が綻び駆け寄ってきた。
「待ちくたびれた!今日こそ話を聞いてくれ。で?シアはどこだ?」
「困った客ですね。臣下が皆、こんな来訪を歓迎するとでもお思いで?」
「困っただと?わざわざ僕が足を運んだと言うのに!」
「わざわざね。21年間、こちらが何度頼んでも妹の息抜きも許さず、姻戚になるやもしれない公爵家に時候の挨拶すらなかった貴方にだけは言われたくありませんが」
飄々とするエリアスにクリスティアンは更に1歩前に出た。
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