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第21話 何もしなくていい天国
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「ハァースッキリ!」
イメルダは新調し届いたばかりのソファに飛び込むようにして体を横たえた。
部屋の何処にもグラシアナの影はない。
壁紙すら一新し、調度品も全て新しいものになった。
不満がないわけではない。クリスティアンが選んだと言う寝台はお姫様仕様でとても可愛いのだが買い替えるまで金はなかった。一度も使っていないというので仕方なくイメルダが使う事にした。
金さえあれば同じ型を買い直したが、ない物は仕方がない。
「こんなに上手く行くとは思わなかったわね。本当に何もしなくていいなんて天国ぅ~♡」
イメルダはクリスティアンに相談をされた時から、いや、その前からクリスティアンと結婚出来ればと考えていた。しかし、クリスティアンが婚約をした時、イメルダも6歳だったのだが「こんなに勉強しなきゃいけないの?」と初期のカリキュラムに使用する教本を見て一度は諦めた。
両親からは弟妹以上に可愛がられていて家は侯爵家。
子供茶会に呼ぶ令嬢は全員が格下でイメルダがヒエラルキーのトップだった。
イメルダの機嫌を損ねたら大変な事になるとどの令嬢もイメルダを褒めるし、持て囃す。10代の半ばになると恋愛歌劇に夢中になり、早く燃えるような恋をして結婚をしたくて堪らなかった。
しかし、イメルダにだけは婚約者がいない。
エリアスにときめいた事もあったが、エリアスは女嫌いと言われていて茶会には出て来ないし夜会も必要最低限。ダンスを踊ろうにもいつの間にか会場から消えていた。
「私の相手なんだもの。その辺の男じゃだめよね」
「そうですわ。イメルダ様の美しさを引き立てるのにその辺の子息ではねぇ」
「私もイメルダ様の半分でも美貌があれば。親を恨みますわ」
何処に行っても令嬢達からは持ち上げられるけれど、肝心の相手がいない。
クリスティアンとは夜会で時々ダンスも踊り、その度に令嬢達からは羨望の眼差しを浴びる。
「美男美女。見惚れてしまいましたわ」
「まるでお2人が光の中で舞っているかと思ってしまいました」
そう言われるけれど、クリスティアンにはグラシアナと言う婚約者がいて、その当時で既に王太子妃教育も終盤。思い出すだけでゾッとするあの量を学ばねばならないとなるとハトコでいる方がマシ。
20代の前半までは遊ぼうと決めて色んな子息と体の関係も持った。
「婚約者がいるので」と断る子息が居れば「侯爵令嬢に恥をかかせると言うのね?」とすごめば言いなりになった。
だが、男遊びも段々と飽きてくる。同じ年齢の子息は次々に結婚していく。既婚者に手を出せば婚約者時代の火遊びでは事が済まないのでうっかりと声を掛ける事も出来ない。
年下の子息は夜会でイメルダに近寄っても来ないし、中には親の元から離れないので声すら掛けられない時もあった。
周囲を囲んでいた令嬢も1人、2人と懐妊し、夜会にも出て来なくなった。
そんな時にクリスティアンから相談をされたのだった。
「シアが僕を構ってくれないんだ」
「何?惚気?やめてよ。幸せの当てつけなんて気分悪いわ」
「そうじゃない。こんな事を相談できるのはイメルダくらいしかいないんだ」
クリスティアンの話ではグラシアナは教育が進むにつれて口数は少なくなり、問いかけて返ってくる返事は教本に書かれている定型文か、定型文を少しもじったものばかり。
「本当に僕の事が好きなのかどうかわからないんだ」
確かに夜会などでグラシアナを見かけても、張り付いたように変化の乏しい表情で発する言葉も王族への挨拶でそれぞれの貴族にかける言葉のみ。
クリスティアンとダンスを1、2曲無難に踊ればその後は王妃に連れられて諸外国の来賓の元で通訳もどき。時にクリスティアンと回る事もあったが、「~だそうですよ」と他国の言葉が判らないクリスティアンにマウントを取っているかのような声が聞こえる。
クリスティアンの言葉を訳して来賓に伝えているグラシアナの隣で笑顔を振りまくクリスティアンが可哀想に見えてきた。
「クリスが話せないんだから通訳くらい付けなさいよ。自分が話せるからってなんて偉そうなの」
だからと言ってグラシアナと立ち位置が変われば面倒事しかなさそうな気がして簡単なアドバイスをクリスティアンにしてやる程度。
だが、そうやってクリスティアンを観察していると気が付いた事があった。
「王家って何もして無くない?」
確かにグラシアナと王妃は来賓たちと流暢に話をしているが、それだけ。
クリスティアンはと言えば「執務と言ってもハンコを押すだけだし」と考えていたよりも面倒事は少ないのでは?そう考えるようになった。
クリスティアンはかなり暇をしていているが、グラシアナが忙しいのは教育があるからと知ったイメルダはその座を奪ってやろうと動き出した。
女なのだから、どんな嫌がらせをされれば相手を嫌うのかくらいは心得ている。
グラシアナの座に居座るのはギリギリを狙ったほうが良い。
どうせ仕事は「ハンコを押すだけ」なのだからもう教育の時間もないと言う頃を狙えば面倒な事はしなくて済む。
「冷たくするの。そうすればクリスの大事さがよく判るわ」
「気持ちが向いていないのかも?って思わせないとダメよ」
「ねぇ。宮への出入りをさせて?きっと焦るから」
「見せるようにしなきゃ。コソコソしていたら小さな男って思われちゃう」
クリスティアンは面白いくらいイメルダの言葉に従う。
想定外だったのは思ったほどグラシアナが動かない事だった。
最初こそイメルダとの関係が近すぎると注意をしていたが何も言わなくなった。
それでもイメルダはクリスティアンに近づき、トドメの日を待った。
余りにも早くグラシアナが諦めてしまうと教育の時間を取られるかも知れない。イメルダの懸念はそれに尽きた。
あの日、ガゼボに呼んだ時もイメルダの考えている「その時」よりは早かった。何故ならクリスティアンは最後の一線を越えようとしないので体の関係がまだ結べていなかった。
ハッタリも作戦のうちとあの日はそれらしく匂わせをしようと考えていたのに侍女が余計な事をした。
「失敗だと思ったけど、上手く行き過ぎでしょ!きゃっ♡私って本当にツイてるぅ~」
教育はしなくていい上に、諸外国の対応は側妃がしてくれるなんて何というご褒美!
おまけに側妃との間には子は設けないという特約付きなので女同士のいざこざもない。その為に側妃はかなりの高齢女性でも構わないとされている。
手足をばたつかせてイメルダは悶えたあと、ハッと起き上がった。
「閨!そう閨!ど・れ・に・しようかな~」
女性の武器をふんだんに生かすためだけに作られた卑猥な下着をチェストから取り出すと1人でファッションショーを繰り広げたのだった。
イメルダは新調し届いたばかりのソファに飛び込むようにして体を横たえた。
部屋の何処にもグラシアナの影はない。
壁紙すら一新し、調度品も全て新しいものになった。
不満がないわけではない。クリスティアンが選んだと言う寝台はお姫様仕様でとても可愛いのだが買い替えるまで金はなかった。一度も使っていないというので仕方なくイメルダが使う事にした。
金さえあれば同じ型を買い直したが、ない物は仕方がない。
「こんなに上手く行くとは思わなかったわね。本当に何もしなくていいなんて天国ぅ~♡」
イメルダはクリスティアンに相談をされた時から、いや、その前からクリスティアンと結婚出来ればと考えていた。しかし、クリスティアンが婚約をした時、イメルダも6歳だったのだが「こんなに勉強しなきゃいけないの?」と初期のカリキュラムに使用する教本を見て一度は諦めた。
両親からは弟妹以上に可愛がられていて家は侯爵家。
子供茶会に呼ぶ令嬢は全員が格下でイメルダがヒエラルキーのトップだった。
イメルダの機嫌を損ねたら大変な事になるとどの令嬢もイメルダを褒めるし、持て囃す。10代の半ばになると恋愛歌劇に夢中になり、早く燃えるような恋をして結婚をしたくて堪らなかった。
しかし、イメルダにだけは婚約者がいない。
エリアスにときめいた事もあったが、エリアスは女嫌いと言われていて茶会には出て来ないし夜会も必要最低限。ダンスを踊ろうにもいつの間にか会場から消えていた。
「私の相手なんだもの。その辺の男じゃだめよね」
「そうですわ。イメルダ様の美しさを引き立てるのにその辺の子息ではねぇ」
「私もイメルダ様の半分でも美貌があれば。親を恨みますわ」
何処に行っても令嬢達からは持ち上げられるけれど、肝心の相手がいない。
クリスティアンとは夜会で時々ダンスも踊り、その度に令嬢達からは羨望の眼差しを浴びる。
「美男美女。見惚れてしまいましたわ」
「まるでお2人が光の中で舞っているかと思ってしまいました」
そう言われるけれど、クリスティアンにはグラシアナと言う婚約者がいて、その当時で既に王太子妃教育も終盤。思い出すだけでゾッとするあの量を学ばねばならないとなるとハトコでいる方がマシ。
20代の前半までは遊ぼうと決めて色んな子息と体の関係も持った。
「婚約者がいるので」と断る子息が居れば「侯爵令嬢に恥をかかせると言うのね?」とすごめば言いなりになった。
だが、男遊びも段々と飽きてくる。同じ年齢の子息は次々に結婚していく。既婚者に手を出せば婚約者時代の火遊びでは事が済まないのでうっかりと声を掛ける事も出来ない。
年下の子息は夜会でイメルダに近寄っても来ないし、中には親の元から離れないので声すら掛けられない時もあった。
周囲を囲んでいた令嬢も1人、2人と懐妊し、夜会にも出て来なくなった。
そんな時にクリスティアンから相談をされたのだった。
「シアが僕を構ってくれないんだ」
「何?惚気?やめてよ。幸せの当てつけなんて気分悪いわ」
「そうじゃない。こんな事を相談できるのはイメルダくらいしかいないんだ」
クリスティアンの話ではグラシアナは教育が進むにつれて口数は少なくなり、問いかけて返ってくる返事は教本に書かれている定型文か、定型文を少しもじったものばかり。
「本当に僕の事が好きなのかどうかわからないんだ」
確かに夜会などでグラシアナを見かけても、張り付いたように変化の乏しい表情で発する言葉も王族への挨拶でそれぞれの貴族にかける言葉のみ。
クリスティアンとダンスを1、2曲無難に踊ればその後は王妃に連れられて諸外国の来賓の元で通訳もどき。時にクリスティアンと回る事もあったが、「~だそうですよ」と他国の言葉が判らないクリスティアンにマウントを取っているかのような声が聞こえる。
クリスティアンの言葉を訳して来賓に伝えているグラシアナの隣で笑顔を振りまくクリスティアンが可哀想に見えてきた。
「クリスが話せないんだから通訳くらい付けなさいよ。自分が話せるからってなんて偉そうなの」
だからと言ってグラシアナと立ち位置が変われば面倒事しかなさそうな気がして簡単なアドバイスをクリスティアンにしてやる程度。
だが、そうやってクリスティアンを観察していると気が付いた事があった。
「王家って何もして無くない?」
確かにグラシアナと王妃は来賓たちと流暢に話をしているが、それだけ。
クリスティアンはと言えば「執務と言ってもハンコを押すだけだし」と考えていたよりも面倒事は少ないのでは?そう考えるようになった。
クリスティアンはかなり暇をしていているが、グラシアナが忙しいのは教育があるからと知ったイメルダはその座を奪ってやろうと動き出した。
女なのだから、どんな嫌がらせをされれば相手を嫌うのかくらいは心得ている。
グラシアナの座に居座るのはギリギリを狙ったほうが良い。
どうせ仕事は「ハンコを押すだけ」なのだからもう教育の時間もないと言う頃を狙えば面倒な事はしなくて済む。
「冷たくするの。そうすればクリスの大事さがよく判るわ」
「気持ちが向いていないのかも?って思わせないとダメよ」
「ねぇ。宮への出入りをさせて?きっと焦るから」
「見せるようにしなきゃ。コソコソしていたら小さな男って思われちゃう」
クリスティアンは面白いくらいイメルダの言葉に従う。
想定外だったのは思ったほどグラシアナが動かない事だった。
最初こそイメルダとの関係が近すぎると注意をしていたが何も言わなくなった。
それでもイメルダはクリスティアンに近づき、トドメの日を待った。
余りにも早くグラシアナが諦めてしまうと教育の時間を取られるかも知れない。イメルダの懸念はそれに尽きた。
あの日、ガゼボに呼んだ時もイメルダの考えている「その時」よりは早かった。何故ならクリスティアンは最後の一線を越えようとしないので体の関係がまだ結べていなかった。
ハッタリも作戦のうちとあの日はそれらしく匂わせをしようと考えていたのに侍女が余計な事をした。
「失敗だと思ったけど、上手く行き過ぎでしょ!きゃっ♡私って本当にツイてるぅ~」
教育はしなくていい上に、諸外国の対応は側妃がしてくれるなんて何というご褒美!
おまけに側妃との間には子は設けないという特約付きなので女同士のいざこざもない。その為に側妃はかなりの高齢女性でも構わないとされている。
手足をばたつかせてイメルダは悶えたあと、ハッと起き上がった。
「閨!そう閨!ど・れ・に・しようかな~」
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