あなたの事は記憶に御座いません

cyaru

文字の大きさ
22 / 48

第22話  今になってブーメラン

しおりを挟む
「酷い・・・なんでこんな・・・」

エリアスからクマのぬいぐるみを受け取ったグラシアナは無残な姿になったぬいぐるみを抱きしめた。

「近衛騎士がグラシアナの誕生日に贈ったものだそうだ。どうする?直すなら針子を手配するが」
「いいえ、自分で直します。少し中綿は足さないといけないかも知れません」
「針仕事はした事はないだろう?」

――おっと、不味いわね…注意しなきゃ――

「針に糸を通して縫うんですよね。出来ると思いますので」
「ついでに私の心も縫い付けてもいいぞ?」

――お兄様の口を縫い付けてもいいなら――


相変わらず距離が近い!
しかも「泣きたいなら泣きなさい」と両手を広げて待っているおまけつき。
その後ろで何故かパンディトンが顔を赤くしてデレているのは何故だろう。

――もしかして世話!そう侍女の真似事も出来るって言ってたわ――

だが、よく見てみるとクマのぬいぐるみはパンディトンに似ている気もする。

――どこが似てるのかしら――

ぬいぐるみを弄り回しているとパンディトンがクルリと背を向けた。
近衛隊の隊服を着ていてクマトンと呼ばれたパンディトンだからかな?と思うと、目の前で弄り回すのはパンディトンにも気の毒だとボロボロのぬいぐるみをそっとテーブルに置いた。

グラシアナは知らないが、ぬいぐるみを選んだのはパンディトン。
近衛隊の中でも一番パンディトンに懐いていたグラシアナだったので、クマを見れば自分を思い出し辛いことも独り言で愚痴でも溢せるかと思ったのだが今になってこんなブーメランで返って来るとはパンディトンも思わなかった。


「さぁ、グラシアナ。お茶にしようか」
「あのお兄様、今日はクマトン騎士もいらっしゃいま――」

――やっぱり――

ソファに腰掛けるグラシアナに近寄って来たと思ったら、背の側に「よっと!」足を片方回して後ろから抱きしめる姿勢になったエリアス。

――恥ずかしいからやめてぇ――

救いを求めるようにパンディトンを見れば…。
どうした事だろうか。さっきまで照れて赤くなっていたのに眉間に皺がくっきりと入り、真剣で行なう近衛騎士のトーナメントの時のように険しい表情になっていた。

「おぉ怖い、怖い。グラシアナ~。お兄様は怖いよぅ」
「えぇっと…何が怖いのです?」
「空気でいなきゃいけないのに冷気が足元に漂ってくるんだよ」
「お兄様、冷え性なんですの?」


――堪え性はないのに冷え性だなんて――

プッと老執事が思わず失笑を漏らしてしまった。サッと使用人を見るも全員が肩を揺らしているのに顔を背けている。こちらを見ているのは怖い顔をしたパンディトンだけだった。

「と、兎に角ですわね。お兄様、この姿勢はどうかと思いますの」
「どうして?お兄チャマは可愛い妹の温もりに癒されたんだよ」


――チャマ?!リャマでもなくチャボでもなく?――

後ろからゴロゴロとエリアスが肩に顔をする付けてくるとパンディトンの表情が険しさを通り越して魔王のようになってくる。

「お兄様。ダメですってば!」
「もうちょっと‥‥っとっとっと!」
「エリアスッ!そこまでだッ!」

ズカズカと歩いて来たパンディトンの手によりエリアスはベリベリと引き剥がされてソファの後ろに転ばされてしまった。

「いい加減にしろ。嫌がっているじゃないか!」
「嫌がってなんか。なぁ?」

――同意を求めないで!同意を!!――

「ちょ、ちょっと嫌だったかな??」
「えぇーっ。まだ夕方じゃないから髭も生えてないのに?」

――そこじゃないわよ!――

顎からモミアゲを手で撫でるエリアスだったが、何時になく「悪い顔」になっている。
ちらちらとエリアスの視線がパンディトンに向けられているのにグラシアナは気が付いた。

「クマトン騎士は髭剃りを忘れていらっしゃるの?」

きょとんとして問えばパンディトンが小さく返事を返した。

「俺は深剃りだから夕方でも安心だ」

――何の安心?!――

立ち上がったエリアスとパンディトンを言葉の意味が判らず交互に見ているとエリアスが「パンディトンにもしてもらえ」と言い出す。

「馬鹿な事を!」
「ダメですっ!」

声が重なったのだが、どうしてパンディトンががっかりした表情になっているのか判らずグラシアナは余計に混乱した。
しおりを挟む
感想 90

あなたにおすすめの小説

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。

断罪される令嬢は、悪魔の顔を持った天使だった

Blue
恋愛
 王立学園で行われる学園舞踏会。そこで意気揚々と舞台に上がり、この国の王子が声を張り上げた。 「私はここで宣言する!アリアンナ・ヴォルテーラ公爵令嬢との婚約を、この場を持って破棄する!!」 シンと静まる会場。しかし次の瞬間、予期せぬ反応が返ってきた。 アリアンナの周辺の目線で話しは進みます。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

私のウィル

豆狸
恋愛
王都の侯爵邸へ戻ったらお父様に婚約解消をお願いしましょう、そう思いながら婚約指輪を外して、私は心の中で呟きました。 ──さようなら、私のウィル。

真実の愛だった、運命の恋だった。

豆狸
恋愛
だけど不幸で間違っていた。

捨てられた妻は悪魔と旅立ちます。

豆狸
恋愛
いっそ……いっそこんな風に私を想う言葉を口にしないでくれたなら、はっきりとペルブラン様のほうを選んでくれたなら捨て去ることが出来るのに、全身に絡みついた鎖のような私の恋心を。

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

処理中です...