あなたの事は記憶に御座いません

cyaru

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第24話  裸の付き合いと禁断の質問

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「あら。今日はメアリーは夜番ではないの?」

いつもアリーとメアリーはセットなのにメアリーの姿だけが見えない。
夕食が終わった後に湯殿で湯あみをする為に服を脱ぐグラシアナの後ろで着替えを用意するのはアリ―だけだった。

「メアリーも仕事してますよ。お嬢様、このボタンはスナップボタンですよ」
「あ、そうだった。どうりでボタンホールがないと思ったわ」

公爵家と言えどいつ何時、何があるかは判らない。
夜会のドレスなどは仕方がないが、部屋着や寝間着など簡単な物ならグラシアナも自分で脱ぎ着が出来るように練習をしている。

「旦那様がお嬢様の為に隣国のジャグジー風呂を買ったそうですよ」
「ジャグジー?」
「ボコボコ―って泡が出て来て気持ちいいんだそうです」
「泡?どうやって出すの?」
「さぁ‥‥誰かが筒で息を吹くんでしょうか」

見たことも聞いた事もないジャグジー。
エリアスはグラシアナが楽しめるかな?と思うものは何でも買ってしまうので取扱いに使用人も四苦八苦している。

王宮では人が1人しゃがんで座れる大きな桶(たらい)に湯を張ってその湯を何度も汲み上げて肩から流していたけれど、ロペ公爵家ではグラシアナだけでなくアリーやメアリーも一緒にすっぽりと湯に浸れる大きな湯船がある。

アリ―がスポンジをモフモフと2つ泡立てると1つはアリー、1つはグラシアナが手に取って体をゴシゴシと洗う。


――体を洗うと悪魔や病魔が憑りつくって言われてたけどこの爽快感!やめられないわ――

王宮では肩から湯を流すのも月に数回。
体を洗うと悪魔や病魔に魅入られてとこの住人になると言われていた。

体臭は強い方ではないけれど、それは自分だったから気が付かなかったのかも知れない。
グラシアナは使用人や文官、官吏などからはたまにしか感じなかったが、国王や王妃、クリスティアンの体臭は酷いなといつも思っていた。

香水で誤魔化すので合わさって吐きそうな香りが充満している事も多かった。

体を清拭するのも週に1度あるかないかの彼ら。
それが王宮の日常であり、普通だった。

だからロペ公爵家に来て、足に張り付けた薬草湿布が取れて初めて「湯船」に浸かった時、感動と同時に絶望がグラシアナを襲った。

見る間に湯の色が変わって、湯気と共に酷い香りが湯殿に充満した。

蓄積された人の汚れ、垢はアリーとメアリーの数回に及ぶ洗浄で綺麗に洗い流されてグラシアナ自身も「これが私?」と肌の色と艶に驚いた事だった。

髪の色も兄エリアスと同じプラチナブロンド。
くすんでいたのに今は昼間に太陽の下に行くと角度によっては「天使の輪」が出来て所謂潤艶である。

なみなみと張られた湯。
「よっと!」ヘリを跨いで体を浸けるとザバーっと湯が零れていく。

「アリーも一緒に入っちゃえばいいのに」
「良いんですか?」
「いいわよ?メアリーも一緒だったらもっと楽しいのにね」
「今度メアリーにも言っておきます!じゃ、入っちゃいますよ?」

ササっとお仕着せを脱ぐと、アリーはワッシャワッシャと体を洗い、ザバーっと頭から湯を被って髪も洗う。その後は泡を流してグラシアナの待つ湯船にIN。

さっきよりも湯船からは湯がザバーっと流れ出ていく。

「体を洗うと悪魔が憑りつく・・・本当だわ。この気持ち良さ。やめられないわ」
「何を言ってるんです。悪魔は憑りつくんじゃなくピーヒャラと笛を吹くんです」

――悪魔もこの爽快感にお祭りマンボなのね――

悪魔が吹く笛がカーニバルでの軽快な音かと言えば聞いた事が無いが、悪魔的な魅力のある大きな湯船。知らなかった頃にはもう戻れない。


「お嬢様のおっぱい・・・可愛い♡」
「え?みんな一緒でしょう?」
「一緒なのは2つってくらいですよ。メアリーは乳輪が大きいって悩んでます」
「乳輪・・・悩むものなの?」
「そりゃそうですよ。殿方はおっぱい大好きって言いますし、小さくて可愛い方がいいじゃないですか」

――そんなものなのかしら――

自分の胸を持ち上げて観察してみるが「可愛い??」疑問しか浮かばない。

王宮ではメイドが清拭や着替えなど全てをしてくれていて、彼女たちの前で裸になるのも当たり前。体の部位的な事を問われた事もなく淡々と彼女たちはすべき事をしていたので気にした事も無かった。

グラシアナもだが、貴族や王族は令嬢に限らず男性も使用人に世話をされるので裸を見られても恥ずかしいとは思わない。

ただ、服を着ている時でも人前でエリアスのように抱っこをしたりべたべたとされてしまうと恥ずかしい。そのような紳士や淑女らしくない行為を他人に見られるのが恥ずかしいのである。



そんな事があった翌日。

エリアスは今日も朝早くから出掛けてしまったようでのんびりと朝食を取ったグラシアナ。

――いいわぁ♡ゆっくりと自分のペースで食べられる幸せ♡――

王宮ではボッチな食事だったが、広く大きな食卓なのになぜが一番狭いお誕生日席に兄妹で並んで食事をすると美味しいのには間違いない。しかし食べているのに食べた気になれない。

ペースもエリアスの「あ~ん」に左右をされるので1人の朝食は味わい深い。

イングリッシュマフィンにマーマレードをたっぷり載せても誰も咎めない。
ミルクにいつもより多めのレモンの皮を入れても「足りますか?」と気遣いをしてくれる。

そして最近変わったのは蜂蜜だ。
瓶に入ったトロトロもいいのだが、固形の甘々。シャクっとする食感が堪らない。

「美味しい!この蜂蜜凄く美味しい!」

そういうと、扉の前に控えているパンディトンがとても嬉しそうな顔をする。
伯爵家に置きっぱなしにしていた巣箱を持って来て公爵家の庭の一画で養蜂を始めたパンディトンは毎朝ハチの巣を少しだけ壊して持って来てくれるのだ。

――こんなに至れり尽くせりでいいのかしら――

そう思うのは最近、食っちゃ寝~食っちゃ寝~をしているので太ったかな?と自覚しているところもある。


なので食後はパンディトンと一緒に庭の散策をする事にしている。

「今朝の蜂蜜もとっても美味しかったです」
「なら良かった。明日も出せるようにしておくよ」
「それなんですけど…週に2、3日で良いかなと思うんです」
「どうして?」
「最近少し太ってしまったようで…」
「そんなの気にするな。今までが痩せすぎだったんだ。食って寝る。太ったっていいんだ。何処もおかしくない」
「そうでしょうか‥‥そう言えばアリーが言ってたんですけど」
「何を言ってたんだ?」


残念な事だがグラシアナは「恥ずかしい」の定義が人とは違う。
パンディトンに向かってグラシアナ的素朴な疑問をぶつけてしまった。

「私の乳輪って小さいんでしょうか。見てくださる?」
「ぶはっ!!!」
「殿方は女性の胸がお好きだそうで…お兄様が居れば見て頂くんですけど」
「待て・・・それは兄妹であってもダメだろ」
「そうなのですか?他人である使用人にはいいのに?」

胸元のホックを外そうとしたグラシアナをパンディトンは静止してしまいそうになりながら制止した。
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