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第26話 結婚の条件
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世の中にはどんなに回避をしていても、逃げ切れない時がある。
グラシアナがロペ公爵家に戻って来て3か月。屋敷の外には一歩も出ないし使用人達の口も堅い。情報が全くないロペ公爵家に国王の王命、そして議会から議長命令が下ってしまった。
「困った事だ。グラシアナを瞳に映すのは私だけでいいのに」
――使用人さんもクマトン騎士も見てますけど――
グラシアナの髪をひと房手に取って毛先で遊びながらエリアスは悔しそうに顔を歪める。
議会から側妃候補を選んだとリストを渡された国王は国費を使ってリストの令嬢を調査し、ファイルに纏めたのだが、そのファイルをクリスティアンに目を通すようにと渡したまでは良かったが紛失。
議会は再度令嬢のリストを渡した。
その中にグラシアナの名前もあったのだが、エリアスはメアリーによって盗み出されたリストを見て即座に暖炉に放り込んだ。
グラシアナの調査票にはクリスティアンの思いがツラツラと書き連ねられていて「側妃を希望しているが家族によりその思いが妨害されている」とあったのだ。
グラシアナには伝えていないがクリスティアンからは3日に1通、面会を希望する先触れが届く。
エリアスにとっては王太子令であろうと王命であろうと蹴り飛ばすのは簡単だが、今回議会から議長命令が下ってしまったため、避けては通れないとグラシアナの香りに癒されたいと甘えている。
扉の前でパンディトンが険しい顔になってはいるが、エリアスとしてはグラシアナを登城させねばならない苦しみが先に立つので、気にも留めない。
「出来るだけ短く終わらせるようにするからね」
「仕方ありません。何れは行かねばならなかったのでしょう?」
「だが、記憶もまだ戻らないのに辛い思いをさせてしまう」
――記憶はあるんですけどね。ごめんね、お兄様――
ロペ公爵家での生活はエリアスのゴロゴロが無ければ快適そのもの。
それまでが抑圧されていた生活なので、記憶があろうとなかろうと全てが新鮮でありほぼ初体験ばかり。
エリアスがまだ気が付いていないのも仕方がない。
「王宮に行く時は窮屈だが移動椅子を使う。パンディトンも連れて行くから歩けることを気取られないようにな」
「判りました。そう言えば最近は使っていないので慣れるために移動椅子で生活するようにしますわね」
グラシアナの心配はもう1つ。ロペ公爵家での生活に慣れてきているので仮面が被れるかどうか。そこも問題だった。来たばかりの頃なら「面白い」事も判らないので表情に出ることはなかったが、声を出して笑ったり、口を開けて馬鹿笑いすることの楽しさも知った今、以前と同じように出来るか。
つくづく、感情とは大事なものだと実感をする。
喜怒哀楽と言う感情があるから人は怒ったり悲しんだり笑ったりする。感情があるからこそ考えるのだ。
その感情を持つ事がないようにと教育を受けてきた。
つまり、人形には思考すら必要ない。それが伏魔殿にいる者達の希望だった。
「それから・・・これは大事な事なんだが」
「なんでしょう?」
「グラシアナは結婚する気はないか?」
扉の前にいるパンディトンは体がビクンと跳ね、エリアスに「まさか」と視線を向ける。
ここ暫くエリアスは留守にする事が多かった。
行き先はこの国の周囲にある各国の大使館だったり、領事館。
両親のように逃げることを考えるのではなく、他国の力を借りてでも国を立て直す事も目的としていた。
この国には3人の王子がいるように他国にもそれぞれ王子や王女がいる。その中には当然未婚の王子もいる。年齢で言えばパンディトンより少し上の30代半ばから、グラシアナの年齢22歳から見て射程圏内の16,17歳の王子まで。
他国の王族の妃となれば国王も議会もおいそれとグラシアナに手は出せなくなる。
何よりもそれが安全で最善策だと判っていてもパンディトンは割り切れない気持ちも心の奥に沸いた。
「結婚ですか…そうですね。いずれはせねばならないでしょう。何時までもお兄様の世話になるのもどうかと思いますし」
「私の事なら良いんだ。私はグラシアナが幸せならそれでいい。ただ残念な事に兄妹では結婚はなぁ・・・」
――相手がお兄様なら即でお断りしますけど――
エリアスの事は嫌いではないのだ。
ただ、暑苦しい。それに尽きる。
「年齢は気にしないか?年上で10歳くらい離れているとか」
――年下は聞かないの?――
「年齢は気になりません。余りにも年若いと気の毒だなと思いますが」
「そうか、いや、手っ取り早く面倒な事から離れるには結婚するのが一番なんだ」
「それは解りますが、お相手の方が迷惑されるのでは?」
「多分・・・的中率は100%なんだが全く迷惑ではないと思うぞ」
はて?と考える。
議会はまだグラシアナとクリスティアンとの婚約については保留としている。
最終手段として、顔が売れている事もあって隣に座らせておけばいい。そんな意見もあるからなのだ。
ただ成婚の儀の日取りも決まっているのでそこがタイムリミット。
婚約者ではない女性との結婚となる王太子なのだから日付の切り替わりで婚約者ではなくなる。
エリアスとしてはその日まで時間を稼ぎたかった。
側妃選びは始まっているけれど、決定するのは結婚後。
そうしないと同時に正妃と側妃が誕生する。時間差が必要なのだ。例えそれが数日であっても。
側妃になるにも力不足となれば選定もされなかったが相手が命令を出してくるのなら話は変わってくる。
グラシアナがロペ公爵家に戻って来て3か月。屋敷の外には一歩も出ないし使用人達の口も堅い。情報が全くないロペ公爵家に国王の王命、そして議会から議長命令が下ってしまった。
「困った事だ。グラシアナを瞳に映すのは私だけでいいのに」
――使用人さんもクマトン騎士も見てますけど――
グラシアナの髪をひと房手に取って毛先で遊びながらエリアスは悔しそうに顔を歪める。
議会から側妃候補を選んだとリストを渡された国王は国費を使ってリストの令嬢を調査し、ファイルに纏めたのだが、そのファイルをクリスティアンに目を通すようにと渡したまでは良かったが紛失。
議会は再度令嬢のリストを渡した。
その中にグラシアナの名前もあったのだが、エリアスはメアリーによって盗み出されたリストを見て即座に暖炉に放り込んだ。
グラシアナの調査票にはクリスティアンの思いがツラツラと書き連ねられていて「側妃を希望しているが家族によりその思いが妨害されている」とあったのだ。
グラシアナには伝えていないがクリスティアンからは3日に1通、面会を希望する先触れが届く。
エリアスにとっては王太子令であろうと王命であろうと蹴り飛ばすのは簡単だが、今回議会から議長命令が下ってしまったため、避けては通れないとグラシアナの香りに癒されたいと甘えている。
扉の前でパンディトンが険しい顔になってはいるが、エリアスとしてはグラシアナを登城させねばならない苦しみが先に立つので、気にも留めない。
「出来るだけ短く終わらせるようにするからね」
「仕方ありません。何れは行かねばならなかったのでしょう?」
「だが、記憶もまだ戻らないのに辛い思いをさせてしまう」
――記憶はあるんですけどね。ごめんね、お兄様――
ロペ公爵家での生活はエリアスのゴロゴロが無ければ快適そのもの。
それまでが抑圧されていた生活なので、記憶があろうとなかろうと全てが新鮮でありほぼ初体験ばかり。
エリアスがまだ気が付いていないのも仕方がない。
「王宮に行く時は窮屈だが移動椅子を使う。パンディトンも連れて行くから歩けることを気取られないようにな」
「判りました。そう言えば最近は使っていないので慣れるために移動椅子で生活するようにしますわね」
グラシアナの心配はもう1つ。ロペ公爵家での生活に慣れてきているので仮面が被れるかどうか。そこも問題だった。来たばかりの頃なら「面白い」事も判らないので表情に出ることはなかったが、声を出して笑ったり、口を開けて馬鹿笑いすることの楽しさも知った今、以前と同じように出来るか。
つくづく、感情とは大事なものだと実感をする。
喜怒哀楽と言う感情があるから人は怒ったり悲しんだり笑ったりする。感情があるからこそ考えるのだ。
その感情を持つ事がないようにと教育を受けてきた。
つまり、人形には思考すら必要ない。それが伏魔殿にいる者達の希望だった。
「それから・・・これは大事な事なんだが」
「なんでしょう?」
「グラシアナは結婚する気はないか?」
扉の前にいるパンディトンは体がビクンと跳ね、エリアスに「まさか」と視線を向ける。
ここ暫くエリアスは留守にする事が多かった。
行き先はこの国の周囲にある各国の大使館だったり、領事館。
両親のように逃げることを考えるのではなく、他国の力を借りてでも国を立て直す事も目的としていた。
この国には3人の王子がいるように他国にもそれぞれ王子や王女がいる。その中には当然未婚の王子もいる。年齢で言えばパンディトンより少し上の30代半ばから、グラシアナの年齢22歳から見て射程圏内の16,17歳の王子まで。
他国の王族の妃となれば国王も議会もおいそれとグラシアナに手は出せなくなる。
何よりもそれが安全で最善策だと判っていてもパンディトンは割り切れない気持ちも心の奥に沸いた。
「結婚ですか…そうですね。いずれはせねばならないでしょう。何時までもお兄様の世話になるのもどうかと思いますし」
「私の事なら良いんだ。私はグラシアナが幸せならそれでいい。ただ残念な事に兄妹では結婚はなぁ・・・」
――相手がお兄様なら即でお断りしますけど――
エリアスの事は嫌いではないのだ。
ただ、暑苦しい。それに尽きる。
「年齢は気にしないか?年上で10歳くらい離れているとか」
――年下は聞かないの?――
「年齢は気になりません。余りにも年若いと気の毒だなと思いますが」
「そうか、いや、手っ取り早く面倒な事から離れるには結婚するのが一番なんだ」
「それは解りますが、お相手の方が迷惑されるのでは?」
「多分・・・的中率は100%なんだが全く迷惑ではないと思うぞ」
はて?と考える。
議会はまだグラシアナとクリスティアンとの婚約については保留としている。
最終手段として、顔が売れている事もあって隣に座らせておけばいい。そんな意見もあるからなのだ。
ただ成婚の儀の日取りも決まっているのでそこがタイムリミット。
婚約者ではない女性との結婚となる王太子なのだから日付の切り替わりで婚約者ではなくなる。
エリアスとしてはその日まで時間を稼ぎたかった。
側妃選びは始まっているけれど、決定するのは結婚後。
そうしないと同時に正妃と側妃が誕生する。時間差が必要なのだ。例えそれが数日であっても。
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