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第32話 馴れ×2と図×2しさは変わらない
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馬車が到着をすると駆け寄ってくる男が1人。クリスティアンだ。
「シア!待っていたよ」
扉を開ける前からエリアスの顔が険しくなる。
従者に馬を預け、馬車の屋根に背面に括りつけた移動椅子を外したパンディトンは無言でクリスティアンの前に立つと移動椅子の座面にクッションを取り付け始めた。
「おい、邪魔だ!」
「申し訳ございませんが、こうしないと移動が出来ないのですよ」
「あれ?・・・お前、何処かで見たような・・・」
「王太子殿下に覚えて頂くような者では御座いません。下車しますので離れて頂けますか」
そこにいると邪魔なのだ。ステップは取り付けられないし扉も開く時に当たった、掠ったと難癖をつけられては適わない。
ここは完全なアウェーなので、例えこちらに何の非も無くても言い掛かりをつけ足止めされる可能性もある。エリアスとグラシアナが馬車から降りてくる前ならパンディトン1人が咎を負えばいい。
パンディトンはクリスティアンの護衛についたのは数える程度。腐っても王族なので近衛隊の中でも昇進試験に合格をして一定のレベルに達していると認定された者だけが国王や王妃、クリスティアンの警備に回される。
腕っぷしでは何の問題も無くても筆記試験に不合格を適度に取っていたパンディトンは夜会の時も遠目にいたし、剣の鍛錬もクリスティアンのカリキュラムにはあったが、「重い」「豆が出来たらどうする」と文句ばかりで後半、鍛錬の時間はイメルダとの観劇の時間になっていたと言うのに「何処かで見た」だけでも覚えている事に驚きを隠せない。
――しかし、コイツ。臭ぇな。なんだ?この香りは――
体臭とは違う香りはそのあたり一帯に漂っている。
時折香水を振り過ぎて、自分の鼻が麻痺してしまい「全然香ってない」とさらに追い香水をバシャバシャ振りかける貴族の夫人がいたが、それ以上。
――ジャコウジカの香嚢?まさかな――
近衛騎士になるための必須課程でパンディトンは1年だけ辺境軍に在籍をしていたが、その時に嗅いだ野生の獣臭と、なわばりを示すかのような強いアンモニア臭で目がしょぼしょぼしてしまう。
まさかと思ったのはこの香りがジャコウ鹿の香嚢だとすれば似ている気もするが、ハッキリ言ってそのものを使うようなバカはいない。
かなり乾燥をさせて、他の植物を混ぜて作るのがムスクという香水であって、乾燥させる前の香りを好むとなればスカンクの放屁やカメムシの臭いを心地よいと感じる者くらいだろう。
よく我慢が出来るなと周囲の従者を見てみると目は充血しているし、胸元や袖口が濡れているのは既に吐けるものは全て吐いたのだろうと思われた。
何を思っているのか、磨かれた馬車の側面を鏡に見立てて髪型や服装の乱れを正すクリスティアン。パンディトンは「格好より臭いを何とかしろ」と呟いたがクリスティアンはそれどころではない。
「早く扉を開けろ。王太子である僕が直々に来てやったんだ。歩けないそうだから僕が横抱きして運んでやろう。そんな椅子など出すだけ無意味だ」
――お前の存在が無意味の間違いじゃねぇか?――
パンディトンは移動椅子をセットし、ステップも留め具をかけて扉をノックする。
「旦那様。降車の用意が出来ました」
「判った」
ガチャリと扉を開いたパンディトンだったが、降りようと扉の前で中腰になっていたエリアスの顔が歪む。
「くっさ!!」エリアスの声が響いた。
クリスティアンもエリアスは苦手なのか数歩後ろに下がり、従者を前に立たせて隠れたつもり。エリアスが鼻を抓みながら降りて、パンディトンが入れ替わるように馬車の中に入る。
グラシアナを抱きかかえて馬車から出てくると満面の笑みになって叫んだ。
「シア!僕に会いに来てくれたんだね!」
――議会の命令で来ただけです――
王宮で数日療養していた時に、チョコレートや大量の花を持って見舞いに来ていたので「完全に知らない人」の素振りは出来ない。
「過日はお見舞いありがとうございました」
それだけ返す。
エリアスと馬車の中で最終確認をした時に、「自分の名前も判らない混乱期だったので王太子と言う立場を失念」そのスタンスで行こうと決めたのだ。
「僕を忘れちゃった訳じゃないよね。僕もダメだと言ったんだけど侍女がせめて湯を浴びろと言ってね。洗われてしまったから髪の色も変わってるし…こんなの勘違いしちゃうよね。でも悪魔は憑りついてないよ。安心して」
――忘れられたならそれ以上の幸せはないわ――
クリスティアンが脂下がった顔で熱弁を振るうがパンディトンはグラシアナを移動椅子に座らせて車輪を止めていたレバーを外し、「大丈夫か?」と問えば「うん」と返事をする。
「議会は右手だ。直ぐに段差があるぞ。気を付けろ」とエリアス。
まるでクリスティアンを気にしていない。
気にするだけ時間の無駄。
「おい!話を聞いているのか!」クリスティアンが凄んだが、直ぐに委縮しまた従者を盾にした。
「誰に話をしている?まさか私か?」2,3歩歩いたエリアスが振り返りそういうと「ロペ公爵じゃない」と小さい声が従者の背から聞こえた。
しかし、エリアスの言った段差をパンディトンは移動椅子を持ち上げてやり過ごした所にもう1人の主役が登場したのだった。
「あらぁ?正妃になり損ねたお嬢さんじゃない?何しに来たの?命乞い?」
エリアスは帯剣した剣からストッパーの留め具を外した。
「シア!待っていたよ」
扉を開ける前からエリアスの顔が険しくなる。
従者に馬を預け、馬車の屋根に背面に括りつけた移動椅子を外したパンディトンは無言でクリスティアンの前に立つと移動椅子の座面にクッションを取り付け始めた。
「おい、邪魔だ!」
「申し訳ございませんが、こうしないと移動が出来ないのですよ」
「あれ?・・・お前、何処かで見たような・・・」
「王太子殿下に覚えて頂くような者では御座いません。下車しますので離れて頂けますか」
そこにいると邪魔なのだ。ステップは取り付けられないし扉も開く時に当たった、掠ったと難癖をつけられては適わない。
ここは完全なアウェーなので、例えこちらに何の非も無くても言い掛かりをつけ足止めされる可能性もある。エリアスとグラシアナが馬車から降りてくる前ならパンディトン1人が咎を負えばいい。
パンディトンはクリスティアンの護衛についたのは数える程度。腐っても王族なので近衛隊の中でも昇進試験に合格をして一定のレベルに達していると認定された者だけが国王や王妃、クリスティアンの警備に回される。
腕っぷしでは何の問題も無くても筆記試験に不合格を適度に取っていたパンディトンは夜会の時も遠目にいたし、剣の鍛錬もクリスティアンのカリキュラムにはあったが、「重い」「豆が出来たらどうする」と文句ばかりで後半、鍛錬の時間はイメルダとの観劇の時間になっていたと言うのに「何処かで見た」だけでも覚えている事に驚きを隠せない。
――しかし、コイツ。臭ぇな。なんだ?この香りは――
体臭とは違う香りはそのあたり一帯に漂っている。
時折香水を振り過ぎて、自分の鼻が麻痺してしまい「全然香ってない」とさらに追い香水をバシャバシャ振りかける貴族の夫人がいたが、それ以上。
――ジャコウジカの香嚢?まさかな――
近衛騎士になるための必須課程でパンディトンは1年だけ辺境軍に在籍をしていたが、その時に嗅いだ野生の獣臭と、なわばりを示すかのような強いアンモニア臭で目がしょぼしょぼしてしまう。
まさかと思ったのはこの香りがジャコウ鹿の香嚢だとすれば似ている気もするが、ハッキリ言ってそのものを使うようなバカはいない。
かなり乾燥をさせて、他の植物を混ぜて作るのがムスクという香水であって、乾燥させる前の香りを好むとなればスカンクの放屁やカメムシの臭いを心地よいと感じる者くらいだろう。
よく我慢が出来るなと周囲の従者を見てみると目は充血しているし、胸元や袖口が濡れているのは既に吐けるものは全て吐いたのだろうと思われた。
何を思っているのか、磨かれた馬車の側面を鏡に見立てて髪型や服装の乱れを正すクリスティアン。パンディトンは「格好より臭いを何とかしろ」と呟いたがクリスティアンはそれどころではない。
「早く扉を開けろ。王太子である僕が直々に来てやったんだ。歩けないそうだから僕が横抱きして運んでやろう。そんな椅子など出すだけ無意味だ」
――お前の存在が無意味の間違いじゃねぇか?――
パンディトンは移動椅子をセットし、ステップも留め具をかけて扉をノックする。
「旦那様。降車の用意が出来ました」
「判った」
ガチャリと扉を開いたパンディトンだったが、降りようと扉の前で中腰になっていたエリアスの顔が歪む。
「くっさ!!」エリアスの声が響いた。
クリスティアンもエリアスは苦手なのか数歩後ろに下がり、従者を前に立たせて隠れたつもり。エリアスが鼻を抓みながら降りて、パンディトンが入れ替わるように馬車の中に入る。
グラシアナを抱きかかえて馬車から出てくると満面の笑みになって叫んだ。
「シア!僕に会いに来てくれたんだね!」
――議会の命令で来ただけです――
王宮で数日療養していた時に、チョコレートや大量の花を持って見舞いに来ていたので「完全に知らない人」の素振りは出来ない。
「過日はお見舞いありがとうございました」
それだけ返す。
エリアスと馬車の中で最終確認をした時に、「自分の名前も判らない混乱期だったので王太子と言う立場を失念」そのスタンスで行こうと決めたのだ。
「僕を忘れちゃった訳じゃないよね。僕もダメだと言ったんだけど侍女がせめて湯を浴びろと言ってね。洗われてしまったから髪の色も変わってるし…こんなの勘違いしちゃうよね。でも悪魔は憑りついてないよ。安心して」
――忘れられたならそれ以上の幸せはないわ――
クリスティアンが脂下がった顔で熱弁を振るうがパンディトンはグラシアナを移動椅子に座らせて車輪を止めていたレバーを外し、「大丈夫か?」と問えば「うん」と返事をする。
「議会は右手だ。直ぐに段差があるぞ。気を付けろ」とエリアス。
まるでクリスティアンを気にしていない。
気にするだけ時間の無駄。
「おい!話を聞いているのか!」クリスティアンが凄んだが、直ぐに委縮しまた従者を盾にした。
「誰に話をしている?まさか私か?」2,3歩歩いたエリアスが振り返りそういうと「ロペ公爵じゃない」と小さい声が従者の背から聞こえた。
しかし、エリアスの言った段差をパンディトンは移動椅子を持ち上げてやり過ごした所にもう1人の主役が登場したのだった。
「あらぁ?正妃になり損ねたお嬢さんじゃない?何しに来たの?命乞い?」
エリアスは帯剣した剣からストッパーの留め具を外した。
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